第三幕・魔王編 第六話 魔界を統べる王【前編】
数日間をかけた広大な魔界の治安維持を終え、クロウリーの領域以外に潜む不穏分子は片付いた。三つ目族に精神魔法をかけられ暴れていた輩が多くいたが、全ておじいちゃんや七天魔の手によって正気に戻された。
自分の領域に立て籠もるクロウリーを討ちとる上で、魔界に散らばる不穏分子を先に片付けておくことは必須条件だった。クロウリーは昔から狡猾な男で、魔界の戦争期にはいつも策を幾重にも張り巡らせていた。そのため、領域の外に動かせる手駒が存在する場合、それを使っていざという時に逃亡される恐れがあると考えたのだ。相手に時間を与えれば与えるほど、攻め込む側としては色々と妨害工作の準備をされてしまうと分かってはいたが、こればっかりは仕方がなかった。
人間界でも最終決戦の準備は着々と進み、後はガイゼル王の治める王都シャドニクスに攻め込むだけになった。
魔王とロイド王を始め、作戦立案にいつも関わっているクロロとカイト、凪、ニコがユグリナ城に集まり、午前中に最終決戦の作戦と軍の編成は終わった。
今私と魔王軍幹部は魔王城の作戦会議室に招集され、最後の作戦会議に臨んでいる。
「皆さん、魔界の治安維持ご苦労様でした。特におじいさんはろくな休みもなく各所に飛んでいただき、大変助かりました。ありがとうございます」
「ふぅ~~。全くじゃ。儂だけ何故か星の戦士たちとの交流会にも呼ばれなかったしのう。一人だけ仲間はずれにしおって。寂しいわい」
「じいを遊ばせておく余裕はうちにはないからな。せいぜい最後まできっちり働いてもらう」
魔王はニヤッと笑っておじいちゃんを見た。すごく意地悪な笑みだが、彼がこの魔王軍の中で一番頼りにしていて甘えているのはおじいちゃんなのだと私は理解している。
優しいおじいちゃんもその実感はあるようで、口では文句を言いつつもちゃんとその気持ちに応えてあげている。
二人には昔から積み重ねてきたとても強い絆があるのだろう。
「最後まできっちり、か…。どうせ戦争が終わったら終わったで、復興作業やらゴタゴタの後処理を色々やらされる気がしてならないんじゃが」
「ほう。よく分かったなじい。当分お前の休みはないから今から覚悟しておけ」
目を細めて笑う魔王に、おじいちゃんは泣いた振りをして私の真横にわざわざ転移してきた。いつも私を魔王のイジメから守ってくれるので、今日は私が慰めてあげた。
クロロは一度咳払いをすると、再び話し始める。
「とにかく、これで後顧の憂いも無くなり、クロウリー一人に集中できます。以前から予告していた通り、明日、魔界と人間界で同時に敵へと攻め込みます。クロウリーとガイゼルを同時に攻めることで、二人が連携するのを防ぐ狙いがあります。まぁ、どちらも自己中心的な者なので、助け合うというよりかは利用し合う仲ですから、あまり連携されるとは思えませんが。念には念を、という感じですね」
「基本的には魔王軍がクロウリー攻め、人間軍がガイゼル攻めをするが、いくら星の戦士たちがいるからと言っても、ガイゼルの強制武装解除の能力は強力だ。だからうちからもガイゼル攻めに兵を割くことになった。クロロ、軍の配置を」
魔王に振られ、クロロはガイゼル攻めの軍を発表する。
「はい。ガイゼル攻略には星の戦士に加え、サラマンダー軍の本隊、私の軍、それにおじいさんを派遣します。私の軍とサラマンダー軍は地上戦には参加せず、空賊団と連携して空から王都シャドニクスを襲います。私の軍は借りた飛空艇に乗るつもりですが、サラマンダー軍は竜化してどこからでも攻めてもらって構いません。いつもの如くフォード軍と競って王都攻めをしてください。そのほうが早く攻め落とせそうですし。城壁についている大砲さえどうにかしてくだされば、地上で戦う者たちも王都に侵入しやすくなるはずです」
「残念。私はクロウリー攻めじゃないのね。本隊ということは、別動隊を作ってそっちはクロウリー攻めってことね」
「えぇ。別動隊は二十もいれば十分です。人間側の援軍の方に火力を集めてください。おじいさんは地上に残って、地上戦をしている者たちの援護を。あまり目立ち過ぎるとガイゼルの能力で魔力を空にされるので注意してください。頃合いを見て私は地上に降りて、城に侵入する星の戦士たちと合流するつもりですが、おじいさんとサラマンダーは外で味方に被害が出過ぎないよう適宜援護してあげてください」
「ふむ。てっきりクロウリー攻めに駆り出されてこき使われると思ったんじゃが、まさか人間側の援軍とはの」
おじいちゃんは白い髭を撫でながら予想が外れたとぼやく。おじいちゃんは魔王軍最強の魔法使いと言われているので、私もてっきりクロウリーに対抗しておじいちゃんをぶつけるのかと思っていた。
私が不思議そうな顔で魔王を見ると、視線に気づいた彼が言葉を付け加える。
「この俺がクロウリーを攻めに行くのだ。俺の次に強いじいが人間側の援軍に行くのは当然だ。戦力的にそうでなくては釣り合いが取れんだろう。元はと言えばクロウリーがガイゼルを唆し、人間側を巻き込んで始まった戦争だ。俺の名代としてそっちは任せたぞ、じい」
「ふ~ん。そういうものなの?」
私はいまいちピンとこなくて首を傾げたが、おじいちゃんは魔王の考えを察したようで深く頷いた。
「あら。誰の次に誰が強いのかしら?とっても興味のある話題が出たけれど」
「へへ!そうだな!俺様もその手の話題は聞き逃せねぇな!」
「なんじゃ。お前はそもそも下から数えたほうが早かろう」
「あ゛ぁ!?少なくとも腕っ節じゃババアより強えわ!」
「ババアは止めよと言っておろうが!なら良い機会じゃ!どっちが上かこの場で白黒つけてやろう!」
望むところだ、とレオンとネプチューンが揃って椅子から立ち上がった瞬間、おじいちゃんの火魔法と雷魔法が炸裂した。レオンは飛び上がって火を叩き消し、ネプチューンは雷で軽く痺れた体を抱きしめる。
サラマンダーはおじいちゃんの視線を受けると、妖艶に微笑んで大人しく口を閉じた。
「フォッフォッフォ。それじゃあクロロ、話を先に進めるのじゃ」
クロロは仲裁したおじいちゃんに礼を言うと、脱線した話を元に戻した。
(う~ん。やっぱりフェンリスの次に強いのはおじいちゃんかな。あらゆる意味で)
私は味方相手に容赦なく魔法で諫めたおじいちゃんを心の中で苦笑した。
「それでは次に魔王城防衛組です」
「エ~?魔王城防衛組?なに。留守番組なんてあるの?完璧ハズレクジじゃん!てっきり残りは全軍クロウリー攻めかと思ったヨ」
ドラキュリオは両手を頭の後ろに回し、椅子の前足を浮かせて前後にガタガタさせながら言う。見ていてとても危なっかしく、後ろに倒れて頭を打ったらどうするのかと私はヒヤヒヤしてしまう。実際は浮遊魔法があるので心配はないのだろうが。
