第三幕・平和の調停者編 第五話 種族を超えた絆【後編】
まずは戦闘開幕メルフィナが魅了の舞を踊り、盾にされている人間たちを次々と魅了していった。戦いを妨害されたりその身を盾にされるのはもちろん、下手に人質のように扱われたらこちらは満足に戦うことができなくなってしまう。そのため、メルフィナは最初から能力全開でメイドや大臣を虜にしていった。
「さぁ!アタシたちの戦いの邪魔にならないよう、速やかに玉座の間から移動してちょうだい!」
魅了された人々はメルフィナの言葉に素直に従うと、恐怖の支配者であるガイゼルの制止を無視してどんどん退出していった。
「クソッ!尻軽女如きに魅了されおって馬鹿どもが!」
「誰が尻軽女よ!相変わらず失礼な男ねアンタは!」
「グフフ。だから人間の盾など意味がないと言ったでしょう。不要な駒はさっさと処分するに限りますよ。こんな風にねぇ」
クロウリーは魔法書のページを開くと、背中を向けて逃げていく人々に向けて躊躇なく魔法をお見舞いした。私たちは自分に向けられた攻撃ではないため一瞬反応が遅れてしまい、魔法への対処が遅れてしまった。入り口を振り返った頃にはもう、人々は風魔法の餌食になっていた。
「ぐぁぁぁ!!!」
「キャアァァ!!!」
退出するのが遅かった何人かのメイドと大臣が、血塗れになって入り口付近で将棋倒しのように倒れ伏す。
「ガハハハ!良い気味だな!王を裏切って逃げ出すからだ!」
ガイゼルは痛みに呻き声を上げている臣下を笑うと、上機嫌でクロウリーの手際の良さを褒めていた。
私はショックで口を押え、彼らを魅了していたメルフィナは悔しそうに目を背けた。男性陣たちは揃って抑えられぬ怒りを滲ませている。
「無抵抗な一般人になんということを!そなたは魔王殿たちと違って本当に残忍な魔族でござるな!」
「グフフフ。ワタシが異常みたいな言い方は心外ですねぇ。むしろ魔王やそれに従う奴ら全員が異常なのですよ。魔族の本質を捻じ曲げ、平和ボケしている奴らばかりなのですから。強い者が他を圧倒して蹂躙することの何が悪いのか。本来の魔界ではそれが普通で当然のことだというのに」
「フン。貴様は一体何百年前の話をしている。もうとっくにそんな時代は過ぎ去った。今や父の代から魔界は変わり始めている。そしてそれは、俺の代で更に加速するだろう。人間との交流、共存という時代にな」
「人間との共存、だと!?」
クロウリーは目を吊り上げ苛立った声を露わにする。
魔王の共存という言葉に、一緒に戦っている星の戦士たちは少し驚いた顔をしたが、すぐにそれは笑みへと変わった。
「何をそんなに驚いている。貴様も今人間と協力して俺を討とうとしているではないか」
魔王は挑発するように皮肉めいた笑みをクロウリーに向ける。
「ワタシたちはあなたたちのように仲良しこよしをしているわけではありませんよ。利害の一致から一時的に手を組んでいるにすぎません。交流や共存とは程遠い。これからの魔族の行く末がそんな悲惨な未来なら、是が非でもここであなたを殺しておかなければなりませんねぇ。お前たち!魔王はワタシが相手をするので、お前たちはガイゼルを守りつつ星の戦士を殺しなさい!」
クロウリーは控えていた二体の巨大な機械魔族に命じると、自身は魔王を倒すべく魔法の詠唱を開始した。
「ならばワシは機械魔族が追い詰めた星の戦士にトドメを刺すとするか」
ガイゼルは玉座に立てかけてあった魔晶銃を手にすると、照準を私たちの方へと向けた。
「フン。ひとまず二手に分かれて戦うか。とにかく俺が本気を出すためにも、魔力をゼロにするガイゼルを先に倒す必要がある。クロウリーは当然俺を狙ってくるだろうから俺が相手をする。お前たちは機械魔族を躱しつつ、迅速にガイゼルを戦闘不能にしろ」
「おい!ちょっと待て!お前一人でクロウリーの相手をするのか?魔力を持たないならいつもみたいに結界とか張れないんだろ。大丈夫なのか?」
「俺を誰だと思っている。たとえ奴の魔法を喰らったとしてもそんなすぐにくたばったりはしない。魔族の体は元々頑丈だからな。まぁ、貴様らがガイゼルを倒すのに一日かかるというのなら難しいかもしれんが」
「そんなにかかるはずないだろ!相変わらず嫌みな奴だな!」
剣を機械魔族に向けて構えていたカイトは、隣に立つ魔王に噛みついた。
私に対してもいつもそうだが、魔王は余計な一言を付け加えて人の神経を逆撫ですることが多い。
「そんなにかかりはしないが、さすがに魔王殿一人に負担を強いるわけにはいかないでござるよ。今回は共闘戦なのだからな。機械魔族とガイゼルは拙者とケロス殿に任せるでござるよ。カイトは魔王殿と一緒にクロウリーを頼む。カイトの能力ならクロウリーの魔法を無効化できるから時間稼ぎも容易であろう。拙者たちが倒すまで耐えてくれるか」
「任せてください。何なら魔王の出る幕もなく、俺がクロウリーを倒してみせますよ」
「フン。面白い冗談だな。小僧の実力では魔法の集中砲火に押し切られるのが目に見えている。フィールド系能力者ではないから、魔法を分散されると捌ききれないからな貴様は」
「なんだと~!俺の本気を見たことないくせに!」
「貴様の本気などたかが知れている」
「ちょっと!こんな時くらい仲良くして二人とも!」
機械魔族二体が近づき、クロウリーの魔力も高まってきているというのに口喧嘩を始めようとする二人。私は同盟軍発足の仲介人として、二人の間に入って仲裁した。
(この二人でクロウリーの相手って大丈夫かな…)
私は心に一抹の不安を感じながら、目の前の戦いに集中するよう二人に言い聞かせた。
「よぉ~し!ようやくオレの見せ場だな!魔力を封じられてようが関係ねぇ!オレが機械魔族ごとガイゼルをサクッと片付けて、魔王様の戦いに貢献してやるぜ!待ってろよ魔王様!」
「あぁ。戦いに夢中になりすぎて油断だけはするなよケロス」
「それじゃあアタシとえりは両方の援護担当ね。アタシは魅了でみんなの力を底上げするわ」
メルフィナは扇を開くと、舞を再開して蒼白の光に包まれた。
「私は状況に応じて色々援護するね!頑張ってみんな!」
「グフ。作戦会議は終わりましたか?それじゃあ遠慮なく殺しますよぉ!」
「貴様ら全員まとめて処刑してやる!」
クロウリーの魔法とガイゼルの射撃を合図に、私たちはそれぞれ三手に分かれて戦闘を開始した。
二体の機械魔族に向かっていったケロスと凪は、それぞれが一体ずつ相手するのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。俊敏さが売りのケロスが二体を一遍に相手をし、凪が速攻でガイゼルを戦闘離脱させる作戦のようだ。
