ダイエット
短いです
以降、ツァスタバの提供でお送りします。
「あらそろそろ食肉用が切れそうですわね」
一声あげたのはロザリアントでした。マスター達と散りじりになりこの大陸に私達二人がやってきたのはつい一ヶ月ほど前、それからはずっとこのゲル擬きを張ったまま生活をしていました。
キッチンの床下にある大きな備蓄庫を広げてロザリアントはおかんむりのようです。それもそうでしょう、なにせ私が料理しては食べてまた料理して食べてを繰り返してましたから備蓄が目に見えて減ってきたようです。
「ツァスタバ貴女食べ過ぎですわ。この前も松露を掘り当てたと言ってご主人様が仕入れた『黑露宮羽聱神ウナムカ』を食べてしまったでしょう!」
「うっ!」
胸向かって指を指されます。ううう、否定出来ません……
とはいえ確かに少し食べ過ぎた気も……お嬢様が手をつけないで欲しいと言われた物には手を出していませんがそれ以外は味見を……
なんだが最近太腿がやけにむっちりとしてきたような気もします。腰に手を当てるとむにゅ、っとした肉が若干……
「おーほほほ!! 太りましたわね」
「めー! 言わないで下さい!!!!」
ロザリアントが勝ったと言わんばかりの高笑いをして私に現実を突きつけてきます! 助けて下さいませマスター! この際お嬢様でもハリスでもいいので太っていないと誰かに言って欲しいです!!
「で、でも私は元から太らない体質ですし。む、むくみの可能性も」
「太らない体質でも動かないと体質もへったくれもありませんわ」
「最低限の家事炊事洗濯はしてますし……」
「逆にそれだけだからでは? 今は私との二人っきり、ご主人様やお嬢様、ハリスが居なければやることも殆ど有りませんもの。これは怠慢からくる贅肉ですわね」
「ううぅ、」
「このままですと完全に豚に成りますわよ」「し、死体蹴りはやめてください!」
言葉の槍が痛いです! 私は山羊ですのに!
豚なんて酷いこと言われると私にはきついです……もしマスターがこのことをお知りになったらーーー
『ツァスタバお前はいつからそのような醜い姿になったのだ』
『いえこれには訳が!』
『丸々と肥え太った豚は普通どうなる?』
『そ、それはぁ……! ひわぁ、太腿は触らないで下さいませ!』
『太った豚は食べごろだろ?』
「ああ……食べられてしまいます……」
「ツァスタバ」
「ああ、それとも虐げられてしまうのでしょうか……」
「何を泡沫の夢を語っているのです。ご主人様はそのようなことには世界一興味がないお方ですわ。もし少しでも精力がありましたら私がどうにかしてますもの。あのお嬢様でもあのような関係であらせられるのに……その考えは溝川に捨てて来なさいませ」
お尻を軽く鞭でペシペシと叩かれて現実へと引き戻されてしまいました。
そのまま抱えられてゲルの外へと抱えられて運ばれます。外に出た瞬間地面に落とされました。痛いです!
「うっ、重い!」
「言わないで下さい!」
「五月蝿いですわ。ツァスタバ、貴女今からダイエットしますわよ」
はい?
口をぱかりと開けているとゲル擬きは収納されてしまいました。ああそんなぁ……
「さあツァスタバ。覚悟なさいませ?」
「め、めぇぇぇぇ!!!」
以上ツァスタバがお送りましたぁ……
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無駄に広い部屋が無駄だ。
広い部屋はカウチや書きもの机、寝室も完備。あとは部屋の一角を占領する山積みの貢物。
絢爛ではあるがそれだけだ。
暇だ、
そうだこれだけ暇なのだから建築図でも作成するか。
背中を預けていた長椅子から起き上がったところでガシャガシャと五月蝿い音が近づいてくるのが分かった。あと数秒もしないうちに扉が開くだろうと予想を付けて先に開ける。
「おわっ!」
「五月蝿い。何様だ」
案の定扉の先にいたのは魔王だった。どうやら今日はいつもの白い甲冑ではない別の白い甲冑だ。
「それでなんだ?」
「あ、いや、何をしてるのかなーっと。ここの慣れたところか?」
「ああ」
「今はひまか?」
「これから仕事をやる。邪魔立てはするなよ」
「手伝いは」
「不要だ」
「邪魔はするなよ」
世話世話しい魔王の目を見てやると固まった。そのまま後ろに倒れそうだったので壁際の書物机の椅子を瞬間移動形式で移動させて転倒を防いだ。
呆然とする魔王を尻目に貢物物の山から目当ての物を発掘していく。光沢のある大きな羊皮紙、星空を溶かしたようなインク、金色の羽根ペンを手に取った。
「さて作るか」
「何を?」
「今の最大目的」
いちいち質問の多い王だな。建築図だ。
凝視する魔王を放置して羊皮紙を宙に広げ、【無限の胃袋】から建築関係の書物を引っ張り出した。流石に大き過ぎるので書物机は使えない。
そのまま宙に神通力で縫い止めて羽根ペンを押し付けていくと後ろから「アンビリーバボ」の声。
新月にたまにやらされる【千里眼】のテレビ化で見ていた番組を思い出した。
「流石と言えばいいのか……いや、分かっている。気にしたら負けだ」
「何か問題でも?」
「いや無いです!危ねえ!!」
五月蝿いな、ペン先を眉間に近づけると大人しくなった。そういういえばなんでこいつ此処にいるんだ。戦争中だろ?相手は弱小とは言え呑気に構えてどうする。
「戦争はどうした」
「戦争? あああの糞国か。国力も戦力もこっちの方が倍だから将軍に任せている。勇者が出てこない限り俺の出番は無い。それに今は貴女がいる、うちの士気はうなぎ登りだ!!」
声高に笑い声を上げる魔王が五月蝿いので私の周りの音を遮断した。こうでもしないと設計図が無駄になる。
満足気に視線を投げ掛けている魔王は放っておくとしても確かにそうだな。五十嵐拓也と一行は今頃レベル上げの旅に出た辺りだろう。
大回りをしてあの国から『元凶』の話を聞かされる。そこでこの国を目指すといったところか。
やれやれ、何故こんな御粗末な理由が上手い具合に噛み合わさっているんだろうな。そんなことを考えながら私はこれまでに集めた資料と自前の能力を武器に羊皮紙との格闘を始めた。
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新月♂視点
「『さーよってらっしゃい! 見てらっしゃい! ここにありますのは運気を1上げることが出来る石!!! 重複は出来ないけど効果はステータスを見てご確認を!!! さー寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」』
「(新……白さんこれ本当に運気上がるんですか?)」
『うん、適当にそこら辺の石拾って運が良くなれ〜って考えてたら運気プラス1だって! 運気5のもあるけどそれは貴族や稼いでる奴に実は……って売るつもり! 性格重視だけどね!』
冒頭のウナムカとはイタリア語の牛です。黑露宮羽聱は当て字(笑)




