見えない世界
弟と義母は別荘にいた。二人は僕を出迎えてくれた。
義母はひどくやつれていた。弟も暗い表情を見せた。
「あの女はまだ家にいるのね。」
義母が唸った。まるで別人のようだった。恨み言と嘆きが止まらなかった。しまいには泣き出した。僕はすっかり面喰らって、思わず慰めてしまった。すっかり落ち込み、泣き疲れて義母は眠った。僕は弟を見た。
疲れているようだった。しかし、一瞬瞳が煌めいたのを僕は見逃さなかった。弟はすっかり僕の身長と同じくらいにまで大きくなり、顔つきも幼さがすっかりなくなった。悩ましげな眉の形が綺麗だと思った。弟は僕に優しく微笑んだ。
「……会えて嬉しい。ほんとに。」
「離婚するのか?」
「分からない、でも多分。」
「静香さんて、何?」
「兄さんがいなくなって、それからだよ。父さんが母さんを責め始めたのは。たくさん嫌味を言った。それで喧嘩になって、その後に静香さんとの浮気がわかった。それで結局母さんが耐えられなくて家を出たんだよ。」
弟は僕に今晩泊まるようにすすめた。空いている部屋は沢山あったし、何よりもう夜が更けていたので、泊まることにした。夕飯は弟のご飯を食べた。弟が食べて欲しいとせがんだからだ。僕は弟の言うことを聞いた。可哀想だと思ってしまったからだ。
夜になって僕が眠っていると、弟が部屋を訪れた。僕は弟を入れた。仕方がないから。
弟はしおらしかった先程とは違い、怒っていた。神経質になっていて、何かと僕に食ってかかった。これにも僕は面喰らって、ただ受け流すで精一杯だった。大人しくて真面目な弟はどこに行ってしまったのか、いつか垣間見たような激情を隠すことなく、僕にぶつけてきた。まずいと思った。何故か?弟の瞳が濡れていたからだ。激しく怒っているはずなのに、弟の視線は別のものを孕んでいた。それは紛れもなく情欲だということにすぐ気づいた。
「メイ、泣いてたよ。」
僕は何も言わなかった。
「ねえ、僕彼女がいるんだ。」
「え?」
「だから大丈夫だよ。兄さんには何もしないよ。」
弟は僕から一歩離れた。
「もう好きじゃない。」
嘘くさい。僕の気持ちを悟ったのか、弟は困った顔をした。
「彼女ん家に行ってくるよ。約束してるんだ。今晩は帰らないから。」
弟は僕にハグすると部屋を出て行った。




