塔を見上げる今日この頃
「お嬢様のお姉様は、悪い魔法使いに狙われているので、西の塔の中にお隠れなのです」
私が「お姉様は?」と屋敷の者に尋ねると、いつも同じ答えが帰ってくる。
でも私は知っているのだ。
隣国のお姫様はそうだったのかもしれないけど、私のお姉様は負けたのだ。
私たちの戦場、社交界で。
謹慎を言い渡されてもう8年になる。
あの頃はその答えを信じた私でも、今は騙されまい。
私の家の領地は王都から馬車で一日半かかる。商業の街が多いとして有名ではあるが、領土の6割は広大な森である。
私達は幼い頃から森へ出かけ、泥だらけになるまで遊んでいた。
そんな姉も社交界の一員となる年が来た。
美しく成長し、またどこか儚げな姉は、人々の視線を一心に集めた。
妹の私でさえ、どきどきするほどに。
新緑の柔らかなドレスに身を包み、深緑の小物たちがプラチナブロンドの髪を彩る。まさに、森から出てきた妖精のようだった。
だがしかし、姉はただ運が悪かったのだ。
たまたま同じパーティーでデビューした令嬢が、国内有数の力を持っていた家柄だったこと。
たまたまその令嬢がパーティーの大半を忘れ去られたかのように、壁の花となってしまったこと。
気を悪くした令嬢にとって私の姉は、格好の餌だった。
風向きが怪しいと気付いた時にはもう遅く、作り上げられた悪事の証拠が並べられていた。それらは両親では庇いきれないものばかりで、父は姉に謹慎を言い渡した。
デビューしてまだ3ヶ月のことだった。
最後に会ったのはいつだったのだろう。
似ても似つかないお姉様の似顔絵を渡したとき、プレゼントと称してびっくり箱を渡したとき、お姉様はいつだって喜んで笑ってくれた。
お姉様の顔を思い出すと、いつも笑っている顔だ。
優しい優しいお姉様。
私の大好きなお姉様。
落ちこぼれの私の家だけれど、私は生き抜いてみせる。
8年前とは違うのだから。
これ以上あなたの筋書き通りに進むつもりはありませんわ。