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ハーミット・ブルー  作者: 狐宮
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弟一章『ラシュティエート強襲』 Ⅲ

弟八話 『男はつらいよ』


ラシュティエート城下町の大通りは、いつもの如く賑わいを見せている。

 この地に住む者のみならず、遥か遠方よりの行商人が運んでくる珍しい品々もあり、

 それを求めて来る旅人も少なくない。 何より音に聞こえたラシュティエートの盾。

ちなみに遠方の噂だと、尾ひれがついてセリスはこうなっている。


 見目麗しく、慈悲深く、他が為に身を盾とする女神の化身である…と。

  

旅の吟遊詩人がそう唄っているらしい。当たらずとも遠からじ、実際の所はこうだろう。


 見目麗しく、融通利かずのお転婆のお節介焼き。 誰が為に身を盾とするのか、堅物娘。

と、口が裂けても言えないラムザは、来るべき二面作戦に向け書状を書いている。


書状は二つ。エル・グラナの更に向こう、大陸の東部中央に位置するガルマルアという遺跡が点在する

 場所があり、そこから更に北上すると、イザエリアという女王が治める土地がある。

古くからエル・グラナとは睨み合いを続けており、僅かな望みであるが、イザエリア女王陛下へ

 この情報を流しておく。勿論、彼女にしてみれば我等を利用するつもりか?

