表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/60

第三幕・平和の調停者編 第五話 種族を超えた絆【中編】

 決戦当日の朝。私たち同盟軍は決戦の地、アレキミルドレア国の王都がある平原へと集結した。平原には敵味方共に、人間と魔族双方の兵が大軍で布陣し、まるで映画の撮影のように圧巻な光景だった。今は距離を開けて互いに睨み合った状態で、まだ戦いが始まる様子はない。

 今回同盟軍は人間と魔族がお互いにフォローし合えるように一部交互に軍を配置しているが、犬猿の仲である獣人族と魚人族はあえて隣同士にし、張り合って戦うように仕向けてある。

 対して敵軍はガイゼルの兵とクロウリーの兵が綺麗に分かれて布陣しており、それぞれ独立して攻め込むスタンスのようだ。

 上空にはフォード率いる無数の飛空艇が隊形を組んで飛んでおり、竜化した竜人族もぐるぐる旋回しながら開戦の時を待っている。飛空艇は以前見たものより外装が変わっているものばかりで、この日のためにフォードが改造を施したもののようだ。先日会議に来た時に、散々サラマンダーに火力やスピード、耐久性が向上したのだと凄さをアピールしていたのを思い出す。

 平原に布陣している王都制圧チームからやや後方の遥か上空には、おじいちゃんが控える魔王城が浮いている。今朝おじいちゃんはたくさん援護魔法を撃つから任せておけと、いつものように笑って私たちを送り出してくれた。

 王都制圧チームがそれぞれの持ち場で開戦に備える中、私たち城内攻略チームは王都制圧チームの後方で最終確認を行っていた。

「…いよいよだね!私、一度にこんな大勢の人を見たの生まれて初めてかも。かつてない規模の戦いになるとは分かってはいたけど…、なんか、本当にこれからこの人数で戦争するんだね」

 私が言葉と声に不安を滲ませると、長年戦争を続けてきたみんながそれぞれ励ましの言葉をかけてくれる。

「そんなビビらなくたって大丈夫だってねーちゃん!ねーちゃんにはこのオレがついてるんだからよ!全員オレが蹴散らしてやるぜ!」

「もも、もし怪我しても僕がすぐに手当てしてあげるから。大丈夫だよ」

「あぁ。もしもの時は俺が盾となる。えり殿は心配せずいつも通り戦えばいい」

「あ、ありがとう三人とも!」

 三人の気遣いに心が温かくなり、少しだけ怖さが薄れる。これまで戦争と無縁の世界で生きてきた私にとって、殺し合いをする戦場に身を置くことは数回経験したくらいではとても慣れるものではなかった。

 三人に励まされて心の緊張がほぐれる中、不意によく知る感触が頬に伝わった。

「フン。あまりこいつを甘やかすな。気が緩み過ぎると油断を生むからな。適度に怖がらせて警戒心を持たせておけ」

「ちょ、ちょっとぉ!いちいち頬を引っ張らないでよぉ!」

 私は右頬を引っ張る魔王の腕にチョップを喰らわす。しかしかなり手加減してくれているようで、いつものようなジンジン痛むほどの引っ張り具合ではない。

「あなたの周りはアメ役が多いですからね。せめて私と魔王様がビシバシ鞭役をこなしませんと」

「いやいや!別に無理して鞭役しなくていいですから!そしてその変な液体の入った注射器をさっさとしまって!」

 満面の笑みで注射器を構えるクロロを見て、私はほっぺを解放した魔王のマントの後ろに思わず隠れてしまった。さすがに魔王を盾にされるとそれ以上ふざけられないようで、クロロは気を取り直して中断していた最終確認を再開した。

「では改めて確認しますが、私たち城内攻略チームの最終目標はガイゼルの捕縛とクロウリーの討伐です。開戦後、まず始めに王都制圧チームが平原を突破して王都の城壁城門を攻略します。王都シャドニクスの城壁は、私が知る限り人間界で一番堅固な造りをしています。城壁の上部には魔晶石を用いた大砲が等間隔で設置され、城壁の内部にも大砲が内蔵されています。平原に布陣している兵を突破しても、城壁に近づく前に砲撃の餌食になるでしょう」

「そ・こ・で、うちのフォードとサラマンダー軍で空から城壁を破壊する作戦ってわけね。空から奇襲して城壁と敵の砲台を破壊できれば一番ベストだけど、敵の狙いを上空に引きつけて地上部隊が城壁城門を攻略してもいいと…。アタシたち城内攻略チームの突入は、王都制圧チームの頑張りにかかってるわね。ちゃんとフォードが仕事してくれればいいけど。アイツのことだからちょっと不安なのよね」

 メルフィナは空に浮かぶ飛空艇を見上げる。

 魔王軍の者も、勘違いから魔王城を破壊された経験があるので、フォードへの信頼度は限りなく低い。最低限の仕事さえしてくれれば、後はサラマンダー軍がどうにかしてくれるだろうと思っていた。

「最悪サラが力でゴリ押ししてくれることを祈ります。地上部隊が城壁を突破して王都に雪崩れ込むタイミングで、私たち城内攻略チームも一緒に突入します。そして王都制圧チームが市街戦を繰り広げている間に、私たちは真っ直ぐ城を目指します。城の前にもある程度兵力を固めていると思いますが、ジークフリートや隠密殿様を中心にパパッと蹴散らしてしまいましょう」

「あぁ。クロウリーとガイゼル戦に備えて魔王様とカイトの力はなるべく温存する予定だからな。道中の露払いは俺たちに任せてくれ」

「カイトの浄化の力と魔王殿の戦闘力は同盟軍の強みだからな。なるべく消耗せずに決戦まで送り届けるでござるよ」

「え、えっと、予想だと、敵は玉座で待ち構えてるんだっけ。玉座までの道案内もクロロに任せていいんだよね?」

 ジャックの問いかけに、クロロは頷いて答えた。

「えぇ。恐らく私が人間だった頃と比べて内部の構造は変わっていないはず。もし変わっていても道に迷うほどではないでしょう。道案内は任せてください。最短ルートで玉座を目指しますよ」


 最後にいくつか注意すべき点を確認したところで、突如頭の内側から耳障りな笑い声が聞こえてきた。

『グフフフフ。御機嫌よう、同盟軍の皆さん』

「だ、誰!?念話?」

 取り乱してキョロキョロと周りを見回すと、私以外のみんなにもその念話は届いているようだった。一様に驚きピリッとした空気を漂わせている。

「そーいえばねーちゃんは初めてだったか。今聞こえた胸糞悪い声の主がオレたちの倒す相手、クロウリーだぜ」

「これが!え、でも、すごい人数の人に念話飛ばしてる?もしかして。おじいちゃん並にすごい魔法の使い手だね」

「フン。うちのじいの方が100億倍すごいわ」

 私の隣に立つ魔王は張り合うように言った。

 あそこを見ろ、とカイトの指さす先には、漆黒のローブに身を包んだ一人の男が空中に浮いていた。空間転移で現れたのか、敵軍の最前列で同盟軍を見下すように笑っている。

 私がいる場所からはかなりの距離があるためはっきり顔まで確認できないが、声から判断するに結構年はいってそうだった。

『わざわざワタシに殺されに一か所に集まってくれるとはご苦労なことです。…それにしても、サラマンダーやネプチューンは愚かな選択をしましたねぇ。自ら負け組に乗り換えるとは。人間の血の混じるハーフの魔王など、魔界を統べるに値しない。ワタシに殺される運命だというのに。グフフフ』

