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月姫の騎士  作者: リヨン
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「僕が、僕がセラを守るから!」


そう彼は今にも泣きそうな顔で言った幼い日の淡い思い出。


それに対し私は、涙を流し微笑むことしかできなかった。


-------


懐かしい夢を見た。もう10年以上昔の事だとゆうのに、なぜ今になってこんな夢を見るのか我ながら苦笑する。時計の針を見ると現在4時30分。日課の鍛錬の時間も考えても早すぎるし、姫様なんかはまだ夢の中だろう。

だが再びベッドに入る気分でもないので、顔を洗い、夜着のネグリジェの上からカーディガンを羽織り、部屋の扉を開けまだ夜気の立ち籠める外へと出た。



ここは城の敷地内にある騎士用の宿舎だ。一般の兵士用の宿舎と比べても大きさはあまり変わりないが、一般の兵士が共同生活なのに対して、騎士は1人ずつ部屋を与えられている。ここルナテリア王国は性別を問わず、実力のある者ならば、それに見合ったどんな職にもつくことができる。男尊女卑的思想は皆無といっていいだろう。歩いて城門へ向かう彼女も女性でありながら姫直属の近衛騎士団の1人、通称"月騎士"の1人を担っていることからその事がよく分かる。


正門とは別の小さな裏門から外へでる。この城、ルナテリア城の城壁の周囲は小さな林が連なっており、さらに林を抜けると周りは澄んだ水が蓄えられた堀になっている。堀の向こう側には城下の街並みが広がっており、薄っすらと朝霧が立ち込めているのがここからでもよく見えるのだ。



普段は城の中の鍛錬場で毎朝日課をこなすのだが、散歩をしつつ、林の中で"気"を練るトレーニングをしてもいいだろう。自然の中のような不快な音が一切ない環境の方がそれらの鍛錬には合っている。今朝見た夢もさっさと払拭したいので丁度いい・・・と考えていると丁度良く開けた場所に出た。



1時間程過ぎただろうか?時間の感覚もなくなる程、己の精神を研ぎまし、直立していたマリアは不意に人の視線を感じ、閉じていた瞼を上げた。



気配であらかじめ誰かは分かったが、内心溜息をつきながら振り返る。

「おはよう、マリア。朝から精が出るね!」

そう声を掛けてきた燃えるような赤銅色に近い金髪の青年。なぜこんなところに・・・しかもなぜよりにも寄ってあんな夢を見た後にとも思わなくもないが、とりあえず礼を取らねば失礼になるだろう。

「おはようございます、殿下。失礼ながらお供の1人もつけず城から抜け出すのは感心致しませんが。。」

私がそう諭すと、少しふてくされたように彼は言う。

「別に城壁の外へ出たところで何も起こりはしないさ。"あいつ"のお膝元で、誰かに何かあった時点で、それこそ大問題だよ。」

まあ確かに殿下の言う通り、"姫様"の目前では不祥事など起こり得ないだろう。

「そういう問題では・・・まあいいでしょう。私もそろそろ城へ戻る所でしたのでお送り致します。」

するとこの間、十八歳になったばかりで、既に精悍な美丈夫となっている彼はいたずらっぽく

「いや、折角早起きしたおかげで、マリアに会えたんだし、もう少し2人でいたいな?・・・ダメかな?」

と顔を近づけながら迫ってくる。


・・・正直いきなり過ぎて焦った。私の殿下への仮面が剥がれそうになるくらいに。。。

殿下の容姿は天上人と見紛うくらいに整っている。灼熱の金髪に、切れ長の眉、深く透き通った黄金色の瞳。太陽にどれだけ照らされても昔から彼の肌は薄い褐色できめ細かく整っている。私も女性の中では長身だが、彼はさらに背が高く、昔とは大違いだ。普通の女性なら、こんなとんでも美形と目が合うだけで昇天ものだろう。私の場合は昔から彼ともう1人の最早女神と表現してもいいような卓越した容姿の姫様で耐性が出来ているので、目が合うだけで魂が抜けるようなことにはならない。


だが、だがしかしだ。

最後にこんな至近距離で話したのはいつだ?騎士になる前なのは間違いない。久しぶり過ぎて耐性はかなり弱まってしまったようだ。。。顔が真っ赤になるのが止められないのが悔しい。


そんな私の様子をじっと観察して殿下が続ける。

「それにマリア。さっきから気になってたんだけど、今は2人だし、昔みたいにレオンって呼んでくれないの?」


・・・・立場を考えて物を言って欲しい。

「失礼ながら殿下、昔とは違うのです。あなた様は近い将来この国を担う国王となられる御方。一介の貴族上がりの私が名前で呼ぶなど恐れ多い「少しお前は俺に対して堅すぎないか?」ことです。」


