それぞれの岐路
こっから新しい章になります。しばらくこのまま続行
日本、東京
田島薫
――――――! 〜〜〜〜〜♪
幼馴染兼彼女の春香が帰って今は暇だった。
あれから何ヶ月経っただろうか。
気がついたら救急車の上で今は病室、正確には精神病棟。枯葉を数える立場ってやつだ。
俺はあの世界での記憶が曖昧だが美海はしっかりと覚えているらしい。今日も今日とて病院をいち早く退院した美海が遊びに来て話をしてくれるだろう。
テレビでは集団誘拐事件の被害者として名が載った俺と美海だったが実際は100人中110人が信じないような出来事だった。
異世界
魔法
中世のような権力を持ったまま存在する王族
魔獣と言われる存在
そして有名過ぎる程名前が売れた神様とのご対面。
それに気がついたのはまさかの本人の大暴露で何も話せなかった。
―――――?! 〜〜♪
今手元にあるのは唯一電子機器を使っていいエリアで許されたスマホだった。と言っても新品ピカピカの物だった。
生憎前の愛用品と制服はあの異世界に置き捨ててしまったがそれで返ってこれたなら儲けものだと思う。
『やはり貴様が黒幕だったのか―――クロノス!!!』
『ふははは! おめでとう!!! 大正解だ!!』
新しくインストールしたゲームが最終決戦に入っている。でも、
「本物ってやっぱ強そうだったけど中身スッカスカだったよなぁ~。あれじゃあ王様なんて目指す訳ねーよ」
実物とは大違いの画面の中の男をタップすると場面が進んだ。そこでセーブをして一旦テーブルに置いた本を取る。
『ギリシャ神話1』
本と言っても漫画のような物だ。表紙をなぞり数ページ分だけ飛ばす。
―――クロノスは王となり次々に我が子を飲み込んでいった。
イラストはグロ味があるが目を閉じて考える。
当の本人の過去を、知らない間に出来た我が子を自分の意思とは関係無く丸呑みにしていくその様は狂気を超えている。もし俺その立場に立たされると思うと全身から血の気が引き、シャワーを浴びたような冷や汗が出た。真夏だというのに凄まじいな。
あの人達はどうなるのだろう、それに拓也や佳奈、吹雪先輩は? あいつらがやっていたことは教えて貰ったがタダじゃ済まないことは予想している。
「せめて生きていて欲しいんだがな」
口に出た希望は泡沫の夢になるのは知っているだが幼馴染の安否を祈りたくなるのは許して欲しい。例え途中リタイヤでなんの苦労も無く帰れた脇役でもそれぐらいいいだろ。
「―――田島薫さんご友人の方が来られてますよ~」
俺以外誰一人としていなかった部屋に看護師が入ってきた。同時に見慣れた無駄にでかい胸が見える。
「薫! 昨日ぶり! 元気になった?」
「ああ、薬を飲んでいれば鬱病も抑えられる程度にはな」
「春香ちゃんは?」
「さっき来て帰った」
「そう、あーこれギリシャ神話じゃない! スマホの方も! 考えることは二人とも同じだね」
断りをいれて真向かいに座ったのは美海だった。美海は精神状態は少し不安があるがそれより身体の方が問題だと普通の病院に入って退院した。はずが上記の通り毎日来る。元気だよなー。
「あの人達も拓也達も生きていればいいね……」
「そうだな……」
看護師がいなくなった部屋に二人分の沈黙が響く。それを破ったのは美海だった。
「っとそんな話をしに来たんじゃないの! 拓也達はきっと自分達でどうにかするから! それよりね―――」
「おう!」
気持ちを隠すように無駄に明るい声で喋る美海の話に耳を傾ける。願わくば彼らに幸多からんことをってやつを心の中で考えながら。
****
ツァスタバ視点
「そろそろ頃合いでしょうか」
日課になりつつある盗聴をして早数ヵ月、とうとうこの国がマスターに刃向かいました。ここで滅しては駄目でしょうか? 控えろ? なら我慢致します。
頃合いを見て胸元に入れた花へと呟く。