ケロスは両手にドリルや斧、大剣と鉄球を装備している機械魔族二体の間を縦横無尽に駆け回り攪乱する。凪はその横を駆け抜けながら、自身の能力を発動させて玉座の間から姿を消した。
「おいデカブツ!隠密能力で奴が姿を消したぞ!さっさとワシを守れ!」
「もう遅いでござるよ。潔くこの舞台から退場するでござる、ガイゼル王」
凪は気配なくガイゼルの真後ろに忍び寄ると、達人級の速さで峰打ちを繰り出した。しかしその攻撃が対象を捉える前に、ケロスが相手していた機械魔族から魔力が発せられ、ガイゼルの周囲に強力な結界が張られた。凪の刀は結界に弾かれ、こちらの速攻作戦は失敗に終わってしまう。
「どうやらそこにいるようだな!」
ガイゼルは攻撃を受けた方向に魔晶銃を向けると、姿の見えない凪に連続で引き金を引いた。
凪は速やかに射線から退くと、ガイゼルと機械魔族の中間辺りまで後退する。
「まさか機械魔族にガイゼルを守る結界機能がついているとは。向こうもそれなりに対策を練っているようだな。……ケロス殿!作戦変更でござる!ひとまず一緒に機械魔族から倒すでござるよ!それからでないとガイゼル王を倒すのは難しいでござる!」
「諦めんの早ぇな隠密殿様!別にいいけどよ。…でも一緒に戦うにしても、声は聞こえてもあんたがどこにいるのかオレ見えねぇんだけど。能力を使ってる間は連携とか無理だぞ」
「それは心得ているでござる。ダメージを受けない限りは拙者の能力は強制解除されないからな。ひとまずそれぞれ一体ずつに集中するでござる。拙者は大剣と鉄球を持っている方を倒すから、ケロス殿はドリルと斧を持っている方を頼むでござる。ガイゼルはきっと姿の見えているケロス殿を優先して銃で狙ってくる故、戦っている時は注意するでござるよ」
「あいよ。あんなヘボ銃なんか当たんねぇから心配すんな」
急遽作戦を変更することになった凪たちは、戦いが長引くのを覚悟して、ガイゼルを守る機械魔族に挑むのだった。
カイトと共にクロウリーの相手をしている魔王は、ひたすら防戦を強いられていた。カイトの言った通り結界を張れない魔王は、クロウリーが放ってくる魔法を避けたり身に付けているマントで受け止めたりしている。避けることができず攻撃を受け止める度、少しずつダメージが体に蓄積し、怪我をすることがあまりない魔王の体から血が流れていく。
一緒に戦っているカイトは、魔を払う光の力で先ほどからずっと魔法を無効化しているが、クロウリーが魔法を操作して四方八方から攻撃を繰り出してくるため、全てに対処しきれないでいる。一応魔王に向けられた魔法を優先して無効化しているようだが、その分自分が疎かになってもうあちこち傷ついていた。
二人とも攻めに転じられずダメージが増えていく一方だったが、メルフィナの魅了のおかげで体力や防御力が通常の限界を超えて引き出されているため、まだ一応余裕はありそうだった。
私はそんな戦いぶりを見ながら、少しでも助けになろうと打ち出の小槌で一本の剣を出した。
「魔王!私の力で剣を出したよ!星の力が宿ってるから、多分ガイゼルの能力に作用されずに使えると思う!魔王城の武器庫で前に見た量産の剣だから、あまり強度は保証できないけど」
「ほう。お前にしては上出来だ。ありがたく使わせてもらおう。どうやら攻めなければ永遠に終わらなそうなんでな」
「え?どういう意味?」
私は魔王に剣を手渡しつつ首を傾げる。
「奴を最初に見た時からおかしいと思っていたんだが、どう計算しても今残っている魔力量と奴の総魔力が合わない。外で開幕当初からあれだけ魔法を各方面に使い、後半はサラマンダーと一騎討ちをして魔力を相当減らしたはず。にも関わらず、奴の魔力量は半分以上残ったままだ。これは明らかにおかしい」
「………私たちと同じで魔力を回復する魔法水を持ってたんじゃないの?それを飲んだとか」
「いや。あれは貴重なアイテムだ。魔王軍の中でも個数管理はしている。城にあるもの以外で手に入れるとなると、原料がある領域を治めているネプチューンを頼るしかないが、あの性格上クロウリーには絶対に許可しないだろう。それに魔法水は一本飲んでも三分の一程度しか回復しない。やはり奴の回復量とは計算が合わんな」
「う~ん。それじゃあどうやって回復を…。それを突き止めないとまた回復されて、ずっと魔法攻めされちゃうってことだよね?」
魔王が私を抱えて飛んできた魔法を回避すると、クロウリーは一旦攻撃の手を休めてまたあの下品な笑い声を響かせた。
「グフフフフ。その絶望の仕掛けに気づいてしまいましたか。ではでは、気になっているようなので教えてあげましょうか。ワタシがようやく完成させた優れた魔力供給機械を!」
「魔力供給機械?ずいぶんとふざけた名前だな」
カイトは私たちのところまで一旦下がってくると、剣を構えたまま乱れた呼吸を整えて言った。
「グフフ。魔力供給機械とはその名の通り、このワタシにいつでもどこでも魔力を供給してくれる機械です。機械本体はワタシの城にありますが、そこからワタシの体に埋め込まれている機械から座標値を割り出し、ワタシが要求すると瞬時に魔力を転送してくれる仕掛けなのですよ。だからサラマンダーに限界まで削られた魔力も、この通りすぐに回復したというわけです」
クロウリーは浮遊魔法で私たちを見下ろすと、勝ち誇ったような目を向けて笑ってきた。
ガイゼルの能力で魔王の魔力をゼロにし、更に魔法を得意とする自分は魔力を気にせず使い放題。敵も魔王打倒のために万全の準備をしてきたようだ。
魔力が無限と聞いて私とカイトが内心焦っている中、魔王は鋭い目を更に尖らせ、責めるようにクロウリーを追及した。
「機械にそれほど詳しくない俺でも、その魔力供給機械の動力が普通でないのだけは分かる。どんな工夫をしようと機械が魔力を生み出すことはできんからな。お前に供給される魔力……、他者から無理矢理奪っている魔力だろう」
「…え?他者から、奪う?どういうこと?」
「さすがは腐っても魔王。良い読みですねぇ。あなたの言う通り、魔力供給機械の動力は生きた魔族です。ワタシの配下や洗脳して捕らえた魔王軍の兵を機械の部品の一部に使用しています。彼らから吸い上げた魔力をワタシが供給する仕組みなのですよ。どうです?画期的でしょう」
クロウリーが高笑いする一方、魔王の眉間は怒りで深い皺が刻まれた。私とカイトもその非人道的な行いに怒りを募らせていった。
「一体自分の配下を何だと思っているわけ、アイツ!ホント信じらんない!……でも、その魔力を供給する人たちの魔力が全部なくなったら、結局魔力を回復できなくなるわけだよね?じゃあ長期戦覚悟で戦えばいつかは勝てるかな」
