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遑神 ーいとまがみー  作者: 慶光院 周
え?今からこの展開ってマジですか?
70/80

逃亡、そして堕ちる

難産、次回から次章です。

 路地裏の入り組んだ道を進むごとに廃棄物の匂いが鼻にまとわりつく。時間を確認するとまだ六時程、日が当たると腐臭が増していた。ダンジョン寄りから町の中心部に近づいた証拠だと言えば聞こえはいいが新月とハリスは顔をしかめていた。路地裏というのは表通りに比べて邪魔な物が多い。それは物であれ人であれだ。

 だがこう動き回っても人に嫌な顔一つされず普通に通り過ぎていくものだから余程今の私といつもの……というか男の姿では違うのかと思い知らされる。新月が面白半分で発動した罰ゲームは私達にとって良い方向へ向いてくれたことは感謝しよう。


 「俺達に目を向ける人いないですね」

 「寧ろ好都合だがな」

 『でもどうすんの。処す?処す?今丁度地面に落ちてた短剣見つけたんだけど』

 「いいと思いまーす! やっちゃいましょう!」

 「放っておけ。そんなもの持ってたら盗みをしましたとでも言ってるようなものだ」

 「えー!」

 『はーい。でさ、誰にもバレないならどっかの酒場に行って休憩でもしよ?俺まだ魔力あるから【無限の胃袋】からお金出せるぅ〜。


 えーとね、


 銀貨10枚に、


 さっきそこで拾った石ころくん!


 道に生えていて勝手に摘んできた葉っぱちゃん!


 お酒!


 お菓子!


 着替えのおパンツ!


 さらにグレートの上がったおぱんつ!


 これだけ!』



 頭が綿飴で出来たやつの事は放置して手に握ったナイフをゴミ溜めの木箱に投げ捨てる。手に持った下着は殴ったあと戻させた。


 やめろアホ。しかし新月が言った通りこのまま路地裏を練り歩きでもしたら先程のように絡まれかねない。私はもう手持ちが万が一のために隠し持っていた銀貨一枚と銅貨十五枚のみだ。換算すると二万五千円くらいか。新月には毎月小遣いとして銀貨5枚、定期収入が入ってからは10枚は渡しているから無駄遣いをしていなければ今日どころか半年は余裕でもつ。

 だが人が集まるところに入るとなると誰も気が付かないという自信は無い。ならば―――新月が気がつくまで見物だと思っていたが仕方ない。









 「いらっしゃいませー!」

 「おや見かけないネーサンだな」

 「放浪癖の魔法使いじゃねーか?魔法使いってのは変人が多いからな」

 「そうだな違いがねぇ! 今お尋ね者のあの手配書のやつだって……」

 「ああ、そうだな。でもあの腕の中にいる坊主共がちょっと羨ましい気が……」

 「だな、子供ってのはなんでも許されるよな~」


 目を閉じて入るとまだ朝だというのに呑んだくれが存在していた。知らない顔だからか視線が刺さるがテーブルに通されると何事もなく座れたので問題は無い。


 「何を食べますか?」

 「なんでも、出来れは暖かい物」

 「了解です」


 適当に答えるとハリスが店員にあれこれと話をつけてくれた。私が決めた事情で注文するのは不振に思われるだろうから動いてくれるハリスは有難い。

 軽やかな足音が遠ざかって行くのに肩の力を抜こうかと思ったがそうも出来ないらしい。


 「おう! 見かけないネーサンだな。仕事かなんかで来たのかい!」

 「俺はビョートル! よろしくな!」

 「抜け駆けすんなよ、俺はオルトだ! その坊主共とはどう言った関係なんだい?」


 声の主は三人全員三十代程の男だが足音と一緒に金属音が擦れる音がしたから冒険者かもしれない。


 「おい、挨拶も無しか?」

 「挨拶がしたくても私は生憎盲女。話しかけられても困る」

 「ま、まじか」

 「そりゃ悪かったよ」

 「おい、お前が声をかけようって言ったんだぞ。謝れ」

 「だから悪かったって言ってるだろ!」


 ちょっと話しを遮ると後ろから小競り合いが起きる声が聞こえた。話は躱せたようで良かった―――


 「じ、じゃあ話を変えてそこの坊主共は?どっから来たんだ?」


 一転して大変なことになった。ハリスはいいが新月は声が出ない。


 「え、俺?! 俺はこ、この人の隣の家に住んでる……ピ、ピカソです!」


 おいハリスやめろ。誰がフランスの芸術家になれといった。お前私と同じく絵の腕前と審美感の両方とも皆無だろ。

 確かにしばらく前に絵画を見せられた時に困らないように絵の教養を付けるべく絵画の話はした。新月に任せて絵の勉強をさせたりもしたがピカソに化けろとは一言も言っていない。ゲルニカでも描く気か。


 「ほう、ピカソ君かい。そっちの羨ましい白髪は?」


 こっちに話を振るな。あと欲望がダダ漏れだ。



 仕方ない、一か八かだ。


 「……合わせろ」

 『なんか分からんけど了解』


 小声で耳元に囁くと新月は素早く文章を送ってきた。早さだけで言ったら大会でもあれば優勝出来る程早い。目を閉じている……と見せかけて若干目を開けているため非常に見え辛いが我慢しなければ……


 「……ハク、この抱きしめているやつの兄。食事が取りたいから後でにしてくれ」


 私の声よりも低めの声で言ったことに男共は未練のこもった視線を向けたが大人しく席へと戻っていった。見苦しいかもしれないが我が振る舞いにおいて初となる腹話術を見様見真似で実践した。慣れないしうまくいったかも分からない。でも土壇場でこう機転いったのは新月が【千里眼】を使った時に見た腹話術のやり方のおかげだ。本当にあの時見ておいて良かったと思う。


