悲しみよ、こんにちわ
クリスマスが終わり、年始を迎えて、それから随分経った。今は2月だ。イギリスはまだまだ寒い。
去年の今頃は期待に満ち溢れていたのを思い出すと、胸が締め付けられる思いがする。イギリスの灰色の空を見つめていると、何度も感傷的になってまう。
弟が僕の生活に顔を出すようになって、それまでの生活は様変わりした。表向きは何もないかもしれない。でも、僕は変革が起きたと考えていた。メイは弟に夢中で、手強い弟の味方に変貌した。僕が弟の電話にめったに出ないのをしつこく責めたてて来る。ウィリアムが弟に陥落するのも時間の問題だろう。その様子をみて祖父母や彼女が僕に送る期待を込めた視線も不愉快だ。弟は僕の生活に、痛いくらい食い込んでしまっていた。
僕の逃げ場所は以前と同じく学校となった。アレクやチャールズとも会える。彼らは弟と仲がいいというより、今はお互いのことに夢中のようだった。それに僕はこの学校が好きだ。日本にはない構造建築に心惹かれる。生徒数も多いし、先生も個性豊かだ。何よりも尊敬すべき伝統がある。だから日本の学校にいる時よりもずっと楽だった。
僕が学校にすがりつくようになって、僕は一人の女の子と仲良くなった。彼女の名はメアリーという。同じクラスだ。彼女は図書館に閉門までいる。毎日。しかし本が好きなようでもなかった。図書館の隣にある庭の方を眺めていたり、館内をふらふら歩いていたり、ただ椅子に座ってじっとしていることが多かった。僕は彼女に親近感を持っていた。声をかけたいと、ずっと思っていた。僕らはある日、目があった。お互い目をそらすことなく、見つめあった。僕は自分の胸の鼓動を聞いていた。席から立ち上がった彼女は僕の方に近づいてきて小声で言った。
「ここを出ましょ。」
「うん。」
僕らは隣の庭に出た。僕らの他にも幾人かの生徒がいた。彼女と僕はベンチに座った。すると彼女は僕の方に身を寄せて言った。
「ねえ、宗一郎っていつも家で何してるの?」
「えっ?…寝てるかな。」
「じゃあ、図書館で何してたの?」
「それは………」
僕は意を決して言った。
「メアリー、君を見てた。」
顔から火が出るほど恥ずかしかった。僕は自分が持っている勇気を全て使い果たした。
「…私、貴方と仲良くなれると思うの。貴方もそう思わない?」
「うん!」
僕は勢いよく答えた。メアリーはそれを聞いて笑った。いい笑顔だ。
僕らは一緒に帰った。既に陽は落ちて真っ暗だったけれども、辺りに並ぶ色んな店の明かりが暖かく灯っていた。




