骨の音 瓦礫の音(骨の瓦礫)
涙は枯れて、自然も朽ちる。
あたしの心は別物に作り替えられ、全ての破壊を始める。
壊れていく瓦礫の音。
壊れていく骨の音。
あたし達はそれを見つめながら、微笑むしかないの。
全ての真実を知ったゆちの表情がみるみる内に変化してゆく。
知りたくない現実であり、仕組まれた計画。雪兎がゆちとあたしを逃がすまいと企てた計画の一つだと考えてる。その考えは勿論『答え』ではない。しかし直観がそう囁くのだ。
『私の…デビューは…しく…ま…れた…?』
ゆちはそう呟きながら、現実を受け止めれないのか、表情が固まってゆく。まるでコンクリートに固められながら、虚無の中へと沈んでゆくゆちの姿が見える。ガクンと肩を落としながら、闇に包まれ、全ての空気の彩りを暗黒へと誘うのだ。あたしと雪兎を巻き込んで。
『僕はね、ゆちを推薦しただけ。ただそれだけだよ。それをコネと捉えるのは我儘じゃないのかな?売れたかっただろう?』
『……雪……貴方って人は…』
雪兎の言葉に刃を立てながら、暗闇の言葉で攻撃を始める。こんなゆちの姿を見るのは初めてだが、人間らしいと思うのはダメだろうか。人間の光と闇は反比例。二つの彩りが絡み合いながら、崩れて暗闇に移ろう瞬間を見た気がした。
「…………」
どんな言葉をゆちにかけていいのか、この空間を変えたらいいのか分からない。脳が停止しているあたしはただの『骨の瓦礫』でしかないのかもしれない。順繰り周って自分に返ってくる因縁の形。あの時の『あたし』は自分がこんな事になるなんて考えもなく、ただの傍観者として存在してる。空気と同じ存在だと感じたんだ…。崩れる音は僕の心を踏みつけながら、二人の女性を惑わし、狂わしていく。
(これでいい…彼の願いのために…これでいいんだ)
雪のように真っ白で兎のようにしなやかに育つ名前、それが『雪兎』僕は母のつけてくれた名前に勝てる事はなく『圭人』さんの思惑に溺れてしまった、弱い心しかないんだ。ストーカーなんかじゃない。僕じゃないんだ。僕は何もしていない。ゆちにも勿論夕月にも…。ある事が原因で僕は彼女達を騙す役割の『替え玉』になった。本当の犯人は別にいるのに…。弱みを握られた状態では、逆らえないのが現実なんだ。悲しみに塗れる心とは反対に、言いたくない言葉を発する事しか出来ない。それが母を守る唯一の行動なのだから…。姉のように大切にしてくれた『ゆち』と僕が心から愛してる『夕月』二人も失いたくないけれど。それ以上に、この計画には沢山の犠牲が出る可能性がある。人質を囚われている、現状ではあがく事も出来ないし、守る事も難しいんだ。心の涙は落ちる。二人に気づかれる事もなく。僕の心の崩れる音と共に、破壊への道を示してる…。
夕日に月明かりを見つけた。
夕月の中に悲しみを抱いた。
夕焼けの時を恋焦がれた。
夕月の涙が零れた。
僕を恨んで、憎み、そして…。
僕を愛してくれた、過去の記憶。
『…雪兎、夕月さんを大切にしなさい。貴方が産まれて初めて愛せた女性なのだから…』
僕にもうその資格はない。