 『なんとか切り抜けたみたいだね。でも次からは俺がカンペ出すからそれ通りにやって』


 自分は口を開閉させるだけだったが面白かったらしくニタニタと上目遣いで見てくるのでテーブルに頭を押し付けてやった。自分でもなぜこのようなことをしたのか分からないがむしゃくしゃしてやった。というやつだろうか。


 しばらくしてハリスが頼んだであろう料理を店員がテーブルに置いて行く。ポタージュのようだ。


 「そういえばクロ……ディルトさんの服はまだ分かるんですけどし……ハクさんの服ってなんであれ何ですか?」

 『威張るな! 私のことはハ●様と呼べ! あ、でもハ●様なら今まで使ってたレモーネはそろそろ廃業じゃない? まあしばらくは使う気ないからええけど』

 「こいつは放っておくとして」


 またお馴染みの台詞を吐いた新月にポタージュを渡すとそちらに目を向けて飲み始めた。その隙にハリスに話を戻す。


 「実のところ新月は例の服装にしたかったようなんだが脳内で会議をしたら髪と服が一致しなかったんだと。それで古今東西と流れで考えた結果これが一番だったんだと」

 「まじか」

 「ああ」

 「じゃあその姿になったのは?」

 「私と新月は……言わなくても分かってるだろ。そして本来なら姿形に決まったものが無い。人に信じられいる姿で固定のもいるが私や新月はないから普通に変えられる。質量を持った幽霊みたいなもの……つまりよく分からないがなんでも自分勝手に出来るものと考えて貰って結構だ」

 「つまり貴女でもよく分からないですね」

 「はっきり言ってしまえばそうだな。知ろうと思えば出来るだろうが知ったところで碌でもないことになりそうだから私はしない。で、話しを戻すがとりあえず姿を変えることは出来る。これはいいか?」


 ハリスは薄い味付けのポタージュを啜りながら頷いた。今は話を流してくれるらしい。ではそれに甘えるか。


 「明日には戻るからそれまではどうにかするしかないこれもいいか?」

 「はい。あ、そうそうあのジンニーヤーって人に渡したカンペってなんですか? 彼女適当にしか言ってませんでしたけど」

 「あの紙には人が来たら食べずにカウントダウンでもして追い返すこと。再来したら今度は『戻ってきたのか?なら私のお腹のか何でも入りますか?勿論食料として』と言え、あとは好きにしろ。としか書いてない」

 「殆どアドリブじゃん! というかこれから少なくても一日は潰さないといけないんですよね? どうします? 観光でもしますか?」

 「観光……観光か、いいな。殺伐としたところからはしばらく離れる予定だ。いいかもしれな。私個人としては後のことは五十嵐拓也とその一行に任せて南の無人島でも買い取った後カモメが運んでくる新聞を朝食と一緒に読みながら『都会は大変だな』って呟くような平和な環境が欲しい」

 「じゃあ色々回ってゆっくりしましょうよ! 確か一ヶ月前にあいつらが泊まった宿で観光マップ仕入れて置いたんです!」


 話がまとまるや否やハリスは食べ終えた皿を隅に寄せて紙を開く。見てみると意外と有名な店が多いらしい。あ、洋菓子店が。女性で菓子の一つも携帯してないと怪しまれるかもしれない。記念がてら買い求めてみるか。


 『あ、俺このピンクの“プリティエンジェル”って店行ってみたい!』

 「それはここに書いてある通り娼館だからやめろ」

 『じゃあこの黒いの!』

 「それはごろつきのたまり場、現代ではヤクザの事務所だぞ」


 こいつはやはり正真正銘のアホだった。




 ハリスと新月は町中の張り紙に唸り声をあげていたが私は気にせず街を堂々と歩き回る。少し姿を変えるだけで済むだなんて緩すぎるぞこの国の警備。

 まあこの世界にはRPGなんかでよくある性転換の魔法だなんてものが無いので当たり前だが。


 目当ての洋菓子店に行きスミレの砂糖漬け成らぬ雪月花の花という白い花の砂糖漬けを買った。

 北国ならではの菓子を購入した後立地の問題により通ることになってしまったあの新月が行きたいと五月蝿かった店を通過する。だが痴女から一転して唯の変態となり下がったアホを引き摺って通り過ぎるのには苦労した。あのアホが……娼館に行ってお前には何がしたいんだ。


 説教としてこの世界についてから初めての教会に行った。この国の宗教は人が作り出したもので世界の主神はアリアスなのだから行くことはないと思っていた。が、説教ということであれば硬い考えを持つ神父にやらせておくのが新月には堪えるだろう。あいつ長話と説教で大人しくしていられた試しが無いからな。

 神父には新月が口を開かないだろうから一方的に説教をして欲しいとだけ頼み新月を懺悔室へと閉じ込めるとハリスと一緒に教会内を見て回った。流石に大きな街なため教会もそれなりの大きさと煌びやかさを纏って鎮座している。これには新月の方が喜びそうだった。


 残念だったな新月、日頃の行いのせいだ。



 心の中で新月にハンカチを振っていると右手を引っ張る感触があった。ハリスだ。


 「クロ……ディルトさんでっかい教会ですね!」

 「そうだな」


 珍しいのか代わりに道案内をするハリスがあちらこちらに目を向けては明るい声で石畳の廊下を駆けていく。無人だからかハリスの機嫌が直ったからか知らないが声も石に弾かれているように思えた。先ほどまでの針のような雰囲気と比べて大分丸くなったようで何よりだ。人は多かれ少なかれ煌びやかな物には心を惹かれる存在だと何かの書物で読んだことがある。ハリスも例外では無かったらしい。