「グフフフ。残念ながら魔力がなくなってもまだ奥の手がありますからねぇ。私が負けることはあり得ませんよ」
「奥の手?まだ何か隠してるのかよ」
「魔王ならもう眉間の皺から薄々感づいているとは思いますが、魔族は魔力を使い切っても奥の手があります。自分の生命エネルギーを魔力に変換すれば、そのまま戦い続けることが可能なのですよ。即ち、部品である魔族たちも魔力がカラになったら自動的に命を削ってワタシに魔力を供給してくれるのです!素晴らしいでしょう?」
「フン!外道が!貴様は地獄行き確定だな!…小僧、機械に囚われている連中にあまり負担をかけたくない。無茶をしてでも攻撃に転じるぞ」
魔王は剣を構えると、飛んでいるクロウリーに向かって走り出す。カイトは能力を使ってクロウリーの浮遊魔法を解除すると、挟み撃ちすべく魔王の後に続いた。
魔王とカイトが魔法対処に苦戦しながら攻め続けている中、私は思考をフル回転させて必死に妄想のネタを探していた。
(このままじゃクロウリーが完璧有利。何か一発逆転の妄想で二人を援護しないと。ケロスや凪さんもガイゼルを倒すにはまだ時間がかかりそうだし、当分魔力縛りは続きそう)
私はチラッとケロスたちの戦場に視線を投げる。凪の姿は相変わらず見えないが、機械魔族の攻撃を躱しながら各々着実にダメージを与えているようだった。
ガイゼルはケロスに照準を合わせ、魔晶銃の弾の属性を変えながら、ずっと引き金を引き続けている。しかし銃で戦ったことがあまりないのか、命中精度はあまり良くなかった。
(魔族で元々体が頑丈な魔王はまだまだ魔法に耐えられそうだけど、このままだと先にカイトが潰れちゃいそう。魔を払う能力も全部には対処しきれないみたいだし)
カイトは蒼白の光が宿った剣で剣圧を飛ばして魔法を無効化しているが、全部捌ききれずにどんどんボロボロになっている。回復担当であるジャックはまだここに駆け付ける気配はなく、怪我の手当てもできない状態だった。
(カイトのダメージを和らげて、二人が反撃できる良い妄想はないかな。う~ん…。今までやったゲームや読んだ漫画で何か良いアイデアは……。通常のゲームだったらタンク役が戦闘にいるけど…。体力に余裕のある魔王がダメージを肩代わりして、その代わりに何か……ッ!コレだ!)
私は閃いた妄想を早く試したくて、興奮気味に戦闘中の魔王に話しかける。
「ねぇ魔王!まだまだ体力に余裕ある?カイトの分まで頑張れそう?」
「なに?……どうやらまた型破りな妄想を思いついたようだな。その様子では」
魔王は目をキラキラさせている私を見ると、少し不安げな、どこか問題児を見るような目で私を見てくる。
「魔王がクロウリーの攻撃を耐えてくれれば、一発逆転も十分あり得るんだけど。どうする!?」
「フン。どうするもこうするも、この状況で選択肢は一つしかないだろう。お前の好きにしろ。ただし、能力に体が耐え切れずにお前が倒れたりするのはなしだぞ」
「りょ、了解。頑張ります!」
私は魔王の許可を得てから、たった今閃いた妄想を練り始める。精神を集中させ、自分の中で妄想の成功イメージを固めていく。
私が蒼白の光を纏い始めたのを見て、クロウリーは瞬時に攻撃を私に切り替えてきた。
「残念なことに、あなたの能力だけが特定できていないんですよねぇ。ですが、あの外の城壁をお菓子に変えたのは、消去法で間違いなくあなたの仕業でしょう。能力が未知数なあなただけは要注意人物です。ワタシのシナリオ通り進めるためにも、能力発動前にご退場願いましょうか」
「「そうはさせるか!」」
魔王とカイトは声をハモらせると、協力して私を狙うクロウリーから体を張って防いでくれた。
私は二人の頑張りに報いるために、迅速に且つ細部まで綿密に妄想を仕上げていった。
(よし!下地も中身もこれでオッケーなはず!この妄想で、一気に攻めに転じてクロウリーを追い詰めてやる!)
「二人ともお待たせ!これぞ人間と魔族を結ぶ協力絆プレイ!『ボンドリンク!』」
私が妄想を解き放った瞬間、魔王とカイトの体が蒼白の光に包まれた。そしてその二人を繋ぐように、一本の蒼白の帯がゆらゆら揺れている。
二人は自分たちに宿った星の力の加護が分からず、私を振り返ると無言で説明を要求してきた。
「フッフッフ。そのボンドリンクは、二人を繋ぐ特別な絆です。効力としては、カイトの負うはずだったダメージを魔王が代わりに肩代わりしてあげちゃうというものです。どう?すごいでしょう?」
「……何故俺が小僧の分までダメージを肩代わりしなくてはならない。お前がさっき聞いてきた体力に余裕があるかとはそういうことか」
「そうそう!だってカイトは人間だから、怪我の影響で少しずつ動きが鈍くなってきているし。魔王が肩代わりしてくれれば、カイトはダメージや防御を気にせず思いっきり攻撃できるでしょう」
「なるほど。魔王が盾役になって俺が随時攻めるわけだな。任せてくれ!攻撃だけに専念していいならいくらでも戦える!魔王はせいぜい俺の分まで耐えてくれ」
カイトは未だかつてないほど魔王に眩しい笑顔を向けると、宣言通り防御を捨ててクロウリーに突っ込んでいった。
「ふざけるな小僧!少しは攻撃を避ける努力もしろ!」
魔王は納得がいかない様子のまま、カイトの背中を追いかける。
「ふむ…。どうやら小娘の能力は自由に魔法を作れる能力でしょうか。まぁいいです。ダメージの肩代わりなど、ワタシにとってさして問題ではありません。むしろ魔王のダメージ量が増えて、ワタシからしてみればプラスに働くぐらいです。さぁ!どんどん魔王を追い詰めていきましょうか!」
クロウリーは準備していた上級魔法と中級魔法複数を同時に発動させると、遠慮なく魔王とカイトに向けて放った。
カイトは能力で魔法を無効化したが、それでもいくつか取りこぼしてしまい被弾してしまう。しかし私の能力のおかげで、カイト自身はダメージを一切負うことはなかった。
「ぐっ…!クソ!小僧め!派手に攻撃を喰らっ……ん?これは!?」
魔王はカイトの分のダメージを喰らい悪態を吐いたが、自分を包み込む蒼白の光がもたらす恩恵に気づき、驚きの声を上げた。
「あぁ、言い忘れていたけど、ダメージを肩代わりする魔王側にもちゃんとメリットはあるよ。負ったダメージ分に相当する魔力を回復するっていうメリットがね!」
「な、なに!?魔力の回復だと!?では、ワタシの今の攻撃は…!」
「ふふふ~。遠慮せずどんどん攻撃してくれていいよ。カイトが突っ込んで攻撃を喰らうほど魔王はダメージを受けるけど、その代わりどんどん魔王の魔力は回復していくからね!ガイゼルの能力下でも、私の能力の恩恵で回復した魔力だったら影響を受けないから、魔王も魔力を使って戦える!これで一気に追い詰めちゃうんだから!」
