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第三幕・おじいちゃん編 第三話 若かりし少年時代

 優しい温もりに包まれながら、私はそっと目を開けた。昼間だというのに曇り空なのか、日の光はあまり届いていない。私の頭はまだ覚醒しておらず、眠くてまたうとうとと重い瞼が落ちてくる。私は温かくて安心感のある温もりに頭を擦り付けると、また二度寝を貪ろうと夢の中へと意識を手放そうとした。

 すると、そんな私の髪を誰かが優しく撫でながら梳いてきた。私はその感触を気持ちいいなと思いながらも、辛うじて頭の片隅で思考を働かせる。

(………う~ん。眠い……。この頭の撫で方は、…おじいちゃん、かな?……あぁ、おじいちゃんと合流したんだっけ。………おじいちゃん。…………んん!?)

 私はパチッと目を開けると、ガバッと寝ていた頭を起こした。すぐ至近距離でおじいちゃんと目が合う。私はつい先ほどまで寝ぼけていた自分を恥じると、顔を真っ赤にさせて俯いた。

「お、おはよう。おじいちゃん…」

「カッカッカ。おはよう、お嬢ちゃん。まだ眠いならもう少し寝ててもいいんじゃぞ」

 私は無言で首を振ると、腕枕をしてくれていたおじいちゃんから体を離した。

 昨日無事おじいちゃんとの合流を果たした私は、人間界の孤島で小休止をした後、追手の気配を感じ取って魔界と人間界をその後も数回行き来した。

 ロクにきちんと休めていないおじいちゃんのために、日が落ちてすぐに私は彼を休ませることにした。私が寝ずに番をし、敵の襲撃を感じ取ったら魔法で迎撃しつつおじいちゃんを起こすという約束にした。幸い今回は追手が来ることもなく日が昇り、おじいちゃんを久々にたくさん休ませることができた。

 日が昇ってから今度は交代で私が休むことになり、先ほどまでぬくぬくと寝ていたのである。寝る前はおじいちゃんが収納魔法で出してくれた大きなクッションに横になって寝ていたはずなのだが、いつの間にかおじいちゃんの腕枕に代わって添い寝状態になっていた。

(な、な、なんでいつの間にかおじいちゃんと添い寝になってんの!?あったかくてついつい胸板にしがみついちゃったじゃん!妙な安心感があったから普通に落ち着いちゃったよ!男の人とまともに手を繋いで歩いたこともないというのに、いきなり添い寝ってすっ飛ばし過ぎだ!なんか寝癖まで整えられてた気がするし…)

 私は顔を赤くしたまま髪を整える。

 おじいちゃんはそんな私をニコニコした顔でずっと見ていた。

「驚かしてすまんのう。お嬢ちゃんが途中なんか寒そうに寝ていたから、儂の傍でローブに包まって寝れば温かいじゃろうと思ったんじゃ。案の定そうしたらお嬢ちゃんくっついてスヤスヤ寝始めたから、起きるまでそっとしといたんじゃが」

(無意識になに甘えてんだ私ー!…いや、これは不可抗力。寒さを防ぐための生存本能だよね)

 私はなんとか平静さを取り戻すと、まだあまり見慣れない本来の若い姿のおじいちゃんに礼を言った。

「あ、ありがとうおじいちゃん。おかげでぐっすり眠れました。……でも、ずっと私の頭乗せてたから、腕痺れちゃったんじゃない?大丈夫?」

「ん?大丈夫じゃよ、お嬢ちゃんの頭乗せるくらい。毎日添い寝してもいいくらいじゃ。そうしたら毎日お嬢ちゃんの寝顔が見れるからの」

「ね!?寝顔!?…もう絶対添い寝しない!」

 私はプイッと顔を背けると、立ち上がって固まった体をほぐした。

 おじいちゃんは照れる私を陽気に笑い飛ばすと、使ったクッションを収納魔法でしまった。

「少し先に湧水が溜まっている箇所がある。そこで顔を洗ってくるといい。飲み水としても使える綺麗なものだから、飲んでも問題ないぞ」

「うん、わかった。……私がいない間に勝手にどっかいなくなっちゃダメだよ」

「そんな心配しなくても、もうお嬢ちゃんを置いてどっかにいったりせんよ」

 疑いの眼差しを向ける私に、おじいちゃんは優し気に笑った。

 私はおじいちゃんに送り出され、ひとまず寝起きの顔をどうにかするために湧水の溜まり場に向かった。



 おじいちゃんの言った方向に少し進むと、綺麗な湧水が溜まっている場所を見つけた。ちょうど岩場の窪みに溜まるようになっている。私は少し冷たい湧水で顔を洗いながら、昨日のおじいちゃんとの会話内容を思い出す。

(まさかおじいちゃんが昔はここを治めていた七天魔の一人だったとはなぁ。魔族になりたてのクロロが優秀すぎるせいで周りに嫌がらせを受けていたからって、それに対抗させる手段として自分の七天魔の地位をそっくりそのままクロロにあげちゃうなんて。おじいちゃん太っ腹過ぎ、というか優しすぎ)

 私は持ってきていた鞄からタオルを取り出すと顔を拭った。

 私たちは今魔界のクロロの領域に来ている。クロロの領域にいる不死者たちはおじいちゃんに敵対心を持っていないので、しばらく身を隠すにはもってこいだった。かつて七天魔の時にこの地を治めていたこともあり、地理も把握しているのでいざという時も動きやすいという点もある。

(再会してから人間界と魔界を行き来したりしてすっかり忘れてたけど、魔王から手紙を預かってたんだった。嫌がらせとか言ってたけど、おじいちゃんに見せても大丈夫かな…)

 私は鞄から手紙を取り出すと、渋い顔でそれを見つめる。

(………そういえば、すっかりおじいちゃんって呼び続けてるけど、名前で呼んでもいいのかな。今の姿だとおじいちゃんって呼ぶのに若干抵抗感があるんだよね。普通に見た目若いし)

 私は手紙を上着のポケットにしまうと、彼の名前を頭の中で繰り返しながら元の場所へと戻った。



 おじいちゃんのところに戻ると、彼はすっかり身支度を整え移動する準備が万全だった。

「よし、それじゃあ遅い朝食を取りに行こうかの。儂一人だったら適当に済ますんじゃが、お嬢ちゃんも一緒ならちゃんと街で食べたほうがいいじゃろ」

「街って、人間界の街?ちゃんとお店で食べられるのは嬉しいけど、追手が街を襲ったりしない?」

 不安を抱く私に、おじいちゃんは今までの経験から得た追手の法則を教えてくれる。

「大丈夫じゃよ。追手はおそらくクロウリーの索敵魔法から得た情報を元に動いておる。今儂は索敵魔法に引っかからないよう特殊な結界を常に纏っているんじゃが、クロウリーはその索敵魔法に不自然に引っかからない気配を逆算しながら儂を捜しておる。何度も索敵魔法を繰り返し、ようやく不自然な箇所を見つけ、そこに儂がいると確信して追手を差し向けているんじゃよ」

「ふ~ん。なんか理屈がわかるようなわからないような」

「だから大体追手が来そうな時間帯になると、人間界と魔界を行き来して今まで逃げていたんじゃ。これまでの経験則から、二時間は確実に大丈夫じゃな。だから街で食事を取るくらいなら問題ない」