 教会でしか見ることのできない物を見て回る後ろ姿を何となく見ていると思い出したようにハリスが口を開いた。


 「そういえばクロ……ディルトさんは教会に行ったことないですよね。ヴェレンボーンでも行かなかったし」

 「ないな。ハリスお前は熱心な信者だったのか?」


 それならば今まで教会に行っていないことを詫びなければならないな。私個人の考えのせいでハリスの行動を抑制していたのなら問題だ。




 私として……祀られる側としてはそこまでしなくてもと思うことある。だから別世界に行く時も元の世界でも教会どころか宗教には接触しないようにしていた。興味がないというところもあるが普通好き好んで自分と同類のものに手を出そうとは思わないだろ。

 だがハリスのこととは別だ。私の個人的な考えでやりたいことを我慢させるのはしたくない。


 「もし祈りたいのであればしてきてもいいぞ。宗教が違ってもこの国の宗教は人が創り出したもの、この国の国民が祈る神はいないからアリアスに思う存分祈ればいい。あいつも信仰があれば鳩から猿ぐらいにはなれると思う」

 「いや、アリアス様の扱い。ここ誰もいないですけどそれ口に出しちゃダメですよ。あと俺が育った村は教会がないところだったし信仰してる人少なかったですよ。祈ってお腹は膨れないので。それに俺も宗教なんてやってないですし」


 いや、お前も大概だろハリス。


 これはアリアスの信仰も足りないわけだと納得した。祈って腹は膨れないか、事実だな。




 教会の懺悔室まで戻ってくると丁度新月が出てきたところだった。ヨタヨタと私の腕の中に収まったところを見て随分と教育されてきたように思える。

 新月は『神がなんだ、こっちは本物だぞ! 神父が神に説教ってなんでやねん! 工●!』という文章を書いていたが無視をすると拗ねた。

 まあしばらくこのままでいいかと教会を出て街を歩いていると後ろから声がかけられた。




「おいそこのねーさんちょっと止まってくれ」


 声をかけられるまで忘れていた。自分達が追われていることに。


 「何か?」

 「あんたこんな昼日中からフードなんか被ってるけどちょっと外してくれないか? ほら今お尋ね者がいるだろ? 念のためだ」


 そう言って声をかけてきた兵士三人に呼び止められて立ち止まる。この場合は大人しく従うかとフードを取り払うと周りから響めきが聞こえたが騒ぎ立てる声では無いので良しとしよう。


 「へぇ、あんた盲女かい? にしては整った顔立ちだな。目の色は何色なんだい?」

 「あ、おい抜け駆けすんなよ! 悪いなフロイライン! ちょっと今お国からの命があるから怪しい人間は取り調べなきゃいけねーんだ。あ、もちろんあんたが怪しい訳じゃないから安心してくれ。これは命令なんだ」

 「そうそう、ちょっと我慢してくれ」


 鼻の下を伸ばして話を進める三人に新月が威嚇の歯ぎしりをする。面倒なことが始まりそうな気がした。


 『「てめーら俺の妹に手を出そうだなんて考えている訳じゃ無いだろうな!」』

 「お、お兄様そういうのは」


 自分でやっておきながらだが新月を兄だ姉だと認めるのは辛い。

あと普通に二人一役に疲れた。腹話術もそろそろ限界だぞ。


 『「だけど!』」

 「少し黙って」

 『「分かったよ』」

 「ク、クロディルトさん」

 「なんてことはない。ただ顔を確認するだけだ」


 ここまでが新月の声も私が担当した茶番劇である。ハリスは一言しか発していないので私が疲れる。主に二人一役が。


 こちらから目を離さない兵士三人と周りの野次馬に見せつけるように目を開く。周囲が騒ぎ出すがこれも賭けだ。勝算 (・・・・・)はある、だから是非とも勝ちたい。


 「おー……これはこれは」

 「まさかこんな……これは一度見たら忘れられるわけないよな」


 騒ぎ立てる外野を無視して兵士は私の顔を舐め回すように見る。気色悪いな。


 「いや~すまんすまん。悪いなフロイライン……











 こんな綺麗な赤玉の瞳初めて見たから見入っちまったよ!」

 「そうそう、この魔法探知機にも引っかからないってことはその目は本物だろ?いや~綺麗なもんだな」

 「その腕の中のちっこいにーさんとお揃いなんだな。こんな別嬪さんの目から光を奪うだなんて神は酷いことしやがるよ。まあ引き止めて悪かったな、行っていいぜ。またな!」

 「ええ」


 魔法探知機と言っていた懐にぶら下げた帯飾りを叩いたあと機嫌良く去っていく兵士と野次馬をすり抜け歩いていると二人から万が一を考えていて良かった。という安堵の声がかけられる。


 そう、実は料理店に入る前に新月に目玉全体を隠し新月とそっくりの目色をしたカラーコンタクト (・・・・・・・・)を【創造と実現】の能力を使わせて作らせておいたのだ。もちろん新月は過去に一度使った形跡が頭からすり抜けていたため驚くと同時に教えなかったことを怒りはした。だが状況が状況なだけにすんなりと許し作ってくれた。

 カラーコンタクトは魔法ではないので魔法探知機のような物があった場合でも大丈夫だと思ってはいたが無事公衆の前で疑いが晴れて良かった。最大で手鏡サイズの物しか作れないことには呆れたが。



 しかしまさかあの帯飾りが魔法探知機だったとは……気が付かなかった。これも新月が作ってくれた御守りのお陰かと布地の上から暖かい石を撫でた。しかし兵士が巡回してるのであれば今度はステータスを覗かれる可能性が無くはないとは言い切れない。ここはまた新月に仕事をして貰うことになるか。


 「新月、次は特殊能力の【変幻】を使ってみろ」

 『え、そんなんあったけ?』

 「あった、あれは前に調べたが歪んだ幻覚を特定範囲でのみ使える代物だ。あれで私達のステータスを覗かれる時に平凡なステータスに変えといてくれ。名前も間違えるんじゃないぞ」