・・・私の気も知らないで。


「堅すぎるくらいで丁度いいのです。むしろあなたの方が下の者に対して軽率過ぎます。どこに他の貴族の目があるか分からないのですよ!?少しは警戒心を身につけてください」

「別に俺が軽率なのはマリアに対してだけなんだが。」

「なんですか?その態度は?それが王になる者の態度ですか?」

「あーーわかった分かった!さっさと城に戻ろう。お前も仕事があるだろうし。あ、その前に街まで抜け出して朝飯一緒に食うか?」」


「食べません!!!!!」


真面目な顔でふざけたことを言うこの男に、ついイライラしながら大声を出してしまった。



-------


城に戻ると鍛錬を始めている騎士や兵士、朝食の支度をしている者など、俄かに城が活気づいてきているのが分かる。さっさと殿下をそこらの騎士に預けて私も仕事に向かわねば、と考えていると丁度良く、声を掛けてくるものがいた。


「殿下!!探しましたよ!部屋に行ったらいないので焦りました。どこへ行っても問題はありませんが、せめて僕を置いていくのはやめてください!!!」

と息を切らしながらやってきたのは、殿下直属の近衛騎士"天騎士"の1人、ユーミスだった。


「起きるのが遅いお前が悪い。まあそのお陰で上手く抜け出せて感謝してるよ。」

するとユーミスが捲したてるように

「起きるのが遅いって、僕が前の担当の騎士と引き継ぎしてる間に抜け出したのは殿下じゃないですか!部屋から物音がしたからノックしてみれば、反応がないし!仕方なくドアを開けて覗けば殿下はいないし、窓が開いてるし、起きる時間とか関係ないじゃないですか!てゆうかあなたの部屋何階だと思ってるんですか?」

「5階だけど?」

「そうです!5階なんです!普通怪我しますよ!あ、お怪我がなくて何よりです!殿下!」


この2人の会話を聴いてると頭痛がしてくる。とりあえずユーミスが可哀想だとは思うが脱走の話がなかったことにされてるの気づかないのだろうか。他にも2人でギャーギャーゆっているがもう行ってもいいだろうか?

と、気づかれないように立ち去ろうとした所で、ユーミスがこちらに気づいたようで


「あ、ア、アストリア団長!おはようございます!挨拶が遅くなっても、申し訳ありません!」

殿下に対する言葉遣いより畏まっているが普通逆じゃないのか?と思いつつも

「ああ、おはようルーミス。外で鍛錬していたら殿下を見つけてな。丁度騎士を探していたから助かったよ。私はこれから部屋で着替えて姫様の所へいかなければならない。殿下を頼めるかな?」


そう尋ねるとルーミスは少し頬を染め敬礼しながら

「もちろんです!お、お任せください!鍛錬ご苦労様でした!さ、殿下参りましょう!」


まあ元気がいいのはいいことだ。殿下に声を掛け、踵を返し歩き始めた所でユーミスの叫び声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。



-------


思ったよりも時間がなくなってしまったので、食堂でアプフェルとネルバをもらう。アプフェルはこの国ならば何処でも手に入るポピュラーな果物で、丸く赤く熟した物は蜜もたっぷりで子供達に人気がある。私はどちらかとゆうと熟していない物の方が、食感も楽しく適度に酸味もあり好きである。ネルバは南の方原産の果物で、甘く、一房に5本ずつぐらいのまとまりで売られている事が多く、お腹にも溜まるので朝食代わりに食べられる事が多い。


部屋に戻り果物をさっと食べて、騎士の礼服に着替える。城内での鎧の着用は義務ではないが、大多数の者が簡易鎧を着用している。だが私の場合は鎧を付けずに、上下ともに銀色で統一された豪華な意匠の服を纏い、柄に銀の月のシンボルが描かれたレイピアを腰に下げれば支度は終わりだ。


城の中庭の中心に建てられた塔が姫様の住居である。この中庭は正方形の形をしており、四隅にはそれぞれ4つのモニュメントが築かれている。各モニュメントはそれぞれが、ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズの結晶体のように輝き、それらのモニュメントと中心の塔から発せられる神気で中庭全体が満たされているのが分かる。そして中心に聳え立つ白亜の塔からは、目で実際に何かが見えるとゆうわけではないのだが、魔力や気を扱える者なら感じ取れる尋常ではないエネルギーが空から四方へ発せられているのが分かるだろう。


中庭へ立ち入る事ができるのは姫様と一部の巫女、王族、ルナテリアの三大騎士、一部の近衛騎士だけである。例外として姫様に認められた者は入る事ができるが、それ以外の者で入ろうとした者は姫様の結界に阻まれるか、仮に入れたとしても常人ならば中庭に満ちている神気により精神に異常を来たし動けなくなるだろう。