 難しいことはわからないが、おじいちゃんが大丈夫というので私はすんなり納得した。

「でもその理屈で言うならさ、別に魔王城で食事を取っても問題ないんだよね。だったら一度城に戻ったら?魔王だって心配してるし」

 私の提案を聞くと、おじいちゃんは見るからにすごく嫌そうな顔をした。いつもにこにこしている彼としては珍しい。

「城に戻ったが最後、魔王様から小言、嫌み、お説教、雑用のオンパレードじゃ。とても二時間で解放されるようなもんじゃない。あっという間に追手が魔王城を取り囲むじゃろう。それに、クロウリーも馬鹿じゃない。儂が魔王様と接触するのを一番警戒しているはずじゃ。もしかしたら二時間以内に追手が来るかもしれんな」

「そっか。それじゃあ仕方ないね。……あ、そうだ!魔王から手紙を預かってるの。おじいちゃんと再会した喜びですっかり忘れてたんだけど」

「魔王様から、手紙!?………それは間違いなく不幸の手紙じゃな」

 おじいちゃんは私がポケットから取り出した手紙を見て目を鋭くする。警戒しながら手紙を受け取ると、ざっとそれに目を通した。静かに見守っていると、読み進めていくうちに彼の顔にどんどん影が落ちていった。

「だ、大丈夫おじいちゃん。なんだか顔が絶望していってるけど」

「……まさか城に戻らなくてもこんな大量に雑用を押し付けられるとは。魔王様は本当に鬼じゃな」

 遠い目をする彼に、私は遠慮がちに手紙の内容を訊ねた。

「一体なんて書いてあったの?」

「……精神安定剤を送る代わりに、キリキリ働いて面倒事をさっさと片付けるようにと。いくつか儂に対処してほしいことがリストになっておる」

「精神安定剤って?薬なんか入ってたの?」

「あぁ、儂の精神安定剤はお嬢ちゃんのことじゃな」

 そう言っておじいちゃんは笑いながら私を見た。

(魔王め。私を薬扱いか)

 魔王の扱いに少しムッとしながらも、彼の心の支えになる存在として認められているのなら悪い気はしなかった。

 おじいちゃんが嫌そうに手紙と睨めっこしている中、私は先ほど思った呼び方について彼に訊ねた。

「ねぇねぇおじいちゃん。もう若い姿になってるし、おじいちゃんって呼ぶの変だよね?名前で呼んでもいい?」

「ん?儂は別に今まで通りおじいちゃんでもいいが。お嬢ちゃんが名前で呼びたいなら別にいいぞ。もう正体がバレておるから名前で呼ばれても困らないからの」

「それじゃあこれからはサイスって名前で呼ぶね!」

 私が嬉しそうに言うと、彼はどこか照れくさそうにはにかんだ。

「あとさ~、これはお願いなんだけど」

 私は顎に手を当て上目遣いにサイスを見る。彼は手紙を懐にしまいながら首を傾げた。

「私もサイスのこと名前で呼ぶから、サイスも私のこと名前で呼んでほしい。まだ私一度しか名前で呼んでもらったことないよ。出会った最初の一回だけ。どうしていつもお嬢ちゃんなの?何か理由でもあるの?」

「う~~む。それは~…」

 サイスは気まずそうな顔をすると、私の追及の目から逃れようと視線を泳がせる。

 呼び方については前々からずっと疑問に思っていたことだった。出会った時に私の名前は教えているというのに、彼は最初の一回しか呼んでいない。自分の名前をずっと名乗らなかったことについてはもう疑問は解決したが、私の名前を呼んでくれないことについては理由がわからない。

(せっかくだからこの機会にサイスにも私のことを名前で呼んでほしいって思うのは、私の我儘なんだろうか)

 目を合わせようとしないサイスをじーっと見つめていると、やがて根負けしたように彼は理由を話してくれた。

「……死神族はな、魔族の中でも一番寿命が長いんじゃ。それはようするに、たくさんの命を送り出すことを意味する。儂はいずれ魔王様はもちろん、キュリオやクロロ、ジークが逝く時も看取ることになるじゃろう。儂より長生きする者はいないからな。………儂からしてみたら、人間のお嬢ちゃんと過ごすこの時間は、儂の人生の中のほんの限られた短い時間じゃろう。本当に、短い、な…」

 いつもの優しい笑みは消え、サイスは切なく哀しい表情を浮かべている。

「だからお嬢ちゃんがいなくなった後にできるだけ辛くならないよう、情が残らないようにしたいんじゃよ。……大事な者との辛い別れは、もう痛いほど経験しておるからな」

「サイス……」

 今や世界でたった一人となった死神族の青年は、自分の長い寿命を呪いのように感じているようだった。

(私は人間だから、どんなに長生きしても百年前後しか生きられない。でもサイスは、魔王や吸血鬼であるフェンリスたちよりも長生きなんだ。残される者の哀しみ、か……。サイスはおじいちゃん子だったって聞いたから、きっと実のおじいちゃんを亡くした時もすごく哀しんだんだろうな)

 私はサイスが名前で呼んでくれない理由を知り、目を閉じて唸った。

 人生を長く生きる彼が少しでも自分の心を守るために考えたルール。情を抱いて、別れが辛くならないように前もって線引きをしておく。それは確かに理に適っているかもしれない。だが、それでも私は受け入れられなかった。

(これは単なる私の我儘だ。後にサイスを苦しめることになるかもしれない。それでも、友達だからこそ、本気で彼にぶつかりたい)

「ねぇサイス。名前を呼ばないことでサイスなりに線引きしてるっていうのはわかったけど、……それで本当にサイスはあとで後悔しない?」

「…後悔?何をじゃ?」

「私のことを名前で呼んでおけばよかった~って、あとで後悔しない?」

「……え?」

 サイスはキョトンとした顔で私を見つめる。突然何を言ってるんだろうという顔だ。私はそんな彼に構わず続ける。

「私が死んじゃった後に、ふといつか私のことを思い出して、やっぱりあの時名前で呼んでおけばよかった~って後悔しないのかって。死んだ後に私の名前をいくら呼んでくれたって私は返事できないし、空しくて寂しくなるだけでしょ。でも今だったら、いくらでも私返事するし。それも今なら満面の笑みのサービス付き!」

「…………」

 意地でも名前で呼んでもらいたい私は、最もらしい理由をつけてアピールする。

 先に寿命を全うする人間の私がいくら説得しても効果がないかもしれないが、ずっとそんな後ろ向きな理由で名前を呼んでもらえないのは寂しいと思ってしまった。

(確かに私は確実にサイスより先に死んでしまうけど、だったら尚更この一緒に居られる時間を大切にしたい。良い思い出をたくさん作って、今この時間が人生で一番幸せだったと後から感じてもらいたい。……そう思うのは、私のエゴかもしれないけど)

 私はサイスの反応をビクビク窺っていたが、意外にも彼はプッと笑いを噴き出すと、大きな声を上げて笑い出した。

「カッカッカッカ!お嬢ちゃんは面白い考えの持ち主じゃのう!そんな考え方はしたことなかったわい!そうか、逆に呼んでおかなかったら後悔するか。そういう考え方もあるんじゃなぁ。盲点だったわ」