「クロウリーめ!魔王様に向かって無礼な事を!」

 ジークフリートは今にも大剣を抜いて斬りかかりそうなほど怒りを露わにした。

 魔王を慕う魔族の者たちは、クロウリーの念話を聞いて一気に殺気立ち、魔力を身に纏ってクロウリーを睨みつけていた。

 一緒に布陣している人間の兵たちは、そんな魔族の変化に内心ビビっている様子だった。

「何が愚かな選択じゃ!妾の大事なリアナを殺しておいてふざけたことを!先に言っておくが、リアナの息子である魔王様を殺そうと言うのなら、その前に妾が貴様を殺してやるぞ!クロウリー!」

『グフフ。あなた如きがワタシを倒せるとでも?ここが海ならまだしも、陸に上がった魚風情が無理して粋がらないことです』

「魚風情だと~!?もういい決めた!貴様は絶対に妾が息の根を止める!」

『うふふ。何だかいきなり盛り上がってるわねぇ。私も仲間に入れてもらおうかしら』

 前線で声を張り上げ喚いていたネプチューンに割り込む形で、空にいるサラマンダーが念話で話しかけてきた。

 前線でクロウリーに直に話していたネプチューンの会話は遠すぎて全然聞き取れなかったが、サラマンダーは主要幹部とクロウリーにだけ念話を繋いで話してくれているようだった。

『サラマンダー。強さに固執するあなたが魔王様に従うとは今でも信じられませんよ。先代魔王に対する義理というやつですか』

『他を力で圧倒する強さを重視しているあなたには一生理解できないでしょうね。強さは色んな側面を持っているのよ。竜人族は、純粋な他を蹂躙する強さだけを追い求めているわけではないわ』

『フッ。綺麗事を。魔族の本質は強さを誇示し他者を圧倒すること。昔から魔界は弱肉強食の世界。弱い種は淘汰され、強い者が生き残り、より強い者へと進化していく。そして強い者は絶対的な支配力で魔界を統べ、他者はそれに従う。これが本来あるべき魔界の姿なのです!今の腑抜けた魔界社会は異常なのですよ!それもこれも、全部あの人間の小娘が魔界の姫君になってからです!』

 クロウリーは己の考える魔界の理想を熱弁する。しかし、魔界の姫君だったリアナ姫が話題に上ると、またもリアナ姫を慕う魔族たちの怒りを買った。

「何が異常だ!リアナ姫の優しさに触れたおかげで、戦争で疲弊していた魔族たちがどれだけ救われたか!確かに俺たち魔族は強さを求め、強い者には敬意を表するが、だからといって常に戦いを求めているわけじゃねぇ!弱い者や弱い種族を排除するつもりもねぇ!大昔の魔族は戦争してなんぼだったかもしれねぇが、今はもうそんな時代じゃねぇんだよ!」

 今度はネプチューン軍の隣に陣取っている獣人族のレオンが吠えた。族長が毛を逆立ててクロウリーを威嚇したことで、配下の獣人族たちも低い唸り声を上げてクロウリーを睨んでいる。

 獣人族はリアナ姫と一緒に絵を描いて交流するなど、とても親交が深かった種族だ。それだけにクロウリーに対する敵対心はかなり強い。

 レオンの言い分を聞き、クロウリーは落胆した表情を見せると、蔑むような冷たい視線で獣人族全体を見渡す。

『所詮知能の低い獣風情にはワタシの考えなど分かるまい。お隣の魚と仲良く屠ってくれましょう』

「あんだとこの野郎!」

「獣人族と同じ括りにするでない!」

 レオンとネプチューンは同時に声を荒げると、一気に戦闘態勢に入った。二人揃って後ろに向かって手を上げると、配下に突撃開始の合図を送る。

『…足手まといの人間と手を組み、兵力だけでも数的有利を作ったようですが、果たして弱い人間どもを庇いながらこのワタシのところまで辿り着けるのか、お手並み拝見といきましょう』

 クロウリーも両手を上げると、全軍に突撃の合図を送った。

「貴様だけは絶対にこの手で仕留める。待っていろ、クロウリー!」

 魔王は黒いオーラを纏うと、遥か前方にいるクロウリーを見据えた。

 レオン軍とネプチューン軍の突撃を皮切りに、ついに最終決戦の火蓋は切って落とされた。地上部隊が戦闘を始めたのを確認し、サラマンダー軍とフォード軍も城壁攻略に乗り出す。

 こうして約七年に及んだ人間と魔族による戦争、最後の一日が始まった。




 開戦して早半日、戦況は同盟軍の予想に反して拮抗している状態だった。兵力差は十分あり、戦いが長引くほど同盟軍に有利に働くはずだったのだが、序盤の攻防が今なお戦況に響いている。

 開戦して早々、クロウリーは人間の軍を標的にして強力な魔法を連発した。魔力を持たない人間は結界を張る術などなく、瞬く間に魔法の餌食となっていった。

 ユグリナ騎士団の隣に布陣していたドラキュリオ軍は、魔法の集中砲火を喰らい軍の隊形が崩れる人間たちが敵兵に討たれぬよう援軍に奔走していた。敵兵はガイゼル軍の人間だけではなく、クロウリー軍の魔族がいるので、負傷した状態で襲われれば人間はひとたまりもない。

 クロウリー軍の布陣は火力の高い機械魔族が前線を務め、その後ろに洗脳された他種族と魔法が得意な三つ目族が中盤におり、一番後ろにサポート担当のスライム族が控えている。

 そしてガイゼル軍の人間たちは剣や矛だけではなく、一部の兵は魔晶石が内蔵された銃を装備していた。アレキミルドレア国以外の他国は、武器として銃の普及があまり進んでいない。飛空艇の一部に魔晶石を内蔵した大砲を搭載したりはしているが、元々魔晶石は貴重なもののため、量産して多くの兵に行きわたるほどの銃は確保できない。そのためアレキミルドレア国以外では普及しなかったのだ。

 ドラキュリオ軍が人間を庇って奮闘している間に、神の子は各方面に指示を出しつつ、回復と支援の出目を出して軍の立て直しを図った。

 もう一人の回復担当である癒しの聖女は、レオン軍の隣に布陣しているヤマトの兵の治療を中心に行っていた。ヤマトの兵もクロウリーの魔法攻撃を喰らい押されていたが、レオン軍の助けを受けて何とか総崩れにならずに済んでいた。