「さすがに城を空にはできませんから。ある程度の守りは残していきます。クロウリーが別動隊を作って魔王城を乗っ取る可能性もゼロではないので。では、魔王城防衛組の総大将はネプチューン、あなたに頼みます。サラマンダー軍同様別動隊を作ってもらい、別動隊はクロウリー攻めに加わってもらいますので、本隊は魔王城を守って下さい」
「なんじゃと!?妾が留守番組じゃと!?おいフェンリス!どういうことじゃ!まさか妾をまだ信用していないということか!?それともずっと命令違反をしていた罰か!?」
留守番組を言い渡されるや否や、ネプチューンは魔王に猛抗議をした。代わりに留守番組に選ばれなかった者たちは、ほっと一安心した顔をしている。今回は先代魔王と姫君の仇であるクロウリーとの最終決戦だ。誰しもがクロウリー攻めに参加したいと思っている。
魔王は興奮するネプチューンを宥めるように、静かに語り掛けた。
「お前を信用していない訳ではない。むしろ信用しているからこそ、総大将として城の守りを任せるのだ。この城は、代々魔界を統べる王が住まいし由緒正しき大事な城だ。それになにより、ここには母上が眠っている。絶対に奪われる訳にはいかん」
リアナ姫の墓があることを思い出したネプチューンは、さっと目の色を変えた。親友を引き合いに出されてしまうと、さすがの彼女もこれ以上何も言えなくなってしまう。どうやら魔王の作戦勝ちのようだ。
「そう言われては仕方がないのう。妾が責任を持って城を防衛してやるか。兵は魚人族だけか?」
「いえ。私の軍の別動隊とジャックの軍の別動隊を少し置いていきます。もしもの時はその三軍で対処してください」
「心得た。その代わり!フェンリスよ、この戦いが終わったら久々にリアナの墓参りをさせよ!お前の許しがなければあの部屋に入れぬ」
「いいだろう。母上に会って我が軍の勝利を報告するといい」
親友の墓参りの許可がおり、ネプチューンは一気にご機嫌になった。
私はしょっちゅうリアナ姫が眠るあの花畑の部屋に足を運んでいるが、本来あの部屋の扉は魔王か人間しか開くことができない。いくら親友だったネプチューンでも、最近はずっと会っていなかったのだろう。彼女の喜びようがそれを物語っている。
「では最後にクロウリー攻めの詳しい配置ですが、今回は敵殲滅組と城潜入組に分かれてもらいます。敵殲滅組は、城の前に陣取っているであろうクロウリー軍を足止め、殲滅する役割です。恐らく軍の大半を外に集めていると思われます。三つ目族、機械魔族、スライム族はもちろん、他種族でクロウリーに従っている者もいるはず。それを殲滅組には全部相手をしてもらいます。殲滅組の総大将はレオン、古参のあなたに任せます」
「おう!もちろんだ!任せな!本当だったら直接この手でクロウリーの野郎をぶん殴りたいところだが、今回は魔王様に譲ってやるよ」
レオンはドンッと自分の胸を叩いて答えた。レオンは先代魔王と共に戦場を駆け抜けていたため、魔王や他の七天魔からの信頼も厚い。ネプチューンが何か言いたげだったが、特に異論は出なかった。
「殲滅組はレオン軍、ドラキュリオ軍、サラマンダー軍の別動隊、ネプチューン軍の別動隊でお願いします。そしてジャック軍の本隊は怪我人の手当てを担当してください」
「わわ、わかりました。いつもの通り怪我人の手当ては任せてください。皆さんは思う存分戦ってください」
「あぁ、頼りにしてるぜジャック!暴れんのは俺たちに任せな!」
その後クロロはクロウリーの領域周辺の地図を使いながら、合わせて軍の配置を説明していく。
「特に質問がなければ、次に城潜入組の説明に移らせていただきます。……では、城潜入組ですが、こちらは少数精鋭部隊にします。魔王様のお話ですと、クロウリーの居城は機械仕掛けの城になっているそうです。そのことから、多分玉座にいると思われるクロウリーの下に辿り着くまでに機械による妨害工作がされていると思います。城自体にギミックが多くありそうなので、城内にはその代わりあまり兵を配置していないと読んでいます」
「なるほど。仕掛けがある分、外に多く兵を割いてくるということか。仕掛けで時間稼ぎをしている間に外の兵が敵を殲滅し、殲滅が終わり次第城内に侵入した者を討ち取ると」
ジークフリートの補足説明に、クロロは頷いて答える。
「はい。ですが、全く城内に敵がいないということはあり得ませんので、油断だけはしないでください。なにせ相手はあのクロウリーですからね。さて、潜入組ですが、魔王様とキュリオ、ジーク、サキュア、そしてえりさんでお願いします」
「ヤッター!本命組だぁ~!やっぱり頼りになるボクは潜入組だよネ☆しかもえりちゃんと一緒なんて超ラッキー♪ボクの雄姿を目に焼き付けてもらわないと!もし敵が現れた時はボクが守ってあげるからね、えりちゃん」
ドラキュリオはウィンクを飛ばして私にアピールしてきた。問題児であるドラキュリオと一緒ということで、苦笑いで彼に答えながら私は少なからず不安を覚える。横に座るケルも浮かない顔だ。
「あまり調子に乗ってはしゃぐなよドラキュリオ。気を抜いているようならすぐに囮にして置いていく。ジークフリートがいれば戦力としては十分だからな」
「ヒドイ!ボクだって真面目な時はとことん真面目なのに!最終決戦なんだから、ちゃんと分かってるって!魔王様が温存して全力でクロウリーと戦えるように、ボクらがきちんと露払いするから任せてヨ」
「必ずや魔王様をクロウリーの下まで護衛致します」
「ハイハ~イ☆サキュアも魔王様のために全身全霊で戦います♪そこにいるえりよりも絶っっ対に役に立ってみせるので、期待しててくださいね☆」
ドラキュリオとジークフリートの言葉に魔王は頷いて答えたが、サキュアの情熱的な視線には気まずそうにそっぽを向いた。
魔王に絡むなとネプチューンに最近何度も釘を刺されているらしいが、サキュアは全然めげる様子がない。さすが恋する乙女は強い。
「ちょっと待つのじゃ。いくら星の戦士とはいえ、えりも戦場に連れて行くのか?えりの能力は強力な一面もあるが、前線に出て戦うには不向きじゃぞ。妾と一緒に魔王城防衛組の方がよいのではないか?」
私の斜め向かいに座るネプチューンは、私の身を案じて提案してきた。いつの間にかネプチューンまで私に対して過保護になってきている。
「いや、そいつは俺の目が届く範囲に置いておく。何しろ警戒心がザルだからな。目を離すと知らぬところでくたばりそうだ」
「ちょっと言い方!本当に口悪いんだから。…大丈夫だよ、ネプチューン。心配してくれてありがとね。実は最終決戦に備えてとっておきの武器を妄想したから、もう今までの私じゃないんだな!」
私は得意げに鼻を鳴らすと、魔王にも挑発めいた視線を送った。
まだ誰にもお披露目していないとっておきの武器で、待機中だったここ数日で練り上げた妄想を昨夜現実化させたものだ。実は実戦で使うのを今から楽しみにしている。
「…また俺に無断で勝手な妄想を。体に負担のかかるメチャクチャな機能をつけた武器ではないだろうな」