「サ、サイス…?」

「………そうじゃな。どうせ呼ぶなら本人がいて返事が返ってくるほうがいいの。わかった。それじゃあ儂もこれからは名前で呼ぶとするか。大事な友達に嫌われたくないしの」

 サイスは私の頭を撫で撫ですると、屈託のない笑みで私の名を呼ぶ。

「それじゃあ改めてよろしくな、えりちゃん!」

「うん!よろしくね、サイス!」

 私はパッと顔を輝かせると、満面の笑みで頷いた。今までより更にサイスとの距離が縮まった気がする。数日前までサイスと会えなくてうじうじしていたのが嘘のようだ。

「じゃあひとまず腹ごしらえに行くとするか。いい加減移動しないといくらクロロの領域でもヤバそうじゃからのう」

 サイスは空間転移の術式を展開すると、私を連れて人間界へと移動するのだった。




 空間転移先はカジノの街、オスロだった。灰色の空からは小雪が降っており、通りや家の屋根には雪が積もっていた。公園や家の庭には雪だるまが立っており、異世界でも雪だるま文化はあるのだなぁ、と内心思った。

 息を吐く度に白い息が口から出るが、オスロについてすぐにサイスが魔法をかけてくれたので、薄着の状態でも快適に過ごせている。

 私はサイスの隣を歩きながら、キョロキョロと左右に見える派手な看板を物珍し気に見た。

「この街は至る所に大小様々なカジノがあるんじゃよ。店によって賭け金のレートや遊べるゲームが違うみたいじゃ。クロロに聞いただけで儂も詳しくは知らんのじゃが」

「へぇ~。クロロはここで遊んだことあるの?」

「いや。情報収集のために配下を潜り込ませているだけじゃよ。クロロは頭がいいから色々イカサマとかできそうじゃが、賭けごとには全く興味ないじゃろ」

「確かに~。イカサマとか涼しい顔でやってのけそう」

 食事が取れるところを探しながら二人で歩いていると、ちょうど反対方向から見知った顔が歩いてきた。少年は私の顔を見ると、少し驚いた顔をしてからすぐにいつもの真顔に戻った。

「神谷さん、どうしてこんなところに?魔法使いのおじいさんの助っ人をしてるって聞いたけど」

「儂の精神安定剤としてちゃんと助っ人してもらってるぞ、えりちゃんには。今は遅い朝食を取ろうとしているところじゃ」

 私の代わりに隣にいるサイスがニコの疑問に答えた。

 ニコはサイスを一度上から下まで見た後、なるほど、と小さく呟いた。

「メルフィナさんがすごい若いイケメンに変わったって騒いでたけど、本当だったんだ。僕も戦場で二回しか見たことないけど、もっと小柄なおじいさんだったよね」

「このローブのフードを被ると老人に変わる魔法がかかってるんじゃよ。今までのは正体を隠す仮の姿じゃ」

「はぁ。色々とツッコミたいところはあるけど、とりあえず二人はご飯を食べに来たんだね。それなら僕の部屋で食べたら。せっかくだから情報交換とかしたいし」

 ニコは帽子の上に積もった雪を落としながら提案してきた。私は久しぶりに会った星の戦士の仲間に喜び、二つ返事で了承する。

「いいの!?だったらお言葉に甘えようかな。ね、いいよねサイス?」

「そうじゃな。神の子がここにいる理由も聞きたいしのう。本来ならお前さんは空賊と一緒にサラの相手をしていたはずじゃ。そこらへんの情報共有が必要じゃな」

 空賊と聞いてニコは心底疲れた顔を私たちに向けた。なんとなくそれだけで私たちはニコの苦労を察してしまったが、ひとまず詳しい話を聞くためニコの後ろをついて行った。




 ニコについて行った私たちは、オスロの街で一番大きいカジノのVIPルームへとやって来た。

 到着するなりニコはルームサービスで適当に朝ご飯になるものを注文してくれた。

 私とサイスは豪華な部屋を見回しながらとりあえず席につく。部屋には専用のカードゲームやルーレットの台があり、内装もVIPに相応しい煌びやかなものだった。シャワールームや豪華なベッド、暖炉も設置してあり、まるでホテルのスウィートルームだ。ニコは普段からこの部屋で寝泊まりしているらしく、もはやカジノが我が家なのだそうだ。

(この年でカジノのVIPルームに住んでるってどんだけ稼いでるの。さすがは神の子、恐るべし…)

 一人で住んでいるようなのであえて両親については触れなかったが、この年で一人なのだ。昔からとても苦労しているに違いない。私は余計なことは口にしないようにした。

 ルームサービスの料理が届いたところで、まずはサイスが今までの経緯をニコに説明した。私はサンドイッチやオードブルをつつきながら話を聞く。

「そういうことね。その父親の恨みのぶつけ所として息子のあなたが狙われているわけだ。そのせいで魔王軍の最大戦力が不在になり、クロウリーが動きやすくなるって寸法か。へぇ~。よく考えてるじゃん」

「感心してる場合じゃないよニコ君。もうずっと逃げ続けてこっちはピンチなんだから」

「でも、魔王から色々と指示が来たんでしょ。今はその通り動くしかないんじゃない。考えなしに下手に動いたって相手の思う壺だし」

 ニコは大好物らしいフルーツの盛り合わせをせっせと口に運ぶ。

「そういえば魔王の頼み事って具体的に何だったの?」

「魔界の各地で起きているいざこざを鎮めるのと、取り急ぎはレオンと協力して獣人族との和解じゃな」

「あぁ。確か今殿様の戦場から離脱していたよね。死神さんの影響で色々な戦場に皺寄せがきてて大変だよ」

 ニコは悪気ゼロで淡々と言う。

 サイスは申し訳なさそうに体を小さくして謝った。しょんぼりした勢いでまたフードを被って老人化しようとしたので、私はグイッと後ろにフードを引っ張ってそれを阻止する。

「ところで、ニコ君はジークと一緒にフォードの援軍だったよね。こんなところでのんびりしていて大丈夫?今戦況はどうなってるの?」

 私の口からフォードの名前が出た途端、ニコはものすごい勢いでメロンにフォークを突き立てた。何やら地雷を踏んでしまったらしい。

 ニコはメロンをむしゃむしゃ食べながら苛立たし気に話し出す。

「あの戦場はもう一生放っておいていいと思うよ。わざわざ僕とジークさんが援軍に駆け付けたっていうのに、あのフォードの馬鹿さ加減と言ったら…」

「な、何があったの?ニコ君がそんなにご立腹するだなんて」

「一生放っておくとは、穏やかじゃないのう」

「だって、せっかく竜人族を追い詰めて大打撃を与えられると思った時に、よりによってアイツ何て言ったと思う?『竜人族を倒したらサラマンダーとの接点がなくなっちまう。これ以上の追撃はよせ』、だよ。信じられる?」