「ロザリアント“コードレッド”です。ご用意を」
一方通行の会話はロザリアントにはしっかりと届いているでしょうから既に用意を始めていると思われます。ではこちらも用意を致しましょう。
屋根裏から誰もいなくなった部屋へと着地する。この部屋での監視魔道具は既に私の術中です。
マスターですら知らないことだとは思いますが先程まで国を動かす元老がいた場所であるこの部屋には人の動きを監視出来る魔道具がありました。なんでも双子水晶というものを使ったものらしいのですが双子の片割れの水晶しかもう片方の水晶では見えないという旧式な物です。これならば鼻で笑えますね。
それに比べてつい最近私が取得した特殊スキル、秘術【紅玉の魔眼】【悪夢の始まり】は使い勝手の良いものでした。
【紅玉の魔眼】は周囲の動きを操れるというもの。
【悪夢の始まり】は一定期間術者の見せたい幻覚を見せると言ったもの。
どういった要件で使ったのかはお分かりでしょう。さて私は迷惑料でも頂きましょうか。
もう何度も盗視していたおかげで見つけてしまった城の重要箇所から使えそうな情報を入手、一瞬国庫を空にしてやろうかとも思いましたが搾り取って貴族、いや豚族の皆様の手垢の付いた物なぞ持ち込んだら穢れるだけだと思い捨てておきました。あら、豚族とは豚に失礼でしたね。豚は以外に清潔な生き物ですもの、あんな下等生物と一緒にする訳にはいきませんね。
兵士よりも先に根城に戻ると既にロザリアントがゲルを畳んで優雅にコーヒーを飲んで待っておられました。何をのんびりしているのか。
「あらツァスタバ、遅かったですわね。羊皮紙はあの顔面偏差値だけは高い近衛兵二人に渡して置きましたよ?」
「そうですか。では行きますよ。もうすぐ兵が来ます」
「ええ、でしょうね。植物達が五月蝿く喚いています」
そういって草の上に座りカップに口をつけた。一体何を考えているのでしょうか。悪い予感しかしません。
「ところでツァスタバ」
「何ですかロザリアント」
腕を組んで待っているとコーヒーを飲見終えたらしくコーヒーソーサーの上にカップを置きました。ロザリアントの目はこの一ヵ月間見たことがない程輝いています。
「少し考えたのですけど私達が外出をする際デブ……豚貴族どもが近寄って来ませんでしか?貴女は確かお尻を触られそうになったはず」
一体どこでそんなことを……まあ事実ですが。勿論お嬢様が居られない時に巷を騒がす怪盗βとして不届き者の再教育をしてきましたが……あれは思わず笑いが出てしまう光景でした。まあそれは置いておいて、
「ええ」
「それにこの国がやって来たことでご主人様とお嬢様、ハリスが絶賛危機に陥っておられるわけです。―――その御礼はしてもご主人様 から撥は当たらないのではないでしょうか? 少なくともお嬢様は了承どころか『やってお仕舞い!』と言っておられました。如何致しましょうか」
そう笑顔で答えるロザリアントの手にはあの鞭がしなやかに風を切っています。
嗚呼、そういうことですね。確かに御礼は必要ですね。私が兵士の訓練場を通りかかった時でしたか? 奴らがベタベタと気色が悪かったのは今でも不快な思い出です。
「では決まりのようですね」
「ええ、迎え撃つ事に致しましょう!」
私も最近になって愛着を覚え始めた巨大な鉄の塊を出しました。あら丁度ご招待してもいないのに団体様で来られたお客様 が来られましたね。マスター 不在の中何と腹立たしいことでしょう。今までの鬱憤晴らさして頂きますよ。
「貴様ら高飛びの用意でもしていたのか?!!!」
「だがこの人数を二人で相手するのは無謀な考えだぞ? お前達が魔法を使えないことは知っているからな! 諦めて降伏しろ!!!」
「そうだそうだ! 大人しくしていた方が優しくしてもらえるぜぇ? 何せお前達の身はこの衛兵隊が預かることになっているからな」
―――――――!!!!