魔王は明らかに私を信用していないようで、目を細めて睨んでくる。
私は全員が注目する中、右手を広げて武器を召喚する言葉を発した。
「マイクON!」
私の合図を感じ取り、蒼白の光を発しながら手元に銀色のマイクが出現した。マイクからは持ち手のお尻の部分から蒼白の光の線が出ており、線はそのまま私の首元に巻き付くように一周している。そしてマイクとは繋がっていないが、頭にも蒼白の光の線が巻き付く。孫悟空が頭に付けている緊箍児のようなデザインだ。
私が手元に召喚したものを見て、みんな目が点になっているようだった。代表して魔王が全員の疑問を口にする。
「それのどこが武器なんだ。確か人間どもが作った声を大きくする機械ではなかったか?」
「そうですね。風と地の魔晶石を用いて作るマイクと呼ぶ機械です。私がこの間お渡しした拡声器と似たようなものですね」
「フッフッフ~!これはただのマイクじゃないんだなぁ~!名付けて!こ~と~だ~ま~マ~イ~ク~♪」
私は某漫画キャラクターのネコ型ロボットのようにマイクを掲げて見せた。もちろん元ネタの分からないみんなはきょとんとした表情でマイクを見つめている。
「説明しよう!この言霊マイクは、マイクを通して発した言葉を現実の理に反映させて影響を与えることができるのだ!実際に見てもらったほうが早いんだけど、こんな感じね。……『浮け!』」
私はマイクを構えると、向かいの席に置いてあるティーカップに向けて言葉を発した。私の声はマイクを通して周囲に反響し、声を受け止めたティーカップは蒼白の光を帯びた。そしてふわっとその場でカップは宙へと浮く。
マイクの効力を目の当たりにし、全員が驚きの反応を示した。
「おぉ~!なるほどネ!発した言葉がそのまま対象に影響を与えるんだ!面白~い!」
「それで言霊マイクですか。色々とできそうで良い武器ですね。戦闘慣れしていないえりさんには合っているかもしれません。変に剣や槍を振り回すより安全です」
「でしょでしょ!最終決戦でみんなの足手まといにならないように色々考えて生み出した渾身の武器だから!このマイクがあれば、とりあえず防御は完璧。逸れろ、とか、外れろ、当たらないって単語を使えば絶対攻撃喰らわないもんね~」
私は胸を張って得意げに言う。
いまいち言霊マイクの性能にピンときていなかったレオンやネプチューンは、私の話を聞いてようやく凄さが理解できたようだ。
「ほ~う!確かにそいつはスゲェな!そんな簡単に敵の攻撃を防げるなら!攻撃的な言葉を発すれば攻撃も可能なんだろ?」
「うん。言霊に強い想いを込めればある程度まで威力は上げられるけど、でもおじいちゃんの魔法に比べたら普通に弱いと思う。燃えろ、とか凍れ、とか、多分中級魔法程度の威力までしか出ないかな」
「フォッフォッフォ。それでも魔力や術式詠唱なしで使えるんじゃから、十分有りじゃと思うぞ」
「言霊マイク、か。面白き武器じゃのう。どれ、妾にも今度貸してくれんか。それを使えばうちの連中を仕置きする時に楽そうじゃ。笑え、と言えば笑い死にする一歩手前まで追い込めそうじゃし、称えよ、と言えば喉が枯れるまで妾を称えることもできるのだろう?」
ネプチューンの使用例に、全員が心の中でドン引きしていた。配下の魚人族が哀れでしょうがない。
私がネプチューンに断りを入れようとした時、横からサキュアが口を挟んできた。
「ねぇねぇねぇ!サキュアも貸してほしいな~♪そのマイク!そのマイクで、惚れろって言えば、魅了の通じない魔王様もサキュアを好きになるってことでしょ!?」
サキュアの問題発言を聞き、魔王は目を大きく見開きマイクを危険視してきた。マイクが破壊されるのではと、私は慌てて後ろ手でマイクを隠す。
「そういう使い方もアリなんだ!?さっすがサキュア冴えてるじゃん!じゃあえりちゃんボクにもちょっと貸して!想い人と両想いになりたいから☆」
「いやいやいや!絶対ソレ私に言霊使う気満々じゃん!貸さないよ!ていうか期待させた後に悪いけど、敵に悪用されないようにこの武器は私専用になってるから。私以外は使えないんだ。ごめんね」
「なんじゃ、つまらんのう」
「「ちぇ~」」
ネプチューンはがっかりし、サキュアとドラキュリオは声を揃えて悔しそうにしていた。魔王はサキュアの目論見がなくなりほっとしているようだ。
「それではえりさんは潜入組で問題なさそうですね。もしもの時は魔王様を頼るのもいいですし、キュリオやジークを盾にしてくださって構いませんから」
「た、盾にって…。そんなひどいことしないよ。マイクがあれば防御面は大丈夫だし」
「万が一ということもある。俺たちは大丈夫だから、えり殿は自分の身を一番大事にしてくれ。いくらでも盾になる」
「そーそー。えりちゃんの盾だったらいつでもいくらでもなるヨ。遠慮しないで」
ジークフリートとドラキュリオが私を気遣うのを見て、同じ女のサキュアは対抗心を燃やして魔王に眼差しを向けた。
「魔王様~☆サキュアが危ない時は魔王様が守ってくれますか?」
「………まずはお前の上司であるドラキュリオが守るだろう。それでも間に合わぬようなら手を貸してやる」
「さすが魔王様!お優しい!じゃあピンチの時はキュリオがしゃしゃり出ないよう言い含めておかないと」
「おい…!」
魔王はサキュアの猛アピールに若干苛立ちを覚えるが、当の本人は全く気にしていない。ある意味大物というか、恋は盲目とはよく言ったものだ。
こうして明日の軍の配置は決まり、各戦場の細かい調整を終え、私たちの最後の作戦会議は終了した。
その日の夜。私が魔王の自室でベッドの中に入って明日の決戦について考えていると、ノックもなしに扉を開けて入って来る者が現れた。驚いて身を起こすと、その人物はこの部屋の主だった。
「フェンリス!あれ。さすがに今日は大事な決戦前夜だから、ちゃんと部屋で寝るんだね」
「あぁ。明日に備えちゃんと疲れを取り、魔力と体力を回復させておかないとな。思う存分クロウリーをぶちのめせるように」
魔王はマントをポールハンガーに掛けると、魔法を使って一瞬でラフな格好へと着替えた。
魔王が寝る態勢になっているので、私はベッドから下りようとそそくさと動き出した。
「じゃあ私は自分の部屋で寝るね。フェンリスは自分のベッドでゆっくり寝て」
「待て。部屋まで送るのが面倒だからここで寝ろ。三人並んで寝れるほど広いベッドだ。問題ないだろう」
「エッ!?い、いや、広さの問題じゃあ…。ん~、じゃあ私ソファで寝るよ。あのソファも十分ふかふかだし、普通に寝れるでしょ」
私は一人の時によく行儀悪く寝っ転がっているソファを見て言った。
(いくらこの間意識が戻る前に添い寝をしていたことがあるとはいえ、さすがに意識がある状態で普通に添い寝はできない。男の人とお付き合いもしたことがないのに、いきなり添い寝なんて危険すぎる!)
