トリップ
――なるほどな。
私は過去の映像を心と体で疑似体験しながら、少しずつ理解していく。忘れ去られた過去を知りたいと願うのは、興味を抱くのは、変り者の私ぐらいだろう。
何時間が経過したのだろうか、この装置で過去を辿るなんて、本来はしたらいけない。何故かって?それは人の体と心を壊しかねないからさ。それでも、私はこの『骨の瓦礫』と言う物語を見つめる事によって、これから先をどう行動するか選択する事が増えていく。だから少しの苦痛くらい、たいした事ないんだよ。
『大丈夫ですか?珈琲お持ちしました』
「……ああ。すまないね楓」
『あまり無理はしないでください。こんな長時間……壊れてしまいます』
「優しい子だね。君は本当に。大丈夫だよ、ありがとう」
二人の些細な会話が極上の蜜であり、癒しでもある。自分がいかに楓に支えられているのか思い知る程に。私は彼女が淹れてくれた珈琲を飲みながら、心の中で呟く。
(相変わらず、不味い。それでも温かい……)
この記憶に飲み込まれないように、自分をコントロールしながら、少し目を休める。カポッと右目を取り出すと、空洞になり、少し楽になる。
私には右目ない、しかし、過去の人間の右目を手に入れる事が出来た。
「普通の目ではないけどな」
楓はいつの間にか姿を消し、一人の空間が広がっていく。私の呟きは誰にも届かずに、闇の中へと消えていく。それでいい、それでいいのだ。この秘密は私しか知らないのだから……。楓はまだ完全ではないだから、人間の少しの行動しか理解出来ないから、都合がいいんだ。
(あの子は人間でもロボットでもないから)
私の中には私だけの物語がある。そして私が疑似体験している先にある『骨の瓦礫』の中にも彼等のストーリーがある。
面白く、奇怪で、美しく、悲しい、人間の崩壊する映画。
実際あった事を、映画を見るような感覚で、その中の沢山のキャラの目線で体感できるアトラクションのように楽しんでいる自分がいる。
知らなくてはいけない
私の為にも
私の愛する人の為にも
それが救済へと繋がるのだから……
「さて……次は誰の視点で観ようかね」