――――!!
―
以下省略、気色が悪いどころか只の反吐でした。掃除よりも抹殺したいですね。下衆が洪水のように湧き出て来ましたがこの国は世界地図から大陸諸共消し飛びたいのでしょうか?
そんな中ここ一ヵ月間で最高の笑顔を振りまいているのはロザリアントです。私は遠距離戦派ですので後ろに下がっておきましょうかね。
「あらそうですのー? 可愛がる? でしたら是非この私が可愛いがってあげますわよ?」
角に巻いたリボンが鬱陶しいですが耳を塞いで置きましょう。
「こんな風にねぇええええええ!!!!」
バァァァァアアアアン―――
あまり上品とは言えないロザリアントの叫びと共に鞭が出したとは思えない声が聞こえたと思います。
ロザリアント、貴女城が自己再生する物件だと知っていてやっているにしろ一発目でこれはどうかと思います。私の出番が無くなるじゃないですか。
「あぁぁははあは!! 嵐に逃げ惑う虫のよう! やはり鞭とはこういう使い方をしなければねぇ!」
ずんずんと鞭を振るいながら進むロザリアントの後ろにくっ付いていると木の影から人の気配がしました。魔導師でしょうか?
ロザリアントは殺さないよう、しかし顔や急所ばかりを狙って鞭を振るっています。これは顔や体に鞭の跡を残し死ぬまで恐怖を与える為だと思われます。
しかし私はそんな耳っちいことはしませんよ?
「こちらもお忘れの無いように」
今までの倍返しとして弾丸をお見舞いします。これ魔力一ポイント分で何千発も撃てるようにとお嬢様が面白半分で改良してくれたんですよね。こんな風情の無いことをするとは当時考えてもいませんでしたが役に立ちそうです。
隠れていた敵も制圧しついでに城に向けて何発か撃っておきます。元に戻るならばようございませんか? 中の人は知りませんがどうせいつかは消える命です。問題はないでしょう。
「邪魔ですわぁ!」
邪魔の一言で城門を完全破壊したロザリアントが今度は外にいた人間も消して置きますか、なんて呟いていたので手を掴みます。そして鉄の塊とは逆の手で腰を掴み小脇に抱えて逃走。そんな時間があったらとっとと行ったほうがいいではないですか。
不貞腐れるロザリアントが暴れ出したので頭を叩けたらよかったのですが―――というかこの人私よりも胸が大きいので揺れて手を殴打して来ます。変わってほしい方がいたら是非変わって欲しいです。
そんな中兵士を振り切り途中で寄り道をするなど走りに走り大陸の西側の先まで走りロザリアントを地上に下ろします。
「では、手配通り に行きますわよ!」
高々と伸ばされた硬鞭を振り下ろしモーセの如き道が海に切り開かれます。さてそれでは行きますか。
「ロザリアント行きますよ」
「ええ、お願いします」
再度ロザリアントを抱えて切り開かれた海底を走る。ある程度走りロザリアントを下ろすと箱から取り出した宝石 を取り出して下の上で転がし、歯で噛み砕きとある場所を思い浮かべます。
するとどうでしょう体が溶け始め消え失せたと思ったら風になり空を散歩しているかのよう。味は有りませんでしたが中々に面白い体験です。
マスターの用意した策はこうでした。まず派手に城を脱出、元々憂さ晴らしをしたいとロザリアントがマスターに言っていた為こんな喜劇を演出する羽目になりました。
そして逃走後、適当な場所でロザリアントのモーセ道を作りここから逃げたと思わせた後、戻って港町へ向かいマスターが予約していたヴェレンボーン行きの遊覧船に乗る。という建前で実はモーセの道を進むという策が出ていました。
ここで出ていたというのがミソです。
マスターは何十にも策を作っていました。まずマスターは遊覧船の件をこの国に溢れる乞食を途中で見繕い変装させて船に乗せるという小細工。
道を作ったと思わせてマスターの秘術でなんの苦労も無く他国への逃亡、という反則技まで作っておいででした。鞭で道を作りながら逃げると道に石を落としているようなものですよね。
ですからマスターはこのような二度手間三度手間をかけてでも私達の逃走経路をご用意してくれたのでしょう。嬉しいです。
それにもしロザリアント製モーセ道が途絶えているとなれば船は囮だと高を括っていた汚国はどう思うでしょうか。道が続いていないと知って遊覧船を追いますかね?