 フォードの言い分に、私とサイスは揃って目が点になった。二人して顔を見合わせてしまう。

「えっと、前々からフォードたちの戦場は戦いが長引いてると知ってたけど、単に二人とも戦い好きってわけじゃなくて、フォードが一方的に~」

「アレは完璧にサラマンダーに惚れてるんだよ。ずっとサラマンダーの戦場に固執しているなとは思ってたんだ。でもまさか魔族に惚れてるなんて考えもしなかったよ。もうあのバカにはこれ以上付き合いきれない」

「カッカッカ!あのサラに惚れるとはのう。なるほど。だから戦闘狂のサラに付き合ってあの空賊は猛アプローチをしておるわけじゃな。ふ~む。でもサラを落とすのはなかなかに厳しいぞ。竜人族は力こそ全て。まずサラを負かすことができなければ見向きもされんじゃろ」

 サイスはチキンを齧りながらどこか楽しそうに言う。

 以前サラマンダーと対峙した時に、凛々しさを持ちながらも大人の色香を纏った美しい女性だと思った。フォードが惚れるのも無理はないだろう。

 ニコの話では、その一件のせいでほとほと愛想が尽き、カイトとロイド王に報告して戦場を離脱したのだと言う。次回からはフォードの戦場以外に派遣するよう頼んでいるそうだ。

 ジークフリートもサラマンダーを振り向かせるためにフォードが戦っていることを魔王に報告したらしく、今はジークフリートも凪たちの援軍に回っているらしい。

「それじゃあフォードとサラマンダーの戦場は当分当人たちだけで大丈夫ってことだね」

「うん。フォードがサラマンダーに振られて撃沈するまで放置で大丈夫でしょ。僕としてはもう二度と関わりたくないから、そのままサラマンダーに倒されてくれれば大いに助かるんだけど」

「ニコ君……」

 私は苦笑いしながらフルーツを平らげていく少年を見る。

(メルフィナが言ってたけど、本当にニコ君とフォードは相性が悪いなぁ)

「あとそうだ。僕が戦場を抜けた後に吸血王子の軍が大変だったみたい。彼の従弟が機械魔族に洗脳されてたらしいよ。一時戦場が混乱したって。吸血王子が迅速に機械魔族を取り除いて事なきを得たみたいだけど。メルフィナさんと戦ってた悪魔族の子と同じだね」

「あぁ。えりちゃんからも昨日聞いたが、クロウリーめなんて小賢しい機械魔族を作るんじゃ。透過魔法付きというのがいやらしいのう」

「うんうん。とにかくすごい被害が出る前になんとかなって良かったね」

 その後他の戦地の状況をニコから聞きながら朝食を取り終えた私たちは、追手の魔族たちに居場所を特定される前に魔界へと移動するのだった。




 再び魔界へと移動してきた私たちは、獣人族を宥めて回っているレオンと合流すべく移動を開始した。

 私はサイスに手を引かれながら、一緒に浮遊魔法で移動している。

「元々隠密殿様の援軍としてネプチューン軍と戦っていたレオンが宥め役に回っているから、さっきまではなるべく急いだほうがいいかと思ったんじゃが、神の子の話を聞く限り少しくらい寄り道しても大丈夫そうじゃな」

「え?寄り道?」

「レオンの代わりにジークが戦場に派遣されたならしばらく大丈夫じゃろう。獣人族の領域に行く道中に、ちょいちょい寄り道していざこざの仲裁もしておこうかの」

 魔王に命じられた魔界のいざこざを鎮める任務をこなしながらレオンと合流するほうが無駄なく動けていいだろう。私も彼の提案に賛同した。

「いくら魔王を裏で支える死神族だからって、魔王様はいつでも容赦なく儂をこき使い過ぎじゃ。先代様はそんなことなかったんじゃがのう」

「あはは。サイスが優しいから魔王もついつい甘えちゃうんだよきっと。私と一緒。……ねぇねぇ、サイスのその喋り方は大好きだったお祖父さんを真似したものだって魔王に聞いたんだけど、サイスって子供の頃はどんな子だったの?お祖父さんにべったり?」

 私は興味津々で隣を飛ぶサイスに子供の頃の話をねだった。

「魔王様からそんな話まで聞いたのか。恥ずかしいのう。…えりちゃんの言う通り、儂はじいちゃん子だった。母親を早くに亡くしての、父親は父親で子供に興味のないろくでもない奴じゃったから、じいちゃんが儂の親代わりだったんじゃ」

 少し照れくさそうに話し始めたサイスは、それから周りを警戒しながら私に子供時代の頃のことを教えてくれた。



 優しくて穏やかな母親と死神族の繁栄を願う父親との間に生まれたサイスは、母親の父である死神族の長タナトスと四人で暮らしていた。

 父親は死神族の中でも群を抜いた魔力の持ち主で、鎌の扱いも一流だった。次期族長候補としてタナトスからの期待も大きかった。その期待に応えるべく、領域の見回りや鍛錬で家を空けることが多く、専らサイスは母親と祖父に構ってもらっていた。父親に遊んでもらった記憶はほとんどなく、魔法の基礎や鎌での戦い方も祖父に教えてもらい、祖父が実際に戦っている姿を見て盗んだものだった。

「母が亡くなってからは父は家にも寄り付かなくなってのう。一族の方針についてじいちゃんと喧嘩することも多くなったし。いつも他の領域で寝泊まりしていたようじゃ。今思えば、色々と情報収集をしていたんじゃろうな。他の種族の族長を襲撃する際にどのルートで侵入したらいいかとか、追撃された時の身を隠す場所とかな」

「………そんな用意周到に調べて準備してたんだ。本当に魔王になりたかったんだね。それも、死神族の繁栄を願ってたから?」

「死に際にじいちゃんから聞いた話だとそうらしいのう。いくら死神族の繁栄のためとはいえ、それで自分が魔王になるという思考回路になるのが儂は不思議じゃよ。先代様も良き魔王で不満などなかったというのに。本当にろくでもない父親じゃ」

 サイスは苦々しく言うと眉間に皺を寄せた。彼がここまで人に嫌悪感を抱く姿を見るのは初めてだ。本当に父親が大嫌いのようだ。

(まぁ、父親が犯した罪のせいで今も魔族に追いかけ回されてるんだから仕方ないか)

「死神族の繁栄を願っておきながら、結局一族の人の命も刈っちゃったんでしょ。サイス以外。なんか本末転倒な気が…。狙うなら魔王一人だけにすればよかったのに。それに他種族まで手当たり次第命を奪うからこんなに恨みを買っちゃったんだよ」

「確実に先代様を殺すには、たくさんの魂を刈って鎌に力を蓄える必要があったんじゃろ。それに、先代様を殺した後の報復を恐れたんじゃ。先に一通り一族の長を刈っておけば、先代様を殺した後に自分の権限で気に入った者を七天魔に据えることができるからのう。先に殺しておけば反発されることもない」

 サイスの話になるほどね、と私が相槌を打ったところ、前方から複数人こちらに走ってきているのが見えた。目を凝らしてみると、それは魚人族の集団だった。

「あれ。魚人族って獣人族と仲悪いんじゃなかったっけ。なんで獣人族の領域にいるの?」

「あれこそ正に魔王様の言っておる魔界のいざこざじゃよ。大方獣人族の領域を攻めて領土でも拡大しようとしたんじゃろう。でもその前に儂の気配でも感じ取ったから標的変更したというところじゃな」

