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ハーミット・ブルー  作者: 狐宮
6/12

弟一章『ラシュティエート強襲』

弟六話 『騎士の鳥篭』


**ラシュティエート城下街**


多くの街の文化、その交流がある証だろうか、建築物の形状に統一性はなく、木製やレンガで建て

 られた家などが、中央の大通りを挟み込む様に別れている。

建物の間を縫うように小道が枝分かれする、さながら迷路のようでもある。

 ラシュティエート城下町の面積は広く、また、その広さ故に治安の悪い場所も確かに存在する。

 正確に言うならば、王城を除いて、城下町中央から外に広がるにつれ、貧しくなる。

そんな城下町の大通りに位置する、セリスの所属する騎士団の駐屯地はあり、そこに今、彼等はいる。

 団長の性格からか、普段は陽気な空気が漂うその場に珍しく、やや緊張した空気が張り詰めていた。

若干ふて腐れた顔をして、十字盾の手入れをしているセリスは、白と青のチュニックにロングスカート  を着ているものの、戦闘時との差は鎧を着けているか、そうでないかぐらいである。

何故、ふて腐れているかというと。原因はブルーの対応に他ならない。

 あの戦の後、当然ながら身分が知れてしまい、跪かれてしまった。

その上、口調が明らかに違う。仕方無いといえばそうではある。

 一国の姫君と、ただの一般人。当然といえば当然ではあるが、アーネの存在が更に拍車をかけた。

アーネは身分の差もなんのその、出会った頃と何も変わらずの無茶ぶり。

 それと比べるとブルーの変わり様に、苛立ちを覚えてしまう。

勿論、身分を明かさなかった自分にも非があるのは重々承知の上ではある。

 …盾の手入れをしているのも、気を紛らわす為であったりもした。

ブルーはブルーで、彼女とはなるべく離れた駐屯所の外の修練所にて剣を振るっている。

 その横に、団長のラムザが、短く整えられた白髪まじりの金髪の頭を掻いている。

同年代の友人を見つけてきたか、と、思った矢先にこれか。まぁ私達も姫様を受け入れるには

 かなりの時間が必要だった。当然といえば当然ではあるが…。

悩む中、ラムザは彼の剣筋を検分している。師は無く、いかにも素人丸出し。

 体格も鍛えられておらず、ただ言えば振るう業物のみが秀逸だと言えた。

 「ブルー君、君は何の為に剣を取ったんだい?」

ふと、彼の口から零れた疑問。この返答如何では、彼にこれ以上は…と思う。

 細剣を振るうのを止め、腰に差すとブルーは振り向き、言葉を探す。

相手は師団長。騎士の位を持つ位の高い人物だ、無礼は許されない。

 深々と頭を下げ、先ずは一言。

 「私のような者を気にかけて下さり、ありがとう御座います」

そのまま口上を述べようとした矢先、ラムザの右手がそれを制した。

 「おっと。私はどうも堅い会話が苦手な性分でね、気楽にしてくれて良い」

 「ですが…」

どこぞの姫様といい勝負の頭の堅さ。これは苦労しそうだ、と、過去のセリスを思い出した。

 「いいんだ。それに私は元々、貧民の出でね。騎士爵位はあっても、

   上部においては、ただの厄介者だ」

 「…。とてもそうには思えませんが…、出来うる限りは善処致します」

善処します…か。やはり前途多難。そのまま、彼は剣を手にするに至った過程を聞く。

 まだ二十歳にも満たない少年が、なんと苛烈な生を送ってきたのか。

何よりも運河を渡れた、つまりは世に何かを成す運命を持つ者であるという事。

 その上で、剣を手にした理由の崇高さたるや…心配だ。

