おままごと
右目の痛みは消えた
しかし
心の痛みはそのままだ
涙は枯れて、枯れ木になる
夢は崩れて、私そのものになっていく。
外した右目は机の上でゴロンと横になっている。怪しく紫色に発光する瞳は、まるで『妖』のようで微笑んでしまう。グルンと右目を求めるように、左目が暴れ出す。まるで、早くしろ、と言わんばかりに、私を急かすのだ。
「仕方ないな」
そう呟くと私の言葉と心に偽りがないと感じ取った左目は落ち着きを取り戻し、人間としての機能を再開する。ふうと溜息を吐きながらも、また骨の瓦礫へ戻れる喜びを噛みしめながら、右目を入れる。
空洞の開いた私の額縁にすっぽり収まる、まるで元からあったように。
楽しいおままごとはいつまで続くのかしら?
私はね、沢山の崩れていく人なんかに興味なんてないのよ。
「私が欲しいのは……」
その続きは言葉には出さないの、それが私のプライド。昔の私からしたら『意地を張っている』ように見えるのかもしれないわね。あの時は、まだ幼い子供にしか過ぎなかったのよ。もうあれから時が流れ、私も子供から大人へと成長した。その間で人生そのものにターニングポイントがあったと思うの。
私は普通の道、光の道、幸せの道を選ばすに、あえてその反対の選択をした。その先には必ず『光』があるのだと信じて、歩き続けた。
どうしてかしらね、最初は信じている、その気持ちだけで生きてきたはずなのに、現在の自分はどうかというと、疑問しか残らない。
大人になる、子供のままの気持ちを持ったままで生きていける訳ない。守るもの、自分の体制を考えて動くから保身になる。守りたいものがあればあるほど、人は無難な道を歩こうとする。
昔ね、私の父がよく言ってた言葉。父はいつも私自身がそうなんだよ、だからお前には自由に生きてほしいと悲しく微笑んでいた。
「望み通りになったわよ?満足かしら?」
空の一部となった亡き父の魂に嫌味を呟きながら、私は慶介を取り戻すのよ。
例え、手遅れだったとしても、私なら彼と共に地獄に堕ちる『覚悟』を持っているから。
風が吹き荒れる、私の心を守るように、まるで初めて会った時のように……。
優しくて、懐かしくて……そして悲しいのよ。
――しおり。
空から音が毀れた気がした。