 サイスと私はその場で止まりこちらに走ってくる連中に備えた。彼は一旦繋いでいた手を放し、下級魔法の術式を展開しつつ鎌を構えた。私も魔法書を取り出していつでも魔法を撃てる準備を整える。

「死神サイス!先代の女王様を殺した借り、息子のお前に返してもらう!」

「我ら魚人族の苦労と怒り、その身を以って味わえ!」

 魚人族の男たちは槍や剣、爪を構えながら突進してきた。

「怒りはわかるけど苦労って?突然女王が死んじゃったから困ったってこと?」

「いや~あれは多分、現女王であるネプチューンが我儘女王だから下々は苦労しているってことじゃろう。その点だけは同情してやらんでもない」

 サイスは接近戦に持ち込まれる前に雷魔法をガンガン撃ちこんでいく。水属性を持つ魚人族は接近するまでにかなりの痛手を負っていた。私もサイスを見習って雷の魔法が載っているページを破って攻撃していく。

 ようやく接近戦になったところで、サイスは鎌を巧みに操り複数人相手に無双する。鎌は本来大振りになって隙ができやすいが、サイスはそれを無詠唱魔法で十分カバーできるので危なげなく戦っている。

 私も役に立とうと魔法で援護するが、結局ほとんどサイス一人で魚人族を倒してしまった。

(砂漠で初めてサイスが鎌と魔法を使って戦った時も思ったけど、メチャクチャ強すぎ。取り囲んでも鎌の薙ぎ払いであっという間に敵は怯んじゃうし、背後から攻撃しても後ろに目があるのか魔法で撃退しちゃうし。さすがは最凶の一族)

 サイスは売られた喧嘩に見事勝利すると、魔法で取り出したロープで全員を拘束した。そして何事かメモをつけると空間転移で彼らをどこかに送ってしまう。

「さっきの人たちどこに送ったの?何かメモもつけてたみたいだけど」

「あぁ。魔王城の大広間に送ったんじゃよ。魔王様に手紙もつけてな。レオンの領域内で悪さをしようとしてたので懲らしめたってな。あとは魔王様が追加でお仕置きしといてくれるじゃろ」

 サイスは鎌の刃をしまうと杖で肩をトントンと叩いた。おじいちゃんの姿をしていた時からよくやっている仕草だ。老人のフリを長年していたせいで癖になっているのかもしれない。以前肩を揉んだことがあるので、サイスが全然肩こり症じゃないのは知っている。

「サイスって本当に強いよね。私の魔法の援護も大して役に立たなかったよ」

「そんなことないぞ。ちゃんと儂の背後を狙う魚人族を優先的に狙ってくれていたじゃろ。すごく助かったぞ」

 肩を落としている私の頭を例の如くサイスは撫でる。

「そうかなぁ。複数人相手でも普通に余裕そうだよね。囲まれても鎌で一閃するとみんな怯んで距離を取るし、サイスの独壇場って感じ」

「死神族の鎌攻撃は普通じゃないからの。儂ら一族の鎌は攻撃すると相手の生命エネルギーを吸い取ることができるんじゃ。だから敵は攻撃を喰らうと体から力が抜けて脱力する。それをえりちゃんは怯んだように見えたわけじゃな。儂の持つこのソウルイーターは一族の長が代々継承するもので、これは生命エネルギーだけでなく魂も刈れる優れものなんじゃよ」

「あぁ、魔王からもその話聞いた。生命力を削る力を持ってるって。さっきのがそうなんだ。え、でも生命力を削るって、あの人たち大丈夫なの?死んじゃったりしない?」

 私が不安を覗かせると、サイスは笑い飛ばして心配ないと言った。

「あの程度の生命エネルギーを吸い取ったくらいで死んだりせんよ。それに生命エネルギーは良く食べて良く寝れば翌日にはすぐ回復する。よほど吸い取らん限りは大丈夫じゃ」

「そうなんだ。良かった」

 サイスは頭を撫でるのを止めると再び私の手を取って移動を再開した。




 道中領域を荒らす魔族たちを懲らしめながら進む中、私はサイスの昔話を喜んで聞いていた。

 本当に筋金入りのおじいちゃん子で、一族からの人望も厚く、強くて優しい祖父に憧れていたそうだ。祖父のやることをすぐ真似したくなる子だったそうで、それでよく母親を困らせていたと言う。



『うわ~!すごいよじいちゃん!どうやったの今の魔法!ねぇ、母さんも見た今の!』

『えぇ、ちゃんと見ていたわ。大興奮ね、サイス。……でも父さん、サイスにはまだ超級魔法を見せるのは早いわ。まだ下級魔法をマスターしたばかりじゃない』

『なぁに。サイスは儂に似て筋が良い。あっという間に上級魔法まで使えるようになるじゃろう。そうしたら超級なんてすぐじゃすぐ』

 自分に懐く孫が心底可愛いのか、タナトスは浮かれた様子で娘に答える。

 母親が呆れて祖父に何やら小言を言っている間に、サイスは今見た光景を忘れぬうちに自分なりに術式を組み立てていく。そして父親譲りの豊富な魔力を駆使して見よう見真似で魔法を放った。

 独自に組み立てたサイスの魔法はもちろん失敗し、自分の両腕ごと凍らせる高威力の氷魔法が発動した。前方の一帯が氷漬けになり、威力だけは祖父に見せてもらった氷魔法に似ていた。

 母親は一瞬言葉を失くした後、烈火の如くサイスを叱りつけた。

『何をやっているのサイス!おじいちゃんの真似をして無茶をしてはいけないとこの前も叱ったばかりでしょう!この間も鎌の大技を見よう見真似でやって怪我をしたのに!』

『だって忘れないうちに試してみたかったんだもん。見てすぐ試せば案外できるかもしれないし。ねぇじいちゃん!今のどうだった?』

 サイスは火の魔法を使って腕の氷を溶かしてくれている祖父に訊ねた。

『フォッフォッフォ。威力はまぁサイスにしては申し分なしじゃな。あとはきちんと制御することと狙いを』

『父さん!ここは叱るところだってば!これ以上サイスを甘やかさないで!いつか本当に大怪我しちゃうわ』

『そんなに心配せんでも大丈夫じゃ。サイスは賢い子じゃからそこんところの加減はわかっておるよ。のう、サイス』

『もっちろん!将来はじいちゃんみたいな族長になるんだから、こんなことで大怪我なんかしてらんないよ』

 祖父の真似をして一緒にフォッフォッフォ、と笑う祖父と孫に、母親は頭に手を当てて大きくため息をつくのだった。



 サイスの話を聞き、私は声を出して笑った。

「サイスも昔は魔法で失敗することあったんだ!自分の腕まで凍らせちゃうってすごいね!」

「あの時は威力重視に術式を割り振りすぎたからのう。直前に見たじいちゃんの氷魔法が凄すぎてイメージが引っ張られてしまったわい」

「しかも鎌の大技も真似して自分の足斬っちゃうって、そりゃあお母さんも心配して怒るよ」

 私は子供の時のやんちゃサイスを頭に思い浮かべる。男の子はよく子供の頃に無茶をして怪我をするものだが、サイスの怪我の仕方はちょっと次元が違う。母親は苦労したことだろう。

