コーヒー
新薬で自分の身体を本当に操作できると思っているかい?私はニヤリと記憶の画面に映る『過去の映像』を見つめながら、休憩の一環として煙草の煙を吸い続ける。
「いやあ。本当にだめだね、そう思うだろう?楓」
『……はい』
「私はいいのだよ、お前さえいてくれれば」
『……』
この子を再び私の元へとプレゼントしてくれた事に感謝しないといけないね。過去の人間達と古びた、人間の欲『シナリオ』達に。
あ、しまった、私達はここに名前を出してはいけない存在だったね。まあ、楓の名前しか呟いていないから、私の事は何も分からないだろう。
「くすくす」
『どうしました?』
「これもこれでアリな展開かな?と思ってね」
『?』
「気にしなくていい。眠りなさい『楓』」
私の部屋はね、過去のデーターと資料に埋め尽くされているんだ。その中で煙草を吹かす私と、感情の抜けた『楓』、二人しか存在しない、してはいけない、私達の楽園なのだ。
眠りなさいと優しく、楓の頭を撫でると、ゆっくりとシャットダウンしていく。そうなると人というよりは、ロボットに近いのかもしれないな。
「言う事を聴く君は、好きだよ」
言葉で優しく伝えながら、心の中で続きを付け足す。
――拒絶をする君は壊したい程、憎いけどね。
月の光がカーテンからうっすらと毀れ、私の頬を優しく撫でる。まるで、私自身もあの時に戻っていくような……そんな懐かしささえ覚えるのだよ。
「楓は眠ったね。さてみたくないけど、確認しなきゃな。じゃないと仕事が進まない」
眠りに入る前、私の為に淹れてくれたコーヒーをクイッと口に流し込み、眠気を消していく。あの子の淹れたコーヒーは最高に不味いんだ。でもその気持ちが嬉しいから、残したりなんかしない。
軋む音は何の音?
私の心か?
君の涙の欠片かな?
それとも『残酷』な現実だった?
「私には関係のない事だな……」
その言葉を最後に、記憶の欠片を集めながら、彼等の現実へと意識を再び戻していく。私が傍観していると思う事も、気付く事もないだろうね。私はこの『シナリオ』を生きた人間ではないし、関係者でもない……のかな?言葉を訂正した方がいいかもしれないね。ここには運がいい事に、誰もいないから、つい心の本音が出たのかもしれない。
「骨の瓦礫を生きた人ではない、関係者でもないが。その中に私の……」
おっと、口が滑る所だったよ。こんな事、彼が聞いていたら怒るだろうね。だからそこは秘密のままがいいね、それが私達『お互い』の為なのだから……。
「本当、いつになったら美味しいコーヒーを飲めるのだろうか」
くすくす微笑みながら、現実の私は過去の一部へと混ざっていくのだ。