私が心の中で真剣に考えていると、それを小馬鹿にするように魔王の笑いが耳に届いた。
「フン。何をそんなに警戒している。普段ろくに警戒心を持っていない奴が。安心しろ。色気も何もない貴様を襲うほど俺は飢えておらん。そもそもそんなことをして無駄に体力を消耗する暇はないからな」
魔王のおちょくるような笑みを見て、私は途端に怒りで顔を赤くした。意識していた自分を見透かされたことで、若干羞恥も入っている。
魔王は顔を真っ赤にして無言で睨む私を意に介さず、ベッドを詰めるよう手で指示してくる。私はむくれたまま魔王に背を向けると、ベッドの端へと移動してふて寝した。こうなったらもう話しかけられても無視して寝てやると意地になった。
そんな私の態度を見て、背後で少し魔王の笑う気配が感じられた。そして彼は部屋の電気を消すと、ベッドに入って私の隣に横になった。
いくら広いベッドだと言っても、やはりすぐ身近に別の人の気配がするのは落ち着かないものだ。しかもその相手が男性となると、なおのこと気になってしまう。怒りのまま寝てしまったが、やはりソファで寝るべきだったかと早くも後悔している。
私が悶々と悩みながら丸くなっていると、背後の気配が動き近づいてきた。途端に心拍数が上がり、私は身を固くする。
(どど、どうしよう!フェンリスが近づいて)
「おい。何をそんなに端っこで縮こまっている。もっと楽にして寝ろ。こっちが気になってしょうがない」
「………わざわざほっぺを摘まみながら言わなくてもいいってば」
暗闇に目が慣れた状態で魔王を振り返ると、彼は優しい笑みを浮かべて私を見ていた。その予期せぬ表情を見て、私の心臓はドクンと高鳴った。よく見る馬鹿にしたような笑みや呆れた笑みではなく、純粋な思いやりの笑顔。部屋が真っ暗であまり私に見えないだろうと油断しているのか、それほど貴重な笑みだと思った。普段の状態だったならば絶対に見せないと思う。
魔王がそのままほっぺを引っ張るので、仕方なく私は寝返りを打って向かい合わせで横になる。魔王も満足したのかほっぺから手を離した。
「……明日の決戦、特に不安はないか?」
笑みを消して真面目に聞いてきた彼に、私は少し考えてから自分の正直な気持ちを口にした。
「今のところは大丈夫。フェンリスやジークたちと一緒だし。まぁいざ戦闘になったら少し怖くなるかもしれないけど。…でもサラマンダーと一騎討ちしたこともあるし、それにフェンリスの強い殺気で鍛えられてるからね、ある程度強い相手でもビビらないよ」
私は笑って言ったが、暗闇の中魔王は少し不満げな顔をしているように見える。罰が悪そうとも言えるだろうか。
「…もうお前相手に強い殺気を向けたりはしていないだろう。出会った当初ぐらいだ」
「え~。そんなことないよ。この間だって私を怒った時すごい殺気出してたもん。あと機嫌が悪くなった時もすぐ黒いオーラ纏うし」
「あの時はお前が油断して隙だらけだったからだ!だから…、溜め込んだ疲れもあって少し苛ついた」
「フェンリスって根は優しいけど、実はカッとなるとすぐ手を上げる人?」
私がじと~っとした目で見つめると、魔王は即座に反論してきた。
「女相手に手など上げるわけないだろう!サラマンダーのように正々堂々の勝負ならともかく。……頬ぐらいなら引っ張るかもしれんが」
「それ手を上げてるのと一緒だから!いつか頬が腫れて戻らなくなるから止めて!」
私の切実な叫びを鼻で笑って誤魔化すと、魔王は手を伸ばして私の髪に触れた。そして眠るまでの退屈しのぎのように、撫でたり梳いたりしている。
私たちの間に流れる空気は穏やかで、別に気まずさはないのだが、沈黙が続くと変に意識して鼓動が早くなっていく。
何とか会話を続けようと、私は平静を装いながら逆に魔王へ同じ質問を返した。
「フェンリスは明日の決戦で不安はない?サラマンダーやネプチューンを説得する時は少し不安そうにしてたでしょ?」
「…お前からはどう見える。あの時と比べて不安さが出ているか?」
「ん~?…特に感じないかな。いつも通り、というか、すごく落ち着いているように見える。ご両親の仇と決着の時なのに、焦りも何もないっていうか」
「フッ。よく見えている」
魔王は私の髪から手を離すと、布団から少し出ている私の手に自分の手を重ねて握った。私はビクッと反応したが、魔王は気づかぬ振りをして言葉を続けた。
「明日はようやく母上の無念と父上に託された敵討ちを成し遂げられる。この日のために今まで多くの犠牲を払ってきた。我が配下もそうだが、人間たちもたくさんの命が失われた。全てはクロウリーの魔界を統べる王になりたいという欲望のために」
大きな温かい手が、ぎゅっと私の手を握る。心の内に宿る強い決意を語りながら。
「俺は魔王としてはまだまだ未熟だが、今や多くの配下たちが俺を支えてくれている。人間としての自分を曝け出した俺をな。あいつらが支えてくれるなら、俺はもう迷わない。明日は俺の全てをクロウリーにぶつけて分からせてやる。魔界を統べる王に必要なのは、他者を圧倒する強さだけではないということを」
「…うん、そうだね。クロウリーには一生かかっても手に入らないものだよ。他者を手駒にしか思っていないクロウリーには」
「明日は、俺からあまり離れるなよ。姑息な手を使うクロウリーのことだ。どんな汚い手を用意しているか分からんからな」
睡魔が襲ってきているのか、魔王はうとうとしながら話す。連日の疲れも溜まっているのだろう。もう限界そうだった。
「うん。わかってる。フェンリスの傍から離れないようにするから」
暗闇の中、魔王は薄く笑い、そしてそのまま目を閉じて寝てしまった。
私は握られたままの手を見つめ、心の中をポカポカさせる。安心するような、落ち着くような、他者の優しい温もり。始めは添い寝であれだけ動揺していた心が、今は波風も立たないほど穏やかだ。
(明日は私もみんなと一緒にフェンリスを支えるからね。今度はクリスタルの中で待つんじゃなくて、ちゃんと一緒に)
私はしばらく彼の寝顔を見つめた後、手に重ねられた体温を感じながら眠りにつくのだった。
次の日の朝。前日発表された軍配置に従い、各軍はそれぞれの戦場・防衛についた。
私たちクロウリー攻めの軍も、クロウリーの治める領域へとやって来た。クロウリーの領域は異常気象地帯で、天候が時間の経過とともにころころ変わる領域だ。ところによって雪が降り、雷雨に見舞われ、竜巻も発生する。
今私の頭上には真っ黒い雷雲があり、先ほどからゴロゴロと不気味な音を立てている。渾身の雷を落とそうと、雲の中でじっと力を蓄えているようだ。空が光ったり雷の音が鳴る度に私がビクついているので、不安を和らげようとドラキュリオが手を繋いでくれたのだが、五秒と経たずに魔王に手を叩き落とされた。
「よし!魔王様、獣人族は進軍の準備万端だぜ!いつでも行ける!というか、なるべく早く行こうぜ。このままここにいたら全員濡れ鼠になりそうだ」
レオンは今にもゲリラ豪雨が降りそうな空を見上げた。