しかしまさかこんな事になっているとは思わないでしょうし。
衛兵隊長と副隊長にはマスターからの言伝を渡しましたが……ロトの一家のようなことをするとは、マスターも少し情が出たのですかね? でしたら執事であるこのツァスタバも嬉しいのですが。
「まあやっていること自体絵空事の話ですしズルですよね」
漂うこと数時間後、久しぶりに地に足をつけると空を飛ぶ魔獣が見えました。あれ食べれるのでしょうか?
「どうしましたのツァスタバ? 腑に落ちないことがあるなら一人でお戻り下さいませ。あ、ついでにこちらのお茶受けとワンピース買って来て下さいます?」
「しませんよ! 買いにも行きません! そこまで言うならご自分でお買い求め下さいな着道楽」
「あらそうですか、というか貴女に言われたくないですわよ食道楽」
空を見ていたら心残りがあると思われたそうです。私の手でやつらの息の根を止められなかったことは確かに心残りですが戻るだなんて時間が勿体無いことしませんよ。そう言うロザリアントも口元は笑ってます。この子本当いい性格してますね。
「それよりもマスターからお預かりしたゲルを広げても大丈夫な場所と食料を確保しに行きますよロザリアント。何せここは私達が一度も足を踏み入れたことの無い地、カパズティットなのですから」
目の前に広がる大自然を前にこれからどうするかを考えた。うーん、この周辺草原しか広がって無いんですよね。本当何も無い。
「それもそうですわね。早く用意しましょう。ツァスタバ、貴女山羊なんですから野生の勘でどうにかして下さいまし」
「めー……そういう貴女だって大地の化身とも言える存在でしょうが!」
本当、この子としばらく二人っきりというのは骨が折れそうです。
****
ハリス視点
「――――――――――――!!!!」
ボジャァァン―――
目の前で起きていることが理解出来なかった。
クロス様は?
消えた?
なんで?
脳みそが動きを止めようとするのを抑えて考える。
アリアスさんの背中は仄かに光る夕陽色の液体がぶち撒けられている。これは誰の? 新月さんのじゃ無い、あの人は手を伸ばしたまま石化している。ならこれは―――
「―――!!!」
「わ、ちょっと、新月さんストップ!!!」
咄嗟に出来たのは後追い自殺しようとする彼女を止めることだけだった。怪我してるのになんでこんなに元気なんだよこの怪力馬鹿! 今度からゴリラって言うぞ!
「アリアスさん! どうにかして下さい!!!」
『私だって砲弾避けたり投石避けて大変なんですけど?! でもこのままでは危ないので加速して逃げますよ!』
え、いきなり? 俺さっきご飯食べちゃったんだけど……
『それではさようなら! 御機嫌よう!』
「―――――――!!!」
加速して上からの魔道士、下の砲弾を尻目に頭によぎったことは初めてクロス様と新月さんにジェットコースターを体験させられた時の恐怖だった。
空が明る……気持ち悪い。
「うぅぅ……」
目覚めてすぐ吐くことになるなんて酷い始まりだな。今日は絶対に悪い一日になりそう。
ワカメを纏ったまま海岸に打ち上げられた体は死んでいる。向こうに白いケツが見える。あれは無視しよう。あ、向こうに頭を砂浜に植え付けられた逆さま屍体の鳩が見える。俺は何も見ていなかった。
じゃない! クロス様がいねぇ!
