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第二幕・第三話 女の魅力の戦い

 人間界のユグリナ王国の城に、数人の星の戦士たちが集まっていた。今城の貴賓室には、星の戦士のリーダーを務めるカイト、癒しの聖女セイラ、ヤマトの国の殿である凪武之、異世界より召喚されし佐久間勇斗、神の子と呼ばれし強運の持ち主『ニコ』、『魅惑の踊り子』と称され砂漠の街に住む『メルフィナ』、そしてユグリナ王国国王『ロイド』が一堂に会していた。

 それぞれ遠方にいる星の戦士たちが今日この場に集まっているのは、カイトとロイド王の名で緊急招集をかけたからである。

「まったく。わざわざこのアタシが時間と労力をかけて来てるっていうのに、またあの空賊と自己中王は来てないの」

 踊り子の衣装に身を包んだメルフィナは不満を露わにした。

 メルフィナは大きなオアシスのある砂漠の街『ルナ』出身で、いつもルナ近郊で魔王軍と交戦している。ユグリナ王国とルナはとても距離が離れており、今日も飛空艇に乗ってここまで来ていた。

「どうせ二人は今日も通信で会議に参加する気なんでしょ。はなからあの二人には期待してないし。というか、居たら居たであの二人はすぐ揉めるから、通信越しの方がかえって楽だよ。喧嘩止めたい時は通信切っちゃえばいいだけだし」

 そう言って、最後に貴賓室に入ってきたニコは椅子の背もたれに厚い上着をかけて座った。

 ニコは星の戦士最年少メンバーで、まだ十二歳の少年だ。普段は一年の内四分の三雪が降っている地域にある『オスロ』という街に住んでいる。オスロもまたユグリナ王国から遠く離れており、ここまで船と飛空艇を乗り継いで来ている。オスロ周辺は雪に包まれているため娯楽が少なく、外で長時間遊ぶこともできないためカジノが栄えた街だ。ニコは星の戦士の力を授かる前から神の子と噂され、絶対的強運を持つことから今まで賭け事で負けなしだった。

 雪国で被られる黒のフォックスファーを取ったニコは、部屋の壁に掛けてある通信モニターを見て言った。

「二人との通信の準備は整ってるの?」

「あぁ。先ほどガイゼル王の準備も整ったので、いつでも始められる」

 カイトは貴賓室で各々寛いで座る面々を見回した後、己の立つ隣で座っているまだ若きロイド王に声を掛けた。

「では王様、お願い致します」

 カイトの会釈を受け、ロイド王は口を開いた。

「ガイゼル王、凪殿、星の戦士たちよ。今日は戦の最中集まっていただき感謝する。魔族たちとの戦いが激化し、各々自分たちの戦場が気になるであろう。今日は急ぎ本題に入らせてもらう」

 ロイド王が話し始めると、すぐに壁にあるモニターに映像が映し出された。大きなモニターには二人の人物が映し出されており、真ん中で映像が区切られ、右には緑の髪にシルバーのゴーグルを頭に乗せているそこそこ若そうな男。左には王冠を乗せて豪華なマントと衣装に身を包んだ、見るからに気難しそうな五十代の大柄な男が映っている。空賊の頭フォードとガイゼル王だった。

「まったくだぜ!こちとら今もサラマンダーとの戦の最中で、こんなのんびりお喋りしている暇なんてねぇんだよ!たいした話じゃなかったらブッ飛ばしに行くからなぁ、ロイド王よぉ~。俺たちゃ相手が王だろうと関係ねぇからな」

 フォードがモニター越しに凄むと、周りから子分のイキがる声も続いて聞こえる。フォードはいつも自分の飛空艇の一室で手下と共に通信している。そのため、今のような子分が周りで騒ぐことがしょっちゅうある。

 そもそもこの通信機器はフォードたちが防衛しているマシックリックで発明されたもので、魔晶石を用いた機械開発が世界で一番進んでいるのもマシックリックだ。その分野で右に出る国はなく、今や優秀な技術者たちはこぞってマシックリックに移り住んでいるくらいだ。特に飛空艇の進化が目覚ましく、どこの国も今はマシックリック製の飛空艇を使用している。閉鎖的で知られるアレキミルドレア国も、マシックリックの通信技術や飛空艇だけは取り入れているほどだ。

「おいフォード!相変わらず王様に対して無礼だぞ!」

「あぁ?そっちも相変わらずうるせぇな熱血野郎!リーダーぶってんじゃねぇぞ!」

 そうだそうだ、とモニターの向こうから子分たちが頭に加勢する。毎度のことらしく、女性陣はため息をついて目を閉じる。カイトは王の御前ながら苛立ちを募らせていく。

「何の話か知らないけど、もうフォードはいなくてもいいんじゃない。うるさいし通信切っちゃえば」

「おいこらクソガキ!聞こえてんぞ!あんま舐めた口きいてっと、次対面した時に痛い目みるぜ」

「……じゃあ次に会う前に痛い目みせてあげる。嫌な予感するから、そろそろ気を付けたほうがいいよ」

 ニコの言葉に、全員がギョッとした顔で彼を見る。そしてすぐにモニターのフォードを気の毒な目で見た。

「お、おいやめろ。お前のその予言じみた言葉。お前がそう言う時は本当に嫌なことが」

 フォードが最後まで言い終わらぬうちに、モニターの向こうから爆発音が聞こえた。そして画面が大きく揺れ、フォードや子分たちの慌てふためく声が聞こえる。

「お頭~~!左翼が被弾しました!やべぇッス!」

「マジかよ!?クッソ!戻ってきたら覚えてろよクソガキ~!!」

 まるで三下の捨て台詞のようなことを言い残すと、フォードは通信を切断して事態の処理に向かっていった。

 通信が切れたことで、貴賓室は一気に静寂を取り戻した。

「本当にすごいッスね。あのニコの予言というか、危機回避能力。あれで凪さんも何度か救われてるんスよね」

 ニコの特技を目の当たりにし、黒の短髪で学ラン姿の佐久間勇斗は隣にいる殿様に訊ねた。

「うむ。ニコ殿はすごい強運の持ち主でもあるが、危機回避能力もずば抜けているでござる。虫の知らせという言葉があるが、ニコ殿は嫌な予感を直感的に感じ取ることができる。それ故賭け事でも嫌な予感がする勝負や手札を前もって避けられるらしい」

 黒の長髪を一本に結い上げている凪武之はそう答えた。

 凪はここにいるメンバーの中で一番背が高くスラッとしている。年の頃はフォードより少し上で、三十を少し過ぎたところだ。武者が着るような甲冑ではなく、侍が着るような着物に刀を二本差していた。隣に腰掛ける高校生の佐久間も、ズボンのベルトにうまい具合に刀を一本差している。

