表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

騎士さまは特別な騎士さま

シャルルちゃんが学校でお城へ来ないある日。

息子の千裕が「強くなりたいから騎士さまにならいたい」と言い出した。

体術や剣技のお稽古をつけてもらいたいらしい。

とりあえずダメだと言った。これ以上ディーさんにお世話になるのは悪いし……いつまでもこの世界にいられるわけじゃないのに。


でも千裕は引かなかった。

どうしても習いたいと食い下がる。今まで習い事を自分からやりたいなんて言わなかったのに。こいつのシャルルちゃんへの想いは本当に本当の強い想いなのかもしれない。

「マナさんすみません、私が稽古をつけてあげようかと言ったんです。シャルルに好きになってもらうにはどうすればいいのかと、真剣に聞かれたので……」とこっそりディーさんが教えてくれた。

可愛い女の子にただデレデレしてるだけじゃなく、千裕は千裕なりに本気のようだ。

……結局、私が折れて稽古をお願いすることになった。




まだ子供だから本格的な体力作りなどはせずに、初歩的な型を習ったり剣に慣れたりすることから始めるようだ。訓練所の隅で千裕を手取り足取り穏やかに指導するディーさんを眺める。

どうしようまた父と子に見えるわ……。

ディーさん一歳年下だけど日本人じゃないから顔つきがすごく大人っぽいし、穏やかで落ち着いた空気持ってるし、本当の父親よりずっと父親にみえ…………ダメ!また下らなくてディーさんに失礼な事考えた!ごめんなさい!

この間も思ったけど、こっちの世界の男性はみんなこんな感じなんだろうか。こっちの男性ディーさんとおじいちゃんしか知らないけど。でもこの穏やかで優しいのが国民性とかなら最高だなぁ~女性は幸せだろうなぁ~。


「ま!見て魔法騎士のディアン様がいるわっ」

「きゃあ~素敵っ」


入口の近くで見学していたら、訓練所の前を通りかかった若い召し使いさん達が黄色い声を上げて立ち止った。訓練中の兵士や騎士たちには聞こえないくらいの声量だけど、入口近くの私にはバッチリ聞こえる。そして思わず聞き耳を立ててしまう。


「小さな子供に剣を教えてるのねっ」

「ディアン様って本当にお優しい方よね~」

「本当よね~貴族といっても他の方達とはやっぱり違うわよね~」

「そうよね~聞いた?召し使い長の旦那様、また未亡人の方と……」

「まあっまたなのひどいわ。前にも……」

「この間嫁がれたあのお嬢様も旦那様が女性を連れ込んだ所に鉢合わせたらしいわよ」

「いやだわ~新婚でそんな」

「仕方ないわよ、男性は気が多い方が多いから。でも浮気しなくても怖い方もいやよね」

「そう。それを考えるとディアン様って」

「女性との噂もないし穏やかだしああして子供にもお優しいし……」

「ディアン様が旦那様だったら……」

「きゃあ~~~~」


最高潮に盛り上がる召し使いさんたち。

どうやら……どうやらディーさんはこの世界の感覚でも特別良い人らしい!

そっか~~浮気とか良くあるのか。まあそうだよね。普通あるよね。みんなやっぱり大変なんだな~~。

と盗み聞きしてうんうん頷く怪しい私。運よく盗み聞きを召し使いさんたちに知られることなく、彼女たちは仕事に戻って行った。


ディーさんの噂話を聞いていたから、ついつい息子じゃなく稽古をつけるディーさんを観察してしまう。

こけた千裕の背中に付いた汚れを払ってあげている。

ほんと気遣いもできて優しいよね~。それにディーさんって……ディーさんって子供だけじゃなく私にも優しいよね。髪の毛が大変な事に気付いてくれて香油くれたし。下らないお願いも嫌な顔ひとつしないで聞いてくれるし。

もちろん私だけじゃなく、あの召し使いさん達や他の人にも優しいんだろうな。

モテるはずだよ、顔だけじゃなく中身もとっても素敵だ。

私がシャルルちゃんに迫る千裕を止めてるときは笑って見てるけどね……。でもそういうのんびりした朗らかな所も長所なんだと思う。




遊ぶのにはちょっと飽きたのか、最近シャルルちゃんが来ると二人はディーさんに勉強を見てもらっている。

千裕は文字を教えてもらって、シャルルちゃんは宿題や予習をやる。この時間は千裕もちゃんと真剣に勉強する。ちょっとほっとする時間だ。


離れた所から何気なく三人を見ていると、ふとディーさんと目が合い、にこっと笑いかけられた。

ディーさんは子供二人に何か指示を出し席を離れ、ソファーに座る私の隣に来た。


「マナさんはわからない所ないですか?」すぐ隣に腰かけたディーさんに聞かれ、距離の近さになんだかソワソワする。

「えっと…簡単な子供用の本なら読めるようになったかな。書くのはまだ時間かかるけど」私も千裕と同じく文字を勉強している。子供が勉強する用の表をもらって自主練習だけど、わからない所はディーさんが丁寧に教えてくれる。


この世界にずっといるわけでもないのに親子で何してんだって感じだけど。でも毎日遊ぶだけじゃ暇になってくるのだ。千裕は子供だから頭使わないと色んなこと忘れるし、ちょうどいい頭の運動にはなってるはず。


「すぐに書けるようになりますよ。とても呑み込みが早いですね」と穏やか~に笑いかけられる。ちょっとそんな近距離で微笑むのやめて。


「この世界に住めますね」にこにこにこにこ。

……えっどういう意味だろう……住めません…よね?

