6/68
僕
僕が鬱屈したこの家を出たのは、中学を卒業する頃だった。父親からイギリス留学を言い渡され、僕は二つ返事で了承した。ホームステイ先は、母の実家だった。僕の願いは幸運にも叶えられた。僕の帰る場所だから何もかもうまく行くはずだという、そういう根拠のない自信が芽生えた。僕の留学が決まるとそれまでの生活が一変した。留学するための準備に追われ慌ただしい日々が過ぎていった。初めて、ようやく、彼女に手紙を書いた。長い手紙だ。彼女と祖父母に僕のことを知らせるために、こと細かく書いた。そしてこれからの期待と共に、僕の母への深い愛情も書き添えることを忘れはしなかった。
日本で過ごした15年間、僕の世界で光が差したことは一度しかない。彼女に出会った時だけだ。
この留学で僕は本当の僕を生きられる。
ようやく温かく迎え入れられるのだろう。




