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恋する男子は猪突猛進

すっかり千裕と打ち解けたディーさんの姪っ子シャルルちゃんは、学校のない日はお城へ遊びに来てくれることになった。いいとこの娘さんだから淑女教育とかがあって来れるのは昼から数時間なんだけど、千裕にお友達ができてお母さんも嬉しい。学校は七日に二回あるとのことで、けっこう遊びに来てくれるみたい。


最初にシャルルちゃんが来てくれてから数日後。

私はあることで頭を悩ませていた。


「シャルル、今日のかみかざりきれいだね」

「あ、ありがとう…お父様が視察のおみやげにくれたの」

「シャルルの目とおんなじいろだね、さわってみてもいい?」

「え、え、あう……いいけど……」

「にあってる!」

「…え……えへへ」


息子が。7歳の息子が。小さなレディを口説いている!おもいっきり口説いている!!

シャルルちゃんを見つめてとろける笑顔の我が息子。そしてとっても恥ずかしそうにしているが、褒められると可愛く喜んじゃう小さなレディ。

ソファーから勢いよく立ち上がる。


「チヒロっ!」どさくさにまぎれてシャルルちゃんの髪の毛まで触っている千裕に素早く近付き、その本能に忠実な手をはたき落とす。


「あんた何触ってんの?女の子にそんなべたべた触っていいと思ってんの?」

「ちょっとだけじゃん」

「は?全然ちょっとじゃないし、ちょっとならいいとでも思ってんの?」

「……だってさわりたいもん」

「触りたくても触ったらダメなの、シャルルちゃん困らせないの!」

「お母さんしつこい、ちょっとあたったくらいじゃん!」

「言い訳が痴漢と同じ!シャルルちゃんに嫌われる前にやめな!」


わざと怖い顔と声を作りながら怒る。

きつく言わないとこいつはやばい。絶対エスカレートする。シャルルちゃんが強く拒否できないのをいいことに!


シャルルちゃんは元々大人しい性格だし、ぐいぐいくる千裕に戸惑いつつも中々強く嫌だと言えないみたいだ。というか、そんなハッキリ言う教育されてないんじゃないかな。箱入りのお嬢様って感じだし、周りにいる男の子も今まできっとお行儀のいいタイプばかりだったんじゃ。くそガキ千裕に対して真っ赤になっちゃってるもん。

どうしよう……放っておいたらシャルルちゃんが千裕に好き勝手されてしまう!


「あ、あの…そんなに怒らなくても、わたし」おずおずとシャルルちゃんが私に声をかけてくるが、真剣な顔で首を横に振ってみせる。

だめだめ。そんな優しかったらだめだよ。そこがシャルルちゃんの素敵なところだけど。でも自分を狙う男子の前ではそれじゃだめっ。


「シャルルちゃんもね、嫌だったらハッキリ拒否しないとダメだよ。こいつ、調子に乗るからね!ていうかもう乗ってるからね!そんな、どっちでもいいよ~みたいな感じだったら、よくわかんないうちに流されちゃうんだよ?子供だからって油断したらダメ、こいつ本気でシャルルちゃんのこと狙ってるから!」

「も~~お母さんやめてよ~!」

「あんたもうシャルルちゃんに触るの禁止!まだ小2なんだよ!?」

「お母さんじゃま~~!」

「邪魔してんの!あんたからシャルルちゃんを守ってんの!」


ぎゃーぎゃー言い合う私達を、おろおろしながら見ているシャルルちゃん。

ほんと……ほんと心配!ひかえめで強い言葉を言わないのが淑女ってやつなのかもしれないけど、それじゃあ嫌でも流されちゃう。千裕も千裕だ。こいつ……こんな女子にぐいぐい行ったことなかったじゃん!どっちかっていうと女子より男子とバカな遊びするのが好きなタイプだったじゃん!なのになんだこのでれでれ具合は……あんたどうしちゃったの……。シャルルちゃんがあんまりにもドストライクでなんか覚醒しちゃったんだろうか……。




千裕がシャルルちゃんにぐいぐい行くのにハラハラしっぱなしで、毎日忙しく過ごす日々だ。

シャルルちゃんも千裕のことはけっこう好きみたいなんだけど。……でも、まだ二人7歳だからね!隙あらば触ろうとするから見張ってないと私が気が気じゃない。

もっと年相応の関係を築けよ!