理解はするが体が吐いた衝撃で起き上がらない。どうしよう……
悩んだ挙句俺は苦肉の策、~我が脳内 会議第二回。今後の方針について~を開くことにした。
―――――
―――
「うおおおおいいいい!!! どうすんだよ! 俺お尋ね者じゃん死にたく無いんだけど!」
「ええその気持ちは分かりますよ。ですがヤンキー崩れの俺 、貴方パジャマじゃないですか。着替えもしてなかったんですか?」
そう言って隣に座るメガネをかけた俺 がじとりと見るのは豚模様(ロザリアントさん作)のパジャマに革靴とカバン。完全に寝坊したサラリーマン姿である。やる気のなさはついに目に見える形となったのだった。
「んな時間無いだろうが。そう言うメガネかけた俺 お前だってパンとジュース飲み食いしながら喋るな」
「時間がなかったんです。見逃して下さい」
そう言ってやる気のない改めヤンキー崩れのだらけた俺 が睨み返すのは格好こそしっかりしてるが飲み食いしながら喋るメガネをかけた俺 。お前は遅刻した学生か、
「そうそう! ってかさっき吐いたのによく食えるな! 関心するよ。ってかやばくね? 俺死にたくないいいいい! 新月さんの面倒一人で見るなんて無謀だよおおおおお!!!」
「五月蝿え!」
ヤンキー崩れに叩かれたのは心配症の俺 。やつは皺くちゃのシャツに寝癖でほぼオブジェのような進化を遂げたヘアスタイルでご登場した。
「君もうるさいですよヤンキー崩れの俺 。他のメンバーは……」
「寝坊か吐いた衝撃でどこかで伸びてますね。そう言うヒゲを付けた俺 ヒゲが眉毛についています。慌てて出てきたことは分かりますから直しなさい」
メガネをかけた俺 がヒゲを眉毛につけた俺 に注意をすると顔を真っ赤にしながら無言で付け直した。
「おっほん! では今後どうするかを考え―――
「突撃! 隣の●ご●はん!!!!」
「「「うおおおおお???!!!」」」」
裁判長を務めるヒゲをつけた俺 が方針を直そうとしたその時、上空から白い塊が降ってきた。これは―――もしかしなくてもあの人だ。
「「「「何やってるんですか新月さん」」」」
ってかあんた喋れたんかい! あ、脳内での会話ならノーカンか!
「いや~現実逃避していた人がいたから突撃しにきました? っていうか早よ戻ってこーい。俺今君の中にお邪魔してる状態だからスタシス剥き身なのーはようして」
巨大なしゃもじを持って現れた新月さんの言葉に俺達全員が口を開けた。
あれが……剥き身のまま砂浜に――――
全員が互いに目を合わせた。全て俺達だ、考えていることは分かる。
「「「「だ、第二回脳内会議中止!!!!!!」」」」
「えー! 今北産業だったのに!!!」
アホな叫びと共に現実に引き戻される。キツイ……でもこれで厄介ごとには―――
「「「「き、貴様等何者だ!!!」」」」
「『おっふ……」』
現実に強制送還された俺と新月さんの目の前には触りごごちが良さそうな毛皮をまとった二足歩行する動物が、
―――今だにそこで砂風呂してる現創作神アリアスさん、貴方狸寝入りしてないで助けて下さい。ここにいる白い馬鹿神がやらかしやがりました。
****
アデリーナ視点
二週間前私は今までにない恐怖を感じた。
初めはあの星の神という男。
でもこの国では始まりの神という名前をつけてはいけない存在というのがこの国の宗教であるはず。
細かな説明は省くが人を作り人のために世界を作り上げた後この世界の管理を人に託した。というのが宗教の土台としてあり、神は空の上で人を守りつつ失敗作 の様子も伺っているというのがこの国一般に伝わる神話。
側から見れば可笑しな話だと思うだろうがこの国では神は一神のみとされ他の宗教は認められていない。取り分け創作神アリアスを祀るのだけは絶対してはならないと考えられている。魔界やヴェレンボーンでは問題がないというのに妙な話です。
……話が逸れました。
とにかくあの男が本物の神であればそれは異界の神となります。そして男が神であることを確定させて話を考えるとクロス様は……大変どころの騒ぎではありません!