 レオン軍が人間の助けに入り兵が消耗しているので、仕方なくその更に隣のネプチューン軍が敵の側面を攻めて敵兵の勢いを削いだ。


 こうして序盤の攻防は敵軍有利に働き、半日過ぎても戦況は五分五分のままを維持していた。

「あまり思わしくない展開ですね。半日が過ぎても大して前線が押し上げられていないなんて。クロウリーの魔法によるゲリラ攻撃はある程度予想していましたが、ここまで被害が戦況に響くとは」

「ドラキュリオ殿とレオン殿の軍が、隣接する人間の軍が総崩れにならないようカバーしてくれているが、なかなか戦線が安定しないでござるな」

 クロロと凪は前方で戦う王都制圧チームを難しい表情で見つめる。その見つめる先には、蒼白の光が射す特殊なフィールドがあった。

「負傷した兵を神の子と聖女が手当たり次第回復してくれていますが、そうして立て直した戦線に今度はガイゼルの強制武装解除を発動させられています。怪我が治ってようやく攻め込めるかと思いきや、今度は強制的に武器や盾を手放すことになる。これではなかなか士気が上がりませんよ」

「こうなったらちょっと行って加勢してこようかしら。アタシの魅了で同士討ちさせて敵の士気を少しでも削いでやるわ」

「やめておけ。一度あの乱戦に入ったら容易に抜け出せぬぞ。後で合流するのも手間だ」

 提案したそばからすぐに魔王に却下され、メルフィナは不服そうに口を尖らせた。

「地上部隊が苦戦している今、フォードたちになんとか城壁を破壊してもらいたいが、あっちもなかなか時間がかかってるな」

 カイトは空を仰ぎ、城壁を取り囲む飛空艇とドラゴンの群れを観察する。飛空艇とドラゴンは、城壁から放たれる大砲に被弾しないよう、上手く旋回して距離を詰めたり離れたりしながら、大砲を撃ち返したりブレスで攻撃していた。

 先ほどサラマンダー軍の伝令から入った情報によると、城壁には三つ目族が等間隔で配置されており、竜人族のブレスを結界で防いでいるとのことだった。更に押され始めると、ガイゼルの能力を使って魔力をゼロにしてくる始末で、竜人族の強さをもってしても攻略に時間がかかっていた。

「敵はクロウリーが空中で戦況全体を把握し、上手く攻めと守りを切り替えていますね。ガイゼルの能力発動場所の指示を与えているのもクロウリーでしょう。…なんとか頑張ってほしいが」

 ジークフリートは兜の奥で歯がゆそうに唇を噛む。

 戦力温存のため、城内攻略チームは王都制圧チームの善戦を祈ってただ待つしかなかった。



 王都制圧チームの地上部隊最前線では、癇癪持ちのネプチューンが側近相手に怒りをぶつけていた。

「忌々しい星の戦士の能力め!全然魔力が回復しないではないか!これでは一向に雑魚を屠ることができん!コラ、タイガ!早くどうにかしてこの能力を解除するか、星の戦士を戦闘不能にしてくるのじゃ!」

「はぁ。全くいつもながら無茶なことを言いますね。いくら俺でも武器なし魔力なしで、あの機械魔族と武装した人間の群れを相手にして星の戦士のところまでは行きつけませんよ。おまけに俺はもう片腕の身なんでね」

「ぐぬぬぬ!隠密殿様との一騎討ちで負けるからじゃ馬鹿者!あ~もう!魔力さえあれば妾の水魔法で一飲みにしてくれるものを!そもそも隣のレオンは何をしておる!人間を庇うばかりで全然攻め込んでおらぬではないか!魚人族の負担が大きすぎるぞ!」

 ネプチューンは自分に降り注いでくる矢の雨をタイガに捌かせながら、隣の戦場を窺い見る。

 レオン軍の前線はつい先ほどまでガイゼルの能力が発動していたため、まだかなり混乱している状態だった。クロウリーの魔法で被害を受けたヤマトの兵の救援にも当たっていたため、隊形自体がぐちゃぐちゃになっている。本来なら軍師ポジションのケルベロスが中で逐一指示を飛ばして素早く陣形を整えるのだが、今回は城内攻略チームに組み込まれているため自力で軍を立て直すしかない。

「コラ~~~!馬鹿レオン!真面目に働かんかぁ~!いつも有り余っている体力はどうしたのじゃ!こんな序盤でへばっていては、城壁なんぞいつまで経っても辿り着けんぞ!」

「誰がへばってるだぁ~~!?こちとら魔力を奪われたまま、さっきまで機械魔族相手に奮戦してたんだっての!魔力がなきゃろくに戦えないお前と一緒にすんな!魔力がカラなんだから、下手に前出て討ち取られたりするんじゃねぇぞネプチューン!」

「フン!誰に向かって言っておる!妾が雑魚なんかに後れを取るはずなかろう!無駄口を叩いている暇があったら敵の星の戦士をどうにかせい!いつまで経っても妾の魔力が回復しないじゃろう!」

「……女王様。それはもう助けを求めているのと同じでは」

「全然同じではないわ!馬鹿タイガ!」

 強制武装解除の影響で矛が持てないため、ネプチューンは素手で側近をバシバシと叩く。

 遠目でその癇癪を見たレオンは、相変わらずだなぁとため息を吐くと配下たちを大声で鼓舞した。

「よしお前ら!突撃してもうひと暴れするぞ!このままチマチマ戦ってたんじゃいつまで経っても魔王様が出陣できねぇ!俺たち獣人族で活路を開くんだ!………全く、世話の焼けるババアだぜ。また配下たちにお人好しだってドヤされちまう」

 レオンは血に濡れる腕の毛皮をペロッと舐めると、再びガイゼルの気を引くために特攻をしかけた。

 今のところガイゼルは味方が一番劣勢に立たされている場所に優先して能力を使っている。直近では一番魚人族が奮戦していたため、今は魚人族の前線が強制武装解除の対象にされていた。

 隊列が乱れながらも気合で戦線を盛り返していく獣人族を横目に、ヤマトの兵を挟んで戦う吸血鬼一族も負けじと奮戦していた。

「いやぁ~、獣人族は泥臭く戦うネ~。みんな血塗れでもお構いなしじゃん。由緒正しき吸血鬼一族はもっと華麗に戦っていこうね!」

「華麗にって、うちもなかなか泥臭くなってますぞ王子。神の子が援護してくれていますが、経験の浅い若い者は前線についていけなくなっております。ガイゼルの能力で一度ゼロになった魔力も少しずつ回復してきていますが、浮遊魔法を駆使して戦うほど回復はしておりません」

 ドラキュリオの隣で戦う古参の吸血鬼は、周囲に気を配りながら先頭を切って戦う若き王子に言った。

「魔力使って浮遊魔法で加速してガンガン戦うのがボクたち吸血鬼一族の真骨頂だもんネー。魔力有りきで戦うのに慣れた子たちにはちょっとキツイか。悪魔族たちも魔力が回復するまですっかり使い物にならないし」

