私は悪
元の主人公は男性、そして名前が圭人と言う。彼は全ての物語を握るはずだった『元主人公』だ。そして現在の本当の黒幕、そして主人公の立ち位置となるのは、名を隠した『私』であると言う事実が発覚したのは言うまでも、ない。
私が見ている、読んでいる、感じているのは、データーの一部であり、事実に基づく一つの結果として、次の計画を組み立て、仕掛ける為の下準備としての下準備と言ったほうが、簡単かな。
さてと、物語として記録されている、一部分、二人の人間の目線となり、私も彼等を演じながら、夢想を見てみようか。
ただの観察、鑑賞、それらより、もっと身にしみる経験としてね。
――準備はいいかい?
私は、溜息にも似た、深呼吸を深くしながら、再び『過去』へと飛んでいく。
そのストーリーの主役になりたいがためにね。
瞼を閉じると見えるものは何?
夢?
現実?
それとも
妄想?
「うう……」
喉から搾り出るのは、少しの叫び、私の声は、自由を失い、人としての言葉を忘れかけている獣、そのもの。微かに動く両手をピクリと、確認の為に、振動させながら、ゆっくりと閉ざされた瞼を、開いていく。
(ここは……)
ボンヤリする瞳と思考、そして麻痺しつつある感情の中で、抵抗する。最初、ここに連れられてきた時は、全力の抵抗をしていたが、毎日繰り返される『調教』に耐えれるはずもない。
こうやって悪の言葉を唱えられて、人は正常じゃなくなるのだな、自分が経験して実感するんだ。改めてな。
目は半開きしか開けれない、全部開けてしまうと、管理されている身体に、電流が流れ、理性が飛んでいく。そしてまた、瞼は閉じられ、今度こそ、永遠の眠りにつく事になるかもしれない。
(阻止した、それ……だけは)
ガシャンと両手から垂れて、拘束している鎖が、笑いながら、私に囁くのだ。
今まで人の瓦礫を作り、命を奪ってきたお前が、生きたいと願う事自体、悪そのものだろうと、まるで幻聴のように、黒い声が私を喰らっていく。
(悪は私)
そう悪は、お前だ圭人、その声は、また私の身体に密着しながら、背中を撫でる。ゾクゾクと鳥肌がたつのを止める事など出来ない。
――お前は、悪、そして私も悪。
背中にへばりついていた影は、ゆっくりと私の目の前に姿を現す。
半開きの瞳に、自分の姿が映るようにと。
「「私は悪」」