お父様はそれを知らず国際手配などなさってしまった。私はあまり面識はありませんがクロス様の従者であるツァスタバさんやロザリアントさんの城内破壊行為も入っているそうです。
私は城など で事が済むならいい と思いますのに。
これが次の恐怖です。一体どうなっているのか分かりませんが保護され久々の地上に戻ると身が凍るかと思いました。まだ大迷宮で寒さと息苦しさに包まれている方が遥かに楽です。
町一面にはいつ描かせたのか分からないあのお方の顔、顔、顔、顔だらけ。他の方々の絵はほぼ杜撰でしたが一体何の恨みがあってここまでするのかと思うほど悪意を込めた手配書があちこちにありました。
連絡は通っていたとはいえこの速さでこれだけの量が貼られるなど可笑しな話です。たとえ寄り道をせずに帰ったとはいえこの情報の速さは可笑しい、それに今になって思いましたがあの時兵士がダンジョン内にいること自体が怪しいです。もしかしてお父様は初めからそのつもりで……?
いや、恐ろし過ぎる………私は何も分からない、分からない、知らない、無知とはここまで恐ろしいのかと思うほど怖い。何も出来ない自分が恐ろしかった。
せ、せめてクロス様に寛大な処分を願い出ようと思いましたが今この場にあの方はいらっしゃられない。先程城からの使いが来てクロス様と思わしき人物を殺したと話していました。
給仕の方々は何処かへと消えてしまったらしくお父様が行方を追っている最中だとか……次に何かが起きてしまう前に私がどうにかしなければなりません。
今はダンジョンの脱出後護送されて城に向かっていますが帰ったならすぐに話し合わなければならない。 お父様に本当の事を言うのが一番早いと思うけどなぜかあの長髪の男神の神発言は恐怖のあまり忘れ去ってしまったのが厄介なところです。これでは証拠が無く話を聞いてもらえない。
ただでさえこの国には唯一神が作ったとなっているのにそんな話を私一人ですれば火に油を注ぐ事になりかねない。
悔しいがお父様には内密にするしかない。かろうじて私はこのまま同行することになっているからそれを隠れ蓑にクロス様を探すしかない。死人を探すという可笑しな話ですがあの方は絶対に生きている。
勇者……いいえ、私も彼を担ぎ上げ過ぎた。彼等と言い直しましょう。彼等は使いからの話を信じていますが私はそう考えています。
もしかしたら薫と美海も一緒に助けて貰っている可能性もあるから是非お会いしなければ!
あの時の……後から知りましたがジンニーヤー様の話では何かを隠すように追い立てられましたからもしかしらという希望が残っています。
薫、美海……墓をあそこに建てるなど私は認めませんからね! クロス様も絶対に探して見せます!
