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リンクするあたしとゆちの記憶



 怒りの段階を説明すると、第一段階毒舌になる。第二段階敬語になる。第三段階シカトをしだす。最終段階狂ったみたいに笑う。軽く説明するとこうなるけど、なかなか怒りを出さないようにしているので、保々出る事はない。出るとしたら五年に一度のペース位かな。自分ではそう思っているのだけれど、それはあたしの考えであって、周りは違うのかもしれない。自分の評価と周りの評価が違うように、考えも違って当たり前だから、色々な視点で物事を見るとどれが答えなのか、正解なのか分からなくなるのが現状だというものだろう。昔父親に言われた事があったなぁ、なんて考える暇や、思考があるのだから、だいぶ冷静だと思う。どちらかと言うと呆れて落胆したって感じ。面倒くさいので、どちらでもよいけど、と言うのが現在いまのあたしの思い。昔会社経営を父に頼まれた時、他人の評価は、夕月、お前の行動や結果で変わりゆくもの。だから周りを考えたり、結果を求めるのではなく、自分がどうしたいか、どう思うかが一番大切なんだよ。なんて言われて、当時のあたしは何の事か理解できずに、ただ「うん」と元気のいい返事だけしてたっけ、確か。父はあたしには色々な目線や物事のものさしや、視野の広げ方を色々教えていたけど、ゆちには何一つ言ってなかった気がする。


 (まぁ、そうなるわなぁ)


 この現在いまの状況を見て、体験して、何故父がゆちには何一つ言わず、教えなかったのか理解出来る。そういう年齢と経験をしてきただろうか。まぁ一番は父の影響力が一番大きいと思うけど。多分、父の思考はこうだと思う。


 (ゆちには何を言っても無駄。何も変わらないから自由にさせる)


 そういう現在いまのあたしと同じ考えに辿りくるのではないかと思うと納得の一言しか出てこないのが現状。そういう内情を知ってか、知らずか雪兎の言葉があたしを誘う。


 『冗談はここまでにしようか。君を本気で怒らせたくもないしね』


 なら、はじめからそうしろよ、と口から言葉が零れ出そうになったが、ここで出したら彼の思うツボだし、心理戦の主導権を握らしてしまう結果にしかならないとあたしは予測する。その予測が当たってるかどうかは、未来のあたし達にしか分からない結論。それもそれで楽しいのかもしれない。怒りを怒りで出すのではなく、ゲームの一環として言葉遊びを楽しむのがあたしのやり方。


 パズルを完成させる時の過程と同じ。

 

 『ゆちが、駅前で歌っているのは知ってるよね』

 「えぇ」


 歌手になんてなれやしないのに、夢ばかり追う姉の姿を見て溜息を吐いた事もあったが、小さな会社ではあるが音楽プロダクションの社長にスカウトされたと聞いて、認めていた所だった。

そして、訳の分からない状況にしてしまい、信用しかけて、応援していたあたしの気持ちをボロボロに崩壊さしたとも過言ではない。


 「それがどうしたの?」


 色々な複雑な感情が入り乱れながらも、冷静に対処するあたしはピエロと同じ…いや道化師かな?


 『スカウトされたのは知ってるよね』

 「ええ」

 『その社長が既婚者ってのも知ってるよね?』

 「…何も聞いてないわ、と言うか聞く必要もないから聞いてないわ」

 『へぇ、そうなんだ』


 何も知らないんだね、君は。なんて上から目線で見られている気がする。子供じゃないし、妹のあたしが何故姉の行動を知らないといけないのか分からない。こういう時の雪兎の考えは子供みたいな嫉妬心や優越感と変わらない、ただのガキのように見えてしまう。


 「で、それが何?」

 『僕の仕事君たち知らないよね?』

 「知る必要もないからね。で今その情報は必要なの?」

 『意味があるから聞いてるんだよ』

 「そう、じゃ続けて」


 興味なさそうな態度のあたし。それが気に食わないのか、彼の纏っている空気が変わりだした。

君には負けるつもりがないから、なんて心の声が漏れてきてる。


 『僕はね、そのプロダクションのスカウトマンなんだ。ゆちを勧めたのは僕だからねぇ』

 「…実力じゃなく、コネって訳か」


 その言葉を吐いて、やばいと思った。ゆちの性格の脆さ、幼さを考えたら耐え難い現実だから。夕月!あたしスカウトされたよ。凄く嬉しい、って泣いて喜んでいたゆちの気持ちを雪兎とあたしが踏みにじったように思った。でもこれが現実なんだと言い聞かせながら、ゆちの存在を無視して話の続きを再開する。そんなあたしは冷たいのかもしれない。





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