見えない世界
メアリーの家に彼女の父親はいなかった。どうして父親が帰ってこないのか聞いてみると彼女は笑いながら、女ができたのだと答えた。
僕達は二人っきりで数日過ごした。
「ねえ、私引っ越しするの。」
「は?」
「言ってなかったんだけど、おじさんの家に行くことになったの。」
メアリーのおじが彼女の面倒を見てくれるのだという。
「貴方とはさよならね。」
「うん。」
僕はメアリーの手に触れた。指を絡めた。
「君がいなくなると寂しくなるね。」
「私ね、疲れたの。だからもう何も言えないわ。寂しいとか悲しいとかもう感じないの。この身体が私を動かしてるだけ。」
メアリーは僕の手の甲にキスをした。
「私ね、貴方に会えてよかったのか悪かったのかわからないわ。私の苦しみを理解してくれる人だと思って初めは嬉しかったの。でも貴方という理解者が得られてもね、何も変わらなかった。それで腹が立って貴方に冷たくした。ごめんね。」
「気づかなかったよ。」
「私子供っぽいのよ。」
僕はメアリーの頭のてっぺんにキスをした。
「それでね、ああ、私は助からない、救われないって思ったの。」
メアリーは僕の胸にもたれた。
「気づいたの。貴方に救いを求めても駄目な理由。私達は同じだから。私も貴方も打ちのめされてる。一人じゃ立てないくらいに。だから頼っても駄目なの。」
「ごめん。」
メアリーは僕の唇にキスをした。彼女は涙を流していた。それから僕にきつく抱きついた。
「ああ!引っ越しなんてしたくないわ。もう疲れたのよ!勝手な都合で私を振り回すのはやめて!どうして誰も助けてくれないの?どうして皆無視するの?私が悪いの?そんな訳ないじゃない!」
僕は彼女の涙を拭ってあげた。
「皆無関心なんだ。分からないんだよ。」
メアリーも僕の涙を拭ってくれた。
「僕達は一人なんだ。人と人が分かり合えるなんて詭弁さ。そうじゃないと安心して生きていけないから、だからそういうことなんだ。」
メアリーと僕はベッドに横になった。
「宗一郎は何処へ行くの?」
「お祖父さんとお祖母さんのとこに戻ってから日本へ帰るよ。そのあとはわからない。」
「ここは好き?」
「面白い国だとは思うよ。でも好きかどうかっていうのは分からないや。僕は僕の居場所を探しているんだ。安心して生きていける場所。ここがそうだと思ってたけど、分からなくなったよ。」
メアリーは起き上がって、僕の上に乗っかった。メアリーは僕の心音に耳をすませているようだった。
「ねえ、メアリー。愛って何かな?」
「馬鹿ね、宗一郎。愛は行動よ。」
「これってメアリーを愛してる事になる?」
「ええ。」
僕はメアリーをきつく抱きしめるとベッドに押し倒した。
翌日からメアリーの荷造りを手伝った。それが終わると僕はメアリーの家を出た。




