表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/156

壊れた砂時計



 待てど待てど、夕月の瞳が開く事はない。何分待っても、何時間待って、何日待っても、何週間待っても、何か月待っても……一年以上待ち続ける体力など、持ち合わせていない。

 

 ――僕は、騙されたのか?


 眠りから覚める事のない、植物人間の母を助けてもらう代わりに、奴らから救ってもらう代わりに、条件を呑んだ、僕が浅はかだったと言う訳か。


 心の不安と体の疲れが混ざり合いながら、永遠とこの時空が続くものだと思っていた。


 あの創造者と名乗る雄介(ゆうすけ)という男自体、存在しないのではないだろうか。存在しているとしても、偽名を使っている可能性が大きい、そんな事を思いながらも、両手両足を失くした、冷たい夕月の体を抱きしめる事しか、出来なかった。


 ホロリホロリと涙が毀れて、一滴の感情が、彼女の体に落ちていく。僕の感情が堕ちるように。


 『もう限界だ。夕月……お願いだから目を開けてくれ』


 愛してるんだ、君を。僕はずっと君だけを見てきた。あいつら(・・・・)に複数の弱みを握られて、君の姉のゆちを、傷つけてしまった、僕を君は恨んでいるだろう。例え記憶を失くしたとしても、僕が覚えている限り、過去なんて言わせない。それだけは絶対に。


 『くそっ。何でこうなるんだ』

 あの時、圭人(あいつ)に出会わなければ、こんな事になる事もなかっただろう。今更後悔しても、もう遅い。時間を巻き戻す事なんて出来ないのだから。

 『頼む、頼むから……』


 付き合っていた時の事を覚えているかい?君はいつも冷静でいて、それでも、甘えてくる、僕だけに見せてくれた女の顔を忘れられない。僕だけが彼女の特別な存在だった。そうあの時までは……。


 砂時計は時間を止めながら、心を硬化させていく。


 認めたくない現実から逃げるように、硬化している砂を守る、ガラスにヒビが入り、パリンと割れる音が聞こえた気がした。


 まるで、僕の心のように、他いし続ける。

 ギュッと見たくない現実から逃れるように、固く目を閉じる。


 そうすれば、自分の心を少しでも守れるような気がして、縋りつきたい思いを忘れないように彩って、時間だけが過ぎていく、


 僕だけを置き去りにして。


 『……僕が悪いんだ、僕が僕が僕が』


 心の呟きはいつの間にか声として毀れながら、ゆちへと声の手紙を綴る。

 少しの期待をしていた自分が愚かで、醜い、そして憎しみが蓄積されていく。


 『僕は……雪兎(ゆきと)はここにいるよ、君が目を覚ますまで、永遠に』


 弱り切った、僕の悲しい微笑みが、君の目覚めを誘う。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