悲しみよ、こんにちは
メアリーとの奇妙で心地いい関係は密やかに続いた。僕らは恋人のようで、兄妹のようだった。僕もメアリーも二人の間に名前をつけたいとは思っていなかった。ただ、僕は今寄り添える相手が出来たというだけで嬉しかった。
「宗のお母さんってどんな人だったの?」
「写真しか知らないな。」
「そう。…私のお母さんはね。ヒステリーなの。それにすごく支配欲が強いの。」
僕は黙って聞いていた。彼女はおさげ髪をいじらながら話した。
「いつも言うことを聞けってうるさいの。聞かないとキレて、暴れるのよ。ふふ、信じられないわよね。」
「…そうなんだ。」
「お父さんはね。お母さんのことにお手上げなのよ。だから、私がお母さんの相手をしてるの。お母さんはね、寂しがり屋だから、無視なんかしちゃいけないのよ。」
「大変なお母さんだね。」
「慣れればなんとかなるわ。」
メアリーは自分のおさげ髪をいじるのをやめた。僕に身体を寄せると腕を絡ませた。
「寒いの。」
「うん。」
僕らは並んで歩き出した。しばらくお互い黙ったままだったが今度は僕が話し始めた。
「僕の父親はね、僕のことあんまり好きじゃないと思うな。」
「どうして?」
「再婚相手の母親と弟の方が大事なんだ。僕のお母さんのこと嫌ってるみたいだし。」
「弟がいるのね。どんな子?」
「一つ下なんだ。全然似てない。どんな奴かと聞かれると、僕と違って明るいな。ちなみに仲は良くない。」
「そうなの。…弟さん、今年こっちに来るの?」
「まさか!父親が許さないよ。それに僕は弟に来て欲しくない。」
「ふうん。」
その日僕らは映画を見て帰った。映画は外国の映画だった。戦争で夫を亡くした女性が若い青年との恋愛する映画で、最後は女性と男性はめでたく結ばれる物語だった。映画を見た後でメアリーは独り言のように言った。
「つまらなかったわね。」
「そうだね。」
僕も同意した。