 「大した理想を掲げる剣を持っているな。…だが、

   それを全う出来ると、前回の戦において実感は得られたかな?」

ただ黙って首を横に振る。ノブナガに児戯と言われ、何の役にも立たなかった。

 彼女に一本とれたのも、油断から来るただの偶然に他ならない確信を得ていた。

 「だろうね。ならば、師を求め、請うと良い。

   今、君の中で最も優れた人物に…ね」

前日に、ノブナガより書状が届いたが、その内容はまだ伏せている。

 既に手は送っているが、偵察の者がいまだ動き無しと言う事。

何より、彼は行かせるべきでは無い、そう、判断した。

 行かせるべきは、戦地では無く、師の下へ…だ。そこで僅かで良い、

 確かな一歩を踏み出してきて欲しい。彼はそう思った。

 「私が思う、最も優れた人物…」

ふと、右手に添えられた細剣を見る。父の技と似、尚且つ、武器種も同じ。

 今現状で、彼女をおいて師と仰げる存在は居ない、だが…。

ブルーは首を左右に振る。とても師になってくれそうでは無い…と。

 それを挙動を見て、誰を師と仰ぐか察したラムザが、軽く頷く。

 「確かに、あの孤高のフェンサーが弟子を取るとは思えないな。

   だが、なろうとする者が居なかった。確かそうだったようだが」

挑む者は数あれど、請う者は居なかった。ならば結果は判らないだろう。

 何より、君は彼女より剣を授かっている。先の戦でも彼女は現れた。

私にはそれが既に弟子足る証では無いか、それをブルーに伝えた。

 「…っ!」

 「ま、その本心はクリアネル殿にも判って無いかも知れないがね」

と、頭をぼりぼりと音を立てて掻きつつ、馬を見た。

 その視線の理由は一つ。ブルーは理解したのか、深く頭を下げ、馬に跨る。

 「…アーネの事。暫しお願い致します」

 「なぁに、アーネちゃんなら既に皆と仲良くしてるさ」

 「それは、羨ましい限りです」

そう言うと、ブルーは馬で駆け出し、一度、ネーレイドの住む運河の辺。

 師を得る為、一人で移動する事となる。

その背を見て、ラムザは後ろ手に隠した旧友の紹介状を軽く握り締めた。

 「君は、何者なんだか。古きを知り、先を知るかのように立ち回る…なぁエステシア殿」

書状にはこうあった。


 旧友にして、愛娘の命の恩人であるラムザ殿へ。

  命の恩は命で返すが道理。アタシの娘を暫し預ける。来るべき戦に備え十分な働きをするだろう。

 それと、ついでといっちゃなんだが、少年を一人、クリアネルの元へ頼む。

  師も居なければ、戦い方も知らない素人でね、彼女なら必ず良い師となるさ。


改めてブルーを見て、話し。そして改めてこの紹介状を見た。

 一人静かに納得し、何かを得て戻ってくるその時を待ち遠しくも思えた。

 「あのクリアネル殿が弟子を…ね」

少し不安がよぎるものの、こちらはこちらでノブナガの相手をしなくてはならない。

 前回の戦は形こそ勝利したものの、実質的には敗北に他ならない。

申し訳ないが、あの爺さんにもまだ現役で居て貰わねばならないようだ…と、

 これから移すべき行動に頭を抱えていた。


****

丁度、ブルーが旅立つ頃、気持ちの整理がついたのか、もう一度、彼と話してみよう。

 そう思い、盾を部屋の隅に置き、外にある修練場へと足を運ぶ。

そこには彼の姿は無く、頭を抱えるかわりに、頭を掻いて悩むラムザが居た。

 「団長? ここに、ブルーはいませんでしたか?」

 「ん? ああ、彼なら師を求めに旅立ったよ」

 「師を…ですか。一体誰に師事を仰ぎに…」

その言葉に、軽く肩を竦めると、それよりも自身が一国の姫である自覚は出来ましたかな?