理人は相変わらず毎日出掛けている。楽しんでるなら何より。

私は息子が心配でそれどころじゃないけどな!

その日もうっかりおやつ食べてのんびりしてたら千裕がシャルルちゃんとディーさんを連れて「さんぽ行ってくる~!」と出て行ってしまって、慌てて後を追おうとした時だ、部屋に帰ってきた理人とばったり会ってなんか知らないけど引き止められた。


「おい、どこ行く気?」となぜかムッとした顔で言われる。

そんな理人は若い召し使いさん二人と一緒だ。なんだか親しげ。今日はこの二人に付き添ってもらってたのかね?


「ちょっといま忙しいからじゃあ」

「いや、俺帰ってきたとこじゃん。どこ行くんだよ」

「だからいま!急いでんだって!チヒロんとこ!」

「チヒロにはいつも騎士が付き添ってるだろ」

「そうだけど私も行かなきゃなんないの!」

「何でだよ。過保護すぎねぇ?お前最近そうやってチヒロがチヒロがって忙しぶってるけどさぁ。ただ俺の事避けてるだけだろ」


は?なぜこんな部屋の前の廊下で、しかも召し使いさんがいるのにそんな話が始まる?

避けてないから。本当に忙しいだけだから。こっちは遠慮や慎みのない本能に忠実な息子が何かやらかすかもって目が離せないのに!

確かに最近理人のことは放置してたけど。でもそれはお前が我が子や私に全然興味がなくて遊ぶのに夢中だったからそうなったんじゃん。いやまあ私の事はいいんだけど。離婚してるようなもんだからって言ってるし。だからこそ、こうやって女と親しげにしてても何も言わずに放っておいてるわけじゃん。なのになぜキレ気味?最近部屋に一緒にいてもイライラしてる感じ出されるし、好き勝手してるくせになんなのって感じなんですけど。


「避けてないって、今チヒロが仲良い女の子と…」

「いやわざとやってんだろ。どういうつもりか知らないけど、イラつくから止めてくんない」

「私といてそんなイラつくならもう別の部屋にしてもらおうよ。ほんとわざとじゃないし」


あれだしね。今後部屋に女連れ込まれたりとかしたらほんと無理だしね。息子の前ではやってくれるな。法的手続きはまだしてないけど、息子を傷付けないなら私は構わない。もう本当に理人の女関係とかどうでもいい。元の世界の彼女どうした~とはちらっと思うけど、そこはもう当人であれしてください。あれをあれしてください。


「はぁ?そんな迷惑かけられないだろ」

「いやおじいちゃんが部屋用意するから気軽に言ってって言ってたよ」

「そんなのいいから」

「だってあんた私達といたらイライラしてんじゃん」

「それはお前が人の話聞かないし」

「だって今本当に大変なんだよ?チヒロが女の子にすんごい勢いでアタックしてて!」

「遊んでるだけだろ。好きにさせとけば」

「何言ってんの息子が人様んとこの大事に育てた娘さんにベタベタしてんだよ?ほっとけるわけないじゃん!」


ていうか!こんな無駄なやりとりしてる場合じゃない!千裕おいかけないと!

ディーさんも姪っ子がぐいぐい押されてるっていうのに「おやおや」みたいな感じで見守ってるし、千裕の暴走を止められるのは私しかいない!

「そういうことだから!」と一言置いて千裕がいるであろう庭に早足で向かう。

「好きにさせとけば」とか。お前。お前ほんと……いや、いいもう理人には何も期待はしない。そういうことでさようなら!




庭に駆け付けた時、千裕はシャルルちゃんの手を握り向かい合い、今にもぎゅーっと抱きしめそうに見えたので、お母さん勢いよく二人の間にスライディングで割り込んだ。

「チヒロおちつけ」とぜーぜーしながらシャルルちゃんと繋いでた手を離させると、「……いまあぶなかった、うっかりしてた」とかわけのわからない言い訳をする。

「シャルルがにっこりしてうれしくて、ぎゅーてするとこだった」えへへと笑う。あんた、それうっかりやったらダメなやつ。キャーヘンタイ!とか言われてもしょうがないやつ。

自分が抱きしめられそうだったと気付いていないのかシャルルちゃんはきょとんとした可愛いお目目で見上げてくるし。ディーさんは「マナさん素早いですね」とちょっとウケてるし。

やっぱり私がついてないとダメだ!危なかった!




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