ドラキュリオも魔王に叩かれた手を撫でながら、自分の軍も準備が整っていることを伝える。
「ぼぼ、僕の軍も準備完了です。竜人族や魚人族の準備も整っているみたいです。いつでも出陣可能かと」
「そうか。なら、出陣前に一つ伝えておくことがある」
魔王はその場に集まる幹部たちを見渡してから重い口を開いた。
「実は……、今朝、クロロの研究室からメリィの姿が消えていた」
「「「「エッ!?」」」」
私を含めた幹部たちは同時に驚きの声を上げた。
もう幹部たち全員には、メリィがクロウリーの差し向けた内通者であることは伝えてある。そして、メリィに残されていた強い意志のおかげで、自分自身をオーバーヒートさせて戦線離脱したのだと説明してあった。
当分目覚めないとクロロからも聞かされていたのだが、まさかこのタイミングで目を覚まして姿を消されるとは思っていなかった。
「城の守りに付いているネプチューンには、メリィを発見次第拘束しておくよう伝えてあるが、恐らくもう城にはいないだろう」
「十中八九クロウリーの下に戻っているでしょう。奴としては数少ない貴重な反撃の駒でしょうから」
ジークフリートの分析に、魔王も深く頷いた。
「も~!こんな大事な時に敵に操られるなんて何やってんのよ、あの冷徹鉄仮面女!」
「この間まで操られていたお前が言える立場じゃないぞ、それ」
ドラキュリオは苦労して正気に戻したサキュアにツッコミを入れる。
(メリィがいなくなるなんて…。もしかしたら、今日敵として目の前に現れるかも…)
動揺する私や配下に向かって、魔王は毅然と言い放った。
「もし戦場でメリィを見かけたら敵だと思え。戦場で迷いは命取りになる。見つけ次第戦闘不能に追い込み拘束しろ。核さえ壊れなければクロロが後はどうにかする」
「了解しました。本気を出したメリィならば、こちらも本気でかからねば簡単に拘束などできませんからね。レオン様、遭遇した場合はあまり力任せに壊さないようくれぐれも注意してください。核が破壊されたら二度とメリィは蘇りませんので」
「念押ししなくても分かってらぁ!たく、心配性だなぁケルベロスは」
レオンは部下からあまり信用されていないと思ったのか、腕組みをしたまま口をへの字に曲げた。
「ドラキュリオ、竜人族や魚人族にも伝えておけ。……それじゃあ、各自軍に戻って号令をかけろ!出陣だ!!」
「「「おぉ!!!」」」
魔王の号令に従い、全軍クロウリーの居城を目指して進軍を開始した。
ころころ変わる天候の中進軍をしていくと、クロウリーの居城に近づくにつれて徐々に天候が安定してきた。異常気象地帯でもそこだけは周囲の不安定な気候がちょうどぶつかり合って打ち消しあうのか、常に気候が安定する場所なのだそうだ。その唯一晴れ間が覗く場所にクロウリーの城は建てられている。
空から先行している竜人族の別動隊は、遠くに捉えた城に目を凝らしながら敵の布陣を報告した。
「魔王様!敵影を確認しました!ほぼクロウリー全軍が揃っています!三つ目族に機械魔族、スライム族に、領域を移った他種族たち。あっちも既にやる気満々って感じです!いやぁ~、血が滾るなぁ!楽しい喧嘩になりそうだ!」
好戦的な竜人族たちは、早くも目をギラギラさせ始めている。地上で走る血の気の多い獣人族たちも、毛を逆立てて臨戦態勢に入る。
「あぁ~ヤダヤダ。これだから喧嘩大好き一族は。もう殺気ビンビンじゃん。由緒正しき高貴な吸血鬼一族はついていけないヨ」
私の隣を飛ぶドラキュリオはげんなりして首を振る。
ちなみに今魔王軍は浮遊魔法が扱える者は低空飛行で進軍し、飛べない者たちは駆け足で進軍している。人間の体力ならば長時間走り続けることは陸上選手でもなければできないが、魔族は基礎体力が高いので長時間走り続けることが十分可能だ。そもそも魔界自体が広いため、魔族は広範囲に移動することがしょっちゅうある。浮遊魔法が使えない魔族たちは日常的に移動で足腰が鍛えられているので、特に長時間全力疾走しても問題なかった。
そして人間の私は魔王に浮遊魔法をかけてもらっているおかげで、みんなに置いて行かれずにすんでいる。
「サキュアも血の気の多い暑苦しい男はキラ~イ。魔王様みたいに男はクールじゃないとね☆」
そう言ってサキュアはススッと魔王の隣に移動しようとしたが、無言でドラキュリオが首根っこを捕まえてそれを阻止した。進軍前に魔王がドラキュリオとジークフリートにサキュアを野放しにするなと命令していたのを私は目撃している。サキュアには気の毒だが、どうやら命令はちゃんと遂行されているようだ。
「そんじゃ魔王様。手筈通りに俺たち獣人族が最初に突っ込んでド派手に暴れるぜ。吸血鬼一族や悪魔族に援護してもらいながら、その隙に敵陣を突破して城に潜入してくれ」
「あぁ。外の指揮は任せたぞ、レオン」
「おう!クロウリーの奴の首、期待して待ってるぜ!…よし!野郎ども!最初から全力でぶち当たるぜ!ケルベロスの指示も聞き逃すなよぉ!」
「「「おぉ~!」」」
レオンの呼びかけに、興奮している獣人族たちは地が震えるほど大きな声で答えた。そして族長の号令の下、スピードを上げて視界に入った敵軍に向けて突っ込んでいった。
「では、我々も行きますか。獣人族に後れを取っては、後で女王様にどやされますから。全軍、突撃!」
「「「うお~~!!」」」
魚人族の別動隊を率いるネプチューンの側近タイガは、先に出た獣人族を追いかけるように号令を出して突撃して行った。あえて犬猿の仲である獣人族と魚人族の布陣を隣り合わせにすることで、対抗心を燃やして競わせようとしており、クロロの参謀としての意地の悪さが出ている。
「さぁて、それじゃあ俺たちも参戦するかぁ!遊ぶ相手がいなくなったら大変だ!みんなばらけて、苦戦しているところに空から援護だ!」
続いて竜人族の別動隊が各方面に散って、空から敵を急襲していく。竜人族は数が多くないが、それでも竜化すれば強力な攻撃が可能になり、また的が大きい分囮になって地上部隊が楽にもなる。
城の周囲の荒野で次々戦闘が始まり、一気に前方が騒がしくなった。城を取り囲むようにクロウリー軍は布陣しているため、城潜入組はまず敵を突破して入り口まで辿り着かなければならないようだ。
魔王は戦闘が始まった前方を見据えながら、ドラキュリオに指示を出す。
「ドラキュリオ、道を切り開くのは任せたぞ。なるべく足を止めずに迅速に駆け抜けろ」
「はいよ~!それじゃあみんな!ボクたちの出番だヨ!吸血鬼一族は前方で道を切り開け!悪魔族は背後を固めろ!他種族が敵を足止めしてくれているところを狙って、交戦が少ないところを選びながら迅速に進軍するんだ!」
「「「了解!」」」
吸血鬼一族は私たちの前に出ると、先導するように戦場を横断して行った。進軍の足が止まってしまうと途端に敵に捕まって身動きが取れなくなってしまうので、なるべく味方が敵を抑えているところを狙って前へと進んで行く。城潜入組が戦って体力を消耗しないよう、吸血鬼一族と悪魔族は私たちの盾となって戦ってくれた。
