四人の声
夕月と雄介の声が重なり合いながら、言葉を発する。あたしは溜息と共に。彼は希望と共に。同じ言葉を吐いているのに、まるで正反対。
二人以外にも、誰かの声がした。聞いた事があるような、ないような不思議な声が……。
四人の声が重なり合いながら癒智へと声の手紙として、風にのって、飛んでいく……。
「「「「あの子はどうしているだろう……」」」」
後の二人の声はだれの声なのか、分からない。
ギーコーギーコーと、舟の音と共に現世への扉が開かれる。舟は自動でもなく、手動でもない。命と血の川がゆらりと、流していくんだ。
『白兎、もう少しでユウヅキに会えるわよ。私達の息子を誑かした、ユウヅキの生まれ変わりにね。あの子は過去と同じ、体になったのね。年齢を重ねない作り物の体。哀れだけど、私は嬉しいの。あの子は永遠に苦しみ、生き続けるのだから……今度こそ逃がすものか』
ボクは項垂れて、体に力が入らない。眠りから覚めたのはいいものの。母さんを止める事が出来ない。現世と言う場所に生きているのは、兄さんとユウヅキ、そして母さんのもう一つの体が永遠に眠り続けているんだと、独り言を呟いていた。
それはまるで、物語を語るように……。そう考えたら『影法師』の名にふさわしいのはボクじゃなくて母さんなんだと実感してしまう。
一度奪われた『力』は元通りになる事はない、例え気に入ってたとしても、この幻想夢が選んだのは母さんなのだから。二つの心臓を、無理矢理食わされたとしても、結果がこうなってしまったのだから、仕方がないんだ。
母さんは、このままでいいのかな?『影法師』として生きると言う事は、現世の体は命を絶つと言う事なのに、それでもいいと思い、この選択をしたのだろうけど、そこまでしてユウヅキを壊したいの?
――ボクと雪兎兄さんの愛した人を……。
ボクは見ていたんだ、母さんが兄さんとユウヅキに会っていた時に、微笑みながら言葉にした思いを。あれは全てうそなの?偽りで出来ているの?本当は憎んでいるの?
『もう少しで、私達の願いが叶うのね。夕月は元の体を手放し癒智に渡した。これはチャンスよ。作り物に心なんてない、私達が食べて成り代わればいいだけ』
成り代わる?誰が誰と?ボクの声は届いているの?見えているの?新しい『影法師』の名を受け継ぐ者よ。
『聞こえているわよ、白兎。私は癒智から奪い、お前は雪兎から奪うんだよ、そして私達が生きて、あの子達が絶滅するんだよ』
――無理だよ、ボクには可能かもしれないけど、母さんは……。
『無理なんかじゃないよ。影法師になるのは雪兎なのだから。あの子をここに連れてきて、二つの果実を食わすんだよ。分ったかい?白兎』
化け物は母さん、そのものなんだ。