「こ、小娘がぁ~!小賢しい真似を~!」
クロウリーが血管を浮かび上がらせてキレる様を、私は肩膝をついて眺める。能力を使った反動で、体に頭痛と倦怠感が押し寄せていた。
「大丈夫えり!?アンタまた体の調子が!」
「大丈夫…。さっきみたいに倒れるほどじゃないから。しばらくみんなの援護はメルフィナに任せるね」
「えぇ。アンタは無理せず一旦休みなさい」
私は後ろに下がりつつ、回復した魔力を使って早速魔法をぶっ放している魔王を見て苦笑いした。魔力が使えず余程フラストレーションが溜まっていたのだろう。とても生き生きして楽しそうだ。
クロウリーは魔王に魔力を回復させないようカイトへの攻撃を控え始めたが、その影響でカイトがノーマークになり少しずつだが攻撃を喰らい始めた。
そして魔王に向けられた魔法攻撃を時折間に割り込んでわざとカイトが喰らい、魔王に魔力を回復させている。二人の間で連携が増え、クロウリーを翻弄し始めていた。
「どうしたクロウリー。少しずつ余裕がなくなってきているようだぞ。俺を倒すんじゃなかったのか?」
「~~~っ!ハーフの分際で生意気なぁ~!二対一でやっとのくせに粋がるなよ!」
クロウリーが冷静さを欠いて声を荒げた時、玉座の間の反対側で戦っているガイゼルたちにも動きがあった。
「ク、クソォ!どこだ!どこにいる!姿を消す卑怯者が!ワシに逆らうとどうなるか分かっているのか!」
ガイゼルはケロスの動きに注意を払いつつ、姿の見えない凪に向かって吠え続けている。
「どうやら向こうも追い詰められているみたいだな。おっと!ガイゼル王のところには行かせないぞ。後はもう凪様の一撃で決着がつくからな」
カイトは奥歯を噛みしめて睨みつけるクロウリーにニッと笑って見せると、仲間の勝利を確信した。
機械魔族の弱点である関節のつなぎ目を辛抱強く斬りこみ続けて一刀両断し、四肢全てを斬り落として自由を奪った凪は、ケロスの助けを借りながら機械魔族の核を破壊した。ケロスも自分の担当していた機械魔族を俊敏さと突進、相手の力を利用してなんとか倒すことに成功した。
守りの要を失ったガイゼルは酷く狼狽えると、みっともなく大声を上げて一歩一歩後退していった。
「全く往生際の悪いおっさんだなぁ。あれで一国の王ってんだから驚きだよな。魔王様とは大違いだぜ」
「黙れ獣風情が!……そうだ。壁さえ背にしていれば背後からの奇襲はない。銃を前に向けてずっと撃ち続ければワシが負けることはないはずだ」
ガイゼルは壁に背をつけると、姿の見えない凪の奇襲に備えて前方に警戒を強めた。手当たり次第銃を乱射し、間合いに入らせないよう目を血走らせている。
ケロスはため息をつきながら雷や炎、氷、風の力が込められた銃弾を躱した。
「ガハハハ!これならヤマトの殿も近づけんだろう!ワシは絶対に負けん!ワシがこの人間界の絶対的な支配者になるのだ!」
「もうほとほと呆れて言葉も出てこないでござるな。少し眠って頭を冷やすでござるよガイゼル王」
「えっ」
ガイゼル王は至近距離から聞こえてきた声に身を固くすると、そのまま頭上からの奇襲に気づかず思い切り床に叩きつけられた。首と頭に一撃ずつもらったガイゼル王は気絶し、ようやく強制武装解除の能力が解かれた。
「ふぅ。思いの外時間がかかってしまったでござるな。魔王殿!もう魔力問題は心配ないでござるよ!」
「よくやった、隠密殿様。これでようやく全力でクロウリーを叩きのめせる」
魔王は懐から魔法水を取り出すと、一息にそれを飲み干した。ケロスも私のところに戻ってくると、私に預けていた魔法水を飲んで魔力を回復した。
魔王は量産品の剣を投げ捨てると、愛用している武器を手元に召喚した。その武器は歴代の魔王に代々受け継がれている代物で、暗黒剣と呼ばれるものだと前におじいちゃんに教えてもらった。
暗黒剣は半透明の黒い鎖が周囲に巻き付いており、敵に攻撃を喰わらせるとその対象を鎖で拘束する力があると言う。雑魚であれば問題なく拘束できるが、七天魔クラスになると鎖を無理矢理断ち切ることも可能なため、できるだけ多くの攻撃を当てて鎖を増やし、拘束を強める必要があるそうだ。
明滅を繰り返す暗黒剣の赤黒い刀身を見つめていると、クロウリーは徐々に冷静さを取り戻して何やら頭の中で考えを巡らせているようだった。
「また何か狡賢いことを考えているなクロウリー。悪いがこれ以上貴様のペースに付き合うつもりはない。一気に決めさせてもらうぞ」
「グフフフ。その言葉、そっくりそのまま返しますよ。ワタシもあなたのペースに付き合うつもりはありません。ましてや使えない駒と一緒に共倒れするつもりもね。こうなった以上、容易にあなたを討つのは無理のようです。一旦仕切り直させてもらいますよ」
「おい!まさかここまで来て逃げるつもりじゃないだろうな!凪様たちがせっかくガイゼル王の能力を解除してくれたのに!」
「コラ!クロウリー!せこいぞテメェ!魔王様と勝負しやがれ!」
カイトとケロスが責めたてる中、クロウリーは私たちを嘲笑いながら空間転移の魔法を準備していく。
魔王は魔法を妨害すべく間合いを詰めると、暗黒剣でクロウリーを攻撃し続けた。
「暗黒剣も当たらなければ意味がありませんねぇ。では、そろそろお暇させてもらいましょうか」
瞬間移動で魔王の攻撃を上手く躱し続けていたクロウリーは、裏で準備していた空間転移が整うと、さっさと魔法を発動させた。
「…ん?なんだこれは。魔法が」
「おやおや。一体どこに行こうというんです?戦いはこれからだというのに。せっかく私たちも合流したんですから、最期の瞬間まで楽しんでいってくださいよ」
聞き慣れた声にみんなが入り口を振り返ると、そこにはクロロとジークフリート、ジャックが戦う準備万端で立っていた。
クロロはすでに何やら魔法を発動させており、私をイジメる時のような満面の笑みを浮かべていた。
「遅いぞクロロ。危うくクロウリーに逃げられるところだ」
「申し訳ありません魔王様。ジークの知人の呪いが相当に質が悪く、最期を看取るのに苦労しました。おじいさんには先ほど念話で伝えましたので、空間転移を封じる魔法は問題なく発動しているかと」
「あぁ、そのようだな」
魔王は遅れて駆け付けた配下たちのところまで一度下がると、まずはジャックに全員の怪我の手当てをするよう命じた。
ジャックは体力を回復する花を咲かせると、まずは花を摘み取って蜜を飲むようみんなに勧める。そして調合済の薬や薬草を取り出すと、怪我をしている箇所に塗ったり、重傷者には薬草を食べるよう指示した。
