絵具
夜は怖い
しかし好きでもある
猫が丸まるように
私も丸まって
音楽に包まれながら
貴女の夢を見てる
夕月…貴女を追い詰める事なんてしたくなかった。でも、でもね。あの時の私は、夕月に対して羨ましいと言う気持ちを隠せなかったの。貴女はいつも冷静で、選択肢を間違えたりしない。私みたいなヘマをしたり、踏み込んではいけない恋愛に踏み込むリスクも負わないよね?私はいつもそう、貴女の正反対を生きるの。無意識に。同じ顔なのに、同じ境遇を育ったのに、同じはずなのに、どうして貴女だけ、いつも心を痛めたりしないんだろうって。そんな事を思いながら、雪ちゃんの事があっても、顔色一つ変えず、淡々と会話する夕月を見つめながら、私は壊れていく。夕月の過去なんて忘れてて、私は追い詰めてしまう、ダメなお姉ちゃんなのにね。トラウマさえも簡単に乗り越えれてると、勘違いしていた私を許してなんて、甘い考えなのかもしれない。私はゆちのコピーでしかないけれど、記憶を共有しているの。夕月…貴女の痛みも全て見てるんだよ?混ざり合いながら私達は一つの『ゆち』そして新しい『夕月』に生まれ変わるの。そうすれば『あの事』だって耐えれるはずだから…。だから…。私達は一つに混ざり合うべきだと思うの。なんて、そんなのは表だけの言葉なのよね。私はまだ『ゆち』でいたいもの。『夕月』の身体で『ゆち』として生きたいなんてなんて最低なんだろうね。でも、大丈夫だよ?怖くない。夕月は消える事ないのだから。私『ゆち』がメインの混ざり合って『夕月』は残るから、安心してね?全部奪ったりしないから。それは苦しみの序章かもしれないけれど、もうこの世界に踏み込んだ時点で、運命は決まっているんだよ?夕月…貴女は人生で初めての『選択ミス』をしたね。貴女も人間なんだって事、理解したよ。いつまででも冷静でいれる訳ないって…。
そう、あの時だって…。冷静な夕月は幼い子供の夕月に堕ちていったね。私と雪ちゃんの言葉で…責めて…はけ口にして…壊れたね。私の愛する『あの人』の思惑通りに三人共違う壊れ方をして、砕けた。関係性も変化していって…全ては『あの人』の思惑通りになったね。そして夕月…貴女は『あの人』の側で生きてる。それだけは許せないの。これは私の人間としての醜さ『嫉妬』なのかもしれないね。コピーの私にも、そんな感情があるのなんて思いもしなかったけれど、よく考えると納得するんだ。コピーでもどんな姿でも、私は『ゆち』である事には変わりないって事だよ。
だから…お願いだから
その身体を私…ううん…あたしに…。
『頂戴?』
丸まる猫のように眠りについて、居心地のいい夢幻を貴女に見せてあげる。キラキラ輝いた、夢の続きを見せてあげる。愛してる、愛してるの、だからこそ壊れてほしい、めちゃくちゃに、ね。
『「あたしは…ああああああああ…だれぇえええ」』
あたし達の記憶と心はリンクし、絵具のように混ざり合い、別物のあたしを作り替えていく。
あたしは『ゆち』なの?
それとも『夕月』なの?
もう分からない。