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骨の瓦礫  作者: 綾 瑜庵
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再生される命



 最初の感情は無

 次の感情は悲しみ

 そして

 新しい感情は愛



 そうやって、悲しみから逃げるように、うちは手を伸ばす。誰だか分からんけど、うちを待っている人がいる気がするから。形として、待ち続けているのは雪兎(ゆきと)だけどな、その人間は、好き好んでうちを待ってる訳やないんや……。


 彼が永遠に待ち続ける相手は癒智(ゆち)やなくて、夕月やって事、理解しているつもりなんよ。


 心から、うちを欲している訳やないって、頭では理解している、でも心は、違う。


 少しの期待を持っていいんかな、って創造者(おとうさん)以上に、うちを愛してくれる人なんかもしれんって、よく分からない、モヤモヤ感の中で、涙を零してる。


 「うちは、夢を見たい。まだ、まだ」


 うちは、本当に作られた人間なん?廃棄物なん?なぁ、あんたでいいから、違うって言うてよ。


 「お願いだから……」


 扉の奥には眩い光と、美しい笑みが、待っている、そんな映像を見つけてしまった。


 (なんて綺麗な人間なんやろう)


 人と関わりすぎたうちは、少しずつ形をかえながら、成長してた事に気付くのは、まだ先の話。

 うちの指先が光にのまれていって、意識が遠ざかっていく。

 それは、外の世界、現実へと舞い戻る合図であり、サインの一つなんだって、聞いた事がある。


 遠いどこかで、誰かがうちに呟いて、色々、教えてくれた『変な記憶』が写真のネガのように、くるくるまわりながら、揺り起こしていくんよ。


 「うちを必要として……」


 呟く心の声は、誰にも届かないはずやのに、何だろう、暖かい、感情が流れ込んで言葉を残していく。


 ――僕が、守ってあげるから、おいで癒智(ゆち)


 心に浸透していく温もりは、暖かいお湯のように、喉を潤して、涙を笑顔に変えてく。

 うちが、また人間へと近づいた瞬間やったんよね、今考えたら。





 雪が舞い散る中で、たった一人の女性を抱きしめている男がいる。青ざめていく、冷たいままの女を温めるように、見つめながら、哀しみにくれる。ギュと抱きしめる事しか、知らない男は、ただただ、待ち続けている。


 止まった鼓動は、少しずつ脈を取り戻しながら、女の顔の血色を彩っていく。

 氷のように冷たいまま、眠り続ける女の名は『夕月』そして、女の魂、心は、男の傍にはいない。


 一度手放したら、帰ってこないと知りながらも、死から生へと命を守りたい、その一心だけで、決意した。


 男は呟く、いつまで眠り続けるんだい?ほら起きて、朝だよ、と……。

 それに応えるように、ピクリと動く『ダルマ女』の癒智(ゆち)が鼓動を動かしていく。




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