視線の主
誰かの視線を感じる。だけど今のあたしにそんな事は関係のない事だったから、気付かないフリをしていた。そうして視線の主にも、一つのパフォーマンスとして、見せつけるの。
より御笠と言う存在を知らしめる為にね……。
そんな事、どうでもいい。今はこの研究者の肉を味わいながら、生臭さを堪能したいと思うの。純粋に……。この時点で、あたしは人間ではなくなっているんだって、実感してたけど、どうでもいいの。
これはあたしが決めた事なのだから……。
「凄い濃厚で、美味しいんだね、知らなかった」
その一言でビビる圭人の表情から生気が消えた。こんな如きで、人間から廃人になっちゃう訳?面白くないよ、こんな簡単に、壊れてもらっちゃ困るから。
――もっとあたしを楽しませて、そしてもっとあたしに悦楽をくださいな。
期待に答えれないのなら、左目も奪っちゃうよ?傷つけないように、右目同様くり抜いて、肉を食べるの。そんなあたしを見たいから、言う事を聞かないんだよね?そうなんだよね?
ムシャムシャ、ゴリゴリと口の中で、沢山の音がする。かみ砕く音。
「この食感、癖になりそう」
一人で心の呟きを出すとさ、変なんだ。まるで、もう一人の自分と会話しているみたいな感じがして。自分は一人じゃないんだなって、安心するの。プラスこの生きた人間からあふれ出る血の匂い。鉄の錆びた匂いが、より一層、心を満たしていく。
「もらうね。あたしのコレクション。増える。嬉しい」
ニッコリと微笑みながらも、刃は徐々に左目へと近づいていく。後少しで、もう少しで、あたしのものになる。ああ、わくわくする、ドキドキする。
そんな時だった、あたし達二人を、観察していた視線の主が、声を響かせる。
『やりすぎよ。右目で充分でしょう?御笠』
そうやってあたしの行動を言葉、一つで簡単に止めれる存在は、一人しかいない。あたしは彼女の言葉の魔法にかかったように、自分の行動を制止する、その代わりに言葉を伝えるのよ。
「しおりさん。どうして邪魔するの」
あたしの瞳の奥には怒りが満ちていく。自分のおもちゃをとられたのだから、尚更だ。納得いかない。何でしおりさんの言葉で、管理されているのかも、認めれない。
それでも、彼女に全てを委ねたのだから。仕方ないのよね。
八割以上『自由』にさせてもらってるから、感謝の割合が多いのよ。
『御笠、よく考えなさい。両目を失う研究者に価値があると思って?』
「そんなの知らない。あたしのおもちゃだもの」
『貴女からしたら、そうかもしれない。でもね。私達からしたら、違うのよ。だからここは壊れる寸前まで重圧を与え続けるのが、一番なの。賢い子だから、分かるでしょう?』
そんな優しく、諭されると、反論なんて出来ないじゃない。
――ズルイよ、しおりさん。