さて定刻通りに着いたが姫様は起きていらっしゃるだろうか?ドアの脇に提げられた呼び鈴を鳴らし声をかける。

「姫様?セラです。起きていらっしゃいますでしょうか?」

しばらく時間を置いて鈴のような声で返答が返ってきた。

「起きているわ。お入りなさい。」


了承を得たので声を掛けドアを開けると、ちょうど布団から上半身を起こし気怠げにしている姫様の姿が確認できた。

「おはよう。セラ、お兄様のお相手ご苦労様。」

今の今まで眠っていたのに、あたかも今朝の出来事を全て知っているかのようだが、この方は実際に知っているのである。

「いえ、殿下には困ったものですが、私は話をして城へとお連れしただけですので。」

実際は主に心労的な意味で、朝から大打撃なのだが余計なことはゆわないでおこう。

「あら?私にはあなたの気がお兄様と話す度乱れていたように感じたのだけど、気のせいだったかしら?」

ばれている。クスクス笑いながら姫様は仰っているが、私にとっては笑い事ではない。



ミリスティン=セレネ=ルナテリア。白銀に輝く銀色の長髪に、同色の睫毛に縁取られたアメジストの瞳。この世界では瞳の透明度である程度魔力の大きさが計れるが、姫様のそれは殿下と同じで、全くの濁りのない夕闇のような不思議な紫。肌は陶器のようでいて、しかし不思議と不健康には見えない純白。兄である殿下が太陽神と例えるられるなら姫様は月の女神と万人が認めるであろう。れっきとしたこの国第一王女である。



何はともあれ、この話はあまり引き伸ばしたくはないな。

「姫様、お戯れを。いきなり殿下に話しかけられたので、驚いただけです。それよりも早くお召し物を。」


余談であるが姫様の身の回りの世話は、普段は巫女の仕事である。私はこの時間は別の公務が入っており姫様の側にいることはない。週に一度、月の日にだけ姫様のお側に付き従うようにゆわれている。国王陛下からではない。姫様からである。要するに姫様の我儘だ。

ちなみにこの世界の日の数え方について説明しておこう。

洛陽の日、月の日、火の日、水の日、木の日、金の日の6日間で一週と数えられtる。これは、はるか昔にある国の暦とルナテリア王国における重要な祭事を参考にして定められたとされている。


今日は月の日。この国全体に張られた"結界"の綻びがないか確認する日。まあ実際は調整などものの数十分で終わり、後は各地に散らばる巫女と定期連絡をとれば終わりなので私がすることはあまりない。


着替え終わった姫様に付き従い塔の屋上へとやってきた。屋上の床には幾重にも積み重なった魔法陣が描かれている。その魔法陣に描かれた月の上に立ちおもむろに姫様は空を見上げた。すると中庭の神気が姫様の身体に急速に集まり出し姫様が手を空に伸ばすと同時に天へと昇っていく。それはまるで光の龍のようであり、大河の様でもある。その柱は空高く立ち登り一定の高度に達すると分散しこの国全体を覆う様に広がっていく。ここらでは見えないが今頃姫様から発せられた光の粒子はこの国全体をまるでドームの天井のように覆い終わったところだろう。


この国ルナテリア王国は、約千年もの間結界に守られ魔物や魔族、他国の侵略を受けずにいる。それを成し得る結界を作り出すのは代々王族に生まれてくる"月姫"と呼ばれる王女。そう、目の前にいる私と同じ歳とは思えない華奢な少女がまさにその人である。結界により国は守られ人々は平和を享受している。まさに完成された国家といってもいいだろう。


結界に神気を循環させ終わった彼女は目を閉じ沈黙したままである。おそらく各地にいる四人の巫女と定時連絡を取っているのだろう。巫女達は姫様の神気を受けて結界の維持を手伝う役割を持っている。神気の繋がりを利用して遠く離れていても念話をすることが可能なのだ。



どれくらい時間が過ぎただろう。いつもなら定期報告だけで時間などかからないのだが今日はやけに長いな。そう思っていると姫様は目を開けて困惑した顔をしながら口を開いた。


「私が寝ているときには何も感じなかったのだけれどね・・・。セラ、陛下とお兄様に伝えたいことがあるの。できらば私が直接。急ぎではないから二人の時間が取れたときに来てくれるよう連絡してもらえるかしら?」


「はっ、分かりました。」


なにか問題でもあったのだろうか?私の記憶だとこんな事は初めてだが、早足で塔を出て城内へと入る。姫様の世話は側付きの巫女が代わりに来るから大丈夫だろう。


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