 『へー、んなのあるのね。了解、だよロディ!』

 「ロディというのは誰だ」

 『もちろんクロのことでござい! クロディルトでしょ?だから愛称はロディ! だよねピカソ君!』

 「ワトソン君のノリで言わないでくださいよ! あれはワザとじゃないです!」

 『でももうお話してるから変更は不可よん! 変更には代金5万円をいただきます! ここだと銀貨5枚ぐらいね! お金ちょーだい』

 「え、俺の一ヶ月の小遣いじゃないですか! いやですよこのぼったくりロリショタコン!」

 『グボァ! ▼正論の攻撃! ドSな発言で新月君は200のダメージ! 新月君は力尽きて妹の身体にへばりついたのだった……』

 「「失せろ変態」」

 『ギャァス! クロもハリス君も容赦無し! ってかハリス君年取る毎に辛辣になってくよね! 今何歳だっけ?』

 「十四です」

 『うわもう二年以上の付き合いか〜そりゃ背も伸びるよね。顔もかっこよくなってるし……あーん、あのショタ体系が!


 あ、でも筋肉うっすらでこれはこれで』

 「お巡りさーん!」

 『嘘ですごめんなさい許してください。お願いだからポリスメン呼ばないで! 俺逮捕されちゃう!』

 「丁度今巡回しているみたいですし一度は経験してきてみたらいいんじゃないですか?」

 『ドSだ(・∀・)ロザりんが移った! ってか本当やめて!』


 駄々をこねる子供のように暴れて私の腕から逃げ出すと前を歩いていた甲冑にぶつかった。こいつらは、


 「ん?あれ、あんたは―――」

 「あ、」

 「そうだ、おじs―――」

 「ああ、久しぶりだな私の弟子達よ。立ち話も何だ、私の家はこの先だからそこで話そう」

 「「「え、ああーーー」」」

 「え、俺以外にもいたの?!」

 『え、クロ……俺というものがありながら……まさかこんな!』

 「お、おに……お兄様案内を」

 『はーい!』

 「よく分からないけど了解です!」


 私を指差し声を上げようとした三人を問答無用で路地裏に引きずり込む。引きつった顔をしているがこんな公衆の場で話すなど無理があるぞ。


 「……二人とも誰も盗聴出来ない場所を探してくれ」

 「『了解』」


 小声で話すと二人は私の代わりに仕事をし始める。ハリスは三人の手を取り私の後ろを歩き新月は私に抱きしめられたまま道案内をしている。

 こういう時に持つべき元は友とやらと言うのだろうか。とにかく助かった。


 『クロここから先めっちゃ荒れた雑木林があるんだけど奥にボロい小屋があるのね。そこでいい?』

 「頼む」

 『分かった。足元ご注意ね』


 言われたそばから小枝か何かを踏みつけて布地の上から攻撃された。地味にステータスの体力が1消えた。すぐ戻ったが。


 歩いた距離は一分もかからなかっただろうか、新月が扉の錆びた蝶番に力任せなドロップキックをかまして扉を破壊した。中に入ると黴の匂いがしたため新月が止まったが今は諦めて入ろうと背中を押した。足音が変わると耳障りな音を立てて扉が閉まった。少しだけ目を開き安全を確認してから目をしっかりと開く。

 疲れた。


 「やはり貴女は……」

 「ああ久しぶりだな。あらかじめ話しておくが手配書と噂は濡れ衣だ」

 「それは分かってる。この白い……男のことを『囚われの儚い美少女』と書いてあったから嘘だろうと思った」

 「あ、それ同意。こいつ見た目とは180度真逆の中身おっさんのウザささだもん」

 「だねよね。前にあった時は頭の悪さ全開だったもん」


 三人が三人ほぼ同じことを新月にぶつけたため新月は瀕死となった。


 『まだ生きてますぅ~! 俺は不滅! ゾンビのように何度でも起き上がるのだ!』

 「土に帰れ」

 『Oh……』


 今度こそ死体となった新月を腕の中に捕まえたまま今までの経歴を伝えると三人から合掌を頂いた。二人はわかるが山姥にされると何だかなと新月が頰を膨らませた。指で押す。

 空気の抜けた音がした。


 「あー、災難だったなク、クロ


 「ロディでいい」


 じゃあロディ、でも大丈夫だ! 俺がこのクソ王国の住人全員にコピー用紙で指を切る呪いと大事な仕事の時に限って寝坊した挙句に恥ずかしいパジャマで来てしまう呪い掛けとくから」

 「おい稔!」

 「シンシンこんな地味な呪いなんて報いにすら入らないって! な、し、シロ? というか何でお前しゃべらないの?」

 『ハク! 威張るな! 私のことはハ●様と呼べ! せっかく俺が打つ言葉観れる許可出したんだから丁重にもてなせ、あとそこはかくかくしかじかね』

 「あ、それジ●リ? というかダイハ●?」

 『yes! マンマミーヤ!』

 「『同士よ!!!」』

 「話が進まないから後でにしてくれ」


 両手の人差し指で新月を指したあと固く抱き合う二人を引き剥がし話を断ち切る。だが木戸稔の案は採用してもいいかもしれない。

 話を止めて向かい合う三人の顔を見ていく。


 甲冑を着込んだ大柄な男、笹島伸。

 動き易さに重点を置いたどこにでも居そうな正統派冒険者もやしくん(新月談)の木戸稔。

 見た目は一昔前の都会にいた現代での通称は山姥と呼ばれる化粧をした朝比奈洋子。


 一人だけ印象深いこの冒険者パーティは『巻き込まれ』の構成員だ。こいつらになら新月が喋れない事情を含めて伝えておいても問題はないだろう。


 「では、話を


 「あ、そうそうおじ様に質問! そのカラコン何処で売ってんの?」


 これは自前だ」

 「なんだそうなのかよオネさん」


 嵐のように質問をした朝比奈洋子は答えに納得がいかなかったらしく静かになった。おじさんと呼ばれないだけまだましだと考えておくか……


 「という話だった訳だ。口外しなければ……」

 「「「しなければ?」」」

 「後からのお楽しみだ」

 「「「え―――!!!」」」

 「ここで『続きはCMで!』かよぉぉぉおおお! 釣られてちまうじゃん! 我キング●リムゾ●を所望す!」


 こいつらの望み通りにする予定だ。見逃したコンサート会場に連れてった後騒いでいる世間に田島薫と一条美海のように解放でもこの世界の住人になるのでも対応しよう。アリアスにも手伝って貰うことになるだろうから対価も用意しなければ。