「あっでも元の世界帰るし、こんな真剣にやっても意味ないよね~暇つぶしにはなるけど!」と笑ってごまかしてみる。ディーさんたら、そんなにっこりして言われたらどっきりするからね!やめてね!


「……マナさんが帰ってしまったら寂しいです」


今度はちょっと寂しげな表情で言うディーさん。

おい。やめて。やめてくれ。

それはあれだよね?千裕も私もってことだよね?

見つめないで!その透き通った菫色の瞳で見つめないで!無駄にドキドキするからね!美形に免疫ないからね!

色気振り撒きやがって~~私をどうしたいんだディーさん!




「学校いきたい。シャルルとおなじ学校かよう」


ティータイムでのんびりした空間に、千裕の爆弾発言。

お菓子を勢いよく飲み込んでむせそうになりながら、「ちょっとやめてよ~もう~ウケる~」と流してみるが「学校かよう」と繰り返す千裕。最近よく見せるようになったキリッとした意思の強い顔だ。……あんた本気か!


「あのねぇ……」

「7歳からかよえるんだって」

「あんたね、わかってる?私達はこっちの世界の人間じゃないんだよ」

「シャルルといっしょにかよいたい」

「だから……」

「おねがい!お母さんだっていつも勉強しなきゃだめっていうじゃん」

「あんたは勉強よりもシャルルちゃんと一緒にいたいだけでしょっ」

「ちがう、おれ…こっちの世界のほうがすきだもん。こっちでシャルルとおんなじ勉強したい」

「あんた、なに異世界に馴染もうとしてんの?私達……100日たったら帰らなきゃならないんだよ?」


千裕が俯く。シャルルちゃんもしょんぼりしている。

……でも、でも帰らなきゃならないのに。ここにいられるのは期間限定で、もう1ヶ月過ぎるのに。

私だってこれが元の世界での出来事なら、息子の成長を喜んで何でもしてあげたい。でも、ここは異世界でシャルルちゃんとも離れなきゃならなくて……別れはあっという間に来るのに。

真剣な千裕が、シャルルちゃんのために強くなろうとしている千裕が、この世界の事を学ぼうとしている千裕が……、元の世界には帰らない。と言いそうで……怖かった。



どんなに説得しても千裕は学校に行きたいと譲らず、ディーさんやシャルルちゃんにも説得され、結局学校に短期間だけ通うことになった。

私達のこの世界での後見人は国王様だから、身分があるわけじゃなくても身元が保証されているから学校からもオッケーが出たらしい。

シャルルちゃんが通う学校はお城のすぐそばにあり、通っているのも良家の子息子女ばかりだから安全面も心配ないし、シャルルちゃんのお付の侍従さんが千裕の面倒を見たり送り迎えもしてくれることになった。

安全なのはわかったよ……いいんだよ……学校に通うのは迷惑じゃないならいいんだよ……お母さんが心配してるのはそこじゃない。あんた大丈夫なのって。そんなにこの世界に馴染んじゃって帰れるのって。


シャルルちゃんと学校に通うことになった千裕が七日のうち二日いなくなって、その日は私は必然的にディーさんと二人で過ごすことになった。理人は相変わらず城内をフラフラしたり、最近は兵士さんの付き添いで城下町に行ったりしているらしい。……あいつは息子が稽古つけてもらったり学校に通ったりしてること把握してるのか?してるはずないね!私言わないもんね!何話しても興味なさそうな対応されるから、もう元の世界に住んでた時から日々の事を報告するっていう習慣がなかったよね。


私はディーさんとのんびりお茶したり文字を習ったり図書館や庭に出かけてみたり。千裕が一緒じゃないってだけで別に何か変わったことしてるってわけじゃないんだけどね……なんか……ちょっとなんか……いいのかなこれ?とか焦る。

一応法律上はまだ既婚者なわけだしこんな……こんな色っぽい美形と二人で……こんな……なんか焦るし!!

やましいことはなんっにもないんだけど。ないんだけど。時折じーーっと見つめられてふと笑いかけられたり、なんかやらかしたらサポートしてくれたり、段差でエスコートされたり、なんかそういうので私が勝手にときめいちゃってダメだ!

ディーさんが無駄に色っぽくて甘い空気とか出すから!それとも出してるつもりなく自然にやってんの?私が優しくされ慣れてない可哀想な女なだけ?

もうとにかくむずむずそわそわしちゃってダメなの。それでおっちょこちょいやってディーさんにしょうがないんだから、みたいな生温かい仏のような対応をされてもうウワーーーー!てなる。

なにこれ恥ずかしい。千裕早く帰ってきて、お母さんが大変!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