これは私の……いえ王女としてだけでなくアデリーナとして私がするべきことですから。
****
激流に流される。
通常の人であるならばコンクリートに打ち付けられるような衝撃も私ならば強い痛みを味わうだけで済む。ここまで茶番を演じれば神聖カルットハサーズの人間全員を騙すことが出来たと思う。あとは露出しないよう静かに過ごせばいいだけだ。と言っても今までが大きく動いていただけだから普通に暮らせばいい。今後 動き辛くなるがまあ時間はたっぷりかけても大丈夫だろう。
荒波に揉まれながらそう考えていると水中から何かがやってくるのが分かった。あのヒレは……鮫か、血の匂いを嗅ぎつけたみたいだな。
身体を波任せにしていたらいつのまにか囲まれていた。仕方ないな、少し面倒だが覚悟するか……と考えているともっと大きなものが水底から来ることが分かった。
鮫では無い、もっと大きな、巨大な何かだ。
それこそ神話級のものが出てくる気がした。
「「「AAA.AA,aaaaaaa啞嗚呼あゝ唖々阿―――」」」
不快な声が真下から聞こえた。下から押し上げるように海水で流されると声の主が海底の奥底から顔を出した。
これはクラーケンか? 見た目は烏賊見えなくも無いが色合いは烏賊に見えない。随分昔に新月とやった鉄道のゲームに出てきた怪物の方が似ている。あれによく私はやられていた、ついでに巨大化した貧乏神にもやられていつも最下位だったな―――
昔話を思い出していると烏賊の足が伸びてきた。鮫が逃げたことで食われずに済んだと息つく間も無く吸盤に腹を刺されたあと巻き付かれて海底へと引きずり込まれた。
これで疑うやつはいないだろうと自分でもどうかと思うが場違いなことを考えていた。
私は人間ではないから酸素が必要だとか気圧の問題はない。海底にいようがいまいが通常通りだ。だからこうものんびりと出来る訳だが私の身の丈以上の目玉と鸚鵡のような嘴が見えれば話は別だ。今死んだら戻ってくるのに前程では無いにしろ時間が掛かり過ぎる。
あ―――……アリアスに言ったこともあるし嘘を言わ無いのであれば仕方ないか。
これ以上厄介事が増え無いようにと新月特性の守護石二つを握り締めて深呼吸をする。
こいつは殺さない。このデカブツには私が死んだ証拠 を担って貰う必要がある。
「「「AHAAHAAHaAHAHA母妣hahahahaha―――orehakamiomokorosuuuuu―――sonnzaaaaitonaruuuuu―――」」」
ほー……驚いた。こいつあのインフェルノと同じく喋るのか。
濁った音を束ねたような聞き取りづらい声が海底に響く。
でもそれは、
「悪いがそれはお預けだ。『去ね、愚者』」
無理をごり押しして神通力を使い目玉に向けて光を放つ。
至近距離で光を浴びせられれば誰だって怯む。それは烏賊のクラーケンでも効いたらしく。私を放り投げた。潮の流れに押される中視界にノイズが走る。
嗚呼、こればかりは私でもどうしようもない。時間 の流れに身を任せるか。
「―――?」
「――――?! ――――!!!!」
「――――――」
何かの声が聞こえる。五月蝿い。私はまだ寝ていたいんだ。最近は睡眠なんて取ってなかった。必要は無いが。
「こ―――王―――」
「―――お、――――よ」
「まさ―――、あ―――」
あまりにも騒ぐものだから冴えてきてしまった。
こいつら何に騒いているんだ?私か?確かに今の 私を見れば驚くだろうが。このままやり過ごせ……ないか。このままだUMA扱いされそうだ。
起きるか、
寝ている間に身体のあちこちをぶつけたらしい。節々が痛い、腹にも穴が開いているから余計に痛みがあるな。
ゆったりと上半身を持ち上げる。
どうやら砂浜に打ち上げられていたらしい。新月証の御守りは二つとも無事手の中にいたが服は無くなっていた。
足で地面を踏みしめる。
そりゃそうだ。だって、
足をしっかり伸ばす。
「今の」私は、
巨大な神 の姿のままだ。
目を開けた。
目の前には太陽を浴びて輝く黒い木々が広がり空は雲一つない晴天だった。
「「「――――!!!」」」
「―――!!」
「―――っ!?」
足元が五月蝿い。視線を下げると量と長さだけはある髪の毛が身体中に絡みついていた。水浴び をしたからそれは仕方ないか。
腕を見ると僅かにだが青く光る刺青のような模様、これはあの烏賊のせいだ。あいつのおかげで今この大きさになったのだからな。
そして下には米粒、ではなく人、いやこれは魔族か?となるとここは―――