 と、彼女の一番言われたくないであろう言葉を口にした。

僅かに目を閉じ、考える素振りは見せたものの、答えはいつも通りに胸を張る。

 「私は姫である以前に一枚の盾となります。それに、富める者の義務を全うする事、

  そこに何か問題でもありますか? ラムザ騎士団長殿」

 「いや、まぁね。うん。言う事は尤もだけど…ほら、

   守られるからこその、お姫様じゃないかなーと、オジサン思っちゃうわけで」

 「守られるだけの私は、私ではありません!」

守るからこそ…か。戦闘技術だけでなく、頭の中までガッチガチのディフェンサー。

 流石の王も手を焼いておられるだけの事はある。 これでは嫁の貰い手が無い…と。

今までの彼女の行動から、様々な通り名で呼ばれるに至るが、どれを取っても女らしさは無い。

ラシュティエートの盾。守護堅姫。盾姫。堅姫。

 完全に国の人々から頑固者、堅物としての地位を獲得してしまっている。

 「ブルーも居ないようですので、私はこれで」

 「また巡回で?」

 「当然です。 国の広さ故の治安の安定の難しさ、それは貴方もご承知でしょう」

それを聞くと、止めるに止められず、いってらっしゃいませお姫様。

 と、やや皮肉めいた言葉を伝えると、眉間にシワを寄せたまま、彼女は駐屯所に戻り

 十字盾を手に、城下町へと歩き出した。

この街の治安の悪さは、外に向く程、悪くなる。では無くむしろ、大通りに近い程、

 犯罪の頻度は高くなるのだ。それもその筈、裕福な者程、金目の物を持っている。

 その上、外回りには決して近づこうともしない。

それを踏まえた上で、大通り周辺の巡回を始めるセリスが早速目にしたのは、

 真紅の髪、真紅の衣服に身を包んだ少女、両手に何やら屋台で売られている果実を持っている。

 問題は、そこでは無く、その向かいで怒りながらも頭を抱えている店主らしき男であった。

 「すまない、また彼女が…」

 「これはティセリス様、巡回ご苦労様です。…と、ええ。また、ですね」

これで何度目だろうか、良質の果実を売りに出す屋台があり、それが気に入ったのか、

 お金も持たずに商品を食べてしまうアーネだった。 懐から金貨を一枚取り出し、

 それを店主に手渡すと、彼は目を丸くして手にした金貨と、セリスに視線を往復させる。

 「いや、これは、多過ぎて…それに貴方様から頂くわけには…」

この果実一つに対する貨幣の価値は銅貨一枚にも及ばない。

 それに対し、金貨一枚は銅貨一万枚程の価値があるものだ。ちなみに、一日一人銅貨十枚で

 十分に暮らしていける。それ程のモノを手渡され、店主は逆に困ると、悩み始める。

 「この店の品は、大変良質な物を取り扱う、そう思っています。

   アーネが気に入るのも無理はないでしょう。

   それは今後もまた彼女が来た時の為にお受け取り下さい」

 「勿体無きお言葉。で、では、ありがたく頂戴致します。ティセリス王女様」

彼女の言葉は、一体どれ程の発言力を有するのか、その答えは、すぐ後に殺到する買い物客である。

 ラシュティエートの姫様が良質の品と認めた、それを聞き逃さなかった買い物客が我も我もと。

当然ながら瞬く間に長蛇の列が並び、品切れとなる。それをただ呆然と眺めているセリスの側で

 アーネが美味しそうに紅く熟れた果実を口一杯に頬張っている。

 「しまったな…もう少し、考えて行動しなければ」

 「ふほいへー?」

さながら栗鼠の如く口に溜め込んだまま喋るアーネは、不思議そうにセリスを見ている。

 その表情は重く、冷たく、暗い。軽く、アーネは首を傾げるが、何かを思いついたのか、

 ピンと猫耳を立てると、呆然と立つセリスの右手を掴み、大通りの中へと走り出した。

 「こら、アーネ!?」

 「ほっひひふほはー!」

突然の事に困惑するセリスだが、それ以前に、いまだに口の中に食べ物をいれたまま…。

 はしたない!と、言いたいが、余りの勢いに連れられるがまま、大通りの先へ。

