悪魔の会話
ギュイーンと複数の液晶に包まれた『獲物』の一人の鼓動が消えたのを確認した。両手の先端が叫び声をあげる。『まずい、まずい』と……。そりゃそうでしょうね、美味しくないもの、あの二人。あたしがツォイスだとしても、あんな人間、食すにはふさわしくない。そう思うよ。
食べるなら『夕月』や『ゆち』かな。『ミオ』と『癒智』は味なんてしないから、食す理由にならない。
そうやって繋がっている関係を、断ち切るのも、あたしの仕事なんだと実感してる。この血まみれの身体でね。
――ねぇ、癒智、ミオ、あの時の会話覚えてる?
あたしがミカサとして、存在していた時の会話を、彼女達は覚えてるのか、と疑問に思いながら、次の獲物を捕らえる。
『やめろ、やめろ、ころさないでくれ……』
悲惨な叫び声が聞こえた気がするけど、気のせいよね。だってあの二人、御笠には関係ないもの。ミカサは、どう思うのか知らないけど、あたしは何も同情なんてしない。だってさ、この叫び声を与えていたのは、彼等の方なのだから。
「逃げれないよ、あんたも。両目を抉るより、心臓の血を吸いつくしてやる」
血を吸い続けていた『ツォイス』は、瓦礫……いや、死体と言ったほうがいいかな?生きた人間から血と生気を吸い尽くし、死体を創り上げる才能の持ち主、そしてあたしは飼い主って訳。
「はやく、やれよ」
ギュイーンと唸る機械音の中で、同化しながら、男の死体の右側で震えている人間の心臓を、グサリと突き破る。
……肉の契れる音がした、溜らない、この感触。
「やばい、癖になりそう」
ジュウジュウ、吸い続ける、命の源。枯れて、砕かれて、瓦礫の山になる。
この光景を知っているのは、あたしに一番近い存在の癒智なら、知ってるはず。
あの子は、生きた人間の両手両足を破棄する『瓦礫』の処理場に捨てられたと、圭人から聞いたからね。
不思議ね、御笠としての記憶と、ミカサとしての記憶を混ざり合わせて生きている『あたし』は誰なんだろう、ってつくづく思うよ。
「あは。溶けてく、命が。あたしの栄養分になってる」
これも、全て、しおりさんのお陰だね、あたしをこんなに改造して、別物にした、あの人、天才そのものだわ。
ゾクゾクするのは、体?それとも心?どちらか分からない、もしかしたら両方なのかもしれない。
「ほら、全部、吸い尽くそう。お腹いっぱいになると気分もいいでしょ?」
悪魔の会話みたい。