「それじゃあ静かになったことだし、早速本題をどうぞ」

 ニコは用意されていた茶菓子に手を伸ばしつつロイド王に話を促した。



 軽い咳払いをした後、ロイド王は隣にいるカイトに一度目配せをしてから話し始める。

「今日皆に集まってもらったのは、とある筋から戦を左右するほどの重要な情報を得たからだ。……単刀直入に言おう。我々の中に魔族と通じている者がいる」

 ロイド王の発言を受け、星の戦士たちに緊張が走る。始めから事情を知っているカイトとセイラを除いた者が一様に驚きの表情を浮かべている。

「それは誠かロイド王。拙者たちの中に裏切者がいると?この場にて発言すると言うことは確かな情報でござろうな」

 凪が改めて確認するようにロイド王に問いただす。全員が口々に反応を示す中、カイトが注意深くそれぞれの反応や変化を観察する。

「…正直な話、儂もこの話を聞いた時は半信半疑だったが、もしこの話が事実だった場合、我々人間はかなりの窮地に立たされていることになる。この世界の命運をかけて戦いを指揮している者として、常に最悪の事態を想定せねばならぬ。だから今回は忙しい最中、皆に時間を作ってもらったのだ」

 険しい表情のロイド王を見て、ただ一人を除いて皆深刻な表情を作る。

「緊急の会合というから何かと思えば、そんな馬鹿げた話をするためにワシの貴重な時間を取らせたのか」

「馬鹿げた話、だって。それはどういう意味ですかガイゼル王」

 貴賓室にいる全員が深刻な表情を浮かべる中、ガイゼル王だけはモニターの向こうで椅子にふんぞり返って迷惑そうな顔をしている。

 カイトは自分の主君を軽んじているガイゼル王に冷静に問いかけた。

「馬鹿げた話だろう。そんな根も葉もない情報に惑わされおって。魔族側が我々人間を混乱させ、疑心暗鬼に陥らせる作戦だろう。そんなこと子供でもすぐ分かることだ」

「ガイゼル王が仰ることは重々承知しております。確かに儂も、ただ星の戦士と魔族が通じているという話だけならそこまで深刻に捉えなかったが、この戦争を仕組んだのが魔族と結託した人間と聞いてはな」

「魔族と人間が結託して戦争を引き起こした!?それはどういうことでござるか」

 人間が魔族と通じているだけでも信じられない話であるのに、そのうえ今起きている戦争が実はその者たちが引き起こしたものと聞いて、初耳の戦士たちは大きく動揺を示す。

「わざわざ僕たち全員を集めたんだから、ただ内通者がいるって告発だけじゃないとは思ったけど、まさかこの戦争を根本から覆すような話になるとはね」

「ちょっとちょっと~、本気で言ってんの?その話が本当なら、アタシたちかなり前から嵌められてたってことじゃない」

 ニコに続きフェルミナが声を上げた。二人はガイゼル王のようにこの問題を軽視せず、ひとまずロイド王の言葉を受け入れているようだ。

「人間と魔族が協力して戦争を引き起こしたって、一体何で。お互いに何かメリットがなきゃそんなことしないッスよね?」

「あぁ。勇斗の言う通り、双方手を取り合ったということはメリットがあったということでござろう。ロイド王、それについての情報は掴んでいるのでござるか」

 凪に問われたロイド王は大きく頷くと、今回掴んだ情報の全てを語り出した。

「人間と魔族の共謀について話す前に、まずは新しくもたらされた魔王軍側の内情を説明しよう。魔王軍はどうやら魔王派と反魔王派に派閥が分かれているらしい。戦争が始まって以来我々は気づきもしなかったが、向こうでは内部分裂が起こっているようだ。そして星の戦士と手を組んでいるというのは、この反魔王派の者だ。儂も初めて聞いた時は信じられなかったが、この戦争は反魔王派の中心人物が現魔王を葬って自分が魔界の王となるために企てたものらしい」

 ロイド王が説明している中、モニターの向こうではガイゼル王が目に見えて不機嫌になっていた。宝石が散りばめられた金色で煌びやかな椅子に腰掛けているが、その肘掛けを苛立たし気に人指し指でトントン叩いている。

「ただ、自分一人の力では魔王を葬るのは難しいと踏んで、人間側を巻き込もうと思いついたようだ。幸い先代魔王の妻は人間だった。妻を人間に殺されたと知れば、先代魔王は人間を強く憎み、戦争へと発展する。そして人間側と相討ちすれば、簡単に魔王の座を奪うことができるという寸法だ」

 ロイド王の話にじっと耳を傾けていたニコが、ここで一旦口を挟む。

「待って。確か先代魔王はキナリス国に住んでいた貴族の娘を無理矢理妻にしたって僕は聞いたけど。アレって魔王を恐れて娘が勝手に魔界から逃げ出して、それに腹を立てた魔王が追いかけて来て殺されたんじゃなかったっけ」

「そうそう。アタシもそう聞いたわよ。しかもその娘だけじゃなくて、国ごと滅ぼされたのよね。それでアタシたち人間ももう黙ってられないってことで戦争に発展したんじゃなかった?始まってからもうすぐ七年だけど、確か当時はそう聞いた気がするわ」

 メルフィナは色黒の肌によく映える、ポニーテールにした白い長髪を指で弄びながら答える。彼女の話を聞き、凪も当時を思い出しながら口を開く。

「拙者もメルフィナ殿の言う通り、当時そう報告を受けたでござる。拙者はその時にはもう星の戦士の力を授かっていたから、急ぎ国の防衛に取り掛かった記憶がある。……キナリス国に一番近かったのはアレキミルドレア国だったでござるな。ディベールもそう遠くない。当時はどうだったか覚えているでござるか。ガイゼル王、セイラ殿」

 凪に話を振られ、ガイゼル王は鼻で笑い、セイラは胸の前で手を組み当時を思い出す。

「フン。ワシは臣下の者から西の空が赤く燃えていると報告を受け、偵察部隊を送ったところ、キナリスの街が魔族に攻め滅ぼされたと聞いたのだ。その後近隣諸国も襲われる可能性があると見て、一応各国にも使者を出してやったのだ」

「おぉ、そうでござったな。あの時はアレキミルドレア国の使者より報告を受けたのでござった。それじゃあ、ガイゼル王も偵察部隊の報告を受けて惨状を知ったのだな」

 念を押すように繰り返す凪に、ガイゼル王はうっとおしそうに相槌を打つ。そして次に記憶を掘り起こしたセイラが口を開いた。

「わたくしは当時まだ十一歳で、星の戦士の力にも目覚めていなければ、大聖堂勤めでもありませんでした。聖職者学校に通う学生で、キナリス国については大司祭であるお父様から聞きました。隣国が邪悪な魔族に襲われたので、聖なる祈りの力で魔族を退けなければならないと」

「ハッ!聖なる祈りの力か。お前たち聖職者はまだそんな時代遅れなことを言っているのか」

 ガイゼル王は馬鹿にした口調で言い放つと、あらかじめ用意してあったワインのグラスを傾けてあおった。ワインを飲んだ後も彼は馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

 ガイゼル王は宗教や神というものを一切信じておらず、今までも度々聖職者であるセイラを見下していた。神や星に祈りを捧げるくらいなら、役に立つ物や政策を考える時間に使ったほうがマシだというのが合理主義者であるガイゼル王の考えだ。

 途端に萎縮してしまったセイラを見て、カイトはガイゼル王に釘をさす。

「ガイゼル王。今までも何度も申し上げておりますが、他国の文化や宗教、慣習を軽んじる発言は控えていただきたい」

「貴様は騎士の分際でいつもワシに意見をするな!無礼者が!」

「なんだと…!」

 怒りで拳を握りしめるカイトに、隣に座るロイド王が無言でカイトの手に触れる。主君のその行動だけでハッと平静さを取り戻したカイトは、罰が悪そうにロイド王に軽く会釈をした。