いつもセイラの能力で一瞬で怪我が治るのとは違い、重傷のカイトは怪我の治療に苦労していた。どうやら食べさせられた薬草はかなり苦いようだ。良薬は口に苦しというので仕方がない。
「……大丈夫かジークフリート。戦えそうか?」
魔王は静かな怒りを湛えているジークフリートに声をかけた。
先ほどのクロロの言動から、知り合いだった赤髪の騎士はどうやら死んでしまったようだった。普段はあまり感情を乱したりしない冷静なジークフリートが、再会しただけであれだけ動揺していたのだ。よほど近しい人物だったのだろう。
私は兜の奥に隠された悲しみや怒りを感じ取り、心配な表情で彼を見つめる。
「もちろんです。そのために俺はここまで来たのですから。死してなお人の魂を弄ぶあいつだけは絶対に許しません!絶対にここで奴を仕留めましょう!」
「フン。その意気だ。頼りにしているぞジークフリート。クロロ、お前はじいと一緒に空間転移の封じ込めに集中しろ。逃亡だけは絶対に阻止する」
「お任せを。おじいさんが組み立てた術式の補助があれば、十分私の魔力で事足ります。どうやらガイゼルはもう倒したようですしね」
クロロは凪の手で拘束されたガイゼルを一瞥すると、一気にその存在の興味を失ったようだった。目の前で苛立たし気な表情をしているクロウリーにすぐに意識を集中する。
「空間転移を封じてくるとは!やはり決戦前にあの老人は退場してもらうべきでしたねぇ!………まぁいいでしょう。ワタシにはまだコレがある!」
クロウリーは自分を中心に赤い術式を展開すると、魔法を発動させてどこからともなく現れた赤い光を体内に吸収した。人間である星の戦士側は何が起こっているのか分からなかったが、魔王軍側はすぐにそれが魔力を回復する魔法なのだと分かった。
「魔力が回復していく!?一体どういう原理の魔法ですか!?」
「…落ち着けクロロ。奴が開発した魔力供給機械の仕業だ。奴の城にある機械に捕らえられた魔族たちから魔力を吸い上げ、自分の魔力を回復させる仕掛けらしい。外でサラマンダーがかなり魔力を削ってくれていたが、あれも回復されてあまり効果がなかったようだ」
「なな、なんですかそれ!もはや反則じゃないですか!三つ目族はただでさえ魔法が得意なのに、魔力を気にせず魔法を使いたい放題なんて」
みんなの治療を粗方終えたジャックは、クロウリーに対して抗議の声を上げる。
「グフフ。反則ではなくワタシの実力と言ってほしいですねぇ。さぁ、来なさいお前たち!逃げられないならば数で押し切るのみです!」
クロウリーは大規模な召喚魔法を発動させると、玉座の間を埋め尽くすほどの機械魔族を呼び出した。クロウリーと私たちの間に何人もの機械魔族の壁ができ、標的が一気に遠ざかった。
「最後の最後に数での暴力なんて!これこそ反則だよ!アイツのことだからきっと数が減ってきたら再召喚とかするんでしょ、どうせ」
「性格の悪い奴のことだ。当然そうだろうな。ケロス!えりの守りは任せたぞ。ジークフリート!ジャック!雑魚の相手は任せる。クロロは空間転移の封印を維持しつつ、無理ない範囲で雑魚の相手をしろ」
「「「「了解!」」」」
四人は同時に返事をすると、すぐに行動に移った。
「よし。拙者たちも戦うでござる。メルフィナ殿は引き続き魅了で皆の援護を。神谷殿は体調が戻り次第戦ってくれればよいでござる。カイト殿は魔王殿と共にクロウリーに集中してくれ。雑魚の相手は拙者たちに任せるでござるよ」
「はい!頼みます!」
こうしてお互いに全力をぶつけた、本当に最後の総力戦が始まった。
みんなで互いの死角を補い合い、次々と群がってくる機械魔族を着実に仕留めていく。玉座の間はそれなりの広さはあるが、時間が経つにつれて動かなくなった機械魔族で辺りは埋め尽くされていった。
こちらの予想通りある程度機械魔族が減ってくると、クロウリーは魔力を消費して追加の機械魔族を召喚してくるので、壊れた機械魔族で身動きが取れなくなるのも時間の問題だった。
「もう!いい加減舞うスペースがなくなってきたんだけど!誰かどっかに捨てて来てくれない?この鉄くず!」
メルフィナは無意味と知りながら、苛ついた様子で倒れた機械魔族を蹴り上げた。ほとんどずっと休みなく舞い続けているため、疲労とイライラが溜まってきているようだ。
「ホント狭いよなぁ。オレの突進で壁でもぶち壊して、外に投げ捨てちまうか」
「そんなことをしている暇があったら全員でクロウリーに当たった方がマシですよ。ケロス、背後から狙われています。ヘマしないように」
分かってるよ、と返事をしたケロスは、空中で方向転換をすると、三本の尻尾に魔力を込めて自分を狙っていた機械魔族に思い切り叩きつけた。
「ここ、このままじゃキリがないね。魔王様とカイト君が早く倒してくれるといいんだけど」
「俺たちは魔王様とカイトを信じて機械魔族をひたすら倒すしかあるまい。せめて二人の戦いに邪魔が入らないよう、俺たちがきちんと引きつけておかねば」
ジークフリートは重い大剣を見事に操ると、機械魔族を次々と床に沈めていった。剣筋には怒りと強い決意が宿っており、みんなジークフリートの敵ではなかった。
「……魔王とカイト、少しずつ息が合ってきてるみたいだし、きっと大丈夫だよね」
私はケロスに守られながら、クロウリーと対峙する魔王とカイトを遠目から見守った。
常にクロウリーを挟み撃ちにしながら、魔王とカイトは攻撃の手を休めず攻め続けていた。二人は今もボンドリンクで繋がっており、カイトがダメージを直接受けることはない。魔王もカイトの代わりにダメージを負うことはあるが、その際は魔力を回復するようになっている。
魔王とカイトは何度か戦場で一騎討ちをしたことがあるので、お互いの攻め方も少しは把握している。そのため、初めての連携にも関わらず思いのほか二人の息は合っていた。
「おい小僧!攻めるのがワンテンポ遅いぞ!俺の足を引っ張るんじゃない」
「うるさい!お前こそさっき俺が魔法を無力化してやったのに攻めが甘すぎるんだよ!せっかくのチャンスなんだからもっと攻め立てて相手を追い詰めろよ!」
「なんだと!小僧のくせに生意気な!」
「そういうお前はいちいち偉そうなんだよ!王様や凪様のように慎みを覚えろ!」
(……息は合ってるんだけど、あの口喧嘩はどうにかならないもんか。戦闘中によく二人ともあれだけ喋れるね)
私は内心呆れながら同盟軍のトップ2を見つめる。
「クソ!あの小娘が与えたリンクとかいう魔法が厄介ですね!かと言ってあの星の戦士を全く無視する訳にもいきませんし。……魔力の消費が激しいのと相性が悪いので使いたくありませんでしたが、アレを使って隙を作るしかありませんね」
