ドッペルゲンガー
グシャリとあたしの両手が針から形を変えて刃へと変化していく。新しいターゲットは二人の男。
クスクスと笑い転げるあたしの意思とは別に、ツォイスは応えるように、変形していく。
――あたしの両手、綺麗でしょう?
監視カメラを突き破りながら、その中心核へと手探る、あたしの分身達、複数のカメラの情報を伝いながら、あたし達を見つめている瞳を探すの。
バリンと弾けたカメラの奥から、綺麗で残酷な破壊の音と叫び声が聞こえてきたんだ。
「まだだね、ほら、彼等は、すぐそこにいるよ」
呟きは憎しみの感情を伝いながら、赤い涙を流すんだ。そうやって獲物を捕らえて、全ての血を抜き、吸いまくる。
グシャリと再び音は、手から全身を伝って、もぎ取った感覚が広がっていく。ああ、これは目だ、人間の。どうせカメラの前で、釘付けになって、凝視していたんだろうね。
だからあたしに喰われる、目を潰されるんだよ……。
(もっと、もっとだ。全身食いちぎれ)
カメラと人間は繋がっている、あたしにとっては、そんな事なんだよね。まぁ普通の人間じゃ出来ない技だけど、これが出来るって、遠く離れた人間でも、食べれるってことだよね?
憎いあいつらも、ボロボロに出来るってことだよね?簡単に潰すのは、あたしの理想じゃないから、苦しみながら『瓦礫』に変わっていく様を確認しながら、叫び声で旋律を奏でて、しおりさんに聴かせてあげたい。音楽の一部としてね、多分、オリジナルのゆちも同じ気持ちで、枯れていったはずだから、あたし達が、敵を討つんだ。
その序章として、あたしを創り上げた。そうして、アクションを起こす事で本当の黒幕と対面する為に……。あたしに興味を抱かないなんて、あり得ないと考えるから、こそ、楽しそうなシナリオに乗っただけ。
爆破の要因を作った、二人の兄弟も、ついでだけど、あぶり出して、しおりさんに差し出すのも目的の一つ。あたしからしたら、過去なんてどうでもいいけど、囚われてる、しおりさんを開放させるのはこの方法しかないと思う。
『慶介と雄介さんは亡くなった……私に一つの手紙を残して』
こんな『化け物』を創り出す、冷淡な人の唯一、寂しそうな表情を忘れるなんて出来ない。
あんな顔、初めてみたから、余計に……。
「あたしが、願いを叶えてあげる、その代わり」
あいつらと同じ血を持って産まれた『あたし』も一緒に葬ってほしい、あいつらと共に。
この言葉は、彼女には伝えていないけど、なんとなく気付いていると思うんだ。
彼女はあたしと似た物同士、ドッペルゲンガーなんだからさ。