「うちの騎士が失礼した、ガイゼル王。まだ年若く未熟故、大目に見てやってほしい」

 ガイゼル王は二言三言悪態を吐いたが、ここにいる面々は何度も見た光景なので特に気に留めなかった。

 ガイゼル王の気が済んだところで、ロイド王が再び話を元に戻す。

「さて、我々人間は先代魔王が妻を追って殺したと認識しているが、魔族側では認識が違っているそうだ。当時病にかかっていた先代魔王を治療するため、人間の妻リアナは人間界にいる星の戦士に助力を乞うために人間界に来た。これは、当時セイラの母君が癒しの能力を授かっていたことから、彼女を頼るつもりだったと考えられ、この情報を与えたのは協力者の魔族だということだ。そしてまずリアナは貴族であった実家伝手で頼ろうとしたが、その際両親が前もって決めていた許嫁に魔王の妻になっていることがバレてしまったらしい。その許嫁というのがキナリス国の王子だったという話だ」

「あぁ~、僕なんとなく結末読めてきた。自分の妻になるはずだった女が魔王の妻になってたんで、逆上した王子がリアナさん殺しちゃったんじゃない。それで魔王がブチ切れて街ごと滅ぼしちゃったと、こういう流れ?」

 ニコは展開を先読みして話す。ほぼほぼ彼の読み通りだったが、街を滅ぼした者の正体だけロイド王は訂正する。

「キナリス国の王子を殺し、街を滅ぼしたのは魔王ではない。魔族と事前に手を組んでいた人間の協力者だ。そしてキナリス国の王子に許嫁が魔王の妻になっているという情報を流したのも人間の協力者だ。おそらくその者は、確実に魔族側と人間側が互いに憎み合い戦争をするよう仕向けるためにそうしたのだろう。同族である人間をその手で殺してでも、な」

 ロイド王が固い声で告げ、貴賓室が重苦しい空気で満たされる。魔族と手を組むだけでも信じられないくらいだが、更に同じ人間を殺していると聞いてより皆の深刻さが増している。

 ずっと大人しく話を聞いていた異世界人の佐久間は、おずおずと口を開いてロイド王に訊ねる。

「あの~、結局のところ、その裏切者のメリットって何なんスか。魔族と手を組むほどのメリットって。その手を組んだ魔族に何かしてもらえるってことッスよね」

 最初の疑問に戻ったところで、ロイド王がついに裏切者の真の目的を語り出す。

「人間を裏切ったその者は、大きな野望を秘めている。魔界の王となることを望む魔族と同じく、その者も人間界を統一してただ一人の王となろうとしている。そのために魔族に協力し、そやつが魔界の王となった暁には人間界統一のために武力を借りるつもりのようだ」

 人間界の統一と聞き、貴賓室が一気にざわめき出した。

「に、人間界の統一!?ずいぶんと馬鹿げたことを考えてるわね。何ていうか…、現実味がないわ。文化や価値観も全然違うし、どの国や街にも今治めている者がいるわけだし。それを全部敵に回して人間界を統一しようだなんて、正気の沙汰じゃないわ」

「だから、魔族の力を借りようとしているのでござろう。この戦争が長引いている理由が分かってきたでござる。まずこの戦争で各国の兵力を削ぎ、世界中にいる星の戦士もできる限り減らす。人間界を統一するうえで、星の戦士は必ず邪魔となる存在だ。始めは百人以上いた星の戦士が、今や九人しかいない。作戦はほぼ計画通りに進んでいると見てよいだろう。そして無事戦争が終結したところで、今度は魔族の力を借りて武力で人間界を制圧する。各国共に長きに渡る戦争で兵力も国力も弱っている。抵抗しようにも、魔族共々攻め入られたら為すすべもないだろう。………ようやく、ロイド王が深刻に捉えている理由が分かったでござる。確かにこの情報が真なら、早期に手を打たねば手遅れになるでござるよ」

「はい。わたくしも最悪の事態を想定して動いたほうがよいと思います」

 セイラはすかさず凪に同意した。メルフィナはまだ人間界統一の現実味がないようで、情報を鵜呑みにできないでいる。佐久間はとりあえず世話になっている凪の意見を尊重するスタンスだ。

「話も大体理解できたことだし、そろそろ核心に迫る話をしてもいいんじゃない。今日僕たちが集められたのって、情報共有ではなく、つまりは犯人捜しをするためでしょ」

 裏切者の目的について分かり、早急に対策を行うべきではと声が上がる中、ニコは恐れ知らずに話をぶっこんできた。全員の緊張が高まり、ピリッとした空気へと変わる。だが当人はお構いなしに話を続ける。

「それじゃあズバリ言うけど、裏切者は少なくてもこの戦争の始まる前から星の戦士だった者だ。じゃないとそもそも魔族が弱い人間と取引しようとは思わないはず。ある程度地位があり、星の戦士の力を持ち、人間側から戦局や情報操作ができる者でないと利用価値がない。これを踏まえると、僕たちの中で二人に絞られる。いや、正確に言うならあの騒がしい空賊も含めて三人かな。でもまぁアレは除外して大丈夫でしょ」

 ニコは本日の序盤で退場したフォードをもはやアレ呼ばわりする。

 戦争が始まる前にすでに星の戦士だった者たちは、古参である凪とガイゼル王、フォードだけだった。他の者たちはこの七年ほどの間に星の戦士になった者たちである。

「……で、僕の意見としては、お殿様じゃなくてガイゼル王が怪しいんだけど、どうかな。リアナさんの故郷であるキナリス国とも近いし、情報操作して他国に嘘吹き込むのもお手の物じゃない」

 ニコはモニターに映し出されているガイゼル王を見て言った。

 カイトとロイド王、セイラも相手の小さな反応も見逃さないようモニターを注視した。

 ガイゼル王に目立った動揺は特に現れておらず、ただニコに対して未だかつてないほど怒りを向けていた。

「小僧。周りに神の子と言われ、自分が本当に神にでもなったつもりか。一国の王に向かって、魔族と手を組んだ裏切者と申すか!小僧、ワシが無実だった場合死ぬ覚悟はできているんだろうな!」

「死ぬ覚悟…。あぁ、できてないよ。だって嫌な予感とかしないもの。てことは、僕の考えは間違ってない。むしろ、今のこの気持ちは賭けに勝った時に感じるものに似ているね」

 ニコの言葉に、カイトを始め全員が確信したような顔でガイゼル王を見る。それだけ今まで皆がニコの勘や助言で危険な戦況を乗り越えてきていた。今や彼の言葉を特別疑う者はここにはいない。

 ガイゼル王は手にしていたワイングラスを床に叩きつけると、立ち上がってモニターを睨みつけた。

「揃いも揃って何だその目は!人より少しばかり勘が鋭いからって、ただそれだけで小僧の言葉の全部を信じるというのか!貴様ら全員愚か者どもめ!そんなにワシを裏切者に仕立て上げたければ明確な根拠を持ってこい!証拠も無しに犯人呼ばわりするならば我が国も黙っておらんぞ」