 と、不快に思われる事は明白…。そこで一つ『彼』には悪いが、見世物になって貰おうか…と。

書状の一文にこう書き加える。――イザエリア女王陛下におかれましては、

 珍しいモノを好むと聞き及びます。 滅世の涙。

 その末裔が混血種、ご覧になられる機会ありと思い―――。

あの地へとは行かせないが、事が済み次第、向かわせ女王陛下にお目通りすれば問題無い。

 一通り書き記した所で、後は王に検閲承り、印を頂ければ完了…と。

残り一通は、ここより北西の城砦都市ツェルムのガルガー子爵に救援の書状を書き記して…と。


うむうむ。 これで良し、ガルガー殿は正義感の塊のような御仁。まず間違いなく助力は頂けよう。

 少なくとも、あのような外道を許す筈も無い。

ここで一息…と、木製のジョッキに注がれている水を口に含むと、突然ドアが勢いよく開かれる。

 その開かれた先を視認するや否や、口に含まれた水どころか、

 胃の中のものまで噴出したかと思う程の衝撃が彼を襲った。

 「げほっ…ぶ、な、ななな」

 「ラムザおじさーん!これどーだー!!」

…暫くむせかえしたラムザが、息を整えつつ、アーネの名前だけを辛うじて呼ぶ。

 それに首を傾げつつ、あのモフモフの獣耳を左右に動かしている。

 口から零れた水を左手で拭い、右手で力強く親指を立てた。

エステシア殿が、来るべきに備え、十分な…成程。

 暫し、怒りながらも恥ずかしがる、純白のワンピースを着た乙女のようなものを観覧。

 先ず見れないと思っていたソレが見れて満足していると、ついに限界が来たのか、

 セリスは足早に自室へと駆け込んでしまう。…残念だ。と、アーネを除いた全員が思った筈。

そして、他の団員達がアーネに向かい親指を立てて褒めている。

 本当にこの子は誰とでも仲良くなれる。この子ならセリスすらも打ち解けてしまうのではないか…と。

考えていると、ドタバタと階段を下りてきたのは、いつもの格好の彼女であり、少し残念だ。

 「アーネ…少し、やりすぎだ」

 「えー…似合うと思ったのにー」

 「似合う似合わない以前の…いや」

 その眼は怒りに満ちてはいるが、同時に戸惑いも見てとれた…成程。

ようやく出会えた世間知らずに戸惑いを…か。ま、ここはお姉さんになったげなさいな、と。

 セリスに歩み寄り、軽く肩を叩く。そうすると、彼女がこちらに振り向くが、まだ振り切れず…か。

 「今日は、二人で遊んできなさい」

 「団長? …いえ、そうですね。 ありがとうアーネ、一緒に外にいきましょうか?」

 「ほんと!? やったー!」

うーん、あの感情一つで様々な動きをするモフモフした猫耳、是非とも触りた…いや。

 そうでは無く、いつもの堅いセリスからは逸脱した、雰囲気が見てとれる。

何処か嬉しそうで、何かに期待しているような…さて、それは知りようも無いが。

 鳥篭の中…いや、騎士の鳥篭と言うべきか、そこより連れ出してくれたあの子に感謝。

 願わくば、その先にて姫様が、騎士としての本懐を見つけだして来る事を祈るばかり。

さて、と。私は職務に戻ろうかな…あ。

 折角書いた書状が、机の上で倒れた木製のジョッキから零れた水で…。

 更に、アーネちゃん達と入れ違いで帰ってきた騎士の一人が、トドメをくれた。

 「団長、露店の方々から、出来ればティセリス様に、

   不用意に褒めるのは控えて欲しいと伝えて下さい。との苦情が…」

 「ぐぁ…」

恐らくは、特定の露店の商品を褒めたのだろう。で、その競合店の売り上げにダメージが…。

 しまったなぁ。こりゃ…もしかすると、おじさん、とんでもない下手を打ったかもしれないね。

アーネちゃんにより、堅物姫の仮面が崩れかけた状態で遊びにでかけた。

 堅物だったからこそ、身分の事も考えて行動してくれていたワケで…さて、覚悟しておくか。

 「団長…俺達も後始末は手伝いますから、気を落とさないで下さい」

 「ああ、優しくて優秀な部下達が居てくれて、オジサン嬉しいよ…ほんと」

丁度駐屯所の食料の買出しもあり、売り上げに影響のあった店に、

 こちらで品物をいくらか買い取る事を伝えにいこうとした矢先。

大爆発。まさにそう例えてもおかしくない轟音が響き渡る。

 「な、なんだぁ!」

 「すぐ近くのようですね」

 「ああ、全員、武器を持って爆発のあった場所に行くぞ」

その場に居た全員が、慌てて駐屯所を出て、音のあった方角を見ると、黒煙が上がっている。

 …何故だろう、嫌な予感しかしない。然し行かないわけには…。

大通りを北に向かいすぐの場所には、既に人だかりが出来ており、

 それをかき分けて進むと…ぎゃぁぁぁあああっ!!!!

