悲しみよ、こんにちは
僕と弟の間にあるのは、血の繋がりと物理的距離であったはずだった。
「ちょっと!景の電話どうしてとらないの!ダメじゃない!」
弟の電話を無視し続けると、メイに怒られた。弟が告げ口したのだろう。メイは弟に夢中になったようで、チャールズの事もどこ吹く風であった。日本人が物珍しいのかも知れない。はたまた弟が人付き合いが上手いのかも知れない。とにかく彼女は頻繁に弟のことを僕に話すようになった。学校でもメイのせいで弟のことが会話にのぼるようになり、自然とアレクやチャールズに弟の存在が知られてしまった。結果チャールズやアレクも弟に興味を持ち、知り合いになりたがった。僕は成すすべがなかった。ただ手に入れた自分の世界が呆気なく崩壊していく様を見ているだけだった。
「兄さん、メイはいい子だね。……ウィリアムって………今度はアレクと……チャールズも……」
新しい繋がりを、弟は楽しそうに話した。今や頻繁に弟から電話が来るようになっていた。会話の内容は様々だが、いつもとりとめない話で僕は特に内容を聞かないようにしていた。
「……兄さん!」
「あ、何だ?」
「だから僕もイギリスに行ってみたいって話さ。」
「ふうん。」
やめてくれ。これ以上入って来てはいけない。
「皆にあってみたいな。………」
イギリス。僕の祖国。母親の家。優しい祖父母と彼女。明るい、温かい、光に満ちた世界。
それが僕の理想郷、僕が本来ある場所だった。
そもそも独りよがりで、都合のいいものだったのだろうか。手にしたはずなのに、指の間をすり抜けてしまう。そういう感覚だった。
お母さん、僕の居場所はあるのでしょうか。
「……また電話する。兄さん、ふふ。じゃあ。」
弟は分かっている。僕が一番恐れていることを知っている。そして彼はいとも簡単にそれを実行してみせた。
僕にそうとしか思えなかった。