「すんませーん、キュリオ様。悪魔族は状態異常させて戦うのがセオリーなので、魔力がないとどうにもこうにもお役に立てません」

「ドンマイドンマイ。こればっかりは仕方ないヨ。魔力が回復するまでは吸血鬼一族と星の戦士で頑張るしかない。…あ~あ。じーちゃんの魔法の援護ももうちょっと強力だったらなぁ」

「仕方ありません。そもそも戦場からかなり距離が離れたところにおりますからな。発動範囲が広く、射程の長い魔法しか撃てません。それでもないよりかはマシですぞ」

「まぁ、そうなんだけどさぁ~。神の子~!援護ちょうだい援護!」

 ドラキュリオは少し後方で軍全体の指揮を取っているニコに呼びかけた。ニコは負傷兵を後方のジャック軍まで下げるよう指示を出すと、ダイスを振って能力を発動させた。

「獣人族の人たちが奮戦している間に、こっちもできる限り戦線を押し上げよう!向こうよりも目立たなければガイゼルの能力の餌食にはならないだろうし。そろそろ本気出していいよ、吸血王子!」

「うわ~。何その煽り方。別に最初から手ぇ抜いてませんけど!?たく~、神の子にそこまで言われたらやるしかないじゃん!……ていうかそっちはいつまでへばってんの!?そろそろ復活してよカウンター君!神の子の回復の出目でもう治ってんでしょ!」

 ドラキュリオは機械魔族に飛び蹴りを喰らわせながら隣の戦場に向かって吠える。

 ドラキュリオに一喝されたヤマトの軍総大将代理の佐久間は、刀を構えながら荒い息を繰り返していた。

 ヤマトの兵は先ほどまでクロウリーの魔法の標的にされていたため、全体的に負傷者が多く士気が落ち込んでいる。ニコと後方で回復補佐をしているジャック軍の働きで、戦線復帰し始める兵が増えてきたが、まだ押し込まれた戦線を押し戻せるほどではない。

「な、治ってはいるけど、もう何時間も休みなく戦い続けてさすがにキツイって。いつもは凪さんがいるからもう少し小休止する余裕があるけど、今回は俺が前線で引っ張んなきゃだから休む暇もねぇよ。ニコ~!こっちにも援護くれ~!」

「はいはい!……クロウリーが『上』に標的を変えた今の内に、少しでも兵力を減らして城壁に近づければいいんだけど。さすがに日が傾く前に王都に突入したいね」

 ニコは休みなくダイスを振り続けながら、高い城壁に囲まれた王都を見据えるのだった。



 時を遡ること数十分前――。サラマンダー軍とフォード軍は互いに連携して、苦戦しながらも着実に城壁破壊に近づいていた。城壁上部に設置されている大砲は、飛空艇の砲撃でようやく八割方破壊が完了し、大砲を撃とうと城壁に上っていた兵たちも、竜化した竜人族のブレスで悉く追い払われた。

 元々城壁で結界や迎撃魔法を担当していた三つ目族も、城壁に飛び移って攻め込んだ竜人族によって排除されていた。三つ目族は魔法に特化している種族だが、ゴリゴリの近接戦闘には弱い。巧みな槍術を得意とする竜人族相手では分が悪かった。

 そして苦戦している地上部隊を援護するため、今は数名の竜人族が城壁のどこかに潜んでいるであろうクロウリーの捜索に当たっていた。

「良い調子ね。城壁内部の砲撃を躱しながらだから少し時間がかかっちゃったけど、もうすぐ落とせそうだわ。これ以上モタモタしてたらさすがに魔王様が痺れを切らして怒り出しそうだもの」

 竜化した配下の竜人族の背に乗りながら、サラマンダーは所々から黒い煙を上げている城壁を見下ろす。

『お~い、サラ!城壁上部の大砲は大体沈黙させたぞ!そろそろ地上部隊正面の一か所に絞って集中砲火作戦といこうぜ!』

 フォードは飛空艇内部からスピーカーでサラマンダーに呼びかける。

 空賊団と竜人族の共闘は今回が初めてだったが、二年以上も戦い続けてきた相手同士だからか意外に息がピッタリ合っていた。軍を指揮するフォードとサラマンダーが逐一意思の疎通を取り、効率良く協力して攻め込んでいる。

『そうね。私たち竜人族が敵の砲撃を引き出して攪乱をするから、坊やたちは城壁破壊を頼めるかしら』

『おう!任せとけ!女の期待に応えてみせるのが男ってもんよ!』

『フフ。ガッカリさせないでね、坊や。…ッ!?』

 サラマンダーは念話途中である気配を察知し、瞬時に矛を構えて気配の主を振り返った。

「グフフフ。地上の者たちでは歯ごたえがなかったので、今度はあなたたちに相手をしてもらいましょうかねぇ」

「それはそれは光栄ね、クロウリー。……でも、あなたで私の相手が務まるかしら!」

 サラマンダーは魔力を解き放つと、深紅の瞳をギラギラさせて殺気をクロウリーへとぶつける。

 クロウリーは下品な笑みを浮かべたまま、涼しい顔でその殺気を受け流した。

「時代の流れを読めない哀れな竜人族の長よ。次期魔王である私の魔法であの世へと送ってあげましょう。地獄でハーフの味方についたことを後悔なさい!」

 クロウリーは空中に浮かべていた分厚い魔法書を開くと、サラマンダーを凌ぐほどの魔力を解き放ち魔法の詠唱を始めた。

『おい、サラ!そいつって敵の大将じゃ』

『こいつの相手は私がするわ!坊やは予定通り城壁破壊に専念して!これ以上王都に攻め込むのが遅れれば、明日に仕切り直さなくてはならなくなるわ』

『……分かった。負けんなよサラ!お前に勝つのは俺だけだからな!』

 フォードは通信を使って各飛空艇に城壁破壊作戦を伝えると、舵を切って狙いをつけた正面の城壁へと移動した。近くを飛行していた竜人族たちも、空賊団をサポートするためその場を離れていく。

 配下たちが十分離れたのを確認したサラマンダーは、矛に魔力を纏わせるとクロウリーとの一騎討ちへと臨んだ。



 後方のジャック軍と一緒に怪我の手当てを手伝いながら、私たち城内攻略チームは王都突入の時を待っていた。

 レオン軍の決死の奮戦により、ネプチューン軍とドラキュリオ軍が戦線を一気に押し上げることに成功していた。人間たちも佐久間やニコ、セイラのサポートのおかげで、度々ガイゼルの能力の餌食になりながらも何とか食らいついていた。

「………レオンのところの被害が大きいな。ケルベロスがいない分かなり無茶な攻め方をしている。魚人族と負担を分担してほしかったのだが、やはり陸ではあいつらの長所が活かせないか」

