僕
僕が成長するにつれて、少しずつ母親の物は処分されていった。それは、僕の見えないところで行われたが、僕には何が起こっているのか理解していた。入れ替わる様にして、家に満ちるのは、他人の様な父親、母親にちっとも似ていない義母、そして得体の知れない弟の笑い声であった。
いつも家の外で一人で遊んでいた僕には、その声が家の奥底から湧き上がる様にして聞こえた。ただ恐ろしかった。僕の居場所は急速に奪われていったのであった。
僕の母親の家族は当然イギリスにいたが、彼らとは元々折り合い悪く、母親が不幸な死を遂げてから交流もあまりなかった。しかし、突然母親の姉だという女性が訪ねてきた時があった。父親はそれはそれは丁重に彼女をもてなした。写真でしか見たことのない母親の面影を確かに残した彼女を父親はとても気にかけていた。今思えば、父親は彼女を怖れていたのだろう。
彼女は僕をよく可愛がってくれた。僕は初めて与えられた母性というものに感動し、彼女の腕の中で束の間の喜びと安心感を得た。彼女から永遠に離れたくなかった。僕は彼女を、一目見た時から愛してしてしまった。その時、僕の居場所は、ここではない、遠い海を越えた所にあるのだと悟った。
名残惜しそうに彼女はイギリスへ帰って行った。
僕は、将来祖国に帰り、母親の家族と暮らすのだと明確に意識した。
そして父親は、彼女の訪問を境に、目に見えて僕に対して冷たくなった。