「明確な根拠ね~。そうやってムキになって否定してくるところがすでに怪しいとか」

「黙れ尻軽女が!男を誘惑するしか能のない雌は口を挟むな!」

「な!?何ですってこの自己中王!人を見下すしか能のない奴に言われたくないわよ!」

 ヒートアップするメルフィナを慌ててセイラが抑える。

「そもそもロイド王が仕入れてきたその情報自体が怪しいものだ。始めにも言ったが、ワシら星の戦士を混乱させるために敵が流したデマだろう。常識的に考えれば人間と魔族が手を組むなど考えられん。奴らは人間と違って寿命も長く、体も頑丈で強い。そして冷酷で残忍な性格で人間にとって脅威でしかない。そんな奴と手を取り合うなどあり得ん。いつ殺されるか分からんのだぞ」

 ガイゼル王の最もな話に、皆反論できずに口をつぐむ。全員を黙らせたことで少し機嫌が良くなったのか、ガイゼル王は更に饒舌に喋り出す。

「大体そのデマだが、今日ずっと観察していたがその生意気な騎士か聖女がもたらしたものだろう。その二人だけは話している間さして驚いていなかったからな。未熟な子供故に魔族に言いように騙されたのだろう」

 ガイゼル王はカイトとセイラを見下し笑う。

 カイトが裏切者を警戒して全員の様子を観察していたように、ガイゼル王もモニター越しからよく観察していたようだ。

 カイトとセイラが複雑な表情を浮かべる中、ロイド王は今まで伏せていた情報提供者をこのタイミングで明かした。

「今回この貴重な情報をもたらしたのは、『禁魔機士のクロウリー』という者だ。ガイゼル王もご存知ですね。何度か戦場で戦ったこともあるはずです」

「!?……クロウリー。確か魔王軍の幹部である七天魔の一人だったな」

 ロイド王の言葉を聞いて、ガイゼル王は一瞬強く反応を示した。しかしすぐに何事もなかったように振る舞い受け答えを返した。

「そのクロウリーが、カイト殿かセイラ殿に今回の情報を提供したのでござるな。拙者はクロウリーとは戦場で会ったことがないのでござるが、その者は信用できる者なのでござるか」

「僕は戦場でやり合ったことがあるけど、かなり容赦なく残忍な奴だったと記憶してるけど。とにかく手当たり次第魔法を撃ってきて、洗脳系の精神魔法も使ってたかな」

「洗脳?なんか一気に情報の真偽が胡散臭くなったわね。もしかして洗脳されて嘘の情報掴まされたんじゃない」

 メルフィナがカイトとセイラを交互に見つめる。

 彼女の言葉が決定打となったのか、今日共有された情報はデマだったという空気が広がっていく。

「フン!全く、やはり時間の無駄だったな。ワシの貴重な時間をこんなくだらない話に使いよって。今度はもっと情報を精査してから招集をかけるのだな」

 ガイゼル王はそう言い残すと、さっさと通信を切っていなくなってしまった。



 ガイゼル王がいなくなり、集まっている星の戦士は貴賓室にいる者だけになった。通信の音声が完全に切られていることを確認してから、ニコはロイド王に問いただす。

「それで、本当のところは誰なの。情報提供者。さっき言ったクロウリーはフェイクでしょ。いくら何でもあんな奴からの情報ならこんな話し合うまでもないからね。本当はそれなりに信用できる人からの情報なんでしょ」

「フッ。さすがは神の子。何でもお見通しだな。先ほど言ったクロウリーは、おそらくガイゼル王の協力者である魔族だ。ガイゼル王に揺さぶりをかけたくて言ってみたのだが、少し反応していたようだったな」

 ロイド王の言葉に、隣にいるカイトは頷き同意する。

「今回の情報を提供してくれたのは、そなたたちの最後の仲間、今は魔王城にいる星の戦士だ。佐久間と同じ異世界から来た娘で、名を神谷えりと言うそうだ。先日カイトやセイラのいる戦場に現れ、魔王や参謀の代わりに交渉してきたのだ」

 ロイド王はそこまで話すと、ここから先の説明をカイトへと任せた。

 カイトは一歩前に出ると、その日会った出来事を皆に話して聞かせた。途中セイラの補足も加えながら話し、詳しい魔王軍の内情、仲間の神谷えりが今までどうしていたのか、戦争を終わらせるため魔王が何を求めているのかを伝えた。

「まさか最後の仲間がそんなことになっていたとはね。魔王軍に捕まったとは聞いてたけど、普通に魔族に囲まれながら生活してたとは。でもその話本当なの?戦場で見る魔族はそんな優しさなんて微塵も感じられないけど」

「そりゃあ殺るか殺られるかってところで優しさ振りまく奴なんかいないッスよ。でもメルフィナさんの言う通り、俺も信じられないッス。あの魔族たちと普通に生活してるなんて。魚人なんてメチャクチャ凶暴ですよ。あんなのと仲良くなれるわけがない」

 佐久間は戦場で出会った魚人を思い出す。目をギラギラさせて人間を獲物としか思っていない魔族。思い出しただけでも身震いしてしまう。

「皆様の仰ることも分かりますが、でもわたくしにはあのえり様が嘘をつくような方には見えませんでした。それに、実際えり様のお話しを聞いてみれば分かりますが、本当に楽しそうにお話しになるんです。魔族に心を開き、信頼関係を結べていることがそれだけで分かります」

「信頼関係ねぇ~。それこそクロウリーって奴に洗脳されてるんじゃないの。そのえりって子」

「いや、クロウリーにはまだ会ったことがないと言っていた。普段は危険がないよう監視という名目でケルベロスという魔族がついているらしい。時々不自然に誘導されたりしたらしいから、もしかしたら反魔王派に遭遇して利用されないよう注意していたのかもしれない」

「そんな面倒なことするなら俺たちと合流させればよかったのに。何でわざわざ誘拐して魔王城に監禁してたんだよ」

 佐久間は訳が分からないと言って、テーブルに置いてあるクッキーをボリボリ食べ始めた。

 凪はわざわざ用意してもらっていた緑茶をすすると、落ち着いた声で佐久間に解説した。

「おそらく拙者たちと交渉するためでござろう。人間と魔族が戦争を始めてもうすぐ七年。拙者たちの間には簡単には埋まらない大きな溝がある。たとえ魔族が今回のような交渉を持ちかけてきても、誰もまともに取り合わなかったはず。だから魔族はきちんと交渉ができるよう神谷殿の信頼を得て、拙者たちの下に送り込んだのでござるよ」

「それって、わざと信用させていいように利用してるだけじゃないッスか!?やっぱり神谷さん魔族に騙されてるんじゃ」

「そんなことありません!少なくともえり様の話は信じられますし、わたくしの街で幼い子を救ってくれた参謀のクロロ様も悪い方ではないと思います。それに、わたくしたちと同じ人間の血が半分流れている魔王様も、えり様の言うように根は悪い方ではないのかもしれません」