「う~ん。魚人族ならば獲物なしでも十分いけると思ったのですが、女王であるネプチューンが受け身になってしまうと波に乗れないようですね。一度魔力をゼロにされてしまうとあの人の性格では癇癪も起こすでしょうし」

「レオン様は何だかんだ言って面倒見が良いしなぁ~。嫌いなネプチューン相手でも無理して戦っちゃうんだよな。ある意味損な性格だよ。まぁ、そんなレオン様だからオレたちみんなついていくんだけどさ」

 ケロスは胸を張ると、自分の族長を誇らしげに言った。

「サラ殿がクロウリーを押さえてくれている間に城壁を突破できるといいんだが。なかなか苦戦しているようだな」

「竜人族が砲撃の囮になってくれているようですが、城壁を破壊させまいとガイゼルがあの一帯に能力を発動していますからね。あの空賊が前もって大砲の弾に飛行付与の能力をかけていたはずですが、積み込んでいる全ての弾に能力をかけてはいないはず。直に弾切れを起こす飛空艇が続出するでしょう。そうなったら一度仕切り直すしかないでしょうね」

「う~む。なかなかにピンチでござるな。このまま悪戯に時間が過ぎていったらあっという間に日が暮れて、城どころか王都に突入することもできないでござるよ」

 みんなは戦況を見守りながら一様に唸っている。

 私は怪我人の手当てが一段落すると、飛び交う竜に向かって大砲を吐き出している堅牢な城壁を睨みつけた。

(このままじゃ王都に突入する前にこっちの兵力が疲弊しちゃうよ。どうにかして一刻も早く城壁を破壊しないと!何か良い妄想は……)

 私は顎に手を当てると、首を捻りながら思考の波に溺れていった。途中ケロスやメルフィナに話しかけられた気がするが、周りの音を遮断するほど私は深く考え込んでいた。

 確実に城壁を突破できるとっておきの妄想はないものかと頭を悩ませていた時、ふと私の中で過去のやり取りが甦った。


『妄想を現実にする能力…!なんだかとっても楽しそうな能力だね!お姉ちゃんが前にお話ししてくれたお菓子の家とかもできるかな!?』

『あぁ~!お菓子の家ね!それなら多分頑張れば妄想できると思う。今度やってあげようか?』

『ホント!?わぁ~い!』


 頭の中で、以前私の能力をケルに話した時の会話が思い出された。

 私は高くそびえ立つ城壁を見ながら、半ば無意識に妄想を組み立て始める。

「お菓子の家……」

「えりさん…?もしかして何か能力を使うつもり?一日三回しか使えないって言ってたけど」

 カイトは蒼白の光を発し始めた私を見て目を見開いた。

 戦況を注視していた魔王たちも私の行動に気づき、妄想の内容について問いただしてきた。

「おいえり!一体何の妄想をするつもりだ。一日三回までしか使えない能力なんだ。戦局を変えるほどの妄想でなければ一回分無駄にするようなものだぞ。ちゃんと分かっているのか」

「…ケロス、ケルちゃんに伝えて。あの時の約束、今実現してあげるって!」

「エ?あの時の約束って?」

 ケロスは蒼白の光を手で覆いながら、集中力を増す私を見つめ返す。

 私は両手を城壁の方角に掲げると、急ピッチで構築した夢のある妄想を現実へと解き放った。

「私たち同盟軍で美味しくいただくよ!『お菓子の城壁!!』」

 私から溢れた蒼白の光は周囲を明るく照らすほど輝き、現実に解き放たれた妄想の規模がそれほど大きいことを現していた。

 私の叫びに呼応して、視界に捉えている正面の城壁全体が蒼白の光に包まれ全容がしばらく何も見えなくなる。恐らく城壁の中に詰めている敵兵も、突如蒼白の世界に染め上げられて何が起こっているのか分からなくなっていることだろう。

 そうして一分近く経った頃、ようやく蒼白の光が晴れて生まれ変わった城壁が姿を現した。まるでそこだけメルヘンな世界に取り込まれたような『おかしなお菓子の城壁』が。

「な、なんだ…!あれは……!!」

 その見たこともない異様な城壁に、魔王を始め多くの敵味方が絶句した。ただ一人、目をキラキラに輝かせた番犬を除いて。

「すっっごぉ~~~い!!これが城壁版お菓子の家!スゴイスゴイ!あれ全部お菓子なの?食べれるの?」

 急遽ケロスを押しのけて表に出てきたケルは、念願のお菓子の家に大興奮しながらその場でピョンピョン跳ねていた。

 城壁の外壁は長方形のクッキーで敷き詰められており、王都へと繋がる頑丈だった両扉は大きな板チョコへと変わっていた。城壁内部に設置されていた大砲はロールケーキやバウムクーヘンになり、大砲からは生クリームやマシュマロが飛び出る仕様に変更されている。更に内部の床は割れやすい飴、弾力があって足場が安定しないグミ、一度くっついたらなかなか取れないガム、一粒一粒がくるくる回って滑ってしまうラムネ玉になっている罠満載の床となっている。

 実際にちゃんと食べられるようになっているので、子供からしたら大喜びする代物だろう。

 私は喜ぶケルに答えようとしたが、強烈な眩暈と脱力感を感じ、足元からその場に崩れ落ちてしまう。

「お姉ちゃん!?大丈夫!?」

「えり!」

 ケルは私に駆け寄り、魔王は地面に倒れる寸前だった私をギリギリで受け止めてくれた。他のみんなも慌てて私を取り囲む。

「ご、ごめん…。本当は、王都を囲む城壁全体をお菓子に変えたかったんだけど…、正面部分をお菓子に変えるので精一杯だったみたい…」

「馬鹿者が。後先考えずデタラメな妄想を。これから突入するというのに何をしている」

 魔王は責める口調だったが、私を見下ろす彼の顔は心配して気遣うものだった。お仕置きとして摘ままれた頬も全然痛くない。

「妄想の種類によって体にいくらか反動があるとは聞いていましたが…。あの妄想の規模を考えればそれぐらいの反動が出て当然ですね」

「遠目から見て分かるほどファンシーになってるものねぇ。見てよあれ。飛空艇に向かって出してるのクリームじゃない?」

「う、うわぁ~。ああ、甘くて美味しそうですね。あれならもし当たっても痛くなさそうです」

「はは。確かに。顔面には喰らいたくないけどな。えりさんの能力は初めて見たけど、本当にすごい能力だな。あれを自分で妄想して生み出すなんて」

 カイトは飛空艇の大砲の餌食になっていくクッキーの城壁を苦笑いで見る。クッキーはどんどん砕かれ、連鎖してひび割れていった。私の服にしがみ付きながら、ケルは時々残念そうな声を上げてお菓子が崩れていくのを見ている。せっかくのお菓子の城壁なので、壊されるところを見せるのは少し可哀想だったかもしれない。

「あの調子ならもう突入の準備をしてもよいかもしれぬな。神谷殿のおかげで日が傾く前に突入できそうでござる」

「えぇ。この機に乗じてレオンたちが突撃するはずです。私たちも進軍の準備をしましょう。ケル、あなたはえりさんを乗せて進んでください。彼女が回復するまでちゃんと守るように」