そして戦場の波を何とか渡り切った私たちは、ようやく城の大きな扉の前へと辿り着いた。門を守っていた三つ目族と機械魔族たちは、既にドラキュリオの部下たちが力ずくで排除した。
「どうやら扉は魔法で封印されているようですね」
扉に手を触れながらジークフリートは呟いた。確かに扉には難しい魔法陣が浮かび上がっている。
お行儀の悪いドラキュリオは、試しに強行突破しようと扉に向かって思い切り飛び蹴りを喰らわせた。しかし当然ながら扉はビクともしない。
「やっぱダメかぁ~。仕方ない。ここは魔王様に譲ろう」
「何が譲ろうだ。俺以外じゃ無理なだけだろう。できることなら無駄な魔力は消費したくなかったが、止むを得ん」
「あ、じゃあ私の武器で開けてみよっか?マイクON!」
私は手元にマイクを顕現させると、私たちの侵入を阻む扉に言霊をぶつけた。
『開け!』
声が反響し、扉に言霊が伝わった。扉は蒼白の光を纏い、重い音を立ててゆっくり開いた。みんな小さな歓声を上げて私を見直してくれる。
「すごいなえり殿。まさか言葉一つで魔法を破ってしまうとは」
「フン。少しはやるではないか。ドラキュリオより使えるな」
「ちょっとちょっと!扉一つでえりちゃんより格下になっちゃうのボク!?ボクだって戦闘時は重宝するヨ!?」
いつもの如く魔王とドラキュリオが絡み始めたが、それを見守るほど今の私には余裕がなかった。
「ごめん!言霊の効力はそんなに長くは続かないから、みんな早く城の中に入っちゃって!」
「エッ!?あ、ホントだ!もう閉じ始めてる!中途半端な能力ねぇ。もう言霊連呼しておきなさいよ!」
「えぇ~。『開け!開け!開け!開け!』」
私はサキュアの言う通りとりあえず開けと連呼しておいた。そのうちに魔王たちは扉をくぐって行く。私が城に入り、殿のジークフリートが入った後、扉はゆっくりと再び閉まった。
クロウリーの城は事前に聞いていた通り、機械仕掛けの城だった。壁のあちこちには大小様々な歯車がはめ込まれ、内蔵されているポンプと連動して休みなく動き続けている。床や壁には光のラインが一定間隔で走り抜け、どこかに電気や信号を送っているようだった。
魔王以外は全員初めて訪れる異質な城に、口を開けて見入ってしまった。
「ふわ~。本当に剥き出しの機械仕掛けの城なんだね。裏の配線とか部品とか全部見えてるんですけど。クロロがいたらすごい喜びそう」
「確かにあの元人間って実験オタクだもんね~。案外城を自力で解体してクロウリーを丸裸にできちゃったりして☆」
クロロなら時間をかければ全部解体できそうだと私も本気で想像してしまう。
城のメインホールを探索していたジークフリートは、上へと繋がる階段を示しながら魔王に進言する。
「魔王様。まずは玉座を目指すということでしたが、上へ繋がる階段がシャッターで塞がれています。いかがしますか。何やら仕掛けを解けば開くようなのですが」
「仕掛け~?それこそクロロがいれば簡単に開けられたのに。なんでこういう時に限ってアイツは別の戦場なのさぁ。機械仕掛けの城だって事前に分かってたんならこっちに来ればよかったのに」
「そう言うな。あいつはあっちでケリをつけなければならない相手がいる。だからわざわざ俺があっちの戦場に割り振ったんだ」
クロロの事情は知らないが、人間界の戦場にどうやら因縁の相手でもいるらしい。クロウリーと決着をつける大事な戦いではあるが、魔王なりにクロロを気遣って外してあげたようだ。彼のそういう配下に対しての気配りは本当に素晴らしい。だからみんな魔王としてまだ未熟な彼を慕って支えてくれるのだろう。
「また私が試してみよっか?わざわざ仕掛けを解かなくても言霊で開くかも」
私はマイク片手に再び開くようシャッターに向けて言葉を発した。すると、ガチャガチャと機械が巻き上げられる音を響かせながら、シャッターは天井へと格納されていった。
「おぉ~!またまた開いたわ!この調子でえりがいれば進めそうね!てっきりサキュアたちの足手まといになるかと思ったけど大活躍じゃない。サキュアも負けてられないわ」
「言霊の力が切れる前に全員速やかに移動しろ。ジークフリートはまた殿を頼む」
「はっ!」
ドラキュリオが先頭を走り、サキュア、魔王、私、ジークフリートと続く。
早くも二階へと到達した私たちは、それから私の言霊マイクで罠や仕掛けを無効化しながら階段を探して上へと目指して行った。
一区画進むごとに仕掛けを無効化し、遭遇する魔族を撃退しながら上へと進んで行くと、ようやく玉座に通じる階段広場へと辿り着いた。迷路のような城を進み少し疲労を感じていたが、外で大勢の敵相手に戦う仲間たちのことを考えたら、まだまだ余裕だった。
「この上がついに玉座なんだね!この間盾にされた恨み、存分にはらさなくちゃ!」
「待て!」
私が意気込んで足を踏み出すと、魔王が私の前に片手を上げ、鋭い声で制止てきた。
ドラキュリオとジークフリートは一歩前に出、戦闘態勢を取る。
階段の上を睨みつけるみんなに釣られて目を凝らすと、暗がりから複数人の気配を感じた。階段を鳴らしながら下りてきた人物を見て、それぞれが息を呑んで驚いた。
「まさかここでお前が出てくるとはネ。ボクたちを阻む最後の砦ってやつ?ストラ」
「………なぜ、なぜ死んだはずのお前がここに。まさかクロウリーの手で機械魔族になっていたのか、アレン?」
「できれば、ここで会いたくはなかったな。メリィ」
ドラキュリオ、ジークフリート、魔王は、自分たちの正面に対峙する人物を見て苦い顔をした。私とサキュアもメリィを見て言葉を失くす。できることなら彼女と直接対決だけはしたくなかった。
三人とも目が虚ろで濁り、纏う空気が暗く淀んでいた。誰が見ても正気でないことは一目瞭然だった。おそらく機械や精神魔法でクロウリーに操られているのだろう。
「臆病者の腰抜け王子が、よくここまで辿り着いたな。見直してやりたいところだけど、残念ながらここまでだ。ここでお前は死ぬ。オレに倒されてなぁ!お前を殺せば、お前がいなくなればオレが吸血鬼一族の王子だ!分家のオレが、みんなに認められる!そうしたらようやく、お前を、見返せ、るぅ……!」
ずっと行方をくらませていたドラキュリオの従弟のドラストラは、狂ったように叫び出した後、苦しそうに頭を押さえた。既に魔力と感情が暴走し始めているらしい。サキュアの時と同じような症状が出ている。
「チッ!クロウリーの奴、サキュアに引き続きボクの大事な従弟を玩具にしやがって!絶対に許さない!魔王様!ストラはボクに任せて!一族の王子として、責任を持って正気に戻してやる!」
「わかった。任せたぞ」
ドラキュリオは階段広場から右手に続く廊下に走って行くと、そちらにドラストラをおびき寄せて戦闘に入った。
「俺から全てを奪っておいて、団長だけ新しい居場所で幸せになるつもりですか…?オレは、片時もあの日を忘れたことがないというのに…。あの日からずっと苦しみと憎しみの闇に呑まれ続けているのに…。そんなの、絶対に許さない…!姫様の気持ちを裏切ったあなたが一人幸せになるなんて…!」