 現魔王には人間の血が半分流れているのだと知り、先ほど初耳の者たちは全員驚いていた。

 セイラの訴えを聞き、皆考え込むように黙り込む。現段階で全ての情報を正確に判断するのは難しく、とりあえず最悪を想定して動くことしか有効な手段は見出せなかった。

「まぁ後はそれぞれ神谷さん本人やこっちの味方側になる魔族と会って判断するしかないんじゃない。とりあえずはガイゼル王を警戒するのは賛成かな。魔王や参謀の読み通り、限りなく黒でしょ」

「自己中王が人間界の王になるとか、もうそんなの世界の終わりだわ。考えただけでも息が詰まりそう」

 メルフィナは体勢を崩すと、ソファーの肘掛けに左肘をついて頭を乗せて横になった。手足がスラッとして長く、見事なくびれと適度にしまった肉体。露出度の高い踊り子の衣装を着ているため、見慣れない者ならば目のやり場に困ることだろう。


 話が一区切りつき、後は各地の戦況報告を聞いて解散という流れになった時、突然壁に掛けてあるモニターの映像が復活した。

「おらクソガキ~!戻ってきたぜ!覚悟しろ!」

 ドーナッツを頬張っていたニコは、モニターに映るフォードを見ると途端に面倒くさそうな顔を浮かべた。

「なんだ、わざわざ通信しに戻ってきたの。もうこっちはあらかた終わったから解散していいよ。お疲れさま~」

 ドーナッツ片手に手を振るニコに、フォードは間髪入れずにツッコミを入れる。

「お疲れさま~、じゃねぇよ!テメェが嫌な予感がするとか言ったせいでこっちは被弾したんだぞ!危うくサラマンダーの餌食になるところだったじゃねぇか!」

「被弾したのを勝手に僕のせいにしないでよ。僕はただ忠告してあげただけでしょ」

「ウルセェ!しかもなんだ!全員まったり茶ぁ飲んで菓子食いやがって!こちとら必死に消火活動や機器の修理してたってのに」

 フォードの横で子分たちがそうだそうだと加勢する。

 フォードは空賊ではあるが、機械に異常に強く、技師としての腕前はピカイチだった。今回もフォードが早急に対処したから墜落せずに済んだのだろう。

「も、申し訳ありませんフォード様。今度お会いした時には美味しい紅茶とお菓子をご用意しますので」

 セイラがフォローするが、モニターの向こうがブーイングの嵐だった。あまりの騒がしさにイライラしてきたニコは、ドーナッツを食べ終えると無言で通信切断ボタンを押しに向かった。

「ちょ、おいおいクソガキ!無言でスイッチ切ろうとすんな!まだ俺様は今日の話何も聞いてねぇぞ!ハブんな!」

「はぁ~。本当に面倒くさいな。だったら念のため一つだけ確認しておこうか。フォードが星の戦士の力を授かったのっていつだっけ。戦争が始まった時にはもう能力使えてたよね」

 ニコに予期せぬ質問を唐突にされ、フォードは一瞬思考がストップした。腕組みをして首を大きく傾げると、記憶を遡りながら彼は答える。

「戦争の始まりをどこと定義するのかにもよるが、俺様はマシックリックが初めて魔族に襲われた時に力に目覚めた。だから戦争が始まってすぐじゃないか。始まる前ではないと思うぜ」

「ふ~ん。そうだったんだ。じゃあフォードはまちがいなく白だね。それじゃあもう解散でいいよ。フォードに対する疑いは晴れたから」

「ハァ?疑い?おい、意味分かんねぇぞ。一体どういうことなのか説明しろ。コラ!スイッチを切るんじゃねぇ!」

 フォードと子分たちが吠える中、ニコは容赦なく通信の電源を切った。そして平然とリーダーであるカイトに、自分たちがいなくなってから説明しておくように依頼した。いつものことなのか、カイトはため息を吐きながらそれを了承する。

 こうして星の戦士たちは緊急会議を終えると、各々自分たちの戦場へと戻って行くのだった。




 星の戦士たちがユグリナ城を後にし、カイトはようやく一息ついていた。ロイド王との打ち合わせを終え、カイトは騎士団の詰め所へと一旦顔を出すべく城の廊下を歩いていた。すると、ちょうど兵の鍛錬を終えた騎士団長が向こうから歩いてきた。

「カイト、そっちの緊急会議は無事終わったようだな」

「サイラス団長!はい、何とか終わりました。無事終われたのはニコや凪様のおかげでしょう」

「そうか。あのお二人にはいつも世話になっているな」

 王様に報告に行ってくる、とサイラスは軽く手を上げて逆方向に歩いていく。カイトはその背中を見送ったが、しばらく考えてから彼の背中に声をかけた。

「団長!一つお聞きしたいことが。三十年以上前に滅んだセイントフィズ王国についてなんですけど」

 サイラスは立ち止まって振り返ると、不思議そうな顔をしてカイトの下まで戻ってくる。

「ちょっと気になることがありまして。騎士学校でも習いましたけど、かつてあの国には星の加護とはまた別の、神の加護を受けた聖騎士がいたんですよね」

「あぁ。今の若い者は神なんかあまり信じていないみたいだが、確かにセイントフィズ王国には神の加護を受けた聖なる騎士がいた。神に選ばれるなんて相当なもので、二人しか聖騎士になれた者はいなかったらしいがな」

 サイラスは遠い昔を懐かしむように言った。

「確か団長から前に聞いた話だと、団長は実際にその聖騎士を見たことがあるんですよね。どんな人物でした」

 いつになくグイグイ聞いてくる部下に、サイラスはますます不思議がる。

「お前ずいぶん前に話した酒の席での話をよく覚えているな。確かに見たことがあるが、あれは俺がまだ七歳の時だったからな。たまたま父親の仕事にくっついてセイントフィズ王国に行ったんだ。そこで真っ白い鎧兜に身を包んだ聖騎士を見たんだ。今でも鮮明に覚えている。あの絶対的なオーラと包み込むような優しい空気。遠目からでも一目でその人が聖騎士と分かったさ」

「………鎧兜。では顔とかは見ていないんですね」

「あぁ、その聖騎士様は滅多に兜を取らなかったらしいしな。…さっきからどうしたんだカイト。何か聖騎士について気になることでもあったのか」

 難しい顔をしている若き副騎士団長にサイラスは訊ねる。カイトは散々迷った挙句、ずっと心に引っかかっていることを団長に相談した。

「実はこの間星の戦士のえりさんを連れ去っていった相手が全身黒ずくめの騎士だったんですけど、そいつが魔族の仲間に『ジークフリート』と呼ばれていたのを聞いて…。えりさんから人間だった者が魔族になってしまった話を聞いたので、そのジークフリートという騎士もかつて聖騎士だったジークフリート様と同一人物ではないかと気になってしまって……」

 カイトはそう言うと表情を曇らせた。

 この世界で聖騎士とは、騎士を目指すものは一度は必ず憧れる存在で、カイトも例外ではなかった。魔族はずっと敵だと認識していただけに、憧れの存在がもし魔族になっていた場合心に迷いが生まれる。

