初めての依頼
やることは早い人(神)達
【嘆きの渓谷】は王都から東に数㎞いったところにある山と山の間にある何㎞も続く深い渓谷だ。
ここは高い山と山の間にあり一年を通して霧に包まれている。そのため、水分を多く必要とする薬草と木々が鬱蒼を茂っているため神秘的と言えば聞こえはいいが悪く言えば気味が悪いとも言える。
さらに弱い魔獣が生息しているのでダンジョン扱いになっていて普通の人間はあまり近寄らないらしい。
「へぇ、雰囲気は良いね。依頼には入ってないけど他の採取出来るものも採っておくのもいいと思う」
「そうだな、何か目ぼしいものがあったら採取してもいいんじゃないか? あとでカメラを作って写真も撮っておこう、家を造るときの庭の参考に使えるかもしれん」
「確かに綺麗ですけど僅か一時間でここまで着いたほうが凄いですよ」
上から新月、私、ハリスの感想だ。しかしここまで来たのにアレが見当たらない。なぜだ、ここまで来たらあると思ったから少し調べてみたいと思っていたのに。
ハリスだったらどこにあるとか聞いたことがあるだろうか?
「なぁ、ハリス。お前は世界樹がどこにあるか知ってるか?」
「え、あ、世界樹ですか?……すみませんわかりません」
ハリスに聞いたとたんビック、っと跳ねたあとシュン……として答える。なんだ知らないのか。
「え、世界樹って#ヴェレンボーン__ここ__#あるってやつだよな。たしかに王都にもここにもないよな。どこにあるんだろー気になるぅ~」
そう、新月の言う通りだ。ここならまだしも王都でも私達は世界樹を見たことが無い。一体どこにあるんだ?
もしかしてどこかに隠されていたりするのか。なら今からパッと探して……いやそれじゃ楽しみが無くなるな、我慢しよう。
「まぁ、それはお楽しみとして取っておこうよ。先に今日の依頼とやらを片付けようぜ」
「あぁ」「はい」
新月も同じことを考えていたらしく世界樹は今後のお楽しみになってしまった。
まあいい、始めはレインバードというやつから片付けよう。まずそのために【世界の図書館】で特徴を調べてみるか。
『【世界の図書館】を使います。対象:レインバード……検索が完了しました。レインバードとは水のように澄んだ青色の鳥で羽ばたくと水滴を撒き散らすことがある珍しい鳥です。
【嘆きの渓谷】に生息していて捕獲は簡単だが見つけるのが難しい鳥と言われています。
備考:レインバードの羽は美しく高級アクセサリーに使われることがあります』
二つの依頼よりもランクが上だから苦労するかと思っていたが案外そうでもなかった。なんだ見つけるのが大変なだけで捕まえるのは簡単ならば早い。
「クロ、鳥ならクロの専門じゃん。久しぶりにあれ見せてよ」
「今やる」
口を開こうとした瞬間新月に急かされる。だから今からやるって、
「ハリス、今から少し変わったことをするからここら辺一帯を見てろ」
「え、あぁ、はい!」
ハリスに軽く注意をしておく。
不安そうな顔でもするかと思ったがよく見ると目が興奮で輝いていた。今度は何をするんだろうとでも考えてるのだろうか? これはちゃんと見せてやらないといけないな。
ゆっくりと息を吸い込んで口の中で魔力と一緒に混ぜ、言葉に乗せて声を出す。久しぶりにやるので一回で成功してくれればいいが。
『レインバード、集まれ』
ほんの少しだけ喋った瞬間、四方から大量の羽ばたく音が聞こると一分程で私達の周りの木々は水色の鳥、もしかしなくてもレインバード。で埋め尽くされた。
流石に多すぎたかもしれない。霧に包まれた渓谷の木々が一部だけだが鳥で埋め着くされれるので少し不気味な感じがする。特につぶらな目が辺り一帯を取り囲んでいれば思うところもある。
「久しぶりに見たけどやっぱりすごいなクロの【呼び声】」
感心したように新月が言うと木々をに止まっているレインバードにちょっかいをかけ始めた。レインバードもそれに負けじと新月の頭の上で止まって遊んでいるが。
その時ハリスが気になったんだろうか、私に質問して来た。
「あの【呼び声】ってなんですか?」
「【呼び声】というのは酸素、空気を吸い込んで口の中で力……魔力と混ぜ合わせたあと言葉と一緒に出して動物に命令を出すことだ。
一種の魔法とも言えなくはないがおそらく出来るのは#神__私__#ぐらいだと思うぞ。もう一回やるから見てろ『すまないが、お前達の抜けた羽を何枚か譲って貰えないだろうか』」
もう一回私が【呼び声】を使うとレインバードは一斉に木々から飛び出した。羽から出た水滴でまるで霧散したようにも見えなくない。
「す、すげぇ……俺もいつか……」
呆気に取られたような声でハリスが霧のかかった空を見上げる。いや流石にこれは出来ないと思うぞ。
「ハリスこれは多分無理だぞ。勉強すれば他の簡単な術ならすぐに「そうそう! でも頑張れば他のことなら出来るぞ〜!」
新月……、私の言葉に被せるなと言おうとして振り向くと、頭にレインバードを一羽乗せた新月がいた。まだ一羽残ってたのか、