 「まあ、それは置いておくとしてロディはこれからどうするんだ?」


 項垂れる木戸稔の肩を叩いていた笹島伸が困ったような顔で私を見た。ここでは特に偽る必要が無いため今日だは暇なことを告げる。


 「そうか、だったら俺達と一緒に依頼をこなしに行かないか? 正直人手は欲しい、あんたらもずっと三人でいると危険も出てくる。それにこの街を出ないといけないだろ? 冒険者パーティに紛れるのは得策だと思うんだ。

 まあお試しの体験って事でどうだ」


 するとどうだろうか、降って湧いた援護に私は驚いた。これこそ目を輝かせるというのではないだろうか。


 「私はいいぞ。このまま街を歩いて疑いの目が出ないとも限らないからな。二人はどうだ?」

 「クロス様がそう言うなら俺はついて行くだけです。この街にいても胸糞なだけだし」

 『右に同じくDE●TH!』

 「二人ともその表現があまり褒められたものではないがついてくるだな。後ハリス誤魔化せてないぞ」

 「あヤベェ!」



 そんな場の勢いと打算で決まった依頼同行だったが内容を聞いてない。移動しながらこのパーティのリーダーである笹島伸に聞くとなぜか朝比奈洋子が私の胴、より少し上の大量の脂肪の塊に煤けた羊皮紙を押し付けた。


 「うわ、デカ! 羨ましいわ!」

 『だよね。新月君も!』

 「クソ! う、羨ましくなんかないんだからねぇぇぇええ!! でもこれぐらい二次元に近いリアルなら俺も―――


 「『ぎゃああああ!!』」


 嘘ですごめんなさい。なんでもするので許してください!」


 自然に掴んできた合計4本の腕の先、頭部を掴んで頭蓋骨を打ち付けるといい音がした。煙を上げて地面に埋もれる二人を放置してライトノベルに出てきたような台詞をほざいた木戸稔に向き直る。が、素早い掌返しでハンズアップを華麗に決めため無事無罪放免となった。

 緑と白の頭が睨んでいたが我が身可愛さに救いの手は差し伸べられなかった。残念賞。


 お邪魔虫がいなくなったので羊皮紙を剥がし目を通す。


ーーーーーーーーーー

【討伐依頼】グレンデル 報酬:銀貨10枚

数:32

ランク:B 場所:ダンジョン大迷宮より東に10Kmほど行った先にある名もない湖。

備考:冬場で湖が凍り始めて普段は水中に住んでいるグレンデルが地上に放出。

 討伐を求める。討伐の証として背びれを回収すること。

ーーーーーーーーーー


 なるほど確かに人手は欲しい話だな。しかしハリスは魔力が底をつきかけているし私にとっては空だ。新月は全身ズタボロだから期待は出来んぞ。

 そう考えていたが既に街の門前まで来ていた。私のせいか分からないが濡れ衣のおかげて強化された通行制限だったがパーティ【巻き込まれ】だと説明するとすんなりと通れた。パーティ名が有名なのかこの国の警備が杜撰だからか知らないが拍子抜けするほどあっさりだったのでここは後者としておこう。


 堂々と街道を歩き何事もなくたどり着いた目的地は依頼書の通り河童のような巨人があちらこちらにいた。これでは静かな風景が台無しである。量が多すぎるせいで依頼のランクが高かったのだろうか?周囲には一般人は愚か冒険者すらいない。三人で大丈夫か?


 「お前達これは大丈夫なのか? 私とピカソは魔力が底をついている。それにハクはこの通り産まれたての子鹿だぞ。私は体力的に問題は無いが肉弾戦しか出来ん。さらにこの状況だ。慣れていないからお前達を完全に無傷で返すのは難しいぞ」

 「「「ピカソwww」」」


 真剣な話をしたのに反応が返ってきたのはピカソだった。そんなに面白いかピカソ。三人と一緒になって笑い転げる新月にハリスが顔を赤くしていた。膨らませた頰をつつく。

 空気が抜けてハリスも萎んだ。というか驚いてる。


 「クロディルトさんなんか柔らかくなりました?」

 「そうか?……そう考えるとそうかもしれないが恐らく今が女体のせいだろ。女は感情が豊かだから」

 「え、豊かでこれかよ」

 「なんか言ったか」

 「いーえ!」


 ハリスは言いたいことを言い切るとそそくさと逃げていった。あいつも今は丈夫に動けているといっても負傷と魔力切れでBランクの依頼は無理だろうから仕方ないか。



 「ではでは~第一回パーティ『巻き込まれ』とパーティ『ヴージェノヴ・ニュアレンバーグ』の合同作業を開始しまーす! 拍手!!!」

 『いえーい!


 パチパチ!


 いいぞーもっとやれ!