 思い悩むカイトに、団長は肩をバシッと叩いて告げる。

「今は魔族だとか人間だとかあまり考えるな!もしその魔族が俺たちの知っている聖騎士様だったとしたら、これだけは断言できる!絶対に悪人ではない!あの皆に慕われていた聖騎士様が悪に染まるなどあり得ない!揺れるな、カイト!迷った時は難しく考えず、自分の気持ちに素直になればいい。お前は根が素直で善人だからな、自分の気持ちに従えば間違うことはないさ」

「サイラス団長…」

 クシャっとカイトの頭を一撫ですると、サイラスは今度こそ報告に向かうため玉座の間へと歩いて行った。

「聖騎士、ジークフリート……」

 カイトは憧れの騎士の名を呟くと、頭の中で今団長からもらった言葉を繰り返すのだった。




 デカント平原にて星の戦士たちと交渉して数日後、私の耳には特に魔王軍の状況が好転したという情報は入ってきていなかった。相変わらずみんなは忙しそうで、今日も今日とて城のお掃除隊を務めている。

 私は階段のレッドカーペットを魔法が施された特殊な箒で掃きながら、一緒に掃除しているメリィに話しかけた。

「ねぇねぇメリィ。魔王かクロロから何か話聞いてない?セイラちゃんたちから有力な情報を得たとかさ」

「…いいえ、何も。たとえもし何か掴んでいたとしても、私ごときには話さないわ」

 メリィは拗ねるわけでもなくただ淡々と話す。黙々と階段の手すりを拭く彼女に、私は納得がいかずに話し続ける。

「どうして?メリィは数少ない魔王が信頼する魔族なのに。そんな自分で私ごときなんて言っちゃだめだよ。メリィは城で生活するみんなのために毎日家事全般こなしているんだし、もっと自分に自信持っていいよ」

 箒を握りしめて力説するが、すぐに話していないで手を動かすようにとメリィに注意された。

「別に私はいくら魔王様に軽んじられようと構わない。あのお方のお役に立てればそれで」

「メリィ……」

(乙女だ!恋する乙女がここに!これが私の世界のオフィスラブとかだったらリア充すぎて拒否反応出るけど、ファンタジーな異世界だから全然アリです!人形と魔王の異種族恋愛。ぜひとも応援しなければ)

 私は戦争のことも忘れ、呑気にそんなことを考えながらカーペットを掃く。

 頭の中で色々な妄想に気を取られていると、いつの間にかおじいちゃんが階下までやって来ていた。

「フォッフォッフォ、ずいぶん上機嫌に掃除しとるのぉ。何か良い事でもあったのか」

「おじいちゃん!?どうしたのこんなところで。魔王に何か用事?」

 私は妄想しながら変な顔をしていなかったか不安になり、片手を頬に当てて顔を隠すしぐさを取る。

「いや。今日はお嬢ちゃんに用事じゃ。最近あまり構ってあげられてないからのう。ケルも傍にいないことじゃし、退屈しとるんじゃないかと思ってのう」

 わざわざ自分を気遣って会いに来てくれたと知り、途端に嬉しさで胸がいっぱいになる。

 私はまるで実の孫娘のように箒片手におじいちゃんの傍に駆け寄る。メリィはその様子を見て呆れたような声を出した。

「おじい様、あまりえりを甘やかさないでください。ダメ人間が更にダメ人間になります」

「ちょっと!誰がダメ人間よ!さては、昨日洗濯する時に洗剤の配分を間違えたのをまだ根に持ってるでしょ」

 昨日は自分の世界と同じ感覚で洗剤を使用したら、もの凄い泡でブクブクになり後処理が大変だったのだ。メリィはむくれる私から箒を取り上げると、さっさと掃除に戻って行く。

 私はおじいちゃんに向き直ると、ずっと気になっていたことを訊ねた。

「おじいちゃん。この間私が星の戦士たちと交渉してから、何か有益な情報とか入ってきたか知ってる?魔王はいつも忙しそうだし、クロロは戦場と城の往復でとても話しかけるタイミングがなくて」

「なんじゃ。せっかくこの間お嬢ちゃんが協力してくれたのに、魔王様は何も伝えてなかったのか。この間星の戦士たちの間で緊急の会議を開いたらしくての、そこでガイゼルに探りを入れたようじゃ。向こうの見解でもガイゼルが限りなく黒ではないかという結論になったそうじゃ。これからは星の戦士側でもガイゼルを警戒してくれるみたいじゃな」

「そうなんだぁ~、よかったぁ。じゃあ後はクロウリーとガイゼルをどうにかすれば戦争は終わるんだね」

 あともう少しだ、と意気込む私に、おじいちゃんは髭を撫でながら歯切れ悪く答える。

「うぅむ。そう簡単に事が運べばいいんじゃがな」

 おじいちゃんはそのまま押し黙ってしまう。私はネガティブ思考になっているおじいちゃんを元気づけようと、いつも以上に明るい声で話しかけた。

「おじいちゃん!考えすぎはよくないし、たまには頭を休めてリラックスしよう!いつもの場所でお茶しながらエアー釣りしよう」

 私はおじいちゃんの手を取って玄関に向かって歩き出す。

「フォッフォッフォ。気を遣わせて悪いのう、お嬢ちゃん。じゃが今日は釣りじゃなくて散歩に誘おうと思っておったんじゃよ」

「エッ!?散歩?それって、もしかして戦場を見に行くやつじゃ」

 私が訊ねるとおじいちゃんは笑いながら頷いた。おじいちゃんは右手に持っていた杖を掲げると魔力を高め始める。

「そうじゃ。ずっと城の中で一人だと退屈じゃろうから、外に連れて行ってやろうかと思っての。…行先が戦場で申し訳ないんじゃが」

「う、ううん。わざわざ気分転換で連れ出してくれるんだもん。そんな気にしないで。それに、星の戦士の仲間に出会えるかもしれないし。私にとっては悪くない話だよ」

 まだ星の戦士には二人だけしか会ったことがない。しかし、戦場に出れば別の星の戦士と話す機会が得られるかもしれない。それならずっと城に閉じこもっているよりかはいいだろう。

「フム。お嬢ちゃんがそう言ってくれるのなら良かった。今日行く戦場にはお嬢ちゃんと年の近い女の星の戦士がいるぞ。話す余裕があるなら話してみるといい」

 同じ女性と聞いて、私は期待に胸を膨らませる。しかし、この時の私はまだ知る由もなかった。これから行く戦場が、すごい熱気に包まれた女の魅力と意地をかけたものであることを。




 おじいちゃんの空間転移で連れてこられた場所は、辺り一面黄色い砂一色の砂漠地帯だった。着いた途端体中から汗が吹き出し、肌を焼くようなジリジリした暑さが襲ってくる。気温も湿度も高くモワッとしており、まるでサウナにいるかのようだった。

 私が両手で顔を仰いでいると、隣でおじいちゃんが魔法を発動させた。突如水を含んだ風が巻き起こり、私とおじいちゃんの周りを包み込む。しばらくして魔法が止むと、さっきの暑さが嘘のように涼しくなっていた。