辿り着いたのは、キチンと店を構えた服屋だった。 ガラスごしに女物のドレスなどが

 飾られており、目を輝かせてアーネがガラスに張り付いている。

…。女であれば、この反応が正しいのだろう、いや、私も女ではあるがそれ以前に…。

 などと葛藤を続けるセリスの腕をひっぱり店内へと。

 「こ、こら。私はこん…いや、私の私服はこれで十分なのだ」

思わず言葉を止め、言い直した。 こんなもの と、言う所だったのだろうが、

 先程の事もあり、店内は確かに客も居る。間違っても言うべきでは無い、と。

 「えー…。ボクは見たいなー? セリスの違う所ー」

 「わ、私の違う…所?」

違う所…何を意味するのだろうか。私は私、今此処にある私が全てだ。

 軽く首を振るセリスの傍に、店主らしき、髪の毛が全く無い壮年の男が一人。

 「これはこれは、巡回ご苦労様です。…もしや、お召し物をお探しでしょうか?」

 「い、いや。私は、これで十分」

 「そーそー! オジサン、セリスに似合いそうな服とかあるのー?」

何ぃ!? と、慌ててアーネの方へと振り向くと、恐ろしいまでに瞳を輝かせたアーネが居る。

 同時に、大きく頷いた店主が、店の奥に飾られた純白のワンピースに掌を向けた。

 「あります、ありますとも。今まで幾人かはご試着、お買い上げ願えましたが…。

   こうは申し上げたくありませんが、今一つ。今一つ何かが足りないと常々」

店の奥の戸棚から取り出された純白のワンピースは、取り立てて目立った飾りは一つ。

 これすらも白かと見紛う程に薄い青のリボンが一つついていた。

 シンプルではある。けれどそれだけに着る者を選ぶのだろう。

眼を丸くするセリスの目の前に、ずずい…と、差し出されたソレを、断ろうにも、

 アーネが横から奪い取り、セリスを無理矢理に試着室へと。

流石は衣服を商いとする者の眼力か、セリスの大よそのスタイルを見抜き、合うサイズを

 ピタリと当ててみせた。そして何より、今一つ何かが足りなかったソレを待ちわびるかのように、

ただ、静かにその時を待つ。同時にその他の客も初めて目にするだろう、その時が来た。

 ゆっくりと試着室のカーテンが開かれる、そう思いきや、勢いよく開いたのはアーネだった。

その後ろで、顔を真っ赤にしながら、両手で胸元を押さえ、酷く恥らっているセリスが居た。

 短く切ってしまった金糸と見紛う髪と、度重なる戦闘で鍛えられた両腕は引き締まり、

 少し残念な部分はあった。あったが、それでも店主や他の客から感嘆の声が挙がる。

神話に出てくる女神のようであり、かの天馬もその膝の上で安息を得るだろう。

 これ程に白の似合う清らかさを持ち合わせる方は、そうはいない、何よりもこの恥じらい。

 そう、これだ。これなのだ。と、今一つの何かを得た店主は、喜び、その服を献上したいと、

 セリスに言うが、視線を何処にやっていいのやら、そんなただ困惑した彼女は返答する余裕すら

 ありはしなかった。

 「すごく似合ってるよねー?」

 「まさに、女神と見紛うばかり…純白に足りないのは…。

   そうでしたか、恥じらいの赤…そこから生まれる清楚でありましたか」

これで、彼女が髪を伸ばしたら、世の男どもを全て魅了するなど容易い事かも知れない。

 それは、言い過ぎではあるが、鎧姿しか見た事の無い国民にとって、それ程までに鮮烈だった。

 「オジサンこれもらっていーのー?」

 「勿論ですとも、使って頂けるだけで、私の店に十二分な見返りがありますので」

 「やったー! んじゃもらってくねー?」

などと、その意味も知らず、困惑の極みに居るだろうセリスの腕を引っ張り、また街中へ。

 多くの人が行き交う大通りを、見知った人物が、見慣れぬ格好で引っ張りまわされている。

買い物客はその手、その足を止め、ただ呆然、ただ感嘆の声を挙げている。

 そんな中を何が目的なのか、何がしたいのか、顔を真っ赤にし、困惑するセリスを引っ張り尚走る。

辿り着いた先は、あの駐屯地だった。 その中で椅子に座り、

