願いを叶えれる?
――次の研究者はあんただよ?
あたしはそう呟きながらも、血の匂いと味に酔いしれている。
ほうっと頬を赤くしながら、自分の指にべっとりとついた血の塊をゆっくりと舐めていく……。
味わうように。
人間の心を持っていたはずなのに、身体に異質なものを蓄えて、そして長年をかけて育てた。全身の血管を支配するツォイスは人間の体から浸食し、徐々に脳へと辿りつき喰らう。それでも死ぬ事を許されないあたしは永遠の生き地獄に閉じ込められてる。
閉じ込められたなんて、そんなの変だよね。自らが望んでなった結果だったのに、それを他人のせいにするなんてどこまで我儘なのかな?
考える事を許される事がない、そう思っていたけど、しおりさんはツォイス達に支配されないように、遺伝子操作をしたみたい。
研究者になる前はただの『一般人』と聞いたけど、どこが普通な訳?いつもさ、私は普通よ、何の取柄もないのだから……なんてあたしに言う訳よ。
貴方が取柄がないと言うのなら、あたしは何だっていうの?こんなふうに実験を受け入れる事でしか復讐をする事が出来ない、力なき者なのに。
そんなあたしにその言葉を吐くのは残酷だと思わない?
まだあたしが子供って事なのかな?ここまできたら、もうそんな事どうでもいいのよ。
あたしはあたしのやりたいようにするの。自分の欲望と罪から逃げた研究者を片っ端から喰らう為にね。
そう、彼女『遊離』のように何も知らない、関係ない、悪くないと逃げる人間を潰す為、あたしの養分にする為に、彼女は選ばれた。
圭人は正直、興味ないのよ、だってあんな壊れた人間、おもちゃになる事も出来ないから。だからさ、まだ壊れてもいない、何も知らない、眠り子になっている彼女に最高のプレゼントを贈るの。
(きっと喜んでくれるわ)
女性である、あたしと同じ性別。もう人間から化け物になって死ねない体になっているのも理解している。だからこそ、遊離の存在が必要不可欠なのよ。
あたしは生き続けたい訳じゃない、全てを終わらして、複数の人間どもと同じように、地獄の炎に焼かれて、死にたい。
「ねぇ、遊離はあたしの望みを叶えてくれるよね?」
夢から覚めるようすもない遊離の頬を触ると、手に浸透している血の匂いがこびり付いていく。
まるで『人間』の憎悪のようにね。