 フワフワ!』


 パチパチ―――


 三人の準備が終わったところで木戸稔が開催を宣言していたが小さい拍手と新月の一人四役以外何も起こらなかった。


 「なんで拍手が一人だけなんだよおおおおお」

 「なんか拍手って言われるとやりたくなくなる~」

 「サディスト!!」

 「フリかと思ったんだ」

 「ひど! ハリスくんは?!」

 「『さっき逃げた」』

 「畜生!!!」


 地面に土下座した木戸稔を白髪と緑髪が落ちていた小枝で突くも反応は無し。殻に閉じこもったようだ。


 「うわあああああ!!!」


 殻に閉じこもったカタツムリを突いていると逃げた筈のハリスが全力疾走で戻ってきたのが悲鳴で分かった。ついでにお土産も持ってきたらしい。


 「おい、ハリスがお土産を持ってきたぞ。対応しろ」

 「「「『んなお土産いらねぇよ!!」」」』


 降って湧いた出来事だったか『巻き込まれ』は素早く対処に取り掛かった。


 朝比奈洋子が特殊能力を使って大きな落とし穴を作り巨大河童を集める。その上から木戸稔が袋叩きに弓矢を放ち笹島伸が穴に落ちなかった残党を大剣で押し潰すように消していく。見事な作戦だ。離れしているのであちらの召喚者一行 (・・・・・・・・・)より考え方に効率性がある。流石Bランク、口だけでは無いようだな。


 『ねぇクロ! ぼーっとしてねーで助けろください!』


 そんな奮闘月間の前をアホが巨大河童を連れて走り去る。囮役を買って出るとはあいつも成長したな。


 『囮じゃねぇーぞ! (ム●さんのマネ)』

 「そこまで出来るならハリスと一緒に引きつけてろ」

 「『やだよ!」』


 なんだ駄目なのか。仕方ないな。


 「なら湖の方へ走れ。―――っと一匹」


 眺めているわけにも行かなくなったため二人に指示を出し追われる囮二人の後ろを付け回す図体の無駄に大きな河童、を後ろから順々に首から下を地面へめり込ませていく。


 地面を蹴り飛び上がり巨大河童の頭に着地、そのまま有りっ丈の力を込めて沈める。時には足で頭を踏みつけて、又ある時には手で押し込める。ふらついて着地が失敗したたら下から顎を砕く―――が、


 「っ、油断したか」


 さらに集まってきた増援に横腹を左腕諸共殴られた。地味に痛い。ステータスならニか三は減っている筈。すぐ戻るだろうが。そういえば私はこの世界に来てからあまり怪我をしたことがないことを思い出した。神をも砕く兵器でもあれば別だろうが今は大した負傷がなくて良かった。あの焼き鳥が馬鹿じゃなかったりジンニーヤーが私の味方では無かったらどこか軽傷を負っていただろうからな。


 そんなことを考えながら目の前にあった腹に向かって掌底を入れる。流石に拳だとパワーダウンでどうかと思ったがこれだけでも相手は気絶……ではなく絶命した。問題は無いようだ。

 少し痛みは続いているがそれを押して走る。凍った湖の上に足を滑らないように運びながら増えた巨大河童達を沈めていく。途中からは手間を省くため無駄に伸びた毛を掴んで真っ逆様に分厚い氷に叩きつけてやる。リアル犬●家大量生産だ。こちらの方が後で背中の毛を剥ぎ取り易い。始めからこちらにすれば良かった。


 「うわ犬●家乱立じゃん! ここまでくると笑えてくるなwww」


 一仕事終えて囮二つを回収していると腹筋が崩壊した山姥と山姥に引きずられている顔面蒼白もやしと血塗れ男が登場した。

 こちらも片付いたらしく全員無事だった。生まれたての子鹿より悪化した老齢のJJIと蒼白もやしを除いて。


 「やっぱあんたすげえな。素手でこれって武器持たせたら恐ろしい反面頼もしく思えてくるな」

 「武器……だと?! はい、はい、は――い! SWかベレッタ持ってスタイリッシュな黒スーツ着てください! それなら俺殺されてもいい! 山姥よりマシだ!」

 「あ゛? 誰が山姥なんだ稔ぅ~?」

 「ヒー! 山姥が出刃包丁持って追いかけてくる! 伸さん助けて!」

 「今のは稔が悪い。きっどんの時と同じく自ら自爆することが増えたな。責任を取って怒られてこい」

 「裏切り者ー!」


 山姥がもやしを追いかけている間に笹島伸と話し合いをする。話し合った結果私立のギルドに行き、ギルドの街を出てすぐにある断崖絶壁の岬あたりなら国の監視も薄いだろうからそこから脱出するという算段が決まった。同時にそこまでは同行するとも決まったが。


 「じゃあ早速俺のギルドまで案内するか」

 「よろしく頼む」


 握手で交渉が成立した時もやしと山姥、木戸稔と朝比奈洋子が戻ってきた。もやしは右頬を腫らして引き摺られていた。合唱。


 「ねえオネさんあれ何?」


 山姥が血まみれの指を湖に向けた。指の先にあったのは乱立犬神家、が一匹一匹氷の中へと引きずり込まれていく。物は取ったためその点は問題ないが明らかに怪しい。


 「―――全員用意しておけよ。くるぞ」


 後ろに下がって様子を見ていた全員に向けて注意を喚起する。ゆっくりと地響きが始まり氷に亀裂が走る。これは下に何かいるな。

 さらに下がって用意を見守っていると分厚い氷が崩落し、出てきたのはミキサー車のような口がついてる大きな百足のような魔獣だった。


 『うわロディコイツヤバイよ! 【氷喰千脚蜈蚣アイスワーム】ってめっちゃ強そう!



 え、レベルが500近い?知能もあるだぁ?! んなもん創るなよおお!!