クロウリーは暗黒剣によって発動した鎖を魔法で解除しながら、背中を向けていたカイトに突如標的を変えて間合いを詰めていく。
カイトは敵の突然の行動に警戒心を強め、どんな些細な動きも見逃さないようクロウリーをつぶさに観察した。
「ッ!?まさか奴の狙いは!小僧!クロウリーの目を見るな!」
「え?」
魔王は咄嗟に何かに勘付いて忠告したが、カイトは反応が遅れて目の前まで近づいて来たクロウリーを正面から見つめてしまう。私の角度からはクロウリーの顔を見ることができなかったが、カイトは何かを見て一瞬目を見開いた。そして次の瞬間、カイトの体は足元からどんどん石化していった。
「な、なんだこれは!?」
「グフフフ。気に入っていただけましたか。三つ目族が持つ第三の目は。さぁ!あなたに致命傷を与えた場合は魔王がそのまま瀕死になるのか試してみましょう」
「させるか!くっ!?」
魔王は間合いを詰めて暗黒剣で斬りかかろうとしたが、クロウリーが第三の目を開いたまま振り返ったので顔を背けることしかできなかった。
クロウリーは魔法で風の刃を生み出すと、星の戦士の力で浄化される前にカイトを殺しにかかった。
「くそ!浄化よ間に合え!」
「もう遅い!」
クロウリーはカイトの心臓目がけて風の刃を突き刺したが、ガギンッという結界の音に弾かれて失敗に終わった。
「こ、この魔力は、参謀クロロ!ぐぅぅぅ~~!ワタシの絶好の機会を邪魔するとはぁ!」
「残念ながらこちらは全員で戦っているのでね。そう簡単に魔王様や同盟相手を殺らせる訳にはいきませんよ」
「よくやったクロロ。さすがは我が魔王軍の参謀だ」
魔王が頼れる右腕に声をかけると、クロロは片手を上げてそれに答えた。
「本当に助かったよ。危うく串刺しにされるところだった。…魔王が」
「全くだ!小僧のせいで致命傷を喰らうなど笑えんぞ!」
「気を付けてください輪光の騎士。クロウリーの持つ第三の目は強力な石化能力を持っています。目が少しでも視界に入ると足元から石化していきますよ」
「くそ。ここにきて厄介な能力を解禁してきたな。顔を見ないようにして戦わないといけないのか」
カイトは視界を上げ過ぎないようクロウリーの胸元辺りに視線を固定すると、より一層警戒心を強めた。
魔王もいつ振り返られてもいいように腰辺りに視線を向けている。
「石化能力って、とんでもないものを隠し持ってるなぁ。伝承やゲームでよくあるメデューサやバジリスクみたいだね。三つ目族ってみんな石化能力持ってるの?その割には今まで全然使ってるところを見なかったけど」
「一応はみんな石化の素質を持っているのでしょうけど、大半は金縛り程度のことしかできないみたいですよ。本来の石化能力を使えるのはクロウリーくらいでしょう。かなり魔力の燃費が悪いそうですから。実際今クロウリーの魔力はガクッと減りましたからね」
クロロは赤い術式を展開して魔力を回復しているクロウリーを見て言った。
「おのれ!こうなったら何度でも石化させてやる!幸い魔力の制限はない!魔王を殺すまで何度でもこの目の餌食にしてやりましょう!」
「チッ!冷静さを失ってなりふり構わなくなってきたな。小僧!もう油断するなよ!次も助けがあるとは思うな」
「分かってる!そういうお前こそ気を付けろよ!奴の纏う空気が変わった」
クロウリーは常時魔力を回復する術式を展開すると、第三の目を開いたまま強力な魔法を連発し始めた。魔力は減ったそばから回復し、もはやチート状態だった。
魔王とカイトは激化する戦闘の中、何とかお互いをカバーしながら反撃の機会を窺うしかなかった。
みんながいい加減機械魔族の相手にうんざりしてきた頃、私はどうにかしてクロウリーと戦っている二人を援護しようと妄想に耽っていた。
クロウリーの魔法は最初と比べて強力な魔法ばかりになり、遠くで戦っている私たちまで攻撃範囲に入ってくるようになっていた。私とメルフィナはクロロが張った結界の中に避難しており、他の男性陣が今も頑張って機械魔族を倒している。
(う~ん。さっきのボンドリンクのように戦っている二人の助けになる何か良い妄想は~…。二人を強化するんじゃなくて、あえてクロウリーを弱体化させるものでもいいかもな。今のあいつチートすぎるし。何にせよ。残す妄想はあと一回のみ!慎重に、効果の高い妄想を選ばないと!)
私は深呼吸してから目を閉じて耳を塞ぐと、今までの人生の記憶を振り返りながら妄想の欠片を探した。大好きなゲームや漫画、アニメや動画など、色々な設定やシチュエーションを思い出す。その一つ一つが、私の能力の強みであり、無限の可能性を秘めていた。
私は過ぎ去るイメージの中で、思考に引っかかったある記憶を手に取る。そしてそれを足掛かりに妄想を組み立てていくと、蒼白の光を纏ってクロウリーへと妄想をぶつけた。
『思考操作反転!!!』
私が両手をクロウリーにかざして叫ぶと、彼の体は蒼白の光に包まれた。
魔王とカイトは能力発動の効果を確認するため、挟み撃ちにしたまま一旦距離を取る。
「おいえり!今度は一体どんな効果を発動させた?中途半端なものではこの状況は変わらないぞ!」
「分かってる!でもちゃんと成功していれば、かなり隙ができやすくなると思うんだけど」
私は淡い蒼白の光を帯びたままのクロウリーを窺う。
当のクロウリーはというと、その身に何が起こったのか分からず、しばらく警戒するように己の体の変化を観察していた。
「……また小娘が何かしたようですが、特に体に異常は見られませんねぇ。どうやらそちらの切り札は失敗したということでしょうか。グフフフ。では、そろそろ石化と魔法の…!?…………。こ、れは………!?」
魔法を詠唱しようとしたクロウリーは、そこで初めて自分の身に起こった異変に気が付いた。とてもぎこちなく体を動かし私の方に視線を向けると、怒りで顔に血管を浮かび上がらせながら口を開いた。
「思考操作反転とは、そういうことですか…!なんと忌々しい星の力を!」
「ふふ。その様子じゃあ、どうやらちゃんと成功したようね。これで一気に形勢逆転よ!」
私は能力の反動でふらふらのあまりクロロに掴まりながら、クロウリーに勝ち誇った笑みを向けた。クロロは私を腕で支えつつ、能力の詳細について訊ねた。
「あのクロウリーがあそこまで取り乱すなんて、一体どんな妄想を実現させたんですか?」
「へへへ。色々考えたんだけど、魔力が無限に回復されちゃうなら、敵の魔法攻撃を妨害しつつこちらの攻撃のチャンスを増やせる妄想がいいと思ったの。そこで、今回は味方を強化するんじゃなくてクロウリーを弱体化させる妄想にしました!具体的には、クロウリーが何か行動を起こす際に上下左右を反転させる妄想。簡単に言うと、右手を動かそうとすると左手が動く、という感じにね」
