人の肉の味
あたしは欲しいの。
あなたの瞳が
あなたの心が
あなたの絶望が
あなたの生命が……
漂うのは血の匂いと、圭人の震えが音になりカクカクと、時計の針のように、刻んでいる。そんな彼を見ていると、幸福になるの。ミカサとして存在していた時の自分とは、違う、この感情の名前は、一体何だろう。
巡る思想と回路を切断する事なんて、出来ない。あたしにも、勿論、他者にもね。
「ほしいの。その茶色の瞳が。欲しくて欲しくて、たまらない。だからあたしのコレクションにしてあげる。嬉しいでしょ?」
ケラケラ笑いながら、愉しそうに言葉を口にするあたしは、彼から見たら『サイコパス』そのものなのかもしれない。でも、だから何だっていうの?
あたしはあたしのしてる事をしてるだけだから。それを指図する存在なんて『いらない』のよね。
『誰が……やるか』
本当、何してるの、この人。さっきあたし言ったじゃんか。言葉を話す余裕があるなら、って。ちゃんと聞いて理解してる?貴方から言葉を奪って、あたしのものにするの。
完璧な操り人形にする為にね。
まぁ、その為の試練と言うか、なんと言うか、どちらかと言うと『罰』に近いのかもしれない。
「人は愚かよね。分かってても、反論する。これから何が起こるかなんて考えちゃいない」
『お前……なんか』
ころしてやる、そう聞こえた気がしたんだけど。それはただの威嚇でしかないよね?そんな『おもちゃ』あたしに通用すると思って?
「話す余裕がいる研究者に興味はないの。従順になってくれないと困るから。諦めなさいよ」
『なん……だと』
「ほら、抵抗するだけ無駄だって。大丈夫『両目』を失う、ただそれだけだから」
『は』
「光栄でしょ?あたしの宝石として、永遠に冷凍保存されるの。お腹が空いたら、食べれてもいいかな?あ!でもそれじゃ『コレクション』が一つ減っちゃうね。やめとこう。他の人間食べるわ」
そうやって、、彼の右目から溢れる血潮を舐めとりながら、フフフ、と唯一残っている、左目にあたしの存在を見せつけるの。
これが最後に見た『貴方』の映像なんだって、知らしめる為にね。
「さようなら。左目」
『やめろ』
「騒げば、騒ぐ程、ゾクゾクする。もっと鳴きなさいよ研究者」
右手の刃には、彼の肉がこびり付いている。血を好む『くろむし』にはいらないみたい。それか余程『不味い』と感じたのか。それは息子達にしか分からないのよね。
ついた肉は、あたしが美味しく頂こうかしら。
生の肉、人の肉、血が通っていた肉。
「いただきます」
人間の肉を食べるのなんて初めてで、刺激的ね。
ほんの少しだけど、味わうあたしを見て、絶望に堕ち続ける彼がいる。