 今度の二面作戦の為の書状を書き留めているラムザは、一息つこうと、羽ペンを机に置き、

 木製のジョッキに注がれている水を口に含んだ。

その直後、駐屯所のドアが元気良く開かれ、何事かと、ジョッキを口にしたまま振り向き、噴出した。

 アーネは火の民の戦装束そのままではあるが、問題はその後ろだ。

一瞬、誰だ? と思う必要も無く、セリスである。であるが、衣服が…ワンピース…。

 余りの激変ぶりに口にした水を激しく噴出し、同時に咽た。

 「げほっ…ぶ、な、ななな」

 「ラムザおじさーん、どうだーこれー!!」

どうだ? と言われても余りの変わり様に言葉が見つからない。

 例えるなら目の前の老人がいきなり子供に変わった。そんなレベルだ。

 「…アーネちゃん」

 「ほえ?」

彼女の名前だけ呼び、ラムザは静かに然し力強く親指を立てた。

 エステシア殿の記していた、来るべきに備え、十分な働き…。

それは恐らく、アーネちゃんがあのお姫様を変えてくれるだろう、という意味だったのか。

 然しまさか、見た目からゴリ押しで変えてくるとは。

暫し、白が良く似合う、恥じらいのある乙女…いや、若干怒りも含まれているが、

 そんな姫様を見つつ、周囲を見ると、他の騎士達もただ驚いている。

ちなみに、代わり映えもそうだが、実は女の子らしい格好を全員が見たかった。

 その思いが現実となった為の感嘆だろう。

 「し、失礼する!!」

と、セリスが言うや否や、慌てて自室に駆け込んで行った。

 それを見て首を傾げるアーネだが、その場にいる全員が彼女に向けて親指を立て、

 意味を知っているのか、ただ真似たのか、彼女もまた、満面の笑顔で親指を立てた。

暫くすると、替えのチュニックとロングスカートに着替えたセリスが下へ降りてくる。

 ご機嫌は…斜めどころか垂直落下のようだ。

ゴホン…と、軽く咳払いすると、一瞬で空気が凍りつく。

 あからさまに今見た事は忘れろ、そう言いたげに視線を周囲に送った。

だが、相変わらずマイペースのアーネは残念そうに首を傾げているだけだ。

 「アーネ…、少し、やりすぎだ」

 「えー?」

言葉と、空気が重い、けれど、アーネは全く意に介さず、首を傾げている。

 本来、一国の姫君を着せ替え人形の様に扱ったたのだ、重罰は免れないだろう。

そう、問題は此処にある。身分の壁とは、位の高い者に無礼を働くとそれに対する罰が下る。

 当然ではあるが、そもそもアーネにそういう価値観は存在しない。 ただ無邪気にこの言葉を返した。

 「良く似合うと思ったけどー…」

 「似合う、似合わない以前の…いや」

ふと、セリスは気付く、今まで私はコレを望んでいたのでは無いのか?

 望んでいた者が今、まさに目の前にいる、それを否定して私はどうするのか? と。

そんな葛藤の中、心情を察したのか、セリスの肩にポンと右手を乗せて、黙って頷いたラムザ。

 「団長…。そうですね。 ありがとう、アーネ」

 「ふぇ?」

駄目だったかー、と思い込んでいたアーネの予想に反した言葉に、左右に萎れていた猫耳がピンと立ち、

 喜びを露にしていた。そこで咳払いを一つしたラムザが今日は二人で外で遊んできなさい…と。

その言葉に、眉間に軽くシワがよったが、巡回のついでに、アーネに街の案内をしてきます。

 そう言うと、アーネを慌てて連れ出していくその様は、明らかに今までと違う。

何処か嬉しそうで、何かに期待でもするかのような、そんな背中を見送りつつ、

 ラムザは心の中でこう呟いた。

 

 鳥篭の中の…いや、騎士の鳥篭というべきか、その中から連れ出してくれたか。

  まだ戦いの日はまで、少しあるのだろう、見つけ出して来い。

 ラシュティエートの血筋としてでは無く、一人の人間として、

  真に護りたい、そう、心から思えるソレを。

  


  



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