天井の裏
家に帰るとウィリアムが飛びついてきた。彼に引っ張られていった居間には祖父母とリジーがいた。3人とも僕を注視している。ウィリアムが声を潜めて言った。
「あいつ部屋の中で泣いてるみたいなんだけど。」
戸惑っている僕にリジーが教えてくれた。
「メイのことよ。」
僕はメアリーの電話応対のせいだと感づいた。
「困ったな。」
僕は呟きながら祖母が出してくれたバナナケーキに手をつけた。
「気にするな。メイはすぐ元気になる。」
祖父が口の端を吊り上げて話した。このバナナケーキうまいぞ。ウィリアムが深刻な面持ちで言った。
「今度ばかりはキレちゃったんだよ。」
「全く、しょうがない子ね。」
リジーも心配そうな表情をしていた。
僕はバナナケーキの皿を片手にメイの牙城に訪問した。そうしなければいけない気がしたからだ。扉越しに何度か呼びかけたが出てこなかったので、僕はバナナケーキの皿をドアの前に置いて部屋に戻った。
翌朝物音で目が覚めて、階下に降りるとリジー達が帰る準備をしていた。そこにはメイの姿もあった。メイは僕の顔をみると百面相した。そして感情を抑え込むのに成功すると、背筋を正して僕に歩み寄ってきた。
リジー達はそそくさと席を外してくれた。
「おはよう、宗一郎。昨日はどうも。」
「出てきてくれて嬉しいよ。」
「言っとくけど、私怒ってるわよ。」
メイは僕の頰をつねった。精一杯背伸びしている彼女の懸命さをくんで、僕は我慢した。
「貴方の為に言っといてあげる。家族に嘘なんかついちゃダメなのよ。」
メイは手を離してくれだけれども、最後に僕の左頬を叩いた。頭がカッとなった。我慢するんじゃなかったと後悔したので言ってやった。
「家族に恋してもいけないんだよ、知ってた?」
一行の車が走り出すと、メイが窓から顔を乗り出して叫んだ。
「この偏屈野郎!馬鹿!変態!見損なったわよ!この愚図!それから……!」
僕の隣で祖父母は驚いた顔をして、僕の顔を見た。僕は回し蹴りを食らった背中の痛みに耐えるふりをしてその場の居心地の悪さをしのいだ。




