人形と人間
欲しいと願った、圭人は全身拘束されながらでも、かろうじて精神を保つ事が出来た。それは唯一の願い、私自身が自分のモノにならないからと『殺めた』ゆちに対しての執念。彼女を殺してしまった私は、みるみる内に沼にはまっていったんだ。
最初は愛情から始まったのに、いつの日かゆちなんて関係なくて、それを理由にしながら、ただの快楽殺人をしていただけなのかもしれない。
私の考える美は二つある。
一つは生きた人間の苦しむ表情を見つめながら、生きたままチェンソーやサバイバルナイフでガリガリと力一杯に肉を切り分ける事だ。人間の骨は思ったよりも頑丈で、最初切り分ける時、相当手間取ったが、コツを掴んでしまえばこちらのものだ。
今では解体を仕事にしてもいいと思う位に、綺麗に切り分ける事が出来るのだから……。
慶介はそんな私の人間から愚者に堕ちる瞬間を楽しみながら見ていた事にも気付かなかった。そう、全ては彼の思惑、計画通りに動いてしまった自分に弱さとミスがある。
つけいる隙があったのだから、この結末は仕方がないと言い聞かせるしか方法を知らない。
『ねぇー、まだ壊れないの?しぶとい研究者だね。早くあたしを楽しませてよ?』
「……」
『あっ。そうだった『命令』してたんだったね。いいよ、喋っても。ご主人様が許してあげる』
ケラケラ楽しみながら、狂った人形は私の頬から滲み出ている血を舌でペロリと救いながら、私の言葉を待ちわびている。
ここには屈辱しかない。自分が創った人形と私の立場が逆転したのだから、そう思いながらも、言葉を呟かないと、いつものお仕置きが待っている。
どういう事だろうか、震えが止まらない、止め方が分からない。
意を決して口を開こうとした瞬間だった。私の言葉を遮るように、人形は次々と人間のように言葉を紡いでいく。
その言葉を聞いていると、私が一度も教えた事もない知識や情報、そして難しい言葉を吐いてくるのだ。正直、驚いた。そして歓喜したんだ。自分の研究の成果が出たと勘違いをした。
「ミカサ……」
『はぁ?ミカサ様でしょ?圭人に呼び捨てにされる筋合いないんだけど』
「すみません……ミカサ様」
『ふふふ。それでいいのよ。お人形さん』
「あのいいですか?」
『何よ?さっさと言いなさいよ』
急かすように、苛立ちを叩きつけるように、口調を荒くしながら威圧をかける彼女の姿を見つめながら、聞いてしまう。
「ミカサ様は人間みたいになりましたね……あの時とは違う。私は嬉しいのです」
――くすくすくすくす
私の言葉を聞いた人形は狂ったように笑い転げる。どうしてそんなに笑っているのだろうか。私には理解出来ない。
そんな私の疑問も、彼女のたった一言で、壊れていく。
勿論、今まで自分のしてきた研究も全て、覆すものなのだから。
『そりゃそうよ。だってあたしは人間だから』
聞きたくない一言だったんだ。