「…ジークフリート。どうやらお前の知り合いはクロウリーの奴に質の悪い呪いをかけられているようだ。あの呪いは完璧に発動してしまっているから、俺が無理矢理解除しても死ぬだけだ。どうする?」
「魔王様のお手を煩わせるほどではありません。俺自身の手で呪いから解放してやります。あの時に救ってやったと思っていたのに、まさかクロウリーの手駒にされていたとは…。アレン、俺にはもう浄化の力はないが、今度こそお前を苦しみから解放してやる!」
ジークフリートは大剣を構え、左手に続く廊下に走って行く。
ジークフリートの知り合いらしい赤髪の騎士は、体の至る所が機械化しており、皮膚ではなく鋼鉄に覆われている箇所がある。ダークブルーの甲冑を着ているが、見えない内部も機械化している部分があるのかもしれない。
アレンと呼ばれた騎士はどす黒い靄を身に纏うと、瞳に強い憎しみを宿しながらジークフリートを追って行った。
二人は何事か会話をした後、城の窓をぶち破って揃って外へと出て行った。どうやら外で思う存分戦うようだ。ジークフリートにはペガサスがいるから空中戦もお手の物だが、敵もそうなのだろうか。
善人で誰からも恨まれることがなさそうなジークフリートを凄い形相で敵が追って行ったのを見て、私は思わず不安な顔を覗かせてしまった。
「他人の心配をしている場合ではないぞ、えり」
魔王に声を掛けられ、私はハッと正面に立つメリィに視線を戻した。メリィは殺気を隠そうともせず、無言でデッキブラシを構えている。まだ距離は離れているが、彼女なら十分最初の一歩で全員を間合いに捉えられる距離だろう。
魔王が強い決意を胸に一歩踏み出した瞬間、私の隣に立つサキュアが堂々と前に進み出た。
「ずいぶんと情けないわね~。サキュアの恋のライバルとあろう者が。クロウリーの手先になり果てるなんて。このままじゃあサキュアが魔王様の心を射止めちゃうわよ」
「……ここから先へは、通さない。近づく者は、排除する…」
「…まるで本当に心を持たない暗殺人形ね。張り合いのない。いつもみたいにサキュアに全力でぶつかってくれなきゃ調子が出ないじゃない」
サキュアはワンピースのベルトに引っかけてある鞭を手に取ると、油断なく構えて戦闘態勢に入った。サキュアの殺気を受け取り、メリィも迎撃態勢に入る。
「魔王様はクロウリー戦が控えているので下がっていてください。ここはサキュアと、ついでにえりで相手しますので。…あの子も、好きな人に刃は向けたくないでしょうから」
「同感だね。ここはあたしとサキュアで戦うよ。絶対にメリィを正気に戻して見せるから!」
私もマイクを構え、サキュアの隣に立った。二対一だが、戦闘慣れしていない私としては全然卑怯ではない。むしろメリィは超攻撃型の前衛なので、私たち二人でも敵うかどうか怪しいところだ。しかし、魔王とメリィを直接戦わせるのは私も反対だった。
(出陣前にもフェンリスは言ってた。見つけ次第戦闘不能に追い込めって。きっとフェンリス自身もそうするはず。……でも、叔母相手に戦うなんてさせられない。フェンリスは優しいから、きっと後で気にするはず。ここは私たちでどうにかしなくちゃ!)
「二人とも、無茶はするなよ。本気を出したメリィは強いぞ。無理ならすぐに変われ」
「ご心配なさらず。良い機会ですから、今まで溜めてきた鬱憤を全部吐き出して叩き壊してやりますとも!サキュアの雄姿、見ていてくださいね魔王様☆」
「ちょっとサキュア、間違ってもメリィの核は壊さないでよ」
妙なやる気を漲らせて鞭を構えるサキュアに、私はドロドロした女の嫉妬を感じ取って顔を引きつらせた。
そこから私とサキュア対メリィの激しい戦闘が始まった。マイクが武器の私ではとても前衛を張れないので、サキュアが前衛になってメリィの相手をする。サキュア自身も普段魅了を使って戦うタイプなので、前に立って戦うのは不向きだったが、私よりかは戦えるので仕方なく前に出て戦っている。
サキュアの武器は鞭なので中距離レンジだが、アサシンドールの異名を持つメリィの素早さは早く、すぐに間合いを詰められて懐に入られてしまう。デッキブラシに鞭を絡ませて攻撃を止めようとするのだが、力はメリィの方が遥かに強く、簡単に鞭の拘束は解けてしまう。
「相変わらず馬鹿力な不愛想人形ね!乙女ならもっとか弱くなりなさいよ!そんなんじゃモテないわよ!」
「……侵入者は、殲滅する。長には、何人たりとも近づけさせない」
「長、か…。やはり三つ目族の長に従うよう何やら細工されているようだな。先々代の長に造られた時からある仕掛けか?」
「とにかくその仕掛けをどうにかしない限りメリィは正気に戻らないってことね。『動くな!』」
私はサキュアに重い一撃を叩きこもうとしていたメリィに言霊を発した。不自然に動きが止まり、その隙にサキュアが間合いを取って態勢を立て直す。
「あ、危なかったわ…。ちょっとえり!もう動きを止める言葉をひたすら連呼しておきなさいよ!そしたら完封できるわ!」
「そうしたいのは山々なんだけど、同じ言葉を連続で使うと言霊の効力が弱まっていくんだよね。その分精神力も削られるし」
「もう!ホントに中途半端で使えない武器ね!」
「そうカリカリしないでよ。『詰まれ!』…戦いようはいくらでもあるからさ」
私は体からワイヤーを発射して貫こうとしていたメリィに言葉を発した。ワイヤーは体内で詰まり、発射できなくなったようだ。
メリィは近接でも遠距離でも自在に戦えるので、遠距離の攻撃方法であるワイヤーを封じるだけでもかなり戦闘が楽になる。
サキュアは遠距離攻撃がなくなったのを確認し、一気にここで勝負をかけた。自分自身に魅了をかけ、全能力値を強化していく。体への負担は大きいが、その分魔力や力は倍に増す。
私も攻勢に出るサキュアを援護するために的確に妨害や支援の言霊を発する。
サキュアが鞭で連撃を繰り出し、それをメリィが防いで攻めに転じようとすれば、『凍れ』や『痺れろ』という言葉で動きを封じる。追い打ちをかけるように火の魔法を纏わせた鞭で攻撃するサキュアに、『強化』や『必中』の言葉で攻撃をサポートした。
初めてサキュアと組んで戦うが、時間が経つにつれて私たちの息は合い、連携が噛み合ってきた。強敵であるメリィの攻撃を上手く封じ、徐々にダメージを蓄積させていく。
「さぁ、そろそろ年貢の納め時よ!魅了全開☆この世界一可憐で可愛い魔王様に愛されし美少女なサキュアが、不愛想な鉄仮面メイドに負けるはずがない!サキュアの渾身の愛くるしいスマイルと華麗な技に見惚れて地べたに這いつくばりなさい♪」
「誰が誰を愛すって?」
配下が調子良く戦っているので、魔王は集中力を乱さないようあえて小声で反論した。もちろん自分への魅了絶好調なサキュアにはその声は届いていない。