と、レインバードが首を傾げた。似合っている……
「ハリスくん流石にクロみたいには出来ないけど努力すれば出来るって! クロが教えるからさ手取り足取り腰と―――いって!」
白い寝床にちょこんと座っているレインバードを避けてチョップを一発入れると座っていたレインバードは逃げ出した。
最後のは余計だ、あと教えるのは私一人でやれというのか。 ……あぁ、そうかこいつにも私は教えなくてはいけないのか、なら仕方ないか。こいつ覚えるのが下手……というより覚える気がないから人一倍時間が掛かるし。
「痛いぞクロ! チョップはやめろよ。ってあ、大軍が戻って来た」
新月が片手で頭を押さえながら霧で包まれた空を指差す。本当だ、戻って来た。
戻って来たレインバードは大体30羽全部が嘴にまるで水そのものので出来た見事な美しい羽を咥えていた。(中にはおそらく自分のものではないだろうが風切羽を持って来たやつが何匹かいた)
思ったより多く集まったので何枚か分けてうち四枚を依頼用、六枚を私達、残りの二十枚前後を私が持つことになった。(あとで標本のように並べて飾るとすることにする)
次に霧草を探すことにしたがこれはレインバード達が勝手に案内をしてくれたので三分もかからず依頼二倍の数が採れてしまった。
お礼にパンくずをあげたら喜んで帰った。
これからはこういうのを集めても面白いんじゃないかと新月に言われたので採取をしていくのも悪くないかもしれないと言ったら多く採れたうちの一本を私が貰った。
何に使えばいいんだ、押し花にでもしろと言いたいのか。
最後に残ってるのはゴブリンの討伐だったがここまでが早すぎた。まだここに到着して一時間も経っていない。
なら、早く他の依頼が終わったから今回は新月とハリスの二人にやらせるか。
「新月、ハリス、次はお前達の番だ。武器構えておけよ」
そう言った途端、新月がめんどくさそうな顔をして、ハリスは少し困ったような顔をした。
「え〜! マジかよ〜」
「あの、すみません。俺、剣も杖も持ってないです」
そういえばそうだった。じゃあ何か作るか? 剣……は今のハリスの体格で持たせてもまだ年相応の体重にも至っていないから重さで倒れる。
杖なら……そうだ杖なら丈は肩辺り物が多いが呪文を刻むための短いやつでもいける、むしろ効率的だろうハリ●タみたいな。だったらいっそのこと2本ぐらい作ったほうがいいだろうか?
……と言いたいことだが杖とかそういう装飾性の高いものは私より新月の方が得意だ。私は出すことは出来るが装飾品がついているものなんかだと一回見たことがあるものじゃないと出せない。自分では装飾は付けなくてもいいのならそのままで出してしまうからだ。
であるから今は状況を考えて長い杖はまた今度にして簡単に振ることが出来る杖を新月に考えて貰おう。
「新月、杖を作るからデザイン考えろ」
「えー! クロがやれよ、この前の留め具みたいに」
話を振ると案の定新月は面倒そうに拒否した。そうは言っても私は作るのは出来るがデザインを考えるのは不得意なんだぞ。
あと、この前の留め具は宝石を金の土台に付けただけだ。そんな物しか作れない私に作れと言うか? 短期なら別にいいが、長く使う物なら新月が考えた方がいいに決まっている。(デザイン的な問題で)
「不恰好な物でいいなら私が作ってもいいが?」
「うぅー、あとで俺が作り直す未来が見える……わかったよ、ちょっと待」
待ってと新月が言おうとした瞬間、何かが新月の頭に向かって振り下ろされた。
「っ! あっぶね!」
新月が咄嗟に草の上に寝転ばなければ頭が怪我では済まなかっただろう。
「大丈夫か」
「あぁ! でも一体何が」
「見てください! ゴブリンです!! しかも10体以上います!!」
火を焚いていないのに獲物が向こうからやって来た。
ハリスが大声で叫んで新月がさっきまで立っていたところを指差す。見るとボロボロの鎧を身に付けた皺くちゃの顔のゴブリンが棍棒や剣を持っていた。
こういう時は鑑定とかっていうのが確か使えたはずだ。私は頭の中で鑑定と考えてみる。
『【鑑定】を使いますか?』
出てきた。勿論使うに決まっている。
『【鑑定】を使います。対象:ゴブリン……検索しました。
ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】20
ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】22
ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】21
ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】19
…………………
…………
ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】39