私はふらふらになりながらも身振り手振りを交えて説明する。
「前におじいちゃんから強力な魔法を使う場合は複雑な術式を展開しなければならないって教えてもらったんだけど、その術式を展開する際も上下左右が反転するからかなり使いにくいはずだよ。普段と全部体が逆に動くからね」
ゲームで混乱状態になると時々攻撃ができずに自動的に行動がキャンセルされたりすることがあるが、今のクロウリーはちょうどそんな状態だろう。上手く自分の体を操作できた時だけ攻撃が成功するという具合だ。
「なるほど。それはかなり強力な妄想ですね。私のように飲み込みの早い頭の良い者なら数分で慣れてそこまで支障はないでしょうが、いくらクロウリーでもこの極限の戦闘状態で、尚且つ相手が魔王様と輪光の騎士ならば確実に隙が生じるでしょうね。あの二人が慣れるまで待つはずがないでしょうから」
クロロは魔王とカイトに挟み撃ちされているクロウリーを見やると、獲物を狩るような不敵な笑みを浮かべた。
「えりにしては上出来な能力だ。その状態では貴様の切り札の石化能力も満足に使えんだろう。どうやら地獄に落ちる時が来たようだなクロウリー」
「ぐぬぅ!またしても、またしてもあの小娘がワタシの計画を~!こんなことなら早々に暗殺人形を使ってあの小娘を殺すべきだったか!」
「なんだとぉ!たとえメリィを操ってねーちゃんを殺そうとしたとしても、オレが絶対に殺させやしねぇよ!」
ケロスは大分数が減ってきた機械魔族を蹴散らしながら、怒りで魔力を膨れ上がらせているクロウリーに向かって叫んだ。
「今日この場で貴様を倒し、メリィの呪縛も解き放つ!クロウリーよ。そんなに世界を統べる王になりたいのなら、あの世で地獄を統べる王にでもなるんだな!」
魔王は残りの全魔力を暗黒剣に注ぎ込むと、一気に勝負を決すべく武器を構えた。それと同時に、向かい合わせで立っているカイトにも目で合図を送る。
カイトは大きく頷くと、魔王と同じく手にしている剣に魔を払う光の力を限界まで注ぎ込んだ。
「ぬぅぅ~~~!!そんな、ワタシがハーフや人間如きに遅れを取るなんて…!人間など、魔族と比べたら弱い下等生物にすぎないのに!所詮星の力の恩恵がなければゴミ同然の存在だ!それが、生粋の魔族の、歴代三つ目族の長で一番有能と言われたワタシの命を脅かすなど!絶対にあり得ないことなのに!」
「自分も人間であるガイゼル王と手を組んでいたくせにずいぶんな言いようだな。お前の敗因は、俺たち人間の力を見誤ったことだ。種族が違うというだけで、それだけで優劣の判断をするなんて馬鹿げてる。人間だから弱いとか、魔族だから強いとか、ハーフだから魔王に相応しくないとか、そんなのは全部お前が勝手に決めつけていることだ。………俺も、少し前までは魔族だからってだけで全部悪だと決めつけていた。人間の命を奪うことを何とも思っていない冷酷な種族だと」
カイトは剣を油断なく構えたまま、必死に逆操作で術式を組み立てようとしているクロウリーに語りかけた。
「だが、実際同盟を組んで一緒に戦場で戦ってみると、その考えが誤りだとすぐに分かった。彼らは見た目や持っている力こそ俺たちと大きな違いがあるが、善悪を抱く感情や他者に対する思いやりは変わらないと。…いや、下手したら人間に対する気遣いや配慮は人一倍深いかもしれない。人間は弱くて脆い生き物だと認識しているからこそ、彼らは今回の決戦でも多くの人間の盾になって戦ってくれた。お前のように弱いから排除するんじゃなくて、彼らは守り、一緒に戦い、俺たちの意志を尊重してくれた。だから……、俺たちも同盟軍の一員として、全力で力を貸し、お前を倒す!」
「劣等種如きが偉そうな口を~~!!クソ!こんなところで、終わるわけには!魔力はまだまだあるというのに!結界さえ満足に張れないとはぁ!!」
クロウリーはぎこちなく左右に動いて時間を稼ごうとするが、少しずつ魔王とカイトはお互いに間合いを詰めていく。長く続いた戦争の決着の時だった。
「どうせ貴様はあのガイゼルも利用するだけ利用して、後で始末する予定だったんだろう。その時点で、お前はこれからの魔界を支える王の器ではなかったのだ。ただただ自分を中心に置き、世界を見るお前には、種族を越えて結ばれる力の強さは一生分からないだろう。せめて、その力の強さ、最期にその身を以って知るがいい。いくぞ!カイト!」
魔王が間合いを詰めると、カイトも呼びかけに応えてクロウリーの背中から間合いを詰める。
クロウリーは苦し紛れになんとか結界を発動させたが、後ろから斬りつけたカイトの能力で結界魔法は無効化されてしまう。結界が解けたと同時に、まるで見計らったかのように魔王がクロウリーの体を暗黒剣で刺し貫いた。暗黒剣は魔力を解放すると、内側から鎖で更にクロウリーを攻撃した。体の内側から何本もの鎖が出現して貫き、そのまま血に染まっていく彼を拘束していく。
カイトは念のためいつでも能力でクロウリーの魔法を無効化できるよう構えを維持していた。
「…ぅぐ……!こんな、はずでは……!ガハッ……。最初は、魔王軍と、人間で…、潰し合う予定、だったのにぃ……。何故、いつから狂った………」
「フン。確かに。互いに潰し合っていたなら今日のような結果にはならなかっただろう。俺一人の力でも、小僧の能力だけでもお前は倒せなかった。逃げおおせることができただろう。こうして手を取り合えたのは、お前の計画をぶち壊せたのは、異世界から来たえりのおかげだ。もう一つ付け加えておいてやろう。貴様の敗因は、最後の星の戦士が我が魔王軍に迎え入れられるのを阻止できなかったことだ。全てはそこから始まった」
魔王はクロロに寄りかかる私を振り返ると、意地悪そうにニヤッと笑った。
私の隣にいるクロロも腹黒い笑顔を浮かべている。
「あの日、魔王様が直々に彼女を迎えに行こうとしたあの時、あそこで魔王様を止めることができていれば結果は違っていたかもしれませんね。彼女が先に星の戦士と合流していたら、私たち魔族と初めて出会っていたのは戦場でしたから。同盟路線は断念していたはずです」
「えり殿が人間と魔族を繋ぐ架け橋になってくれたから、俺たちは平和的に話し合えたのだからな」
「ま、そーゆーわけだから、ねーちゃんが魔王城に来た時点で、お前の負け確だったわけだな!」
残りの機械魔族を片付けたジークフリートとケロスは、鎖に巻かれ身動きの取れないクロウリーを見下ろす。
クロウリーは血をゴホゴホと吐き出しながら、呪いの言葉のように魔王と私に憎しみの言葉を呟く。
