内緒話
私の心はここにはない
どの空間にも存在する事はない
まるで空気が消滅していくように
壊れたモノに興味なんかない、そう思っていた。私にも感情があり、血が通っている人の姿をしている。勿論人間だ。彼女達のように『創られた』者ではない。
少し不思議に思う事があるんだ。
どうして人間の私達が心を壊し、当たり前を錯覚していっているのに、創られた『チルドレン』の彼女達が人間らしくなっていくのかと。その答えは何度考えても、出てこないけど。あいつの一言で見えてきた気がした。
『元から持っているのと何もないのでは違う。探求心と言う事を知ってさえすれば、人間よりも人間らしくなると思うんだけどな』
あいつと私は昔からの付き合いで、過去の事も少しは話している。私が雄介として生きていた、慶介の兄として存在していた一コマを知る、唯一の存在と言ってもいいだろう。
そんな事を考えていると、返答する事も忘れていた私は、脳内の自分と対話しながら、この先どう動くべきかを計算していく。本来なら一人の時にする作業の一つなのだが、どうしてだろうか。
自分の意思ではない、別の何かに動かされているように思考がグルグルと回り続けている。
不思議な感覚だな、と現実離れしているこの瞬間を、漂いながら、楽しんでいる自分がいるんだ。
『おい?雄介、聞いているのか?』
あはは、いつものお前らしくないな。なぁ気付いているか?いつものお前の癖を……。
「……ああ」
表は冷静を装いながらも、少しずつ変化していく環境と現在を心地いいと感じるのは何故?
疑問は疑問のままで。その方が一番美しく、楽しいと思うから、ここはあえてこの言葉で返そうか。
「行こうか」
『え』
急に話を折った、いつもの私とは違う行動にあいつは驚きながらも、フッと怪しい微笑みを落とし、そして言葉で包み返す。
私の心を、想いを、そして生きている命そのものを……。
『おい。連れていくのか?そいつ』
「ん?」
『ミオ……だっけ?死んでいるんだろ?』
「ああ」
ミオは創られたモノだ。そして人間の大切なピースの一つ『感情』を守り、作り出す『機械』そのものと言っていいだろう。この子は、命を落とした、そうだな。私達人間からしたら『死』に近いのかもしれない。
それでも、この子に『死』が訪れる事などないから、だから連れていくまでだ。
「さあ、行こうかミオ」
あいつに聞こえないように、ミオの耳元で囁く私の声。
勿論、反応は返ってこない。
「それでいい。いい子だ、ミオ。眠りなさい」
この会話は私とミオ、二人だけの内緒話。