「じいちゃんは儂の憧れじゃったからの。見るとついつい真似したくなるんじゃ。母にはずいぶんと心配をかけたが、今の儂の強さがあるのは間違いなくじいちゃんのおかげじゃ。とても感謝しておるよ」

「……そうだね。私もサイスのお祖父さんに会ってみたかったな」

「そうじゃな。儂もえりちゃんをじいちゃんに紹介したかったのう。こんなに優しくて可愛い友達ができたんだって」

「か、可愛くは、ないけど…」

 私は照れてもごもごと否定した。


 その後も休憩と戦闘を繰り返しながら移動を続け、サイスの昔話はタナトスが亡くなってからの話になった。

 父親と相討ちになったタナトスを先代魔王が密かに埋葬した後、サイスは先代魔王に引き取られた。その頃はまだリアナ姫はもちろん現魔王も生まれておらず、サイスは先代魔王の遠縁という形で魔王城に居候していた。死神族とバレたら各種族から命を狙われる恐れがあるため、普段から老人の姿で生活していた。



『……なぁサイス。その爺さんの姿止めねぇか。その年で青春捨てんの早くねぇ?』

『別に青春を捨てたわけではないぞ。儂はただじいちゃんの最期の言葉を守って自衛に努めているだけじゃ。…そんなことより魔王様、儂なんかに毎日構っている暇があったら各種族のごたごたの対応にあたってくだされ。族長を殺された種族が多く、各領域で混乱が続いているんじゃろう。このままではまた戦争期に入ってしまうぞ』

 サイスは面倒見が良くて強くて他種族から人気のある魔王をたしなめる。青年である魔王より実際はずいぶんと年下なのだが、老人の姿をしているとついつい祖父の真似をして説教をしてみたくなる。

 タナトスは生前魔王の良き相談相手となっており、サイスも祖父にくっついて魔王城には良く来ていた。そのため、魔王が祖父に説教される場面も何回か見たことがある。

『中身は子供のくせに偉そうなこと言いやがって。タナトスの真似してんじゃねぇ』

 魔王は軽くサイスの頭を小突く。

 サイスも本当は一人ぼっちになってしまった自分を気遣ってわざわざ魔王が顔を見せに来てくれているのはわかっていたが、これ以上魔王の負担になりたくないと思っていた。魔王城に居候させて保護してくれただけでも十分ありがたいのに、こう毎日自分のために時間を割いてもらうのは申し訳なかった。

『お前はまだまだ子供なんだから、背伸びなんてせずに甘えてりゃあいいんだよ。俺もタナトスにはずいぶん支えてもらったし、あいつの大事な孫だから大事に育ててやるよ。…その代わり、大きくなったら今度はお前が俺を支えてくれよ。ついでに俺に子供ができたらそいつも』

 魔王はニシシッと笑ってサイスのフードを取って頭を撫でた。戦場では鋭い目つきで勇猛果敢に戦う魔王だが、普段は良く笑う人柄の良い青年だった。

 サイスは精一杯涙を堪えながら魔王の優しさに感謝すると、強い決意を持って魔王に頷き返した。

『わかったぞ。もっと力を付けてじいちゃんのように強くなったら、立派な死神族として魔王様を裏で支えてみせる!魔王様の子供も儂が守るんじゃ!』

『はははっ!楽しみにしてるぜサイス!…ところで、その言葉遣いも止めたらどうだ。じじ臭いぞ』

『じじ臭くてもいいんじゃ!将来儂はじいちゃんのようになるんじゃからの。形から入るのも大事じゃ』

『子供の考えだなぁ。タナトスが目に入れても痛くないって言ってたが、本当にじいさん子だな』

 魔王はフードを被り直して老人化したサイスを呆れて見下ろすのだった。



 その後成長したサイスは、先代の魔王との約束を果たしてずっと影で彼を支え続けた。それは代替わりして息子のフェンリスが魔王を継いでからも続いている。

「先代の魔王はすごい良い人だね~。子供の頃のサイスが一人ぼっちにならなくて本当に良かった!」

「先代様は儂を息子というか弟のように可愛がってくれてな、そのおかげで儂は特に捻くれることもなく成長できたんじゃ。本当に感謝しかない。だから、先代様をお救いできなかった今、儂は魔王様を必ずお守りして支えねばならん。それが約束じゃからな」

 サイスは私と繋いでいない方の手をぐっと握る。

「…でも、それにしてはいつも魔王にこき使われてるって嘆いてるよね。約束を守るためにも弱音を吐かず頑張らなきゃ」

「だって魔王様ときたら本当に儂に容赦がなさすぎなんじゃ。子供の時から傍にいるせいか儂には遠慮がないんじゃよ。えりちゃんの前でくらい愚痴をこぼしたくもなるわい」

「あははは。まぁ、遠慮がないってことは家族みたいに思ってるってことだから、嬉しいことだと思うよ。サイスのことは私が支えてあげるから頑張って!」

「えりちゃん…!持つべきものは友達とはよく言ったもんじゃな」

 サイスは目をキラキラさせながら私に熱い眼差しを送る。

 私との友情ですっかりご機嫌なサイスは、今度は私の子供時代の話を聞きたいとねだってきた。私はサイスに求められるまま、照れながらも昔の話を話して聞かせるのだった。




 レオンの治める領域は草原と荒野が広がる地帯で、魔界の中でもかなり広い部類に入る。元々獣人族の人口は魔族の中で一番多く、ちょうどそれに見合った広さになっている。

 私たちはオスロであらかじめ買っていた昼食を取ると、良い風が吹き抜ける草原を飛んで駆け抜ける。

「レオンの気配がだいぶ近くなってきたのう。もうすぐ合流できるはずじゃ。おそらくこの先にある戦の跡地におるんじゃろ。あそこなら集まるのに良い目印になるからの」

「戦の、跡地?」

 風になびく髪を押さえながら私はオウム返しに訊ねる。

「魔界で戦争をしていた時に獣人族と竜人族がド派手にやり合った戦地じゃな。ここはこの通り草原なんじゃが、その一角だけ竜の息吹で焼き払われて今も草も生えない土地になってるんじゃ」

「へぇ~。でもよく獣人族は戦ったね。どう考えても空を飛べる竜人族の方が有利じゃない?空からいくらでも攻撃できちゃうじゃん」

「まぁ、獣人族はそもそも魔法を使うのが苦手じゃからのう。浮遊魔法を使える者も限られておる。ケルは本来の姿である獣化をすれば浮遊魔法を使えるが、レオンは逆立ちしても無理じゃからな」

 私はケルの獣化した姿を頭の中で思い出す。確かにケルはスイスイ空を飛んでいた。しかしそれ以外の場面で魔法を使っているところは見たことがない。

「それでも獣人族は竜人族に負けず劣らず喧嘩好きじゃ。特に強者と戦うのが三度の飯より大好物。竜人族も卑怯な戦い方は好まんからの、当時は極力竜化をしないで戦争していたぞ」

