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元黒幕


 意識はゆっくりとある人物の思考へと流れていく。この男は何を考えて、何を思いながら『瓦礫』になったのかと思うとゾクゾクする。微睡んでいく、心と意識。私はこうやって『複数』の人間達やサンプルの全てを読み取れる、理解も出来る。


 ――さあ、次は貴方だ。その最初の瓦礫の音を、私に聴かせてくれないか?


 ザザザザザとテレビの砂嵐のような映像と音が男を包んで、壊していく。何かが聞こえるのだが、これは男の独り言だろうか。楽しみは、まだまだ続く。まるで『映画』を見ているみたいだ。


 

 欲は人を滅ぼし

 醜い化け物に変えていく



 私は若い体を欲した。縛られた環境の中で自分の人生を選ぶ事さえも出来なかったのだから、これくらい良いだろう?少し我儘を言っただけだ。その何が悪い。私を止める者、責めれる者なんていないのだから。あの男、最初は怪しく思えた男だったが、見覚えがあったのだ。本当に『父親』にそっくりな顔をしていたよ。確か双子の兄弟で見分けがつかない程だと聞いた事があるが、彼は自分の名前を『雄介(ゆうすけ)』と名乗り、私に近づいてきたのだ。


 偽名も使わず、本名を使うだなんて、隠せれると考えたのか?浅はかで教養が浅い。(とう)の本人は気づいてないだろうが、私が裏で本当の糸を引いている『黒幕』だなんて、考えもしないだろうな。


 最初は何か裏があるのか、真実に気づいたのかと不安になったのだが、あの言葉を聞いて、拍子抜けだ。何が『貴方の力になりたい』だ。媚びを売るのも大概(たいがい)にしろと怒鳴りそうになったが、何事も感情的になる前に、五秒の深呼吸で冷静へと自分を作り替えていく。


 じゃないと、自分の思いのままに、事が運ぶかなんて、不可能だからな。


 『本当に面白く、恐ろしい男よ。今思えば』


 体を入れ替えるなんて無理だ。しかし『しおり』という研究者が私に呟いた。愛らしい瞳をして近づいて、私の心を掴んで離さない。恋なんて言葉よりも、愛に近いものを自分が持つなんて、考える余地もなかったのだから。


 『……浅はかなのは、私か』


 涙なんて出る訳ないだろう。私は長く生き過ぎた。だから最後に自分の人生を、歩きたいと思った理想を身体、全身で感じて、終幕を終えたかったのかもしれない。


 全ては私の代で終わるはずだったのに、裏で弟が動き出したみたいだ。色々調べてみたいと思ったのだよ。死んだはずのあの兄弟を……。


 図太いけど、私達が犯した『罪』よりは可愛いものだ。


 『ぐは……っ。し……おり』


 朦朧としている意識の中で、手元にある硝子瓶を掴みとり、その中の錠剤を口に放り込む。水がないと薬なんて飲めなかった私が、水がなくても簡単に飲めるようになった。ぜえぜえ、と息を荒げながら、喉の奥から、鉄の錆びた味がした。


 ――またか。


 喉をひっかくような、強烈な熱さ、そして硬直を止める為には薬を飲むしか方法はない。


 『はぁはぁ……』


 即効性のあるこの薬は三分で効くのだ。薬で雄介(かれ)の体を、若い体を、自分のモノに出来ると唆された私は哀れな子羊。


 涙が出ない代わりに、口から咳と共に大量の血を吐いた。



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