ネオ ゴブリン 【種族】小鬼 【Lv】45』
多い、でも最後の方になんか変なものが混じってた。一周ぐるりと見回すとそれらしき大きなやつがいる。多分あれが親玉だろう、しかし……
「囲まれたか」
「ど、ど、ど、おじましょう!!」
パニックになったハリスが側に落ちていた木の棒を振り回して少しでもゴブリンを遠ざけようとするが無理があるだろ。
ゴブリンが奇声を発して攻撃を仕掛ける。思わずハリスの服を掴んで後ろに下がることでハリスは無傷で済んだ。
「新月! まだアイデアが浮かばないのか? このままだと私だけで倒してしまうぞ」
「今思いついた! けどなんて言えばいいかな……なんかそっちに送れるような能力……スキルが……ない!」
足に着けた棘のように尖ったポレインでゴブリンを挿しながら新月が答える。
それを見たゴブリン達は一瞬だけ動きを止め、お互いの顔を見合わせると今度は私とハリスの方へ襲いかかってきた。
攻撃をして来ない私達を先に倒すのが得だとでも考えたんだろう。
しかしその瞬間を新月が見逃すわけもなく、剣を持ったゴブリンはあっさりと新月の足技の餌食になった。
「馬鹿だな、敵に背中をみせてるとこうなるぜ!! ついでになんか新しいスキル来い!」
『スキル【以心伝心】を獲得しました。このスキルは相手に自分の考えを伝えるスキルです』
襲いかかってきたゴブリン達を刺し殺すと新しい能力を獲得出来たらしい。タイミング良過ぎだろ。
「ナイスタイミング!! クロ、後は任せたZE☆」
『スキル【以心伝心】が使われました。アイデアを伝えます。対象:クロノス』
獲得したばかりの新しい能力を新月が使ったらしく杖の構造というものが流込んでくる。こんな状況だが仕方ない。作るとするか、
助走を付けて近くにある大岩に飛び移りハリスを隣の木に引っ掛け新月のアイデアを開いて作り始める。
「え? ここに置かないで下さいよ!」
「しばらくそこで待っていろ」
「Gyiiー! Giy、Giy!!」
大岩の下でゴブリンが騒いでいる。卑怯者! 降りて来い! と言っているのかーーー知るか、そんなもの。無視だ無視。
神通力を発動させ新月のアイデアを元に作ってみるとぽん、という音がして私の手に短い剣のような物が落ちて来た。
っと、ここで1匹のゴブリンがよじ登って来たので蹴落とす。下で何かが刺さる音がしたが興味はない。
「Syaーー?! BsyAAaaaaーーーー!!」
蹴落とした?! この人で無し! とでも言うようにゴブリンが蹴落とされた仲間の元に集まる。今のうちに出来た物の観察でもしておこう。
杖は短剣のような形に近い。
握りは木で出来ていて、柄頭と柄の中心に紅色の魔力を持った石が付いている。刀身は乳白色の魔力を持った石そのもので出来ていた。これならハリスでも使えるだろう。
「ハリス、ほら杖だ。これで一体でいい。魔法を当ててみろ」
「えー! あぁ、でもちゃんとやらないと駄目でしょうね。じゃあ……」
ハリスに杖を渡すと仕方ないという表情でこの前かった初めての魔法を開いて簡単な魔法を探し始めた。
本の始めのページ辺りでハリスが杖を構えて読み上げる。
「えーっと、『ファイヤーボール!』」
「ーーGyaa!!」
読み上げた呪文が杖先から火の玉が放たれ、ゴブリンの1匹に当たった。
見事、一発で魔術を使えただけでなく当てるとはな。
「残念だが倒したわけじゃないみたいだぜ! ハリスくんもう一回やってみてくれ」
新月がゴブリンの目玉めがけてヒールキックをかましながらもう一匹のゴブリンに目潰しをかました。
外道だ、
しかしこいつは魔力を使わないのか?
「新月お前も魔法でも魔術でもなんでもいいから一回やってみろ。ハリスはもう一度同じものをやれ」
「分かりました!!『ファイヤーボール!』」
「Gyaaーー!!」
ハリスがまたファイヤーボールを放ち今度こそゴブリンを倒した。
「おぉ、当てたか! じゃあ俺もこの前買った魔法・魔術大全にオリジナルを武器を作ることが出来る魔法ってのがあったからそれやってみるわ」
魔法でゴブリンを倒したハリスを見て新月が足を止めた。深く息を吸い込み手を組み合わせると何やら呪文を唱え始める。
『我が力の一滴を捧げる。悠久なる人類の栄光、歴史の末席に座する叡智よ、虚無の刃をここに!【 アルマ・クリエテェド】』
呪文が終わると手に白い四つ又の槍を持っていた。新月は槍を構えると薙ぎ払う。
次の瞬間、風を切る音がしたと思うとゴブリン達は1匹残らず腹を切り裂かれて息絶えていた。凄いな、私のスタシス程ではないが威力が凄まじい。
しかし当の本人はそんなことよりも振った槍を見ている。
「うん、いい性能だ。決めた、この槍に名前を付けよう。今からこの槍は【白い悪魔】だ!!」
―――悪魔? それ三又じゃなくってどう見てもフォークだぞ?
見ていただきありがとうございました。