「なんか魔族って、好戦的な種族が多くない?争いを好まないのって植物人くらいじゃん」

「カッカッカ!基本的に戦って己を磨いていくのが魔族じゃからのう。戦わなければ強くもなれんし、一族の中でも発言力を持てん。こういうところは人間とちょっと価値観が違うかもしれんのう」

 魔族社会は年中私の世界で言うところの戦国時代のようだ。強い者に人望が集まり、発言力が強まる。たとえこの世界の戦争が終わってもその価値観は揺るがなそうだ。

「…レオン以外にもかなりの数の獣人族が集まってそうじゃのう。こりゃあちと和解するのは苦労しそうじゃ」

 サイスは魔力探知でおおよその人数を把握すると、途端に表情を曇らせた。

 気を重くしているサイスを励ましながら、私たちはレオンのいる戦の跡地に向かった。




 レオンの怒鳴り声と交戦している音を聞きつけ、私たちは急いで戦の跡地へと飛び込んだ。見てみると、レオンが獣人族の年長者から中年層を相手に大暴れしていた。若い衆は今凪たちの戦場に援軍に行っているため、ここにいるのは古株ばかりだ。

 私はてっきりサイスの追手に回ろうとしている獣人族を説得しているのかと思っていたが、どうやらそんな穏やかな話じゃないようだ。

 レオンは代わりばんこに群がる同族を千切っては投げ、千切っては投げている。囲われているがリンチに遭っている訳ではないようで、みんな順々にレオンに挑んでいるようだ。

 私はどういう状況か分からず、隣にいるサイスに状況説明を乞う。

「多分レオンは口で説得するのが苦手だから、文句がある奴は自分を倒してみろ戦法でいってるんじゃろう。あれじゃあいつまで経っても戦場に戻れんぞレオンは」

「あぁ~、レオンさんて見るからに口より先に手が出るタイプだもんね。それで、これからどうするのサイス」

「ひとまず割って入るしかないじゃろうな。終わるまで待っていたら日が暮れてしまう。何しろ倒されても何度でも挑む輩がいそうじゃからな」

 浮遊魔法で一度上空に飛んだ私たちは、そのまま一気に中心地にいるレオンの傍に着地した。突如乱入してきた私たちを見て、獣人族たちは一旦動きを止めた。

「おぉ?嬢ちゃんじゃねぇか!こんなところで何してんだ?確か魔王様の話だとじーさんの手助けに……、まさか、その隣の優男がじーさんか!?」

「ピンポーン!正解じゃ!レオンにしては鋭いのう」

「全然じーさんじゃねぇじゃねぇか!俺より若いんじゃねぇか!?」

 大柄なレオンはサイスを見下ろしながら指をさす。周りを取り巻く獣人族たちもざわざわと騒ぎ始めた。

「見た目はそう見えるかもしれんが、レオンと同世代くらいじゃよ。死神族は長命じゃからな。……それより、話して説得するのを早々に諦めて実力行使に出たんじゃろう。この人数相手にようやるわい」

 サイスが周りを見渡すと、目が合った獣人族たちは次々に殺気立ち始めた。すぐに空気がピリつき始める。

「ガハハハハ!結局のところこっちのほうが手っ取り早いからな!」

(メッチャ脳筋的な考えだぁ)

 私は豪快に笑うレオンを生暖かい目で見守る。

「族長!そいつが先代を殺した大罪人の息子だろ!今こそ先代の無念を晴らし、仇を取る時だ!」

「責任を取る本人がいない今、この際息子でもいい!きっちり落とし前つけてもらおうぜ!」

 先代の族長を知る古参の獣人族たちは、口々に物騒なことを言い始めた。突き刺さる悪意に怖くなり、私はサイスの腕にぎゅっとしがみつく。

「困ったのう。儂はレオンに加勢して穏便に話し合いに来たんじゃが」

「…………。お前ら!獣人族の掟を忘れたか!強者が全て!弱き者は強者に従う!強者は弱き者を助け支えるべし!先代は強かった!だが、更に強い者に敗れた。こいつの親父にな。殺されたからと言って、人の喧嘩に外野がいつまでもあれこれ口を挟むべきじゃねぇ。強者が全てだ!弱い者は敗れる!文句が言いたきゃあ誰よりも強くなれ!それが獣人族だ!」

 族長らしく宣言するレオンに、私は心の中で拍手を送った。サイスもニコッと笑っているので見直しているようだ。武力じゃなくて口でも説得できるじゃないか、と。

「そういうわけで、弱いお前たちに代わり、この俺様がじーさんに挑んでやろう!無論、本気でな!」

 レオンは目をギラつかせると、左手の鋭い爪を光らせ、両方に刃がついている巨大なバトルアックスを右手で構えた。

 サイスは引きつった笑みに変わり、私は驚きに目を丸くした。

「ちょ、ちょっと!なんでそうなっちゃうの!?」

「嫌な予感はしたんじゃ。強者と戦うのが好きなレオンのことじゃから、儂の正体を知ったら喜んで挑んでくるじゃろうなと」

「へっへっへ!よくわかってるじゃねぇか!安心しろ!もし負けても命までは取らねぇよ!百年ほどその得意な魔法で獣人族に色々と奉仕してくれりゃあいい」

「魔王様の面倒を見るだけでも大変なのに、獣人族の面倒までは見きれんわい!絶対に負けられんのう。えりちゃん、危ないから少し下がっていてくれ」

 私が他の獣人族たちと一緒に十分に距離を取ると、サイスとレオンは同時に距離を詰めて戦い始めた。



 レオンが巨大な斧を持っているため、サイスも魔法ではなく鎌主体で戦う。斧は巨大な分振り回す際に大きな隙ができるが、レオンは空いている左手の鋭い爪で常にサイスの首を狙っている。一撃で喉元を裂き、勝負を決定づけようとしているようだ。殺す気はないと言っていた割にかなり本気できている。

 私はハラハラしながら二人の一騎討ちを見守った。

「どうしたじーさん!お得意の魔法は撃たねぇのか!手なんか抜かずに本気で来ていいんだぜ!」

「ここでお前さんたちの苦手な火の魔法なんか使ったらブーイングの嵐じゃろう。アウェーの地でそんな馬鹿な真似はせんよ。良い機会じゃから今回は鎌だけで圧倒してやろう」

「へっ!スゲー自信だな!お手並み拝見だ!」

 レオンは何百キロもありそうな斧を軽々と振り回すと、ヴォッという風を切る音を響かせながらサイスに連撃を繰り出す。サイスは鎌でその攻撃をいなしながら、手元で鎌を持ち替えたり手首を返してくるっと回転させて自らも急所を狙った攻撃をし返す。

 両者一歩も譲らぬ攻防に、外野の観戦者は瞬きをすることも忘れて戦いに見入った。

 どちらかというとサイスは中距離レンジで戦う武器なので、鎌の振り回しやすい間合いに持っていこうするのだが、戦いの巧者のレオンはそれをさせまいとずっと距離を詰めて休まず攻撃を続けている。