確信を得ると同時に背後から太陽の光が大地を照らした。
ここが―――魔界か、
宗教、
「クロノスと新月が自らが神だったため名前を覚えておくだけでいいや」という精神だったため今まで日の目を見ることがなかったところ。今回本編でやっとそれらしい言葉がキャラクターから出たためついにお披露目。
クロノス達はアリアスが本当の神だと知っているので後のことはおざなりになっているが意外と種類があったり教会もあったりした。ご本人がマジモンの神さまじゃなかったら出番があったのに残念なところ。
一神宗教
特に名前は無いが神聖カルットハサーズではこの宗教しかないため問題はない。
他国からはこの「一神宗教」の名で呼ばれるか「偽神宗教」と呼ばれる。
特に人間主義が露骨化されたこの宗教だが実は何百年もの信仰があり何世代に渡っても語り継がれているので子供でも熱心に教会に行くため厚い信仰を保っていられる。
理由は自分達人間が完璧だと証明してる神話だから。そして大した話がないので伝えやすいので今でも信仰される。
しかしアデリーナが感づいている通りこの宗教はこの国だけか人間至上主義のやつしか信仰してない。なぜなら初代神聖カルットハサーズの国王が人を纏め上げるため、他部族に向ける劣等感を緩和させるために作ったから。
しかし初代国王は「人も良いところがあるんだよ」というのを伝えたえるために作ったものでありここまでなるとは思ってもなかった。多分お空の上で驚いてる。
精霊信仰
別名獣王国と名高いエドゥンの土着信仰。
名前のみ登場で影が薄いがとある核兵器が近々到着する予定なので忙しくなること間違いなし。
内容は至ってシンプル。この世界は精霊が宿ったもので溢れているという話。ぶっちゃけジンニーヤーがいるので嘘でもない。
神話は特にないが言い伝えで様々な妖精がいて人を食べる妖精から悪戯ばかりして人に諭される妖精がいることが分かる。インディアンの話にそっくりな点がいくつか見受けられるのも面白いところ。
宗教は穏やかなものなので他国でも信仰している人は少なくない。
多神教
オージュンでの最大規模を誇る宗教だが実態は各地方の宗教が戦争を起こさないよう丁寧に編集された総集編のお話みたいなもの。
ものがものなので他の宗教にも寛大だが
「最高神はウチの神!」と自分の出身地方を上にするところがある。よって宗教の話をするだけで出身地方がもろバレする。自己紹介の鉄板的質問とかしている。
ちなみにこの最高神の話が地方の名前となっているので王都にいる市民数人に「ちなみに君にとっての最高神は?」と聞けば国全土の地方の名前が分かる。
創作神アリアス教
文字通りアリアスの宗教、一番の伝統と歴史があるが唯一信仰してくれるヴェレンボーンと魔界の二カ国でさえ全員が信仰しているわけではない為アリアスがアリの姿しか取れないレベル。それで良いのか最高神、
クロノスの大幅な手助けという名の雑用を押し付けられ進化するも信仰の力から退化、鳩に成り下がった。
内容は創作神アリアスが生まれた時この世界には何もなかった。
アリアスは自分の身を切り裂いて作った。肉からは土を、血からは火を、涙から水を、吐息からは風を作った。
次に土と水から植物を、風と土、さらに命として火を使い動物を作った。
その後火を命の力としてエルフ、ドワーフ、魔族、人を数々の素材を用いて同時に作った。残った素材はこの世界の礎となったが使った火の一部が魔人となり暴れたため地下に祀られた。
という盛大な物語があるのにも関わらず広がらなかった悲しき宗教。この世界の人って我が強い。
カッパズティット……無し。神は死んだと言わんばかりのニーチェぶり。アリアスは泣いた。
クロノスの未来透視
透視というか普通にその世界の時間弄って見ただけ。ただ神はどの世界でも一人しかいない為一つの時空のみに存在する。さらに神が人に交渉することは殆どない為神と人が接触するたびに異世界が出来る。勿論その異世界の過去も未来も作られるため時空のおっさん泣かせ。
ということで神が存在する世界を見るのであれば存在がないので空間に向かって勝手に喋ってる人間の声を聞いて会話を予想しなければならない。
クロノスはあまりやりたがらないのも無理はない。
そのままのクロノス
ティーターンであるため元の大きさはでかい通常の身長×100して200mはある。
色々と隠していたものが出ているため父ウラノスの呪いの痕がびっしりと出ている。魔族の方々はさぞかし驚いたことでしょう。




