捕まえてごらん
貴方に会いたい、ただそれだけで生きてきた。私は貴方の存在を否定なんかしない。周りが諦めなさいと何度言っても、絶対に……。その結果が見えてきた気がしたの。雄介と会うのは15年振りだわね。私もそれだけ子供から大人へと成長したのよ。
知りたくもない、見たくもない現実と裏側を知りながらでも、白かった心は色々知っていくうちに、徐々に灰色に染まる。そして現在の私は真っ黒という訳。
後悔なんてしてないわ、あの時の私とは違うの。あのまま、守られる側で居続けてしまうと、絶対に慶介……ううん、今の名前は『雄介』だね。
考えもしなかった。あの事件から関わる事なんかなかった私、慶介、雄介の三人がこうやって違う場面で動いているなんて、凄く嬉しくもあるし、残酷に思うのよ。
一番驚いたのは、あの兄弟が同じ思考を持って、同じ策を実行してたという事。兄は弟の名を奪い、弟は兄の名を語る。そして二つの名前をお互いが、都合よく使いまわし、混ぜていく。まるで『同一人物』が動いているように、見せているかのようね。
私が接触したのは元『雄介』で現在は皆から『慶介おじさん』なんて呼ばれてる。まさか、自分達を奈落の底に堕とした『元黒幕』を裏で言いくるめて、新薬を互いが、口にする。元黒幕は若い顔と体を手に入れ、自由になれると信じている。自分の今までの立場よりも、そんなに若さと自由が欲しい訳?
――その先には副作用の地獄があるのにね。
何でそんな事分かるのかって、疑問でしょうね。元黒幕に飲ませた薬と、慶介おじさんになった雄介が飲んだ薬を作ったのは、他の誰でもない、このあたしだから。
全財産と立場、そして名前を失って、家族も奪われた哀れな『元黒幕』
(あいつ毎日薬を服用しているはずだから、そろそろ壊れ始める時期かしら)
この呟きを聴いているのは風と私だけ。まるで音楽のように、懐かしく思うの。もう演奏する事を諦めた私が、その美しさに酔いしれる資格なんてないかもしれないけど……。
(今はこのままで)
そう思うのは私の我儘かもしれないわね。
君の手が触れてくる
昔の僕を探しているように強く
『どこにいるの?』
悲しみに塗れ愛を叫んでいた君はもういない
僕の名前は『慶介』
捨てた名前だけど君をあの時と同じように探している
僕の現在の名前は『雄介』
同じ顔をしている双子の兄と弟の僕達を
捕まえる事が出来るかな?
「「楽しみだ」」