 得意の無詠唱魔法で緩急をつけて戦えばもっと楽に戦えるのだろうが、サイスは正々堂々真っ向から戦って勝利するつもりのようだ。

 若干押され気味になってきたサイスは上手く鎌を振り回すことができず、威力の高い斧の攻撃を確実に防いで、爪の攻撃は急所を避けるだけになった。次第にあちこち血を流し始め、できることなら私は魔法で加勢したいくらいだった。

(どんどん傷が増えていく…。まさか負けちゃったりしないよね、サイス……)

「頑張ってサイス~!負けないで!」

 手出しできない代わりにせめて声援だけでも届けようと、私は声を張り上げて応援した。すると、周りにいた獣人族たちが私をジロッと睨み、対抗してすぐさまレオンを応援し始めた。

「お~お~。盛り上がってんなぁ~。じーさんの応援は嬢ちゃんだけか」

「完全アウェーだとしても、えりちゃん一人の応援があれば儂には十分じゃよ!」

 鎌と斧が思い切りぶつかり合い、小さな火花が散る。ギリギリと刃同士で押し合いになるが、獣人族であるレオンの方が力勝負では分がある。レオンは両手に持ち替えて一気に押し込もうとする。

「…レオンよ。そんな不用意に長く儂の鎌に接触していていいのか。遠慮なくたくさん吸わせてもらうぞ!」

 サイスはそう言うと、鎌に魔力を込めた。鎌は紫色の怪しい光を宿すと、接触しているレオンの力を奪い始めた。

「む!?生命力を、吸われてる!?」

 レオンは咄嗟に離れたが、それでも一瞬全身から力が抜けたようだ。巨躯がぐらっと傾く。もちろんその隙をサイスが逃すはずもなく、鎌を一度振りぬいて胴体を横に斬り、鎌を一回転させてもう一度縦に一閃した。

「カッカッカ!油断したのうレオン。死神族と戦闘する機会がないから頭からすっぽ抜けておったようじゃが、死神族と戦う時は極力接触は厳禁なんじゃよ。刃を交えたそばから生命エネルギーを吸われるからのう。昔は常識だったんじゃが、忘れておったようじゃな」

「そういやそんな常識があったな。昔のことなんですっかり頭になかったぜ」

 レオンは斬られた腹部を押さえながら牙を剥き出して笑う。足に力が入っておらず、まだ生命力を奪われた脱力感が抜けていないようだ。

「さて、これで決めさせてもらうぞレオン。覚悟はいいな」

 サイスは鎌を後ろに引いて構えると、大技を繰り出す素振りを見せる。

「覚悟だと?全部凌いで逆転の一撃を喰らわせてやらぁ!」

 レオンは防御の構えを取り、防ぎきってカウンターに賭けるようだ。

 サイスは目を鋭くさせて真剣な顔つきになると、鎌を手元で回転させながら絶好の間合いに入った。鎌の回転を利用しながら両腕で防御するレオンを何度も斬りつけると、今度は柄の方で突きを繰り返し相手の態勢を崩す。追い打ちをかけるように回し蹴りを二連続でお見舞いして上に突き上げると、弧を描くように鎌で更に上へと斬り上げる。浮遊魔法で最後にレオンの頭上に飛び上がると、体ごと二回転して縦に斬り伏せた。

 地面に倒れ込んだレオンは反撃に打って出るほどの余力は残っておらず、最終的に膝をついた状態でサイスに鎌を突き付けられた。

「どうじゃ!これぞじいちゃん直伝、弧閃連昇斬じゃ!」

 サイスは少し子供っぽくニカッと笑うと、嬉しそうに祖父譲りの技を自慢した。

 一度も動きを止めず、流れるような一連の動作に、私は応援することも忘れて口を開けたまま魅入ってしまった。

「あの技は死神タナトスの十八番!久しぶりに見たな!」

「すごい技の練度。見事だったな!」

 獣人族たちはこぞってサイスの技のキレを褒め、称賛した。素人の私の目でも洗練された鎌捌きだったと思うほどなのだから、とてもすごい技なのだろう。

「これで勝負あり、じゃな。さすがはレオンじゃ。なかなかしぶとかったぞ」

「クッソ~!負けちまったかぁ!イイ線いったと思ったんだがなぁ!さすがは最凶の一族!魔王様と肩を並べるだけはあるわ」

 レオンは心の底から悔しがりながらもサイスの強さを称えた。サイスは血を流して膝をつくレオンに手を差し伸べると、ついでにジャック御手製の傷薬も手渡した。

 傷を治療する族長を見ながら、獣人族たちは落胆の表情を浮かべる。

「やっぱり最凶の一族は伊達じゃないな。当時は子供だったから、最後の生き残りで強くなる機会もなく弱っちい奴なのかと思っていたら、普通に強かったな」

「族長もネプチューン相手だったら怒ってもう一段階強くなるんだけど、完敗だなぁ」

 族長が倒されたことで、反発していた獣人族たちは大人しくなっていった。掟通り強者が全てということで、仕方なく納得したようだ。これでサイスは命を狙われずに済むだろう。

「これで一件落着、かな」

「負けちまったもんわ仕方ねぇさ。…族長の俺が負けたんだ!お前らが命を狙っても取れるはずねぇよ!金輪際、じーさんの命を狙った者はこの俺が罰する!わかったな!」

 レオンの呼びかけに、獣人族たちは潔く返事をする。皆大変聞き分けが良くて助かった。

 私はあちこち怪我を負ったサイスの手当てをしながら、ほっと一安心する。

「あ、でも、敵討ちとか無しに普通に手合わせしてほしいんですけど。こんなに強い人とやれる機会なんて滅多にないし。強くなる良いチャンスだしな」

「それなら俺も!強い奴と戦わないといつまで経っても強くなれないしな!いつもの面子で修行するのもいい加減飽きてきたし」

「手の内がわかってるから修行にならないんだよなぁ」

 だんだんと雲行きが怪しくなっているのを察したのか、サイスは逃走の準備を密かに始める。

「よっし!それならまとめて相手してもらうか!命のやり取りじゃなく手合わせなら何の問題もないだろ!いいよな、じーさん」

「いいわけないじゃろう!結局全員と戦う羽目になっとるじゃろうが!和解は済んだんじゃ。儂たちはもう次に行くぞ」

「そう硬い事言うなよ。戦って嬢ちゃんに良いところを見せるチャンスだぞ」

「それとこれとは話が別じゃ」

 レオンに言いくるめられぬようしばし抵抗を続けていたサイスだったが、いつの間にか獣人族たちが列をなして戦う順番待ちをしてしまったため、最終的に観念するしかなかった。

「これだから好戦的な獣人族は…。相手をするのはいいが、途中クロウリーの追手が来た時は責任を持ってレオンが追っ払うんじゃぞ。呼び止めたのはそっちじゃからな」

「わぁーってるよ。そのくらいいくらでもぶっ倒してやるって」

「私は引き続き応援してるからサイス。無理せず頑張ってね」

 私の声援があればいくらでも戦える、と言ってサイスは半ばヤケクソ気味に獣人族たちの手合わせに入った。

 その後日が沈むまでサイスは獣人族相手に無双し続け、夜はレオンに集落まで招待されて、久々に私たちは大人数でワイワイと食事を取った。こうして死神族と獣人族の間のわだかまりは無事解消されたのだった―――。


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