壊れた砂時計
待てど待てど、夕月の瞳が開く事はない。何分待っても、何時間待って、何日待っても、何週間待っても、何か月待っても……一年以上待ち続ける体力など、持ち合わせていない。
――僕は、騙されたのか?
眠りから覚める事のない、植物人間の母を助けてもらう代わりに、奴らから救ってもらう代わりに、条件を呑んだ、僕が浅はかだったと言う訳か。
心の不安と体の疲れが混ざり合いながら、永遠とこの時空が続くものだと思っていた。
あの創造者と名乗る雄介という男自体、存在しないのではないだろうか。存在しているとしても、偽名を使っている可能性が大きい、そんな事を思いながらも、両手両足を失くした、冷たい夕月の体を抱きしめる事しか、出来なかった。
ホロリホロリと涙が毀れて、一滴の感情が、彼女の体に落ちていく。僕の感情が堕ちるように。
『もう限界だ。夕月……お願いだから目を開けてくれ』
愛してるんだ、君を。僕はずっと君だけを見てきた。あいつらに複数の弱みを握られて、君の姉のゆちを、傷つけてしまった、僕を君は恨んでいるだろう。例え記憶を失くしたとしても、僕が覚えている限り、過去なんて言わせない。それだけは絶対に。
『くそっ。何でこうなるんだ』
あの時、圭人に出会わなければ、こんな事になる事もなかっただろう。今更後悔しても、もう遅い。時間を巻き戻す事なんて出来ないのだから。
『頼む、頼むから……』
付き合っていた時の事を覚えているかい?君はいつも冷静でいて、それでも、甘えてくる、僕だけに見せてくれた女の顔を忘れられない。僕だけが彼女の特別な存在だった。そうあの時までは……。
砂時計は時間を止めながら、心を硬化させていく。
認めたくない現実から逃げるように、硬化している砂を守る、ガラスにヒビが入り、パリンと割れる音が聞こえた気がした。
まるで、僕の心のように、他いし続ける。
ギュッと見たくない現実から逃れるように、固く目を閉じる。
そうすれば、自分の心を少しでも守れるような気がして、縋りつきたい思いを忘れないように彩って、時間だけが過ぎていく、
僕だけを置き去りにして。
『……僕が悪いんだ、僕が僕が僕が』
心の呟きはいつの間にか声として毀れながら、ゆちへと声の手紙を綴る。
少しの期待をしていた自分が愚かで、醜い、そして憎しみが蓄積されていく。
『僕は……雪兎はここにいるよ、君が目を覚ますまで、永遠に』
弱り切った、僕の悲しい微笑みが、君の目覚めを誘う。