「ようやく、厄介な先代が死に…、力も、統率力も劣るハーフが魔王になったというのに。……混ざりものの貴様さえ殺せば、ワタシが、魔界を支配する算段は整っていたというのに…!……小娘ぇ!お前さえこの世界に召喚されなければぁ…!!…おま、え、…さえ………」
クロウリーは最後まで恨み言を呟いて息を引き取っていった。開かれた瞳からは光が消え、第三の目ももう力を失っていた。
私たちはしばし動かなくなったクロウリーを無言で見つめていたが、魔王が手元の暗黒剣を魔法で収納したのをきっかけに緊張の糸を解いた。
「ふぅ~~~。これで、ようやく全て終わったんだな。今回の戦争を仕掛けた元凶を倒し、人間と魔族の戦いが」
カイトは肩の力を抜くと、ゆっくりと剣を鞘へと納めた。
「おめでとうございます魔王様。ついに先代様とリアナ姫の仇を討ちましたね。第三の目を使ってきた時はどうなることかと思いましたが」
「ほほ、本当に勝てて良かったです!魔王様とカイト君の連携、お見事でした!初めてとは思えないほど息がピッタリで!」
ジャックは体力を回復する植物をいっぱい生やしながら興奮気味に言った。
みんなはジャックに勧められ、花の蜜を吸って各々疲れた体力を回復する。
魔王とカイトは息がピッタリと言われたのが不本意だったのか、二人とも複雑な表情で蜜を吸っている。
「……小僧の浄化能力があるとはいえ、あの石化は厄介だからな。一時的に足が身動きできなくなるだけでも、クロウリーにとっては絶好のチャンスになる。えりの妄想の能力が予想以上の効果が出て助かった」
「えへへ。渾身の妄想だったでしょ!…まぁ、おかげで体力ぎりぎりで倒れそうだけどね。上手くいって良かった」
私はクロロとケロスに支えられながら苦笑した。
無理をするなと言っただろ、と魔王は呆れていたが、その声音は柔らかく、優しく私の頭をポンポンと叩いた。
両親の仇を討てたことで魔王の表情はサッパリとしていて、魔王として最低限の務めを果たせて安堵しているようだった。
「ありがとうございます、魔王様。これでアレンも、クロウリーに命を奪われた俺の故郷の者たちも浮かばれます」
「すまないな。お前もクロウリーに一撃くれてやりたかっただろう。雑魚の相手をさせて悪かったな。だが、お前たちが機械魔族を引き受けてくれたおかげでクロウリー一人に専念できた。感謝するぞジークフリート」
「勿体ないお言葉です。主君のために剣を捧げるのは騎士として当然ですから。最後の決戦でお力になれて良かった」
魔王はジークフリートの肩に手を置くと、信頼の眼差しを向けて彼の働きに感謝した。ジークフリートは魔王の言葉に騎士の礼で応える。二人の間に、私は揺るぎない固い絆を感じた。
「はぁ~~~!それにしても本当にギリギリだったわ。さすがのアタシももうこれ以上はくたくたで踊れないわ」
「メルフィナ殿のサポートも見事でござった。限界以上の力を引き出せたおかげで、硬い機械魔族相手でも苦戦せずに済んだでござるよ」
「ホントホント!普段の倍以上早く倒せたぜ!魅了の力ってスゲェんだな!」
「ははは。すごい代わりにその反動ですごい筋肉痛が後からくるぞ多分。今から覚悟しておいたほうがいい」
カイトは目を細めながら乾いた笑みで忠告する。凪も何度か経験しているその痛みを思い出したのか、苦笑いを浮かべている。
クロロは玉座の間を埋め尽くす機械魔族の残骸を見つつ、残された最後の大仕事をするべく疲れている皆を促した。
「さぁ、外に出て勝鬨を上げましょうか。王都制圧チームも粗方片付いてる頃でしょう。敵の残存勢力も負けたと分かれば、魔族については逃げるか投降するでしょう。ガイゼルに洗脳されている人間たちは抵抗を続けるでしょうが、もう私たちの敵ではないです。粛々と鎮圧しましょう」
元アレキミルドレア国出身とあって、クロロはこの国の人間の行動パターンを熟知しているようだ。
皆それぞれ戦い疲れているが、クロロの号令に従って入り口へと歩き始める。
「それで、この荷物はどうしましょうか。ひとまず私御手製の爆弾でも仕込んでからここに放置しておきますか?連れて歩くのも面倒ですし」
クロロは白衣のポケットから手錠型の小さい爆弾を取り出すと、凪が縄で拘束したガイゼルを指さした。
「いや、さすがにこのままここに残していくのはまずいでござろう。気絶していて重いだろうが、運んでいくしかあるまい」
凪の発言後、みんなは自然と巨大化しているケロスに視線を移した。この中では一番人を乗せて移動しやすい適任者だ。
ケロスは見るからに嫌そうな顔をすると、すぐに言い訳をし始めた。
「そんなデブのおっさんを乗せるなんて絶対にイヤだね!そもそもオレはこれから疲れてヘロヘロなねーちゃんを乗せなきゃいけないし、ついでに踊りつかれた踊り子も乗せてやる予定だし。もう二名で定員オーバーだな」
「あ、私のこと乗っけてくれるつもりだったの?ケロスも疲れてるでしょうに。ありがとうね。すっごい助かる」
「アタシもいいの?疲れてるから、正直すごい助かるけど…」
戸惑うメルフィナも含め、早く乗れ乗れとケロスは急かしてくる。
「取って付けたような言い訳を…。はぁ…。仕方ない。浮遊魔法で運ぶか」
「大丈夫ですか魔王様?魔力ももう残り少ないでしょう。城の外に置いて来たウィンスを中まで呼びましょうか。ウィンスに乗せて運べば楽ですから」
ジークフリートは籠手を外すと、指笛で愛馬のペガサスを呼んだ。
「そそ、それじゃあ、ウィンスが来たら外に出ましょうか。きっと外で戦っているみんなも喜ぶでしょうね!」
「戦争の終結…。今日という日は、人間と魔族、双方の歴史に残る一日だな。ユグリナ王国で待つ王様に良い報告ができそうで本当に良かった」
星の戦士のリーダーは、己の責務を果たせたと胸を張っている。私たちもそんな彼に笑顔で頷いた。
「今日を境に、魔界も人間界も変わるだろう。戦争が終わり、今度は魔族と人間の共存が始まる…。種族を越えて繋がること、それがきっと、星が俺たちに求めた未来なのだろう」
魔王は星に導かれてこの世界ラズベイルにやって来た私を見ると、星の考えを見透かすように言った。
城の外へと出た私たちは、魔王の念話を使って戦場全体に勝報を伝えた。するとすぐにあちこちで勝鬨が上がり、王都シャドニクス一帯が地を揺るがすほどに震えた。戦争が終わった喜びの声は一分以上も続き、その声の多くは長い戦争で苦しめられた人間たちのものだった。
夕陽に染まる王都シャドニクスでは、その後人間と魔族が協力して残存勢力の処理に当たった。この日の作戦を通して、人間と魔族の絆はより強く、確かなものへと変わっていく。それは、これからの共存への道を明るく照らす礎となるのだった―――。