 しかもなんかハト神が言うことにゃ海に住んでるけどヤバイのが出現したから大陸削ってここまで逃げてきたんだって!』

 「まじ? それって上級パーティ全員に配られてる緊急討伐依頼のじゃん! 私も持ってるんだけど! どうしてくれんのそのハト神とやら! 報酬の金貨600枚でもまだ足りねーよ!」

 『ハト神って何ですか! 私はアリアスですぅぅぅうう!!!』


 失礼極まりない文書と怒りの言葉、虚しい声がここまで響いてきそうな文書が同時に届いた。うちの兄がご迷惑を……というやつか。


 『ロディ! スタシスでどーにかして!』

 「無理だ」

 「「「「『なんで!!!!」」」」』

 「「今は魔力がない。どうなるか分からないから無理だ。もっと暇な時に予想訓練をしておくべきだった。異常事態のせいだ」

 「し、ハクさん!!!」

 『ごぺんなさいぃぃぃいいいい!!!』


 地べたに土下座するアホが四方八方から責められているが後でにして欲しい。私も含めハリスと新月は足手まといなのだから。


 「木戸稔と朝比奈洋子は援護できるか?」

 「え、出来るけど……というかそれが主力でござる」

 「洋子は連発しないで。私はどっちでもいいよ」


 新月と言い合っていた二人はいきなりの質問に首を傾げる。同じような動きをするので兄妹とはこのことかと思った。

 さらに向き直り項垂れていた笹島伸にも声をかける。


 「笹島伸はこの中では接近戦に得意だが剣の長さが問題だろう」

 「ああ。おいまさか―――」


 顔を上げた笹島伸に強く頷く。もやし二号が出来上がった。


 「では頼むぞ」


 後ろに一言かけてから駆け出す。


 『最大任務を与えます、必ず生きて帰りなさい! これは言ってみたかったことだけど今は本心だからね!』

 「了解」


 走り出してから目の前に出来てきた文章に答えた後文章の画面辺りの地面を踏みしめて飛び上がる。狙うは急所、ミキサーのような口の真上にある小さな目玉だ。


 「ッフ!」


 白く濁った目玉にヒールを差し込む。新月と同じ手段を使う日が来るとは思ってなかった。

 見えていないとは言えむき出しの皮膚にナイフを刺されたようなものだ。百足と言い張るミミズのような生き物は苦し悶えて四方八方へ腕を振るう。数が問題だな。そう思っていたら一本の足が河童にやられた傷を掠めた。


 「ぐっ、」


 流石に舐め過ぎていたか。


 思わず呻き声を上げた。体力共に傷は直っているとは言え今の今と言ってもいい。ここまで窮地に追いやられたことは二回しかないため痛みがあっても不思議では無かった。

 だがそれが隙となってしまった。


 「AAAaaaaa―――」


 双方弱点を知ったことで向こうが仕掛けたとしても何ら不思議ではない。興味が無かったが近年の魔獣は凶暴化しているのだ。そこに高レベルの攻撃力と僅かな知能さえ有れば向こうも行動に出ることは容易に想像出来た。

 執拗に私の負傷部分を狙い始めた。飛んでくる腕を足場に避けているがしつこい。

 周りで『巻き込まれ』の三人があの手この手で攻撃をしているが無視だ。木戸稔の放つ弓や朝比奈洋子の大技である巨大な刃も諸共しないのにはあのライオンを思い出した。


 『ロディに手出してんじゃねーよ! 自分の腕で自分攻撃して死んじまえこのUMAが!!!』

 「危ないですって! 引っ込んでて下さい!」

 『俺だけ見学とか無理! ハリス君もでしょ?!』

 「そうですよ! でも今石投げしてますけど効果無しです!」

 『ガッテム! 俺も参加してやる! 喰らえ、変化球!!!!』


 以前クレスと再会した時を思い出していると地面の方からお荷物二人の掛け合いが見えた。同時に新月の言葉に引っかかりを覚える。

 自分の―――そうだ。あのライオンでも自分の爪でしか傷をつけることが出来なかったのだ。ならば、


 体力の続く限り足場を駆け回る。胴体すれすれを走って腕を避けるとアイスワームは叫び声を上げた。よしこのまま弱らせよう。だが留めはどうする。この大きさで絞め殺しは出来なくないが問題がある。なら全員に協力してもらうか。


 「木戸稔、笹島伸! お前達はこいつが怯んだ瞬間にありったけの大技をコイツの口の中か目玉に―――ぶつけろ!」

 「は? 意味わからんのだけど!」

 「あの人には考えがあるんだろ! 稔!!」

 「はいはい了解です!!」


 腕を交わしながら指揮を飛ばすと風を切る音に混じって了解と聞こえた。次はハリスと新月、朝比奈洋子だ。


 「ハリスは腕が反撃する―――タイミングを―――見計らって笹島伸を引っ張って退避!」

 「残り二人は私の得物の複製を作り―――次元を曲げて私へ渡せ!」

 「分かりましたから早く決着つけて下さいね!」

 「分かっている!」

 「『こっちは了解! 創り始めるよ!!』」


 反対側に見えた三人からも叫び声が聞こえた。私だって魔力切れのハリスが死なないよう早めにケリをつけるつもりだ。ついでにどこかでハラハラしながら羽根を落としているであろうアリアスに向かって叫ぶ。姿は見えないが声は届くと思える確証が何故かあったからだ。


 「アリアス、どこかでお前―――見てるだろ! 新月にやらかさせろ (・・・・・・)。私が―――許可する」

 『え……―――分かりました。私も一枚噛みます! ここまで大きく姿を変えて頂いた礼ですから貴女について行きます!』


 遠くから飛んできた文章を早読みした後おまけとしてアイスワームの胴体に投げつけてる。これで役者は揃った。



 私は捨て身の攻撃として迫り来る腕を無視して先程のとは反対の、無事になっている目玉に向かって走る。負傷部分を貫通した腕を殴り飛ばして渾身の力で潰す。


 ヴジャッ、


 耳障りな音で片足がめり込んだ。痛みに耐えて引き抜くとミキサーから絶叫が轟く。今だ。


 「えーとやるぞ! 『全ての邪は我が弓で引き裂かれん! 【シルフ・ブレイク】』」

 「『ティアイングソード』!!!」


 二人が一本の巨大な弓と斬撃を放つ。痛みで逃げ遅れたので足を衝撃波が掠めたがこれぐらいならどうにかなる。巨大な背中に向かって移動していると灰色が走っていくのが見えた。あと少し時間がいるかもしれないと向かってくるもの全てに打撃を繰り返す。

