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短編の4「列車」

作者: 湊 ユウヒ

来たことのない、誰もいない駅のホームに立っていた。


身を乗り出して線路の先を見ると、一面に広がる海が見えた。どうやら海の上を走るらしい。


私だけが乗る列車にしては、とても豪華すぎるくらいだ。夕日が照らす広大な海は、遠くから見るとキラキラと輝いている。


私は今からお母さんの元へいく。


ずっと一人暮らしだった私が、ようやく母に会える機会を得たのはついさっきのこと。それまでずっと計画していたのだが、それを実行したのだ。


「どんな顔するかなぁ」


私がいく事はもちろん言っていない。軽いドッキリという事で済ませるつもりでいる。


……でもきっと、お母さんは私を見て泣くだろう。きっと、必ず泣くだろう。そして怒るんだ。


「長かったなぁ。一人じゃ不安も多いし、お母さん見てエネルギー蓄えないと」


幼い頃から私は母の顔を見て育った。


何かをするにしても全てお母さんをマネしてきた。料理もお母さんのような味になるように必死になって頑張った。髪型もお母さんと同じにした。


私には、お母さんが全てだった。


「お父さんが居なくてごめんね。こんな私で我慢してくれてありがとうね」


お母さんはいつもそんなことを言っていた。


父との関係が良くなくて、私が生まれて一年ほどで離婚したと聞いていた。私はその男のことはよく分からないけど、こんなお母さんと別れるなんて頭がどうかしてるとしか思えなかった。


「いいよ! 私、お母さん大好きだよ!」


そんな心からの言葉を告げると、いつもニコッと笑って抱きしめてくれた。




そして、今から三年前。私が中学校に上がった時のこと。


「お母さん、似合う? かわいい?」

「とーっても似合ってるよ。日菜も大きくなったねぇ」


入学式の日の朝、私は中学校の制服を着てはしゃいでいた。


「わーい! あのね、私ね、学校でたくさん友達作るんだよ!」


家の中を走り回る私を、お母さんは止めようともせずにずっと笑っていた。


それは私にとって、とても大切で暖かくて、そして許せない思い出だ。



「それじゃあ、後で行くから、気をつけて行ってらっしゃい」


玄関でお母さんにそう言われて、私は自転車にまたがった。


「行ってきまーす!」


手を振るお母さんを後ろに、学校へ向かった。



「あれがもう三年前かあ。懐かしいな」


すっかり高校生になった私の体は、アルバムに写る昔の自分と見比べて見ても、見違えるほどに大人になっていた。


「少しはお母さんに近づけてるかな」


小さい頃から見てきた、星のような存在に私は慣れているのだろうか。


手ぶらな両手を後ろで組んで、空を見上げた。日が沈む時間の赤い空には、雲ひとつなかった。


遠くでカラスの鳴く声がしたが、それは幻聴だろう。ここにカラスなどいるはずがないのだから。


駅のホームには私以外誰もいない。見送りの友人も、家族も、誰もいない。


遠くで汽笛の音がした。そろそろ時間だ。


「いってきます」


そう言ってホームに着いた無人の列車に乗り込んだ。



列車の中、一人しかいない車内は、進むたびにギシギシと音がなり、カビ臭さを感じる


外を見ると、一面が赤い海でキラキラと輝いていた。


それを見ているだけで今までの記憶が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。


──あの時、私が手を振り返したら何か変わったのだろうか。


三年間抱き続けた疑問は、三年前から無意味以外のなんでもなかった。


そう分かっていても、一人になった私は『いつか帰ってくるから』という幻想に思いを浸らせたのだ。


でも、もうそんなことはしなくてよくなる。


「怒らないでね、お母さん。」



海上を走る列車は、何もない場所を目指し走っていた。


最近「あのねあのね」というフレーズが某アニメのお陰で流行り、執筆の中で使いたいけどためらってしまう……ということがありませーーん!


あのねあのね、この作品は作者の工夫がいっぱい詰め込まれてるんだって!

あのねあのね、よかったらコメントしてくれたら嬉しいの!

あのねあのね、評価してもらったら私お嫁さんになってあげてもいいの!

あのねあのね、読んでくれたあなたが大好きなの!

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