クラッシュ・キョーコさん!
わたしはキョーコ。ごくごく普通の一般人です。大学を卒業して就職して、平凡な人生を歩んでいく……予定でした。わたしの特技……というか、能力不明な能力に自分自身が気付くまで、そう時間はかかりませんでした。
「明日から新しい機種を買って来なさいね?」
「ちょ、まっってぇええええ!」
「待ちません。浮気許さないって言いましたよ。わたしは、待ちませんよ」
「いやっ、それ昨日機種変したばかりなんだよぉぉぉ! やめてぇぇぇ」
浮気が判明した彼氏のスマホを左手に持ち変えて、カウントダウンを始めた。
「サン、にぃ……いち――」
わたしの手に掴まれた彼氏のスマホ使用歴約一日の機種は、一瞬にしてクラッシュしてしまった。わたしの左手には一体何が含まれているのか、今でもはっきり分かっていないけれど小さい頃からそうだったらしい。
「キョ、キョーコ……さん。も、もう浮気しないですから……どうか、どうか……」
「次は無いけど、もし破ったら……次はあなたの自慢のオーディオ機器を優しく撫でてあげるからね?」
「ひいっ!?」
そういうと大抵の男は浮気をしないものだけど、それを恐れられて別れて下さいと泣かれてしまうのが自分の欠点だったりする。
わたしの手はいつも透明の手袋を付けていて、そのことで妙に勘違いをされて男に声をかけられることが多かった。見た目がそこそこマシなのと肌が白くて手が綺麗ってだけで寄って来てるだけのことだけど。
「キョーコって、手タレ?」
「何故ですか?」
「いや、いつも手袋してるし……どれだけ綺麗な手、してんのかマジで気になる。てか、写真撮ってもいい? なんなら、キョーコが自分の手を自分で撮影しても……」
「――いいんですか? わたしがその端末に触っても……」
「ん? なにが?」
「わたし、電子機器に触れないんですよ。だから、わたしに触れられると大変なことになりますよ~」
「へ? またまたぁ~てか、キョーコさん面白いな! 彼氏いないんだったら立候補していいすか?」
「いいですよ。でも、浮気は絶対許さないです。もししてしまったら、あなたが所持している電子端末が全てクラッシュしてしまうかもですね」
「はははっ! うん、やっぱ面白い。てことで、よろしくー!」
「はい、これから仲良くしてくださいね」
念を押してもやはりというか、それとも男は浮気する生き物なのかは定かじゃないけれど、わたしは浮気されてしまうみたいだった。そしてその度に……わたしの左手から目に見えない何かが出て、電子端末をクラッシュさせてしまう。
結果、ケータイショップで仕事は出来ないし、電子機械のある場所は全て駄目。そのせいでいつも手袋をしているわたしがかえって、惹かれるらしくて彼氏は出来やすいといういいのか悪いのか分からない人生。
彼氏は出来るのに浮気され、そしてスマホその他をクラッシュさせる女。それがわたし、クラッシュキョーコ……あぁ、変な通り名が出来てしまった。
「でも、浮気したらクラッシュさせますけどね……」