 遅い、まだか。


 「『完成したぞ!!』」

 『行けましたか?!』


 何十回目かの掌底を繰り出し後やっと注文の品が目の前に来た。飛んできた黒い物体の柄を掴む。そうだ、これだ。質は違うがこの感触は手が覚えている。





 私が手にしたもの、それはいつもはスタシスと呼んでいるクロノス・スタシスでは無い。私が父と認めていた第一天空神ウラノスを王座から引きずり下ろし。加えて私に永遠の【親殺し】の烙印と呪いを植え付けた道具。





 アダマスの鎌と呼ばれた大きな鎌のそれだった。


 威力は半減以上だが実力で補う。十秒でケリをつけてやろう―――本気でやらせてもらうからな。








 『うわ!! 全員退避! 大技くるよ!』

 「「「「まじかよおおおおおおお!!!」」」」


 叫ぶ声など私は知らない。腕を踏み台に高く高く飛び空中で回転、顔と対面する。狙うは獰猛な牙しか見えない口のみ。あとは切り開いてから復活出来ないようコアを取り出す。


 「しっかりと味わえ、―――『千』!!!」



 言うや否やで振り下ろす。切る、切る、また切り裂く。最中に見つけたコアも肉片から切り離して肉のみを切り刻む。




 相手が細切れになるまで切りまくる。これが私の最大にして唯一の大技、某ボウボウドリにもやった技。



 千、



 正式名称はキャベツの千切りである。新月にキャベツはやめろと言われたため一文字になってのお披露目だった。


 「タイムリミットに間に合ったみたいだな」


 地面に着地すると鎌は消えかけていた。間に合ったらしい。


 「「「「『う、おおおおおおおおおおお―――――――」」」」』

 『え、あれジンニーヤーを凌駕する問題物だったのに! 流石ですねクロ……ディルト様』


 引き攣る言葉と共にアリアスが私の肩に降り立った。後ろでは雄叫びが響く。


 『クロぉぉぉおおおおおお!!! 無事でよかったよおおおお! ごめんね! 俺が不甲斐ないばかりにいいい! 声直したら俺が主体で動くからねぇぇえええええ!!』

 「ごめ゛ん゛なざいいいいいいい! 俺が、俺が不甲斐ないばかりにいいいい!!」

 「五月蝿い! 終わったことだから気にするな、嘆くな、よじ登るな! 邪魔だ!! 一応怪我人だぞ」

 「だってぇぇぇ!!」

 「―――!!」

 「まあまあ良しとしなよオネいさん!こいつら後でボロ雑巾のように酷使してやればいいんだから!」

 「『えええぇぇぇぇ!!」』


 かくして後から周辺の冒険者が騒ぎ立ててきた緊急討伐依頼飛び入り参加だったがなんとか集結した。時間はまだ昼前、騒ぎ立てていた冒険者の中に混じっていた馬車付きの冒険者を朝比奈洋子が脅して話をつけたおかげで私達は夜には私立ギルド、確か女王の涙とかいう見た目がっつり酒場な場所に到着して傷の手当てが出来た。

 これにはさらに朝比奈洋子が魔導師に『アギト』を十回ほどかけさせたからというのもあったが。


 ギルドの酒場の片隅で休んでいると巻き込まれの三人はギルドマスターを名乗る老女に連れていかれた。話では今回の緊急討伐依頼をこなしたことでパーティランクが跳ね上がるらしい。三人は申し訳なさそうな顔をしていたが自分達が注目されれば私達三人が堂々と逃げ果せると考えると喜んでついて行った。私達に破格の報酬と大量のポーションを置いて。


 なんとかこれで終わったな。っとその時は思った。




 たまたまギルドに野次を飛ばしに来ていた中々の位を持つ貴族が私に興味を示した。新月が『なんでや工●』と叫んでいた。ごもっともだ。そして私達は逃げるように飛び出して夜の街を兵隊とアリアスを引き連れて走っている。










 「『『なんでこおなるのおおおおおお!!!」』』

 「私が知りたい!」


 後ろから待ての声があるが誰が待つか! そのまま街を抜けて件の断崖絶壁まで来た。


 「ハク! アリアスに魔力を回せ! 最終手段だが飛んで逃げるぞ!」

 『リア●鬼ごっこの次は魔力すっからかん?! もういやだあああああああ!!!』


 声が出ていたら新月の断絶魔が聞こえたであろう逃走劇は目立つ白鳩に乗り換えることとなった。


 『本気ですか?! 私の扱い!!』

 「『黙って飛べ!!!」』

 『ごめんなさいいいい』


 避け切る筈だった戦艦をも引き連れてアホ過ぎる逃走劇は続く。このままだと拉致があかない。





 腹をくくるか―――



 「アリアス! お前は新月とハリスが死なないよう守護しろ。対価はお前の信仰を増やすことだ」

 『え?!』

 「ハリスお前は新月を食い止める役だ。年単位になるかもしれんが頑張れ」

 「ふぁ?!」

 「新月お前は前に進むだけでいい!! 私達は何があろうと再会できるからな。とりあえずハリスに苦労だけはかけないようにしてくれ」

 「―――?!」


 唖然とする三人を置いて立ち上がり的となる。



 


 瞬間腹に先ほどより大きな穴が開いた。夕日色に光る血が羽毛に飛び散り体が傾くのだけが分かる。新月が泣いて手を掴んだが剥がして海へと傾く。これでこいつらの目標は空から海の中になる筈だ。

 空白の声を聞きながら私は重力に身を任せて海へと飛び込む。


 


 「―――――――――――――――!!!!」








 これがしばしの別れというやつか、我が不運ながら今度ばかりは予想外なことばかりが起きるな。三人が一緒ならば問題はないと思うが無事でいろよ。


 バラバラになった人たちですが多分どうにかなると作者は思います。

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