「これでもう大丈夫じゃろ。せっかく連れ出したのに熱中症になって倒れたら大変じゃからな」

「ありがとうおじいちゃん!もう万能すぎる!」

 私は手をパチパチ叩いて称賛した。

 その後私たちは遠くに見える戦場に向かって砂漠を歩き始めた。

 おじいちゃんの話だと、戦場を横切って更に歩いたところにルナという街があり、そこには大きなオアシスがあるのだと言う。この近辺は砂漠に囲まれた土地で、人が住むにはとても過酷な地域だ。しかし地中には豊潤な魔晶石が眠っており、それ目当てでここに留まり稼いでいる者が多くいるらしい。

「ねぇおじいちゃん。あそこの戦場、なんか異様な熱気に包まれてない?ここが砂漠だからそう感じるのかな」

 私はもう目と鼻の先まで近づいた戦場を見て呟く。

 戦場では兵士たちが妙なテンションで敵に襲い掛かっていた。両軍とも怖いぐらいに雄叫びを上げてやり合っており、ギラギラした目はもはや異常だった。

 ドン引きし始めている私の横顔を覗き込み、おじいちゃんは困ったように頭を掻いた。

「ここの戦場はいつ見てもこうでなぁ。男の儂でも怖くなるくらいの熱気じゃ。ここはうちのサキュアとメルフィナという星の戦士の戦場でな、どちらも魅了の能力で敵味方を誘惑して戦うスタイルじゃ。あの異様な熱気は魅了された男たちから発せられたものじゃな」

「マ、マジ…。魅了魔法恐るべし」

 これ以上近づくのは少しためらわれたが、せっかく来たのだからメルフィナという女性の顔くらいは確認したかった。


 私はおじいちゃんと一緒に慎重に近づき、前線の真横に位置するところまで来た。よく見ると前線には両軍共に小さなステージのようなものがあり、そこにそれぞれサキュアと踊り子の衣装を着た女性がいた。

 踊り子の女性は私と年が同じくらいに見え、私より背が高くスラッとしていた。まるで水着のように露出度が高く、女の私から見てもドキマギしてしまうスタイルの良さだ。色黒の肌とは対照的な真っ白い長髪を高い位置で一つに結い上げ、小さなステージで舞う度目を奪われるほど綺麗だった。

「さぁみんな~!へばってないでアタシのために戦ってちょうだい。アタシが見込んだ男たちなんだから、まだまだイケるでしょ」

 踊り子の女性がステージからそう叫ぶと、周りの兵士たちが地響きでも起こすくらいの勢いで雄叫びを上げた。私は両手で耳を塞いだがあまり効果はなかった。

「あのステージにいるのが魅惑の踊り子、メルフィナじゃよ。サキュアと同じ魅了使いじゃ。魅了対魅了のせいでここの戦場もずっと膠着状態が続いておってのう。いつ来てもこんな感じじゃ」

「な、なるほど…」

 私は顔を引きつらせながら戦場を見る。今度はどうやらサキュアが喝を入れる番のようだ。

「みんな~!あんなオバサンなんかに負けちゃダメよ~!この魔界で一番可愛いサキュアがついてるんだから、みんなは無敵の兵士よ!」

 ウォォォォ、という雄叫びがまた辺りに木霊する。いい加減耳が馬鹿になりそうだ。

(まるで推しアイドル対決だなこりゃ。武器持って戦ってるからこっちの方が物騒だけど)

 私の目にはもはや、推しアイドルのために命がけで戦うアイドルオタクの戦いにしか見えなくなっていた。よく観察してみると両軍とも入り乱れており、人間がサキュアに魅了されて人間と戦っていたり、メルフィナに魅了されて魔族同士で戦っていたりもする。傷だらけでもう戦えなさそうに見える兵士も、魅了の力で限界以上に戦っている。

 私はその異様な熱気に当てられ段々気分が悪くなってきた。

「ん?大丈夫かお嬢ちゃん。顔色が悪いぞ」

 大丈夫、と口に手を当てた時、ちょうどステージで舞うメルフィナと目が合った。

 彼女は私に気がつくと、驚くことに兵士たちの肩を足蹴にしながら戦場を横切って近づいてきた。私はその見事な跳躍ぶりに、ポカーンと口を開けて見入ってしまう。十数人足蹴にしたところで、彼女は無事に私たちのところへ到着した。

「この間カイトに聞いた魔族と生活してる星の戦士ってアンタでしょう」

「あ、えっと、初めまして。異世界から来ました神谷えりです」

 間近で見る踊り子はすごい色っぽさで、私は何故か緊張してしまった。同じ年頃でこうも自分と違うのかと若干の敗北感も抱いてしまう。

「ご丁寧にどうも。アタシは魅惑の踊り子、メルフィナよ。よろしくね。…それで、今日はどうしてこんなところにいるの。アンタ魔王城にいるんじゃなかった」

「あ、え~と、メルフィナに会いにというか~」

「戦場視察というやつじゃよ。悪い奴の意志が戦場に介入していないかのチェックじゃ」

 城にいるのが退屈で外に出てきたとは言えず、しどろもどろになる私の代わりにおじいちゃんが助け船を出してくれる。

「あぁ、クロウリーって奴かガイゼルのこと?ここの戦場にはクロウリーって奴は来たことないわよ。最近はずっとあのぶりっ子だけだし」

 ぶりっ子と聞き、私は無意識にサキュアの方を見やる。すると何故か彼女もこちらに向かって飛んでくるところだった。

「……そうか。でも一応気を付けておいてもらおうかの。あのサキュアは今クロウリーの部下じゃからな。用心しておくに越したことはないわい」

「エッ!?サキュアってクロウリーの部下だったの?」

 私が驚きの声を上げると、おじいちゃんが手で静かにするよう指示してきた。するとすぐに悪魔の羽を羽ばたかせてサキュアが空からやって来る。

「ちょっと~!人質のあんたがどうしてこんなところにいるのよ~!まさか魔王様に逆らって星の戦士と合流しようとしてたわね!」

「ち、違うよ!おじいちゃんと一緒に散歩してただけだってば。ちゃんとまたお城に帰るよ」

 サキュアは疑うような眼差しで私をじーっと見てきたが、傍にいるメルフィナに気づくと不敵な笑みを浮かべた。

「あ~ら、そこにいるのは年増なオバサンじゃない。露出することでしか男を誘惑できない愚かな女♪」

 サキュアの言葉を受け、今度はメルフィナが余裕の笑みで言葉を返す。

「作った紛い物の可愛さでぶりっ子アピールするしか男の気を引けないアンタが、このアタシに何の用かしら。女の色気でも伝授されにきたの?」

 二人とも笑顔を浮かべながらバチバチと火花を散らす。

 女同士の戦いは怖いのう、と私の隣でおじいちゃんがぼやく。私たちは二人の戦いに巻き込まれないよう、そっとその場から離れようとした。

「そ、それじゃあ私たちはこれで…」

「ちょっとえり!アンタなら女としての魅力がどちらが上か分かるわよね。正直に答えなさい。アタシの方が上よね?」

 メルフィナが自信たっぷりに訊ねてくるが、私が何か答えようとする前にサキュアが会話に割り込んできた。

「ちょっと!変な事口走ったらサキュアが許さないわよ!あんたが言うべきことはただ一つ!このサキュアが、世界で一番誰よりも可愛くて魅力的だってこと!」

 サキュアが私を追い詰めるようにじりじりと近寄ってくるので、同じだけ私も後退る。メルフィナとサキュアの板挟みになる私を助けようとおじいちゃんが割って入ろうとした時、人間と魔族両陣営の兵士がこちらに雪崩れ込んできた。

