壊物《にんぎょう》
悲しい音が聴こえた気がした。ただのそんなの気のせいだ。私の鼓膜が捕らえた音は『模造品』の朽ちる音の一部分なのだから。音なんて綺麗なものではない。もっと複雑で、残酷で、そう誰も知る事の出来ない形にならない形。
「これでいいのか?」
私は彼に問いかけながら、返答を待つ事しか出来ない。生きていないといくら言葉で呟いたとしても、人間から千切った命の形は『ミオ』として新しく生まれ変わっていたのは事実であり、現実だ。
『当たり前だろう。俺達の『骨瓦命』に終わりはない』
「……まだ続ける気なのか」
『研究者としてのお前と慶介の名を奪った俺が生き続ける限り』
「『永遠に』」
私と彼の声が重なり合いながら、これも運命なのかと実感してしまう。
「おい、雄介」
『……俺は雄介を捨てた。今の名で呼んでくれないか?』
「ああ……そうだったな慶介」
過去の自分を余程消したいのか、受け止めたくないのか、理由は色々あるのだが、その部分に私の介入は許されない。これは彼が書いたシナリオの一部と君が描いたシナリオの一つを混ぜたものでもある。
その先に何があるのか、まだ私の知る事ではないのだろう。
二人の主犯格になりつつある兄弟の因縁を断ち切る事など可能なのだろうか……。
色々な思考が脳内を支配しながらでも、理性とは強く、汚れのないものだ。今は余計な事を考えるのはやめよう。私は彼等を見つめながら、楽しむ傍観者でしかないのだから。
『それでいい。俺の名前は慶介だから。間違うなよ』
「分かってるって」
『お前はツメが甘いから、油断ならない』
「足手まといにならないようにするから、安心してほしいな」
『その言葉自体、信用ならないんだよ。今までのお前だって……』
「はいはい。もういいから」
『……』
会話の流れからしたら過去の事を持ち出してくると思うから、そこは上手く逃げないとな。相手の性格を理解して、会話の流れに逆らわずに、流されるように波に乗る。サーフィンのようにね。
「それよりさ。どうする?」
『ん?何がだ?』
私は深く溜息を吐きながら、彼の瞳を見つめながら、ある物体へと指差し、呟く。
「あれどうするんだ?って言ってんの」
『ああ。壊物か』
私達、二人の視線が動く事のない『ミオ』と言う人形へと、向けられる。