「うんうん!お姉ちゃんのことはケルに任せて!一緒にお菓子を食べればきっとすぐ元気になるよ!」

「おいケル。お菓子なんぞ食べてる暇はないぞ。俺たちの目的を忘れるな」

「む!?むぅ~~…」

 ケルが尻尾をしょげらせるので、私はくすくす笑って彼の頭を撫でた。

 獣化したケルを小槌で巨大化させた後、私は彼の背中に乗せられた。ついでに私が振り落とされないよう補助としてメルフィナも同乗した。

 こうして、いよいよ城内攻略チームの進軍が始まった。




 城壁と正面扉がフォードたち空賊団の活躍で破壊されたことにより、地上部隊の王都制圧チームが一気に勢いづいた。ドラキュリオ軍を先頭に、動揺する敵兵を圧倒してどんどん突き進んでいく。つい先ほどまで戦場の一帯に降り注いでいた蒼白のベールも、今はもうどこにも見当たらない。戦場を見渡せる城壁辺りに潜んでいたガイゼルが、戦況が不利になったと判断して早くも撤退したのだろう。

 ガイゼルの能力の枷が外れた同盟軍は、魔王軍最強の魔法使いの援護もあり、どんどん敵を蹴散らして城壁へと迫っていく。途中苦し紛れに生クリームや巨大マシュマロが降ってきたが、こちらの進軍を止めるほどではなかった。

「よぉし!ボクらの軍が王都一番乗り~☆って、あれ?ストラ…?」

 ドラキュリオは進行方向に立ち塞がる一軍の大将を見て走る速度を落としていく。壊れた王都に繋がる扉の前に立ち塞がるのは、確かに従弟のドラストラと行方不明になっていた眷属たちだった。

 ドラストラはギラギラした瞳をしながらも、どこか虚ろな表情をしてドラキュリオに叫んだ。

「ドラキュリオ!ここから先へは一歩も通さない!オレがお前を倒し、眷属たちの濁った目を覚まさせてやる!お前は王子に相応しくない。臆病者で腰抜けのお前なんかより、オレのがずっとずっと優れてるんだ。お前を倒して、お前を越えて、オレが、オレが王子の座に!」

「お、王子!ドラストラ様のご様子が!」

「あぁ。これは完璧に機械魔族に洗脳されちゃってるネ。きっとサキュアと同じ状態だ。元凶を破壊して早く正気に戻さないと、魔力が暴走して手がつけられなくなるよ。最悪体が魔力に耐え切れずに死ぬこともある」

 ドラキュリオは顔つきを真剣なものに変えると、自ら封印していた魔力を解放して一時的に元の姿へと戻った。身長が少し高くなり、見た目が二十歳手前ぐらいになる。

「お~い!キュリオ!足止めてどうした?」

「おのれレオン!妾より前に出るでない!もうボロボロなのだから獣人族は魚人族の後ろに隠れて縮こまっておれ!…む?なんじゃキュリオか。いつものように子供の姿じゃないから一瞬分からなかったぞ。何をもたもたしておる。前が詰まると後ろが渋滞を起こすぞ」

 城壁前でレオンとネプチューンが合流し、足を止めて拳を構えるドラキュリオに声をかけた。そしてドラキュリオと相対している人物に目を移すと、七天魔の二人はすぐに頭を切り替えた。

「そういうことか。それなら先に行くぜ。これ以上魔王様を待たせられないからな。従弟喧嘩もほどほどにしておけよ」

「中の制圧は妾たち魚人族に任せよ。魔法水を飲んで一気に水攻めにしてやるわ」

「へへ。それじゃあお言葉に甘えるネ。ストラを正気に戻したら、ボクは外の残党処理をしておくよ」

 レオンとネプチューンは頷いて答えると、ドラストラに従う吸血鬼一族をスルーして王都内へと雪崩れ込んで行った。

 レオン軍とネプチューン軍に遅れて辿り着いた星の戦士の者たちは、同族同士睨み合っている吸血鬼一族に首を傾げた。ドラストラの件については魔族側から何も聞かされておらず、突如仲間割れをしているようにしか見えなかった。

「え?え?何スかこれ。どういう状況?」

「同族同士で今にも戦いが始まりそうですが。……ドラキュリオ様に今すぐ止めていただかないと」

「ん?吸血王子なら目の前にいるよセイラさん。ほらアレ。二人は吸血王子の真の姿は見たことなかったっけ」

 キョロキョロとセイラが人影を探しているので、ニコがドラストラと向かい合うドラキュリオを指さす。

「エッ!?あの男がドラキュリオ!?う~ん、確かに面影が」

「それで、状況から察するに洗脳された仲間と対立中ってところかな。援護は必要?」

「さっすが神の子!理解が早いネ。援護は大丈夫。一族の相手はボクらが責任を持ってするからさ。その後はここに残って外の残党狩りをするつもり。あ、でも洗脳を解いた後に怪我の手当てはしたいから、もしよかったら聖女を置いてってくれると助かるよ」

「わかりました。ではわたくしはここに残って怪我人の手当てを致します。中の怪我人の手当てはニコ様にお任せ致しますわ」

「了解。じゃあセイラさんと一緒に勇斗もここに残って。吸血王子たちが戦いに集中できるよう、周りの残党たちの相手をしてあげて。あとセイラさんの護衛もね」

 ニコは佐久間も含め、テキパキと味方の軍に指示を与えていく。

 ドラキュリオはその頼もしい小さな背中に笑みを浮かべると、殺気を漲らせて戦う準備万端の従弟へと拳を振りかぶって間合いを詰めるのだった。



 激しい戦いを繰り広げるドラキュリオ軍の横をすり抜け、城内攻略チームはついに王都シャドニクスへと到達した。王都にはすでにたくさんの味方の兵が侵攻しており、あちこちで戦う声や武器のぶつかり合う音が聞こえてくる。

 城壁周辺の地面にはお菓子の割れた破片が大量に落ちており、ケルがくんくん匂いを嗅いでそれを舐めようとしたので、私とメルフィナが全力でそれを止めた。いくら見た目が獣化しているといっても、やはり地面に落ちたものを口にするのは衛生的に良くない。

 クロロは城に向かう最短ルートを先導しながら、混乱する王都内の様子を観察した。

「予想した通り兵士以外の民間人も身を挺して戦っていますね。子供もお年寄りもお構いなしです。頭がおかしいとしか思えませんよ」

「本当に、異様な光景だな。俺の元いた国では考えられない。あんな幼い身で、武器を持っている兵士や魔族相手に足止めしようと足や腕にしがみつくなんて」

 ジークフリートは走りながら、通りにいる五歳くらいの男の子を目の端に捉えて言った。

 今王都ではガイゼルの兵と王都に住む民間人が、私たち同盟軍を排除しようと戦っていた。クロウリーの兵は城壁外の平原に集めていたようで、中には敵魔族はいないようだった。