「メルフィナ様~!ご無事ですか~!今参りますよ~!」

「サキュアちゃ~ん!危ないからここはオレたちに任せろ~!」

 このままでは揉みくちゃにされそうだと危険を察知し、私とおじいちゃんは撤退準備を開始する。

「みんな待ってて~!今この女にサキュアとオバサンどっちが魅力的か決めてもらうところだから」

「エッ?この女に……?サキュアちゃん、こんな色気もそっけもない女に女の魅力なんて判断できるのか。いくらサキュアちゃんが可愛くても同じ人間に味方するかもしれないぞ」

「………ハ?」

 その場から離れようとしていた私は、魔族の兵士の言葉を聞いて思わず固まってしまう。静かに私の怒りゲージが上昇を開始した。

「確かにメルフィナ様と同じ年頃の女とは思えないほど地味で平凡で魅力のない女だが、それでもメルフィナ様の方が美しいと判断ぐらいはできるだろう。同じ人間だからと言いがかりはよせ!」

「………おいコラ」

 私は低い声を発し、怒りで拳を震わせる。

「落ち着くんじゃお嬢ちゃん!兵士たちは魅了されているだけじゃ!正気に戻ったらお嬢ちゃんにそんなことを言ったりせんぞ。決して本心ではない」

 おじいちゃんが急ぎフォローに入るが、一度上がった怒りゲージはそう簡単に戻らない。そうこうしている間にトドメの一撃が私の下に届く。

「ん~。そう言われればそうね。聞いた相手がそもそもの間違いだったわ。サキュアと違って可愛さの欠片もない、色気もない女に聞いても無駄だったわね」

「まぁ確かに。ちょっとえりは男を誘惑するフェロモンが足りなすぎるわ。せっかく女に生まれたんだから、もう少し色気をつけた方がいいわ。色気は立派な女の武器よ」

「そうだそうだ~!魅力を上げて出直してこい!そんなんじゃ男は寄りつかねぇぞ!」

 サキュア、メルフィナ、最後には兵士たちにまで好き勝手言われ、私の怒りと妄想力はMAXに達した。全身から青白い光を発し、私の周りには炎の渦が回り始める。その光景を見たおじいちゃんは大慌てで止めに入ってきた。

「お嬢ちゃん!こんな場所でそんな魔法を使ったらイカン!」

 私はすごい力でおじいちゃんに抱えられると、そのまま空間転移で戦場を離脱した。サキュアとメルフィナ両軍は、その後しばらくどれだけ自分たちの大将が魅力的かを論じ合うのだった。




 戦場から魔王城に戻ってきた私は、久々におじいちゃんが一緒にいてくれているというのにずっとふて腐れていた。正面庭園にある小さな橋のいつもの定位置に座り、おじいちゃんが用意してくれた紅茶とお菓子にも手を付けず足をブラブラさせている。

 おじいちゃんを困らせているのは自覚しているのだが、なにぶん怒りが治まらずムカムカしっ放しだった。こんな時こそ一人カラオケでも行ってストレスを発散したいところだが、異世界にいてはどうすることもできない。

「ん~、困ったのう。そろそろ機嫌を直してくれんかお嬢ちゃん。愚痴だったら儂がいくらでも聞いてやるぞ」

 そのまましばらくムスッとしていると、珍しく魔王が正面庭園へとやって来た。

 不機嫌な私に振り回されているおじいちゃんを見つけると、呆れた表情で近づいてきた。

「何をしているんだじい。…こいつはどうした」

「サキュアの戦場に行ったんじゃが、大勢の言葉の暴力に合ってのう。すっかりご機嫌斜めになってしまったんじゃ」

 そう言って、おじいちゃんは詳しい事の経緯を魔王に説明した。

(どうせ魔王のことだから、本当のことだろうって一緒に馬鹿にしてくるんでしょ。もう今日はいくら言われてもこれ以上傷つかないもんね)

 さすがに言われ過ぎてもう折れる心すら失くしてしまった私は、いつでも来いと魔王の悪口に備えた。

「フン。そんなことで凹んでいたのか。お前は馬鹿で間抜けだから、もうこの間ジークフリートに言われたことを忘れたのか」

「へ?」

 予想していた言葉と全然違うことを言われ、私は気の抜けた声を出して立っている魔王を見上げた。

「他と比べる必要はない。お前はお前だろう。ジークフリート曰く内面は美しいらしいから、お前のそういうところを気に入ってくれる男を探せばいいだろう。大事な者にさえ伝わっていれば、他の者にどう思われていようと関係ない。無理をして色気を出そうとしても、お前のことだからどうせ失敗するだろうしな」

「……最後はちょっと嫌味入ってたけど、珍しく魔王が励ましてくれてる!」

 私が感動していると、魔王はすぐに嫌そうな顔をして目をそらした。もしかしたら内心照れているのかもしれない。

「お前がじいを困らせているからだろう。…じい、サキュアの方は問題なかったか」

「ウム、今のところは特に変わった様子はなかったのう。一応星の戦士にも気を付けておくよう忠告はしておいたぞ」

「そうか。また何かあったら頼むぞじい」

 魔王はそれだけ確認すると足早に去ってしまった。魔王は戦争が激化してからはやる事が山積みで大変なようだ。

 去って行った魔王を見送っていると、おじいちゃんが私の頭を撫でて嬉しそうに話してきた。

「何だかんだ言って優しいじゃろう魔王様は。魔王様の言う通り、お嬢ちゃんはそのままでいいんじゃよ。そのままで儂の自慢の友達じゃ」

「おじいちゃん…。ありがとう!」

 私はようやく笑顔になり、おじいちゃんと一緒に笑い合った。

 機嫌が直り、二人でティータイムを楽しみながら私は戦場で聞いたサキュアのことについて質問した。

「さっきサキュアがクロウリーの部下って言ってたけど、サキュアは始めキュリオの領域に住んでたんだよね?」

「そうじゃ。キュリオが治める領域は吸血鬼や悪魔が住んでおる。サキュアも十年ほど前まではキュリオの領域に住んでいたんじゃが、どういう理由かは知らぬが突然クロウリーの領域に移ったんじゃ」

「う~ん。キュリオも理由は分からないって言ってたし、急に何があったんだろう」

 私はメリィが作ったマドレーヌを食べながら考え込んだ。

「今のところは大丈夫そうじゃが、クロウリーは洗脳系の精神魔法も得意なんじゃ。悪魔族のサキュアは洗脳系には強い耐性を持っておるが、もしものことがあるから警戒は怠れん」

「せ、洗脳!?それはすごいヤバそう…。クロウリーに操られちゃうってこと?」

「そうじゃ。一度洗脳されたら容易く魔法は解けん。本人の意志とは関係なく、奴の手駒に成り下がるじゃろう」

 想像以上にクロウリーという魔族は手強そうだ。おじいちゃんが言うには今のところサキュアには精神を支配される魔法はかけられてはいないそうだが、今後も油断はできないだろう。

 私は心の隅に見えない不安を感じながら、サキュアにその時が訪れないよう祈るのだった―――。


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