見えない世界
イギリスに行きたかった。新学期が近づくにつれて焦りが生まれた。日中義母の意識がはっきりしているうちに、イギリスに戻ると伝えた。義母はあっさり受け入れてくれた。弟は露骨に嫌な顔をした。夜僕の部屋で二人きりになった時、行かないでくれとか寂しいとかそういったことを言いながら縋り付かれた。
「学校がある。」
「こっちの高校へ行けばいいよ!」
「しつこいな。」
「ここにいろよ。逃げなくてもいいじゃないか!」
「おいおい、一体なんの話をしてるんだ?」
「これはチャンスだと思わない?俺と母さんと兄さんでうまくやっていけるよ!母さんだって兄さんのこと大事にしてくれるって!」
弟は必死に話した。顔が真っ赤だった。
「もう、兄さんを無視ししない。一人にもしない。今まで酷いことを沢山した!でもそれもここで終わるんだ!これからは僕が兄さんを幸せにする!」
弟の言い分は僕の神経を逆撫でた。実に不愉快だ。
「出て行け。戯言はたくさんだ。僕は帰る。」
僕は弟を叩きだそうとした。揉み合いになり、僕はカッとなって弟を殴った。僕の拳は弟の顔面にヒットした。弟は尻餅をついた。しまったと思った。振り上げたままの腕をゆるゆるとおろした。僕は弟に向けた敵意を引っ込めることはできなかった。
「お前の提案はな、自己満足と言うんだよ。さっさ出て行け。」
弟は僕を睨んだ。
「いつまでもうじうじしてたってしょうがないだろう!俺は兄さんの為に言ったんだぞ!」
「黙れ!そんなこといつお前に頼んだんだ?え?お前はただ後ろめたいだけだ!僕に許して欲しいんだろ!お前の妄想に付き合うのはごめんだ!お前は何も分かってない!僕のことをこれっぽっちも理解していない!理解する気がない!出て行け!」
「どうして分かってくれないんだ!」
弟は僕に飛びかかってきた。あっという間に、押し倒されると、奴は僕の唇に吸い付いた。あっと思った時には遅かった。それから長いこと奴は僕を離さなかった。凄い力だった。ようやく唇が離れた時、僕は息が上がった。苦しかった。
「こんなにも愛しているのに…」
弟の呟きにゾッとした。愛?どんなに美しい言葉でもこいつの口から出ると醜くなる。僕は弟が許せなかった。僕の気持ちを無遠慮に踏みにじった弟が許せなかった。弟はおもむろに立ち上がると部屋から出て行った。僕は悔しくて涙が出た。その場で身を縮めて肩を抱いて泣いた、