 民間人は武器を持たない者が多く、とりあえず体にしがみついてこちらの動きを制限してくるようだ。そして民間人が押さえ込んでいる間に、兵士が武器で攻撃するスタイルを取っている。同盟軍としては戦いに慣れていない武器を持たない民間人を傷つけるのは抵抗があるため、各地で少し苦戦を強いられているようだった。

「魔王様!申し訳ありません!城壁に詰めていたガイゼルを取り逃しました!兵士や民間人が進んで盾になるもので…。奴はすでに護衛を連れて城に引き上げました」

 民家の屋根の上にいた竜人族の若者は、魔王の姿を見つけると跳躍して目の前に降り立った。

「分かった。お前たちは引き続き王都の制圧に当たれ。面倒だからといって力加減を間違えて人間を殺したりするなよ」

「わかっております。短気な魚人族と違ってうちはもう少しまともですからご安心ください。ネプチューンなんかさっき癇癪を起こして水魔法で水攻めしてましたよ」

「あいつは…!クロウリーはどうしている?まだサラマンダーと戦ってるか?」

「はい。空間転移して逃げないよう族長が押さえてます。あとガイゼルが引っ込んだことで、おじいさんもこっちの戦場近くまで出て来て魔法の援護をしてくれています」

「そうか。まぁ外で奴を仕留めるのは無理だろう。多分頃合いを見て城にいるガイゼルと合流するはずだ。サラマンダーにはあまり無理せず奴の魔力を削っておくよう伝えてくれ」

 竜人族の若者は返事をすると、再び跳躍して屋根に上り、竜化して空へと飛んで行った。

 私たちは味方が敵兵や民間人を押さえ込んでくれている間に、一直線で城へと向かっていく。途中街の色々なところで水飛沫が上がっており、その度に魔王の眉間の皺が深く刻まれ、魔王軍の面々は苦笑いするしかなかった。



 クロロの道案内でスムーズに城へと突入した私たち城内攻略チームは、敵の布陣を見て全員が動揺して固まってしまった。

 城のエントランスから大広間まで、たくさんの料理人やメイド、文官たちが箒やフライパン等を持って待ち構えていた。大広間を抜けた階段の先には、城勤めの兵士が弓や銃を構えてこちらに狙いをつけている。

 民想いである殿様の凪は、目を血走らせ強張った表情をしている彼らを見て胸を痛めた。

「そんな…。城内も素人が混ざって戦うつもりでござるか。ガイゼル王は民を何だと思っているのか!」

「これは参謀が考えた通り、メルフィナの魅了が大活躍しそうだ。頼むよ、メルフィナ」

「えぇ。任せてちょうだい。噂通り本当にろくでもない王ね。国民を恐怖で洗脳するなんて。あんな自己中王のために命を張るなんて間違ってるわ。アタシの舞で上書きしてあげる!」

 メルフィナはケルから飛び降りて扇を広げると、軽やかなステップを踏んでその場で舞い始めた。他のみんなはメルフィナの舞が妨害されないよう、彼女を中心として戦い始める。

「よし!ケルもそろそろケロスと交代しておこう!お姉ちゃん、無理しないでいつでもケロスを頼ってね」

「うん、ありがとうケルちゃん。ずっと乗せてもらったからだいぶ体力は回復してきたよ。ケロスと一緒に頑張るから、応援しててね」

 ケルは耳をパタパタさせて返事をすると、ケロスと人格を交代した。バトンタッチしたケロスは今にも敵に突っ込んで暴れ回りたそうにしていたが、背中に私が乗っているのでぐっと我慢していた。

 メルフィナの魅了によって寝返ったり動きが鈍った一般人を、みんなが次々と手際よく気絶させていく。敵兵士たちは階段の上から弓や銃で応戦するが、魔王とクロロ、ジャックの魔法を喰らって返り討ちにされていた。


 メルフィナの活躍によりその場を制圧した私たちは、引き続きクロロの案内で玉座を目指して走り出す。クロロが人間だった当時と城の造りは変わっていないようで、私たちは特に迷うことなく玉座へと向かうことができた。

「む。どうやら合流したようだな」

「合流?何の話だ」

 玉座へ行かせまいと立ち塞がる敵を処理しながら、魔王はポツリと呟いた。隣で戦っていたカイトは、メイドに当て身を喰らわせながらその言葉の意味を訊ねた。

「外で戦っていたクロウリーが玉座にいるガイゼルに合流したのだろう。気配が突然現れたからな。空間転移で移動してきたに違いない」

 ガイゼルの魔力の気配を感じ取ったジークフリートは、進行方向をジッと睨みつけて言った。

「この先の階段を上ったらいよいよ玉座の間です。皆さん準備はいいですか?特にえりさん」

「うん。眩暈は取れたから大丈夫。なんとか応戦もできそう。さっきジャックさんの調合した薬を飲んだおかげかもね」

「そそ、そうかな。効果があったようなら良かった。星の能力を使った反動だから、気休め程度だったかもしれないけど」

 ジャックは少し息切れしながら私に微笑んだ。普段回復担当で戦闘も魔法に頼り切りなので、あまり激しい運動はしないのかもしれない。進軍を開始してから今日はずっと走りっぱなしなので、そろそろ息が上がってきているようだ。

「ん?また新手か?最後の砦ってやつか」

 カイトは玉座に続く階段の前に待ち受ける兵士たちを見て言った。兵士たちは最後の砦に相応しく、屈強な兵士たちが揃っていた。そして最前列の中央に立つダークブルーの鎧を着た赤髪の騎士は、他の兵士たちと明らかに異なる空気を纏っていた。素人の私から見ても一目で強いと分かる。

「ッ!?そんな、まさか…!?アレン!?」

「お久しぶりですね、団長。待ちくたびれましたよ」

 ジークフリートにアレンと呼ばれた赤髪の騎士は、怪しい笑みを浮かべながら腰に差している双剣を引き抜いた。アレンは体のあちこちが何故か機械化しており、顔の左目から上半分が皮膚ではなく鉄に覆われていた。その瞳は暗い闇を湛えており、ジークフリートを強く射抜いていた。

「知り合いでござるか?ジークフリート殿」

「……人間だった頃の、元部下です。だが、アレンはあの時に…」

「あの男のおかげでこうしてまた団長と剣を交えることができるなんてね。……団長。姫様の仇、討たせてもらいますよ。オレたちが不幸になったのは、オレたちの人生を狂わせたのはあなたなんですから!」

 アレンはその身から黒い靄のようなものを噴き出すと、一気に跳躍して上段からジークフリートに斬りかかった。ジークフリートは大剣を横にしてそれを受け止めると、力任せに彼を弾き飛ばした。