サキュアの鞭は今や当たれば対象を粉砕するほど強化されており、それを全力で振るいながらメリィに技を繰り出した。炎を纏う鞭の連撃、まるで蛇が口を開けて獲物を丸呑みして喰らおうとしているようだ。操られたままのメリィは無言でその攻撃に対処していたが、攻撃を防いだデッキブラシは折れ、胴を庇った腕は粉砕した。それでも降参するという選択肢が彼女にはないのか、殺気を纏い再び襲い掛かってきたので、サキュアは容赦なく片足を鞭で破壊した。
前衛を張っていたサキュアがあちこち怪我をしたものの、なんとか私たちはメリィを無力化することができた。
魅了状態を解除したサキュアは、早速褒めてもらおうと魔王に擦り寄る。
「魔王様~♪サキュアの活躍見てくれました~?ついに憎き恋のライバルを倒し、魔王様の寵愛を獲得しました☆」
「コラコラ。戦いの目的はそんなんじゃないでしょ。まぁ、確かにフェンリスが褒めてもいいくらい頑張ってたけど」
「ちょっと、あんた何様なわけ?横から口を挟まないでくれる。今はサキュアが褒めてもらう番なの。それに、気安くサキュアの魔王様の名前を呼ばないでちょうだい」
「誰がお前のだ。とりあえずサキュア、俺から離れろ。鬱陶しい」
魔王は迷惑そうな顔を前面に出しサキュアを一度引き剥がす。そして彼女の頭に手を乗せると、よくやったと改めて褒めてやった。
頭を撫でられたサキュアは頬を紅潮させると、喜び全開でしばらく周囲を飛び回った。興奮のし過ぎで彼女の小さく可愛い悪魔の羽が千切れるのではないかと心配したほどだ。
私がサキュアを目で追っていると、床に倒れたままのメリィから突如物騒な言葉が発せられた。
「……敵の殲滅、失敗。任務続行を不可能と判断。強制爆破プログラム起動。一分後に核をエネルギーとし、高威力爆破にて敵の殲滅を試みます」
「え?ちょっと待って。今の、何?」
「やられた!」
私とサキュアは思考が停止し、魔王だけが舌打ちをして急ぎメリィへと近づいた。
魔王がメリィを抱き起すと、何故か彼女の洗脳は嘘のように解けていた。
「魔王、様…。今すぐ、私を核ごと破壊してください。もう時間がありません。私にはもう、自爆を止める権限がありませんから」
「メリィ!正気に戻ったの!?自爆って、どういうこと!?」
「……クロウリーの仕掛けた最後の罠だ。メリィを自爆させて俺たちもろとも始末するか、メリィを俺たちに殺させて精神的ダメージを与える、といったところか。本当に下衆な男だ。わざわざメリィの洗脳を解いたのも、会話して俺たちの判断を鈍らせるためだろう」
魔王は歯をギリギリさせて悔し気に呟く。
私とサキュアは突き付けられた現実に言葉を失くした。ようやくメリィを無力化したというのに、自分たちの手で殺すか、一緒に自滅するしかないとは。クロウリーという男は本当に人の嫌がることをするのに長けているようだ。
「魔王様。もう三十秒を切りました。私に構わず殺してください。そして、クロウリーを倒し、先代様や姫様の仇を…」
「メリィ……!」
私たちに残された時間はあまりに短く、魔王は苦しそうに目をギュッと瞑った。
(ダメ!このままじゃフェンリスがメリィを殺すことに!何とかしなきゃ!何とか、違う選択をするために時間を稼ぐんだ!)
『止まれ!!』
私はメリィに向かって言霊を発した。彼女の自爆装置が止まるよう強い想いと力を込めて。
するとメリィの心臓部辺りが蒼白の光を放ち、言霊が発動したのが分かった。
「フェンリス!今光っているところに自爆装置がある!私が言霊で止めている間に、核と切り離してどこか遠くに爆弾を放り投げて!」
「ッ!」
私の言葉を受けて魔王は瞬時に顔つきを変えた。その目に迷いはなく、迅速に行動を開始する。
「えり、魔王様!無茶はしないで!万が一間に合わなかったら」
「万が一なんて起こさせない!絶対に助ける!『止まれ!!』」
私は効力が切れないよう言霊を続ける。徐々に効き目が短くなるので、なるべく早く爆弾を処理しなければならない。
「もう誰も俺の身近で死ぬことは許さん。この魔王を信じろ、メリィ!」
魔王は暗黒剣を召喚すると、躊躇なくメリィの胴体を切断した。そして切断した断面に手を差し入れると、蒼白の光を放つ部位を力任せに引き千切った。その手にはオレンジ色の温かい光を宿す丸い玉と、その玉に絡みつくゴツくて黒い機械があった。どうやら玉がメリィの魂や記憶を宿す核で、黒い機械が爆弾装置のようだ。
「チッ!核の力を吸って既にかなりの威力を秘めているようだな」
魔王は核と爆弾を、魔力を使って無理矢理引き剥がすと、核をサキュアに預けて左の廊下へと走り出した。
その間も私は言霊を発し続け、効果時間はみるみるうちに減っていた。時間が動き出したら爆弾の爆発まで後数秒しかないだろう。
「フェンリス!もう言霊が効かない!急いで!」
爆弾から蒼白の光が失われ、爆弾の時間は動き始めた。魔王は腕を振りかぶると、ジークフリートが破っていった窓目がけて思い切り爆弾を放り投げた。爆弾は一直線に窓の外へと飛んでいき、それから一秒ほどで爆発した。なかなかの綱渡りだったが、間一髪どうにかなった。私は気が抜けてその場にへなへなと座り込む。
「ギリギリなんとかなったわね~。でもあっちって、ジークフリートが外で戦ってるんじゃなかったっけ。爆発に巻き込まれてなきゃいいけど」
「あ!そうじゃん!かなり大きな爆発みたいだったけど大丈夫かな!?」
私が焦っていると、走って廊下から戻って来た魔王が当然の如く言ってきた。
「案ずるな。ちゃんとジークフリートの気配を確かめてから投げた。もっと上空で戦っていたようだから、特に爆発の影響は受けていないだろう」
「そうなんだ!良かったぁ~。メリィの核も無事だし、これでもう安心だね!壊れた体も後でクロロに直してもらえばいいだけだし」
私はサキュアの手の中で淡く光るオレンジの玉を見つめる。見ているとなんだか安心する温かい光だ。いつも不愛想でツンデレなメリィの印象とはだいぶ違う。
「サキュア。お前は破損したメリィの体を全て回収し、核を守りながらここでドラキュリオとジークフリートを待っていろ。俺とえりは先にクロウリーのところに乗り込む。二人と合流できたらお前たちも後から追って来てくれ」
魔王はへたり込む私を助け起こしながらサキュアに命じる。
置いていかれるサキュアは少し不服そうだったが、動かなくなった恋のライバルをそのまま放置する訳にもいかず黙って従った。
核が器から切り離されたため、メリィの本体はまた目を瞑って動かなくなっている。
「えり!くれぐれも魔王様の足を引っ張らないでよね!魔王様にもしものことがあったら絶対に許さないから!その身を盾にして魔王様をお守りするのよ!」
「う。りょ、了解」
サキュアに気圧されて頷く私に、魔王は頭を軽くコツンと殴った。
「了解せんでいい。盾になられると逆に邪魔だ。お前は後ろで縮こまってじっとしてろ。先ほどサキュアにしていたように、言霊で援護するだけでいい」
「わ、わかった。さっきの戦闘でだいぶ慣れたから任せといて!」
「魔王様、くれぐれもお気を付けて。キュリオたちと合流したらすぐに駆け付けますから」
「あぁ。メリィを頼んだぞ」
私と魔王はサキュアに見送られ、クロウリーの玉座へと続く階段を駆け上った。




