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即興小説トレーニング

大学生と煙草

作者: 鴨の土師

制限時間30分。お題「煙草と夢」

風が冷たくなってきた。ベランダへ出て、ハイライトに火をつける。紫煙を燻らせ、肺から空へ煙を吐き出す。目を向けると、マンションのベランダからはすっかり日の暮れた街の営みが見渡せた。




煙草を吸い始めたのは大学生の時であった。周りの友達が、みな吸い始めたからという理由からであった。初めて吸ったのは今はもうないマイセンという煙草であった。


当時は今ほどタバコにも厳しくなく、遥かに吸っている人は多かった。いつの間にか、煙草も度重なる値上げと喫煙者への風当たりの強さで斜陽となってきていた。


私が煙草を吸い始めた大学生の頃、内心に将来への漠然とした期待と不安感を抱えていた。そして、日々の生活では向こう見ずな馬鹿げたことをしていたものであった。


若い有り余る体力で徹夜で麻雀やアルバイトをし、そのまま講義に出るなど、今では身体が耐えられないであろう。


大学生の煙草とは大人になったという自意識の外界への発露であったのではないだろうか。


モラトリアムを過ごし、大人とも子供とも言えない私たち大学生にとって、世間へとこれ見よがしに大人になったという自覚を見せていた。だが一方では未だ親の庇護下にある学生が多数であっただろう。




風が吹く。

先端がベランダの暗闇の中、火を静かに燃え立たせる。備え付けた空き缶に灰を落とし、紫煙は立ち上り、消えていく。


大学生であった時、抱いた夢はとうに煙のように薄くなり、いつのまにか風によってかき消されていた。


就職活動を始め、アルバイトとはまた違う、社会への責任を求められ、その責任は歯車となることを強いる。


自分自身は歯車となっている自覚がなくとも、側から見ればそうである。


各地を放浪する旅人へも憧れたものだが、植えつけられたコモンセンスがそれを妨げる。


変わり映えのない日々の生活は遅効性の猛毒のように、心身を蝕む。私にできることは大学生の頃、友と共に吸ったように煙草をくゆらし、思いをはせることのみであった。

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