何かしらの大捕り物が繰り広げられたらしく、木造の一軒家が半分、抉れるように焦げている。

 その側で、お姫さんが…アレは確か手配中の強盗犯二人だったはず。

無精ひげを生やした、汚らしいボロを着た二人を、一人ずつ踏みつけている。

 一体何があったのだろうか…。傍にいる人に尋ねてみると、半壊した家屋に白昼堂々押し行った

 二人を、偶然見かけた姫さんとアーネちゃんが…あー…民家ごしやっちゃったワケですか。

一人の時にも大捕り物はよくやらかしてくれては居たが…。

 アーネちゃんが加わると、民家の損壊までついてくるワケですか、そうですか。

 「あ、ラムザおじさーん! わるい人げっとー!」

 「ん、あー、そうだね。えらいねー、オジサン助かっちゃったよ、アーネちゃん」

と、若干苦笑いを込めて、アーネちゃんに手を振りつつ、姫さんを見た瞬間、視線を反らした。

 まぁ、うん、想像出来ないよね? アーネちゃんの殲滅力の凄まじさなんて。仕方無い仕方無い。

 「ほら、後始末はオジサン達に任せて、今度はちゃんと遊びに行ってきなさい」

 「はーい!」

 「あの、団長…その」

 「ま、どうやら住民に被害は無かったようだし、今回は良しとしよう、ほれ、早く行きなさい」

と、姫さんの背中を軽く押して、再びこの現場の後始末を考える。

 幸い、二階の寝室は無事、倒れる心配も無し。

  知り合いの大工に依頼するとして、先ずは住人と話を…と。

思ったより、手間がかかり、崩れかけた部分の補強を取り急ぎ手伝い終えた頃の事である。

 「だ…団長、大変です」

 「あーはいはい。次は何をやらかしてくれんだろねー」

家屋の半壊ともいうべき大事件を引き起こしてくれたんだ、

 もうオジサンは何が起こっても驚かないぞ…と。

 「はい、そ…それが、何と申し上げれば良いか…」

 「そんなもったいぶらなくても、ちゃんと責任とりますよっと」

 「は、はぁ。実は…ティセリス様のお父上様と…」

 「そりゃやり過ぎだーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

内容の詳細を聞き終わるまでもなく、絶叫とともに王城へと走るラムザ。

 ああ、もうこの国に居られないかも…いや、ヘタすれば…うう。

程なくすると、王城の門へと辿り着き、息も整えないまま、二人の身柄を預かりに参りました、と。

 門番に言うと、さして焦る必要もなさそうに首を傾げられ、鈍い音と共に門は開かれた。

開かれた門の先は、広い庭園が広がり、そこの中央付近で轟炎と呼ぶに相応しい炎を両手に宿らせ、

 あろうことか、国王の目の前で両手を振り回している。

既に金髪から白髪へと変わられた王の髪が、焦げてしまわないかと、慌てて走りより跪いた。

 「ルゼルト国王陛下!! 申し訳御座いません!!!」

豪奢な衣服に、暖かそうな毛皮のマントを羽織った、ふくよかな壮年の男性は、楽しげな表情から

 一変して、不思議そうにラムザを見やる。

暫しの沈黙の後、ポンと右手で左手を叩き、ラムザにこう伝えた。

 「おお、そうかそうか。何、心配いらぬよ。

   むしろ火の民の力をこの目で見られるとは、逆に礼を言おう」

 「は、なんとお詫びもうしあげれ…え?」

そう言うと、再びルゼルト王は、アーネの方を向き、楽しげに彼女の振る舞いを見ている。

 …助かった…のか? 跪いたまま、わけもわからず呆然とする横にセリスが歩み寄る。

 「団長? すみません。つい…」

 「つい、初めて出来た友人を、お父上様に紹介したかった…かな」

 「は、はい…」

 「危うく、私の首が胴体から離れる所だったよ…ほんと」

深々と頭を下げるセリスを見て、私如きに頭を下げてはいけませんよ、と。

 一言伝えると、立ち上がり、何とも楽しげな王の姿を二人して見ていた。

 「のう、アーネよ。その力でこの国を護ってはくれまいか?」

 「ノブナガさんだっけー? おっけー! ボクがヤツザキだー!!」

 「これは頼もしい。是非とも、あの暴君めを討ち取ってくだされ」

 「にゃっはーっ!!!」

この日、命の危機を免れた私は、賓客としてアーネちゃんと共に、晩餐に招かれた。

 言うまでもなく、そこでまた騒動を起してくれるが、王じきじきの無礼講ともあり全てが

 許される事となる。 が…、以前にブルー君にも言ったが、

 私は上部の連中からは快く思われてはいない。 その場の居心地の悪さといったらもう…。

だが、怪我の功名と言うべきか、その場に居た全員が、来るべき戦に対して、強力な種族の力を

 得た事に喜んでいたように見えたが、眼を見れば判る。幾人かは明らかに喜んでいない。

理由は二つ。エル・グラナの間者の疑い。

 もう一つ、これがどうにかならんものか。

 ティセリス姫の兄であるティゼット王子の取り巻きである。

普段の行いから、民衆の支持はティセリスに集まり…いや、偏りすぎている。

 王子の方は学問に秀でてはいるが、戦闘は苦手。兄と妹それぞれが極端なのだ。

ちなみに、私は王子を推している。 少なくともあのお姫様は女王には向いていない。

 ティゼット王子を王とした方が、国として成り立つだろうから…と、思う。

 然し、その取り巻きからは、ティセリス一派とみなされ、爪弾きが現状。

ちなみに取り巻きは、王子に心酔しているわけでは無い、あくまで保身。

 自身の発言力を維持、もしくは上げる為に必死なだけだ、正直、国の為にと考える人物は

 此処から離れた村で畑を耕している。…獅子身中の虫とはこの事か…頭が痛い。


敵は、外だけに在らず、内にも潜み、毒に塗れた牙を今まさに、

 ラシュティエートに突き立てようとしているかもしれない。

そしてこれは、私が調べた事ではなく、シェジェ老の長年の戦いがまだ国内で続いているだけである。


エル・グラナとの戦いは、私達にとって、不特定多数の敵と戦う事になるかもしれない。

 一切の油断はせず、考え得る限りの手を尽くさないと、駄目だろうな。

そう、考えると、水浸しになってしまった書状の書き直しも悪くない、そう思えた。


その晩、夜遅くまで書状の見直しを繰り返す私に、藍色の兄弟の故郷である、ルアカの街へ向け、

 エル・グラナの軍が動いたとの知らせが届いた。

さて、どちらが空だ? …。考えても答えは出ない。博打も打てない。

 何より、女王陛下へ書状が届くのは早くて五日はかかる。

ガルガー子爵は、早くて二日。準備を考えても此処にくるのは四日後だろう。


答えの出ぬまま、夜があけてしまい、眠い目をこすりながら表に出ると、

 畑を耕している筈の、あの方が馬にまたがり丁度、こちらに向かってこられた。

助かった…そう思いつつ安堵の息を漏らし、急に襲い来る睡魔に耐えつつ、彼を迎え入れた。

 




 

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