「……あの黒い靄、どうやら呪いのようですね。それもかなり質の悪いものです。十中八九クロウリーの仕業でしょうね」

「俺の光で払いましょうか。詳しい事情は分かりませんが、俺の能力で浄化すれば呪いが解けるはずです」

 カイトはジークフリートに訊ねたが、ジークフリートが答える前に魔王が横から口を挟んだ。

「いや。小僧の能力であの呪いは解けん。それほど強力で完璧な呪いだ。もはや死を与えることでしか奴を解放することはできんだろう」

「そんな…!ジークフリートさん…」

 ジークフリートは静かに大剣を構えると、憎悪の眼差しを向ける元部下と向き合った。

「魔王様、ここは俺に任せて玉座に行ってください。そして、俺の代わりにクロウリーを!」

「…あぁ、わかった。任せておけ。クロロ、他の雑魚の相手をしてやれ」

「はっ。後から追いかけますので一発分ぐらい残しておいてくださいね」

「フッ。それならせいぜい早く片付けて追って来い。ジャック、お前も残ってやれ。三人もいればすぐに片付くだろう」

「は、はい!すぐに合流しますので!」

 魔王は私たちに頷いて見せると、玉座へと続く階段に向かって走り出した。クロロとジャックは魔王に襲い掛かる敵兵を魔法で妨害し、玉座への道を確保する。私たちもその道を駆け抜け、魔王の背中を追って階段を駆け上がった。

 決着の時が、ついにそこまで迫っていた。




 魔王を先頭に玉座の間へと雪崩れ込んだ私たちが目にしたのは、巨大な機械魔族二体を従えたクロウリーとガイゼルらしき男、そして盾になるように整列させられた大臣やメイド達だった。もうこの王都に入ってから見慣れた光景になりつつあったので、驚くというよりはまたか、という感じだった。

 先ほどは遠目だったのでよく分からなかったが、クロウリーは四十代ぐらいの男で、額には三つ目族の証である瞼が閉じられた第三の目を持っていた。傍らには辞典以上に分厚いページを誇る魔法書が浮かんでおり、魔法を得意としていることが一目で分かった。彼は私たちが玉座に突入してきたにもかかわらず、大して驚いた素振りも見せず、むしろ余裕の笑みを見せている。

 そしてクロウリーの隣で玉座にふんぞり返っている男が、どうやらこの国の王であるガイゼルのようだ。私以外の者は面識があるようで、同じ星の戦士のカイト、凪、メルフィナは厳しい表情でメタボ体型の中年男を睨みつけている。王冠を始め指や服に宝石のついた宝飾をたくさん身に付けており、趣味や性格の悪さが見た目から滲み出ていた。

 私たちが盾にされている人間の扱いにそれぞれ怒りを感じながら玉座へと進んで行くと、まずはこの国の王であるガイゼルが口を開いた。

「ついに来たな!侵略者どもめ!よくもワシの王国を踏み荒らしてくれたな!貴様らが暴れたせいでワシの手足となる手駒がかなり減ってしまったではないか!どう責任を取ってくれる!ヤマトの殿よ、国として訴えさせてもらうぞ」

「…貴殿の好きにするがいい。その代わり、拙者たちも全力で訴えさせてもらおう。この戦争を引き起こした首謀者の一人としてな。人間界を統一して王になろうなどという貴殿の身勝手な野望のせいで、人間魔族共に多くの血が流れた。その責任はきちんと取っていただくでござるよ」

「身勝手な野望?一国の王が一度は目指す健全な野望ではないか。自国の領土を広げ、富を増やし、権力を誇示する。それが王としての本来の責務だ。貴様らが平和ボケしすぎなのだ。条約を交わし、現状を維持するだけなど、それで国が潤い発展するものか」

「国が潤い発展だって?この王都のどこが潤っているというんだ!初めてこの王都に来たが、街の通りはあまり整備されておらず、立ち塞がってきた国民たちの多くはやせ細っていた!それなのにこの城の中だけ豪華な装飾品が施され、目が眩むほど煌びやかに金をかけるなんて。王族だからって国の金を自分の私利私欲のために使うなんて間違ってる!」

 カイトはガイゼルを睨みつけながら叫ぶ。

 しかしガイゼルはそれを鼻で笑うと、カイトのことを小物を見るような目で見下してきた。

「相変わらず躾のなっていない暑苦しい騎士だな。ユグリナの程度が知れる」

「なんだと!?」

「グフフ。ガイゼルよ、所詮知能の低い彼らにはワタシたちの理想を理解するのは無理ですよ。時間の無駄ですから早く始末してしまいましょう。これが片付いたらやる事がたくさんあるのですから」

「フン。それもそうだな。侵略者どもにワシの貴重な時間をこれ以上かけていられん。全員まとめて処刑してやろう」

 ガイゼルは蒼白の光を体から発すると、強制武装解除の能力を玉座の間一帯に発動させた。その瞬間、魔王とケロスが能力の影響を受けて魔力が空になってしまう。

 クロウリーは魔王の魔力がゼロになったのを確認すると、下品な笑い声を上げて歓喜した。

「グフフフフ!ようやくこの時が来ましたねぇ!ハーフの混ざりものを魔王の座から引きずり下ろす時が!いくら先代の息子と言えど、魔力がなければそう長くはワタシの攻撃に耐えられないはず。今日こそお前を殺し、このワタシが魔王として君臨しましょう!」

「何が魔王様を殺すだ!このオレがそんなことさせるかっつーの!ねーちゃん、下りてくれ!さして能力の影響を受けてないオレが前衛になって戦う!」

「う、うん!無理しないでねケロス!」

 私はケロスの背中から飛び降りると、メルフィナと一緒に一番後衛のポジションについた。

 肉弾戦主体の獣人族は、魔力がなかろうがそこまで格段にパフォーマンスが下がることはない。

 ケロスは魔王の前に進み出ると、毛を逆立ててクロウリーを威嚇した。

「確かに魔族は基本的に魔力を使って戦うみたいだが、今回お前の相手は魔族だけじゃない。ガイゼル王の力をお前が借りているように、俺たち星の戦士も魔王に力を貸す。いくらお前が強力な魔法を放とうと、俺の光で全部無効化してやる!」

「悪だくみで繋がったそなたらの関係と違って、こっちは正真正銘の同盟で結ばれた戦友でござる。人間と魔族の連携対決、受けて立つでござるよ!」

 カイトと凪はそれぞれ武器を構えて蒼白の光を放ち始めると、ケロスの左右に並んで立った。

「民間人の避難誘導はアタシに任せてちょうだい。サクッと魅了して退場させちゃうわ」

「私も小槌や能力でみんなを援護するから、思いっきり戦っちゃって」

 魔王を中心に、私たちは武器を構えて戦争の元凶であるクロウリーとガイゼルと対峙した。

「さっきの言葉、そのままそっくり貴様に返そう。ようやく貴様をこの手で討つ時がきた。覚悟はいいな、クロウリー!お前を倒し、長く続いた因縁を断ち切ってくれる!」

 人間と魔族、両種族を巻き込んだ約七年に及ぶ戦争の最終決戦がこうして始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