心臓の痛み
僕の声はいつになったら夕月に届くのだろうか。
いいや、夕月であって夕月ではない、体は彼女だけど、中身は癒智と言う少女。
これは夕月の心を、魂を守る為だと自分に言い聞かせ、待っている。
そこには、まだ諦めきれていない、諦めたくない自分がいる。
『目を覚ましてくれ、例え夕月でなくても、君の体が動くのなら、体温を感じるのなら、それでいいから』
溢れる感情、流れる涙、止め方なんて、知らない。
――僕の声が、届いているかい?癒智に。
キィと声を出しながら、現実の扉が開いていくんや。
うちはな、本当はこんな事したくない『ゆち』なんて知らないし、夕月がどうなろうと関係ないのに、創造者の願いだから、その願いを叶える為だけに、行動してしまった。ほんま、うちどないしてしまったんやろう。他の人間の願いなら、叶えるつもりも、義理もないのに、どうしても逆らう事が出来なかったんや。
それがうちの弱さかもしれんなぁ。
心の中での呟きは、うちの体を動かしている夕月とリンクしている。こんな事、気付かれたくない。創造者に知られたら、きっと、嫌われてしまうから……。
不安で、不安で、仕方ないんや。
『こっちだよ、おいで』
うちは人間やない、涙なんて流せないはずなのに、目から何か温かいものを、肌を伝って感じている。扉から見えてくるのは『希望の手』
すがりつくように、自分の手も伸ばす。そしてその温もりに満ちた手を握ると、グイッと引っ張られる。長いこと夢と言う暗闇に閉じ込められた、うちは、無意識に、会いたい、貴方に。そう呟いてしまう。これはうちの言葉やなくて、オリジナルのゆちの声なんやろうか。
自分が何者なのか、分からない。
なぁ、うちは生きてるん?人間なん?誰でもいいから答えて、うちの存在を人やって言うてよ。
「お願いだから、もう一人は嫌や」
創造者の力になりたいが為に、自分から勝手に行動を起こした。それでも、何も言わない、迎えにも来てくれない、本当は、うちを手放したいと思ってたん?全て、思惑なんやろうか。
頭のきれる人やからこそ、うちがどう感じて、どう思い、どう行動をするのか、先を読んでいたのかもしれない。
残酷な響きが、うちの心を真っ黒にしていくように思ったんよね、チクリとする痛みは何やろうか。うちに、心なんてない、感情なんてないはずやのに、何で、こんなに心臓が痛むん?
「誰か、助けて。うちを必要として、捨てないで」
いい子になるから……。