生末《いくすえ》
壊れる前の壊者はかろうじて息をしていた。虫の音の息と言った方が正しいのかもしれない。感情を持つ事だけに特化した模造品それが『ミオ』だ。
私と彼は、彼女の願いに勘づいていた。人間でも同じだ。感情を持つ事により、自我が生まれる。そして自分が何者かを理解しているからこそ『人間』になりたいと願うようになっていったんだ。
誰が考えただろうか。彼女の生末を彼女自身も、きっと明るい未来を想像していたのかもしれないね。所詮はまやかしなのだが、それでも夢に埋もれる事は癒しにもつながるから、私は否定も肯定もしない。
私と彼に選択肢があると同じで、彼女にもあったのだから。少し道が変更されて、人間に近づきすぎた心と体のバランスは崩れていったのかな?
『動かないのか?』
「……無理だと思うぞ」
私に聞いてどうするのだろうか。答えは同じ、何も変わらないのだから。脳の破損はない。傷もない。しかしこの子の全身の血は抜かれている。いくら人間に近いからって、これはなんでも酷だろう。生き返らせる……いや複製させる事も無理だと思う。
『ふうん』
私の言葉は彼に届いていないみたいだ。何かを考えるような風貌は、まるで別人のように思って、背筋をゾクリと震わせてしまう。
ほら、簡単に言えばさ、背中に氷を落とされると、反射的に反応するじゃないか?それに近い現象とも思うんだ。体の恐怖か心の恐怖か。たかが氷も、何も分からず、見えない状態でされたら、恐怖を作り出す事が出来るのだから……。
彼の一言で私達の間の言葉が静寂を招き、崩壊へと堕としていく。それが気持ち悪くも、少し懐かしい感じがして、変な感情が生まれた気がした。
「何か言いたい事があるのか?」
無言の空間に耐えれない私は、静寂と闇を切り離す為に口を開き、彼に言葉の手紙を突きつける。逃げれないように、逃がさないように、彼の感情を少しでも、理解する為に……。
『別に、特に何もないよ?』
笑顔を作る方法は二つある。それは瞳の奥で本当の笑顔で微笑む事と、瞳が笑っていなくても、口角をあげ、言葉で誘導するだけで簡単に『笑顔』を作る事が出来る。
ビジネススマイルなんだけどね。よく使う手法だよね。
私達の間に隠し事は一切あってはいけない。そう言い出したのは私ではなく、彼のほうだ。
約束をたがえようとしているのが見て取れる。
(騙せれると思っているのかい?私を)
彼が今何を考えているのか、当ててあげようか?