新しい僕
しばらくしてから家の中に入って、祖父母と朝食をとった。僕は努めて明るく振る舞った。先ほどの落胆を吹き飛ばすかのように。
午後には入る学校の面接に行かなくてはならなかった。彼女が迎えにきてくれるらしい。彼女は近所に自分の家族と住んでいるのだと言う。
「結婚してたんですね。」
「そうだよ。子供がいるよ。君の甥っ子と姪っ子だ。年は10歳と13歳であの子達も同じ学校だよ。仲良くするといい。二人とも君に会えるのを楽しみにしているだろう。」
祖父が話し終えると、祖母が僕に一枚の写真を見せてくれた。祖父母と彼女、それから多分彼女の夫と子供達だろう。みんな笑顔の写真だ。僕は日本でこんな写真一枚もとったことはない。別にそれに傷ついている訳ではなく、むしろ当然だと素直に受け入れてきた。今手にしている写真は僕に強い衝撃を与えた。ただ羨ましかった。何故僕はこの写真に写っていないのだろう。僕の存在しない時間が流れている。この明るい笑顔の裏にいる、僕という存在を、彼らは少しでも考えていてくれただろうか。祖国に帰ってきたのに、なのに僕は辛い思いをしなくてはいけないのだろうか。
義母の言葉が、弟の言葉が思い出された。
弟の頰をつたう涙。
僕は慌てて過去を打ち消した。きっと何か勘違いをしているんだと思った。僕はここで生きていくと決めた。僕の居場所はこの人達との繋がりの中にあるのだ。だって僕はこんなにも母親に似ている。写真を祖母に返した。
「いい写真ですね。」
祖父母が微笑んだ。
「さあ、君にこの家を案内しよう。」
祖父母は立ち上がって、僕を手招いた。僕は彼らに笑顔を向けた。今度僕も写真を撮ってもらおう。そう心に決めた。




